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※修正情報
2025年10月21日
既存の文章を一部修正しました。
私、デュランは、あの日以降も度々貧民街に通ったり、事情に明るい人間に話を聞くようにしていた。
そうして分かったこと・・・それは、教師役の彼女、そしてトールの特殊性だ。
マリアと2人でトールを尾行したあの日、もしかしたら、この良い風潮は貧民街全体に行き渡っているのではないかと思った。
何らかの理由で知識、そして教育の大切さを知った貧民街の住人達が、子供達の為に一致団結して学校を作り、そこに子供達を通わせることで、未来を明るいものにしようとしている・・・そんなワクワクするストーリーを、どこかで私は期待したのだ。
だが、どうやらそういうわけでもないようだ。
自らの正体を出来るだけ隠しつつ、金を謝礼に、貧民街の住人に聞いたところによると、教師役を務めていた彼女はトールの母親だと分かった。
彼女とトールは、今から3年ほど前に唐突に現れると、当時、荒れ果てた状態だったあの場所をたった2人で整備し始めたのだそうだ。
「最初は、何をトチ狂ったことをと思ったね」
そう話したのは、当時その近辺を生活拠点にしていたという男だ。
「金目の物を探しているんなら、掘るところが違う。ここいらはとっくに取り尽くされてる・・・そんなことを思ってたな」
「そのことを、お前は彼らに言ってやったのか?」
私がその男にそう問うと、彼は何をおかしなことをと笑いながら・・・
「なんで俺がそんなこと言ってやらなきゃならねえんだ。金でも出るのか?」
と答えた。
他の者に聞いても、おおよそ似たような反応をされた。
このことからも、この場所に住む全ての者達の価値観や考え方が良い方に変わったわけではないことが分かる。
そんな風変わりな2人の奇妙な行動は1年近く続いたようだ。
雨が降ろうが、雪が降ろうがお構いなし。
まるで何かに急かされるように、一心不乱に廃墟の群れを片付ける親子。
それは、およそ真っ当な感性を持ち合わせていないであろう者達の集う貧民街に於いても殊更、異端に映っていたようだ。
そんな視線には目もくれず、2人はあくせく働き・・・廃材を片付けること1年。
ゴミの山と化していた一帯は、1軒の建物と、端に積まれた少量の廃材を残し、広大なスペースとなっていた。
「なんかスゲえなと思ったね」
これには、日和見を決め込んでいた者達の多くが素直に感嘆したようだった。
そして、苦労の末、出来たその空間で、何をしようというのか気になる人間の中には、それ以降、そこに顔を出しては、その後の状況を確認しにいくことが習慣化した物好きもいたそうだ。
「そこからは、アッという間だったな」
と、その物好き達は言う。
どうやら少量の廃材は、ワザと残しておいたものだったようだ。
クズの集まりだった廃墟の群れ。
彼等は、まだ使えそうな素材を見つけては、処分せず脇に積んでおいたようだ。
2人はそれらを上手く再利用し、同じく残した1軒の廃墟を修繕していった。
そして、季節が移り変わる頃・・・。
満足のいく仕上がりになったのだろう。
2人の小さな歓声があがったその日・・・出来上がった建物を前に、親子2人はその日1日、肩を寄せ合い、座り続けていたという。
「で、その後から徐々に子供が姿を見せるようになっていったって話さ」
子供というのは、あの場所で勉強をしていた子達のことだろう。
「その子達がどこから来たのか。心当たりは?」
私は貧民街の住人に尋ねた。
「ねえよ。でも、察しはつくだろ」
・・・・・・・・・。
そうだな、考えるまでも無かった。
子供が大人になる前に、先立つ親。
子供を育てることを放棄し、捨てる親。
ここにはそういった者達が後を絶たない。
きっとあの2人は、その不幸を否応なしに受容せざるを得なかった子供達を見つけては、あの場所に集めていったのだ。
彼らに食べ物を食べさせ、教育を受けさせるために。
あの子達に、希望の持てる未来を与えるために。
貧民街の住人から話を聴き終え、その場を辞す・・・その帰り道。
自分の中に渦巻く複雑な感情を整理したい。
そう思った私は、進路を我が家からギルドに転換した。
「アイツに話を聞いてもらおう」
私はそう呟く。
今日は情報の対価として、大分散財してしまった。
普段から、節制を心がけている自分としては、これ以上の出費はしたくないのだが、致し方ない。
安酒につまみで夜飯を済ませることを覚悟すると、私は友を迎えに行ったのであった。




