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妄想癖のじいちゃん坊や

数日後。

オンライン会議の予定が入った。

最新のAI翻訳デバイスを購入。

耳に装着すると、リアルタイムで英語が日本語に変換されて聞こえてくる。

部屋を片付けた。

背景に映るものを確認。

服装も、一応整えた。

「緊張するな…」

深呼吸。

時間になった。

接続ボタンをクリック。

画面に、スティーブン・シュピーガーが映った。

本物だ。

「Hello, Mr. Tadokoro(こんにちは、田所さん)」

「こ、こんにちは…」

声が震えた。

「I loved your novel. This cyberpunk world, the hacking scenes, the emotional core. Perfect(あなたの小説、素晴らしかった。このサイバーパンク世界、ハッキングシーン、感情の核。完璧だ)」

「あ、ありがとうございます…」

「I want to make this into a film. My last film(これを映画にしたい。私の最後の作品として)」

「最後の作品?」

「Yes. I’m 79 years old. This will be my final work(そうだ。私は79歳。これが最後になる)」

シュピーゲルは、真剣な目で言った。

「And, Mr. Tadokoro(そして、田所さん)」

「はい?」

「I want you to play Ray, the protagonist(あなたに主人公のレイを演じてほしい)」

「…What?(は?)」

「You. As Ray. The former hacker(あなたが。レイとして。元ハッカーを)」

「B-But I’m not an actor…(で、でも僕は俳優じゃ…)」

「That’s perfect. Ray is a man who lost everything. You lost your job to AI. You understand his pain(それが完璧だ。レイは全てを失った男。あなたはAIに仕事を奪われた。彼の痛みが分かる)」

「…」

何も言えなかった。

その時。

「何やってんの?」

横から、声がした。

え?

画面に、別の顔が映り込んだ。

「Oh, hello. You are?(おお、こんにちは。あなたは?)」

シュピーガーが、少し驚いた顔をした。

「I’m his wife, Kayo(妻のカヨです)」

妻。

カヨ。

俺の横に、いつの間にか立っていた。

「Nice to meet you, Mrs. Tadokoro(お会いできて嬉しい、田所さんの奥様)」

「Nice to meet you too. So, you want to use my husband as the lead?(こちらこそ。それで、うちの夫を主演に?)」

「Yes. He’s perfect for the role(そうだ。彼は完璧な人選だ)」

カヨは、少し考えた。

「Okay. But don’t work him too hard. He has high blood pressure(いいですよ。でも、無理させないでくださいね。血圧高いんで)」

「Of course(もちろん)

「And, Mr. Spieger(それと、シュピーガーさん)」

「Yes?(はい?)」

カヨは、少し笑った。

「You’re just a dreamy old boy, aren’t you?(あなた、妄想癖のじいちゃん坊やでしょ?)」

「…Excuse me?(え?)」

シュピーゲルは、少し驚いた顔をした。

翻訳デバイスが、一瞬遅れた。

カヨは、笑った。

「I’m kidding. Good luck with your last film(冗談ですよ。最後の作品、頑張ってください)」

「…Thank you(ありがとう)

通話が終わった。

俺は、カヨを見た。

「お前…シュピーガーに何言ってんだよ」

「別にいいでしょ。ただのおじいちゃんじゃない」

「ただのおじいちゃんじゃないよ!」

「まあ、いいじゃない。で、やるの?」

「…やる」

「そう。じゃあ、頑張って」

カヨは、そう言ってキッチンに戻っていった。

俺は、呆然と座っていた。

(妻…いたんだ、俺…)

いや、知ってたけど。

でも、読者は知らなかったかもしれない。

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