影の薄い主人公
翌日。
撮影現場で、シュピーゲルが俺に話しかけてきた。
「Kenichi, your wife is becoming a phenomenon(健一、君の奥さん、現象になってるぞ)」
「現象?」
「Yes. The actresses can’t stop talking about her(そうだ。女優たちが、彼女の話ばかりしてる)」
「…そうみたいですね」
「She has charisma. Real charisma(彼女にはカリスマ性がある。本物のカリスマ性だ)」
シュピーゲルは、感心したように言った。
「I’m thinking of offering her a role in my next film…wait, this is my last film(次の映画で彼女に役をオファーしようかと…待て、これが最後の映画だった)」
「…」
「But if I were to make another one, she’d be perfect(でも、もし次があるなら、彼女は完璧だ)」
その時、カヨが現れた。
「Kenichi, blood pressure(健一、血圧)」
「え、今?」
「Now(今)」
カヨは、血圧計を取り出した。
周りのスタッフたちが、カヨを見ている。
憧れの眼差し。
「Kayo is so cool…(カヨ、かっこいい…)」
女性スタッフが、小さく呟いた。
「I want to be like her…(私も彼女みたいになりたい…)」
別のスタッフも、同じことを言っている。
俺の血圧を測り終えたカヨは、満足そうに頷いた。
「128/80. Good(128/80。いいわね)」
「…ありがとう」
カヨは、立ち去った。
その背中を、みんなが見送っている。
俺は、一人、取り残された。
(俺、主演なのに…)
(なんで、こんなに空気なんだ…)




