ハリウッド・ビューティー
撮影現場。
初日、ハッキングシーンの撮影。
「Okay, Kenichi. You sit here, and just type on the keyboard. Look cool(いいか、健一。ここに座って、キーボードをタイプするだけだ。かっこよく見せろ)」
シュピーガーが指示した。
「That’s it?(それだけですか?)」
「Yes. And sometimes touch the tablet. That’s hacking(そうだ。時々タブレットを触る。それがハッキングだ)」
「…」
俺は、モニターの前に座った。
キーボードをパチパチ叩く。
タブレットをスワイプ。
画面には、意味不明なコードが流れている。
でも、俺がやってることは、ただキーボードを叩いて、タブレットをいじってるだけ。
「Perfect! You look like a real hacker!(完璧だ!本物のハッカーに見えるぞ!)」
「…これでいいんだ」
共演者は、ハリウッドの有名俳優たち。
ブロンドの美女、エマ。レイの恋人役。
黒人の美女、ルピタ。レイの相棒ハッカー役。
アジア系の美女、ジェマ。敵の幹部役。
みんな、美人だった。
撮影の合間、エマが話しかけてきた。
「Kenichi, you’re doing great!(健一、すごく良くなってるよ!)」
「あ、ありがとう…」
(キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!)
(エマさん、俺に話しかけてきた!)
(これって…もしかして…!)
俺の心拍数が、少し上がった。
「You’re so natural. Very unique energy(すごく自然ね。とてもユニークなエネルギーがあるわ)」
(unique!)
(エネルギー!)
(これ、完全に好意じゃん!)
(ハリウッド女優が、俺に…!)
その時、スマホが鳴った。
カヨからLINEが来た。
『今、変な顔してたでしょ?』
「…」
『勘違いしないで。社交辞令よ』
「はい…」
『それと、今日のランチ、何食べるつもり?』
「え、えっと…エマさんたちとカフェに…」
『ダメ。お弁当作ったから、それ食べて』
「で、でも…」
『でももないの。玄米と蒸し野菜と鶏胸肉。ちゃんと食べなさい』
「…はい」
俺の妄想は、瞬時に打ち砕かれた。




