表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

対決フラムファンタ

 敵陣からの大筒の射撃が続いている。初弾から全て私が弾き飛ばしてしまうから照準の修正もされることなく、しかし三門の大筒から途切れることなく射撃は続いた。私はその砲弾をただ弾き飛ばし続ける。


 こちらはこちらで鉄砲隊の射撃が続いている。届きもしない弾を撃ち続けている。もっとも敵の大筒陣地へと進軍する槍小隊の援護という意味もあるのだろう。


 そんな無為な時間がしばらく続いたが、背筋の凍るような恐怖を一瞬感じた。膨大な魔力が集束するのを感じたのだ。


 次の瞬間、敵陣、大筒陣地付近から炎が地を這うように伸びて、進軍していた槍小隊の一番左の小隊を貫いた。


 一瞬のことだった。兵士たちは悲鳴すらあげる暇もなく人の形をした真っ黒い炭へと変わってしまった。


 凄まじい威力の炎術魔法、間違いなくヴァルターだ。相変わらず……否、あの頃以上の凄まじさだ。ヴァルターの攻撃を自由にさせていたら槍小隊はあっという間に消滅させられてしまう。


 またすぐに魔力の集束を感じた。私は咄嗟に炎術中和魔法を練り上げた、そして炎術の発動に合わせて思い切り叩きつける。


 地を這う炎の束に雷術魔法の稲妻をぶつけ威力を中和、槍小隊から反らした。槍小隊を掠めた炎は城壁を焦がし消滅した。


 雷術魔法の落雷のような炸裂音の後、兵士たちは呆然と成り行きを見つめ、城壁内は静まり返っていた。そして大歓声が沸き起こる。


 私がパトリックを見ると目を見開いたまま口までぽかんと開いて私を見ていた。


 私は完全にヴァルターの力を侮っていた。否、そんなつもりは無かったのだが予想していた以上にヴァルターは強い。適当にいなしながら時間を稼ぎ、兵糧切れでいずれ撤退するだろうと高をくくっていた。しかし、そんなことがヴァルターに通用するはずがなかった……なかったのだ。


 自分の甘さを思い知らされたようで歯がゆい、だがここからは私も本気だ。


「敵の魔法使いから残った槍小隊を守って見せればよろしいので?」


 パトリックはぽかんと開いた口を閉じるのも忘れたままで頷いた。


 私は四階建てほども高さのある城壁を一気に飛び下り、裾を両手でパンと払う。


 彼の名はヴァルヴァトーレ・リーナ・カターニャ、南の海の魔法使いフラムファンタ。私が憧れた人、大好きだった人。私は……だからこそ私は、あなたに勝ちたい。


「ヴァルター……いえ、魔法使いフラムファンタ、あの頃とは違う私の力を……見せてあげる」



 私は魔法学校で教わったことで今でも忘れず気を付けていることがある。魔法使いは期待される以上に働いてはならない、そう教えられてきた。魔法使いと人間が共に暮らしていくために必要なことだった。


 ヴァルターもそれをわきまえているから城壁を破ってしまわないのだろう。彼ならきっとこんな城壁など溶岩のように溶かしてしまうことも可能だろう。


 だから私は槍小隊を敵の大筒陣地まで辿り着かせてやればいいのだ。



 槍小隊を後ろから追うように私は歩いていく。槍小隊は城壁の上から見ているよりもうんと前進している、少し早足で追う。


 正面から炎の渦が迫ってくる。私はすぐさま中和魔法を行使、槍小隊へ突進する炎を逸らす。続けざま次々と迫る炎を私は弾き続ける。


 私が槍小隊へ追いつく頃には敵陣から長弓の矢が降り注ぐようになっていた。これは小隊の盾で十分に防げる、私にも矢の攻撃は効かないし今のところは無視出来る。


 炎術魔法の攻撃は続く、私が次々と弾いてしまうものだから様々に手を変えてくるが残念、私はその全てを弾いていた。


 私は炎を作り出すことは出来ないが、炎を操ることは出来る。雷術魔法で作り出す稲妻と、炎術魔法で作り出される炎には似たような性質があって稲妻をぶつけることによってまとめて操ることが可能なのだった。


