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史上最強の初恋  作者: えみお


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2-3

 あれから丸1日。

 事態は何1つ進展していなかった。

 その最大の理由は、多くの上級冒険者の不在だ。

 このような状況は決して珍しくは無い。

 というのも、ダンジョンはあらゆる場所に出没する。

 徒歩数分の場所にふと現れることもあれば、遙か遠くで偶然発見されたりもする。

 そして、ダンジョンの内部は複雑な迷宮となっていることが多く、特に、そのLEVELが高ければ高いほど、それに従い、ダンジョンの規模は大きくなる傾向がある。

 冒険者がダンジョン内で1月過ごすこともザラだ。

 なので、優秀な冒険者ほど、ここを離れていることが多い。

 ギルドからすれば、今回のような事態の為の備えとして、都市内部に一定数の上級冒険者が存在していることが望ましい。

 しかし、それは冒険者にとって著しく不都合である。

 彼等にとって、それは自らの仕事を奪われる・・・即ち、生きていくための糧を得る機会を奪われるに等しい。

 また、自由を愛する彼等の気性が、何かに縛られることを良しとしない。

 自由に生き、自由に死ぬ。

 そんな奔放な生き方を自ら選ぶような者達は、拘束を嫌うものだ。

 昨日招集をかけ、一昼夜待ってみたが、見る限り、見知った上級冒険者は2人ほど。

 どちらも、固有のパーティを組まず、行くダンジョンやクエストの目的に合わせて、その都度急ごしらえのパーティを結成する、いわゆるソロ冒険者だった。

 私の感覚では、こういったタイプの冒険者は、例え上級の肩書きを持っていたとしても、実力のほどは大したことが無い。

 なぜなら、そんなパーティの組み方をしているような者達に、困難なクエストや強敵の討伐などは難しいからだ。

 難題に挑むとき・・・試練に立ち向かうとき・・・誰も踏み入ったことの無い前人未踏の道を行くとき・・・。

 そういった経験を積み重ねることで、真の実力というのはついていく。

 そして、そんなことをやってのける冒険者達は、皆、気心知れ、互いに切磋琢磨し、信頼を置き、互いの命を預けられるような者達とパーティを組み、活動しているものだ。

 決して独りではない。

 当時のギルドの制度では、たとえ達成したクエストの難易度や、討伐したモンスターの強さがそれほどじゃなかったとしても、回数をこなし、ギルドからの信頼を得ることで、中級・・・そして上級冒険者へとランクアップすることが出来た。

 私としては、それではランクを付けている意味が無いと思うのだが、遙か昔からある制度を改正するために、自らを顧みず行動を起こそうとまでは思わない。

 だが、今回は是非ともそういった『まがい物』では無く本物の上級冒険者に来て欲しかった。

 しかし、どうやら望みは薄そうである。

 この場を取り仕切る件の先輩も、これ以上の増援は見込めないと判断したのだろう。

 あらかじめ刷っておいた私の要約を各人に配布しながら、口頭で今回のクエスト内容の説明を始める。

 しかし、相変わらず冒険者達の反応は芳しくない。

 現状、ボスモンスターを除けば最強を謳われる存在に挑むことになるのだ。

 尻込みする者、要約を放り出し我関せずの態度を貫く者、周りを見渡し溜息を吐く者・・・。

 大方、溜息を吐いた者達は、上級冒険者の数を把握し、絶望的な気分になったのだろう。

 こんな人達に、あの化け物が倒せるわけが無い。

 きっと多くの者が逃げ出し、そして僅かながら残った者は、為す術も無くヤツの業火に焼かれることになる。

 どうせ、そうなってしまうのなら・・・


「もう、討伐は諦めた方がいいんじゃないか?」


 どこからともなく、そう言った声が上がる。

 それは、まさに今、私が考えていたことだった。

 どうせ倒せないんだから、行くだけ無駄。

 それはある意味、当然の思考ではあった。

 しかし、それを今まで誰も口には出さなかった。

 クエストを依頼する側であるギルド側の職員が、それを口にしないのは当然だ。

 彼等のやる気を削ぐような行いはこちらにとってデメリットしかない。

 しかし、冒険者である彼等が、それを言わなかった理由は私たちと異なる。




 それは・・・プライドを守るためだ。




 こいつには勝てない・・・皆そう思っている。

 しかし、誰よりも先に逃げ出すわけにはいかない。

 それでは、後々臆病者呼ばわりされてしまう。

 それはイヤだ、だから待とう。

 



 ・・・何を?

