Nirvira その3
スタジオを出た後。
カヨは、サイン入りのポスターを抱きしめていた。
「…最高だった」
カヨは、満足そうに呟いた。
俺とトシキは、無言で歩いていた。
エマたちも、無言。
ビミョーな空気。
「あの、母さん」
トシキが、恐る恐る聞いた。
「何?」
「母さん、そんなにNirvira好きだったの?」
「当たり前でしょ」
カヨは、即答した。
「Nirviraは、私の青春よ」
「…へぇ」
トシキは、少し引いていた。
「父さんは?」
「…初めて知った」
俺も、正直に答えた。
「知らなかったの?」
「知らなかった」
「そう。別に隠してたわけじゃないけど」
カヨは、平然と言った。
エマが、恐る恐る聞いた。
「Kayo…I’ve never seen you like that…(カヨ…あんなの初めて見たわ…)」
「Like what?(どんな?)」
「So…excited. And emotional(とても…興奮してて。感情的で)」
「Well, it’s Nirvira(だって、Nirviraよ)」
カヨは、あっさりと答えた。
「They’re legends(伝説なんだから)」
「But you always say ‘control your emotions’…(でも、あなたいつも『感情をコントロールしろ』って…)」
ルピタが、困惑した顔で言った。
「I do. But everyone has exceptions(そうね。でも、誰にでも例外はあるわ)」
カヨは、平然と答えた。
「Nirvira is my exception(Nirviraは私の例外よ)」
「…」
エマたちは、何も言えなかった。
ジェマが、小さく呟いた。
「Kayo…is human after all…(カヨも…結局人間なんだ…)」
ソフィアも、頷いた。
「I thought she was some kind of superhuman…(何か超人的な存在だと思ってたけど…)」
俺とトシキは、遠くでその会話を聞いていた。
「父さん、母さん、人間だったんだね」
「…ああ」
「なんか、安心した」
「…俺も」
二人は、小さく笑った。
その夜、ホテルの部屋。
カヨは、サイン入りのポスターを壁に貼っていた。
「…最高」
カヨは、満足そうに呟いた。
俺は、その姿を見ていた。
「カヨ」
「何?」
「お前、そんなにNirvira好きだったんだな」
「当たり前でしょ」
「でも、今まで一度も言わなかったな」
「別に、言う必要なかったもの」
カヨは、あっさりと答えた。
「でも、今日は嬉しかった」
「…そうか」
俺は、少し笑った。
「お前も、普通の人間なんだな」
「何よ、それ」
「いや、なんか安心した」
「変なの」
カヨは、少し笑った。
でも、その笑顔は、いつもより柔らかかった。
翌日。
撮影現場で、エマたちがカヨを見る目が、少し変わっていた。
「Kayo, good morning(カヨ、おはよう)」
「Good morning」
「Did you sleep well?(よく眠れた?)」
「Yes. Thanks to Nirvira(ええ。Nirviraのおかげでね)」
「…」
エマたちは、少し苦笑いしていた。
でも、その表情には、親しみがあった。
(ああ、カヨも人間なんだ)
そう思えたから。
完璧じゃない。
例外がある。
それが、カヨだった。