 理屈の上ではさらに炎術をかぶせることで私の稲妻も相手に操られてしまう可能性もあるのだが、私の知る限り炎術魔法の使い手でそこまで精密に魔法を操る魔法使いはいない。そこに思い至ったとしてもそれが可能かどうかは魔法使いの資質次第だ。器用貧乏を自認する私には造作もないことだが大抵の戦いにおいて力押しで勝ててしまう炎術使いは難しい操作よりも、より力をつける訓練に時間を割いてしまいがちだ。


 だから私はこう読んでいる、あいつはいずれ強力な炎術魔法で私ごと焼き払うつもりなのだと。今はその機会を覗っているに過ぎない。



 小雨がぱらつき始めた。大筒陣地では雨よけの幕を張る作業が始まっている。


 そろそろ矢の攻撃が鬱陶しくなってきた。


 トーリアが地面を脚で打つと稲妻が地を走り長弓部隊を襲った。長弓を構えた兵士たちは稲妻に打たれ次々と地面に崩れ落ちる。


 長弓部隊を全滅させた直後、強力な魔力の集束、そして震動を感じた。思わず背筋が泡立つのを感じる。


 巨大な火球が目の前に現われた。遂に来た、魔法使いフラムファンタ、遂に本気の大魔法を行使する時が来た。


「フラムファンタ! 勝負ッ!」


 火球はすぐには動かなかった。発生した場所のままで少しずつ大きくなっている。


 私は槍小隊の前へ出て中和魔法をぶつけて弾き飛ばす……が、動かない。


「くっ……重い……っ」


 なんて魔力量か……押し負けてる?


「……熱っ」


 ふと後ろを見ると槍小隊は盾で熱を防いでいる。このままじゃみんな焼け死んでしまう、なんとか踏みとどまってもらわないと。


 私は雷術の他には水術と土術魔法を少しだが使う事が出来る。難しいことは無理だが土術魔法なら地面を少し隆起させて熱除けくらいは作れる。


 足で地面を踏みつけ土術魔法を行使、槍小隊の正面に人が隠れるほどの壁を作った。そして残る魔力を振り絞り中和魔法を追加する。


 ふと頭に師匠の言葉がよぎる。『力に対して力で対抗するのではない』……そうだ、器用貧乏が売りの私は姑息な手段で対抗するのだ。


 巨大な火球に雷術の稲妻をいくつもぶつけて炎を少しずつ浸食していく、浸食とはつまり相手の制御を奪っていくことだ。


 火球がゆっくりとこちらに迫り動き始める。私は炎の中に稲妻を放ち続ける、火球の中心部分は概ね制御を奪えたようだ。


 魔力を高め特大のやつをお見舞いしてやる。私は止めとばかり目一杯の雷を火球へ落とす。この距離では激しい閃光に目がくらむ。耳をつんざく雷鳴、そして激しい衝撃に身体が震える。


 果たして火球はかき消すように消滅し、小隊から歓声が上がる。隆起させた壁を壊してやると槍小隊は再び前進を始める。今ので士気が高まったらしく皆の顔つきまで違う。


 大筒陣地にも敵の槍小隊が布陣し迎え撃とうと前進してくる。数で負けているようなので私も攻撃に参加して正面以外に布陣した敵の槍小隊には私が雷を落として片付ける。


 あの火球以降は魔法使いからの攻撃はなく、ほどなくして大筒陣地は槍小隊の侵攻により陥落した。


 私たちの勝利だ。


 空を見上げるといつの間にか雨は止んでいた。私は、甘い勝利の余韻を噛み締め、思わずほころぶ顔を誰かに見られないように空を仰いだまま拳を握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