 誰かが逃げ出すのを。

 誰かが諦めるのを。

 そして、自らが諦める言い訳をくれるのを・・・。

 



 そして、皆が欲していた言い訳が、名も知れぬ1人から発せられると・・・広まるのはあっという間だった。

 

「・・・そうだな」


「今回は相手が悪いわ」


「上級冒険者がいたら、倒せたのかもしれないが・・・」


 と、次々に白旗を揚げる者が出てくる。

 こうなっては、もうどうしようも無い。


「無理だ・・・」


 私も思わず呟く。

 勿論、誰にも聞こえないほどの声量に抑えた。

 しかし、この状況を見て、まだ期待できるほど愚かではない。

 そして遂に・・・




「ギルドの方々、今回は非常に残念ですが緊急クエストをお受けすることは出来ません。申し訳ありません」




 数少ない上級冒険者の1人が、最低限の義理を果たそうと、それだけ言い残し背中を向ける。

 それを皮切りに続々と後に続き、扉に向かう冒険者達。

 ギルドの職員は散り散りになって、必死に説得を試みようとするも焼け石に水だ。

 私はこの時、皆の頑張りとは対照的に、1人佇んでいた。

 自分自身の心の中にある何かに、亀裂が入った・・・そんな気がしたのだ。

 ここに勤務することになったのは、あくまで成り行きだった。

 しかし、そんな私も、ギルドの職員であることは誇りに思っていた。

 自らは戦うなんてもっての他。

 だけど冒険者として、直面する困難に命を賭して戦う彼等を、影ながらサポートするこの仕事に従事できることが嬉しかったのだ。

 それが、いざとなったらどうだろう・・・。

 幾人かの未熟な冒険者が、化け物の手にかかり、殺されてしまうかもしれない。

 そんな事態にも関わらず、我が身可愛さに、冒険を諦める冒険者達。

 これが、彼等の本性か・・・。

 自らが感じていた誇りとは、この程度のものだったのか・・・。

 そう思うと、私は、まるで力が抜けるように地べたに座り込み、ふと思った。

 



 私が思う『本物』の冒険者はいないのかもしれない。




 強いとか弱いとか、そんなのは些細なことだ。

 未知に立ち向かう勇気を持ち、弱者の為なら命を張る。

 こんな乙女チックな理想像・・・もしそこにいる冒険者にでも知られたら、きっと鼻で笑われるに違いない。

 でも・・・でも・・・もしいるのなら。

 もし・・・こんな窮地を颯爽と救ってくれる・・・そんな『本物』がいるのなら・・・、




「会いたいな」




「たっ大変だぁーーーーーっ!!!」


 


 突如、悲鳴。

 突然扉が開き、今まさに、そこから出て行こうとした冒険者一行の進行が止まる。


「どうした!?」


 集団の先頭を歩いていた上級冒険者の男は、思わず問う。

 そして、聞いた。




「ド、ドラゴンが・・・倒された・・・」




 そこにいる全ての人間の思考が・・・その時停止した。

 彼の発言の意味は明白、そして簡潔。

 しかし、頭がその情報を受け付けなかったのだろう。

 5秒・・・10秒・・・20秒ほど経ち、上級冒険者の男がようやく口を開く。


「ま、まさか。そ、そんなわけないだろ!なんでドラゴンが倒されたと分かるんだ!」


 その語気の荒い口調に、一般人なのだろう・・・その男は一瞬ひるむ、が、すぐに言い返した。


「見れば分かる!外に出てみろ!」


「な、なんだと!何が分かるって言うんだ!?」


「百聞は一見にしかずだ!早く表に出ろ!それで俺が嘘を吐いているんじゃ無いって分かるさ!」


 一般人の男はそれだけ言うと、扉を出る。


「な、何があるって言うんだ!?」


 そして、その後を追うように冒険者一行が・・・そしてギルドの職員が続く。

 ・・・自らを残し全員が去ったギルド館内。

 その中で、ようやく腰を上げた私は、扉に向かって歩き出す。

 一体、外には何があるというのだろう?

 どんな人たちがドラゴンを倒したのだろう?

 どうやってそんな強敵と戦ったのだろう?

 疑問は尽きない。

 ・・・ドラゴンの要約が頭に浮かぶ。

 翼を持ち、空を飛ぶ。  

 巨大な体躯。

 一撃必殺の火炎を吐く。

 そんな化け物を倒したとするなら、きっと多くの冒険者が人知れずダンジョンに向かっていたか、もしくは、上級冒険者のパーティが運良く遭遇し、討伐した可能性が高い。

 そう、そのはずだ。




 しかし何故だろう。

 今、頭の中を流れるイメージ。

 それは、恥も外聞も捨て、集団で一斉に攻撃を加えるというものでも・・・

 鍛えられた身体に、最高の装備を纏わせた強者達が、知識と経験から確実に仕留めるものでも無く・・・

 本当に、本当に不思議だったのだが・・・

 その時、私の中に描かれた情景・・・


 


 それは、生意気な美少女が、短刀と長い髪を振りかざし、血まみれになりながら戦う姿だった。


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