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マザコンであり、信者
その夜、ホテルの部屋。
トシキが、俺の部屋に来た。
「父さん、ちょっといい?」
「ん?どうした?」
「母さんのこと」
「…何?」
トシキは、ソファに座った。
「父さん、母さんのこと、ちゃんと感謝してる?」
「してるよ」
「本当?」
「本当」
俺は、少し笑った。
「お前に言われるとは思わなかったけど」
「だって、父さん、たまに不満そうな顔してるもん」
「…そうか?」
「そう。母さんがハリウッドの女優たちに人気で、父さんが空気になってるから、嫉妬してるでしょ」
「…図星だな」
俺は、正直に答えた。
「でも、母さんがいなかったら、父さん、絶対倒れてたよ」
「…そうだな」
「億単位の賠償金、払えないでしょ」
「払えないな」
「じゃあ、感謝しなよ」
トシキは、真面目な顔で言った。
「僕だって、母さんの管理がなかったら、ジュニアオリンピックなんて夢のまた夢だったよ」
「…そうだな」
「母さんは、僕たちの命綱だよ。父さん」
トシキは、そう言って立ち上がった。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
トシキは、部屋を出ていった。
俺は、一人、ソファに座っていた。
(命綱、か…)
(確かに、その通りだな…)




