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史上最強の初恋  作者: えみお


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1-4

 デュランにトール君の尾行を提案したのは、当然、彼の趣味思考を把握することで、彼とお近づきになる切っ掛けを作ろうと考えたからだった。

 ギルドと貧民街の間には、朝っぱらから繁盛している屋台等をはじめ、あらゆる商店

が軒を連ね、客引きに精を出している。

 そして、人通りの少なく、どこか薄暗い地区に入ると、薄着の美女が手を引く・・・要はそういうエリアに入ることになる。

 決して褒められた方法では無い。

 か、私はこの場所を利用し、彼の女性の好みを知ることが出来れば儲けものだとも思っていた。

 この国では15歳で成人として扱われるため、この手の店に入るからといって、周りの目を必要以上に気にする必要は無いのだ。

 一見、真面目そうな外見をしている・・・とはいえ、彼も思春期真っ盛りの男の子ではあるのだ。

 だから、クエストで得た報酬を使って、女を買う・・・なんてことがあってもおかしくない。 ・・・しかし、彼のプロフィールをひと目見たときに、この作戦が上手くいかない可能性も考慮しなければならなかったことに、私は尾行しながら気づいた。

 トール君はギルドから受け取った報酬(らしき物)を持ち前のバッグパックから出すそぶりは一切無かった。

 食べ物も、飲み物、雑貨なんかは勿論、剣や防具なんかといったダンジョン探索に必要な装具・・・そして薄着の美女の誘惑も顔を赤らめつつも何とか振り切ると、真っ直ぐ貧民街へと入っていった。

 女の勧誘にドギマギしていたトールの姿を、やきもきしながら見ていたデュランの姿は、今まで見たことないほど隙だらけで可愛かったが、特に有益な情報の得られないまま、ここまで来てしまった。


「・・・何にも買わなかったわね」


「・・・そうだな」


「うーん、ギルドから報酬を受け取ったように見えたから、てっきりソレを使って羽目を外すのかと思ったんだけど、真っ直ぐご帰宅とは・・・」


 彼には欲が無いのだろうか?

 そう考える私の横で、デュランはこう呟く。


「・・・もしくは、他に使い道があるか」


「つまり貯金してるってこと?」


「ああ」


 そう言うデュランに私は首を傾げつつ、こう返す。




「でも、彼は貧民街の冒険者よ」


 


 もし、この業界の事情を知らない人間が聞いたら、貧民街の住人を揶揄しているようにしか聞こえないかもしれない。

 が・・・私のこの発現の真意を、デュランはしっかりとくみ取ってくれた。

 

「・・・ああ、そうだな」


「アンタも分かってるでしょ。彼らは貯金が出来ないの」


 これは、別に貧民街の人間は銀行が使えないだとか、ギルドからの報酬が少ないだとか、そういった差別を受けているからではない。

 銀行は、お金を預けてくれる人を例外なくお客様として扱ってくれる。

 信用がものをいう融資なんかは例会かもしれないが、基本的に銀行側が、身分の貴賤の差を考慮することは無い。

 また、出身地によって報酬が増減すると言うことも当然無い。

 では、貧民街の人間が貯金が出来ない理由とは何か。

 



 ・・・それは、彼らに貯金という概念が存在しないことにある。

 



 貧民街で暮らす人間は、生まれた頃からずっと貧しい。

 物心ついた頃から、今日の糧を今日得ることで、ようやく暮らしている人たちばかりがここに住んでいる。

 そんな生き方を幼少時からしてきた者達に、金銭を貯めるという習慣は全く無い。

 1日で使い切れないほどの金を手にしようものなら、散在し、次の日には一銭も残らない。 金銭感覚の決定的な欠如。

 それが貧民街の出身であるということなのだ。


「だがマリア、現に彼は真っ直ぐ家路に着いている。となれば、貯蓄している以外に考えられないだろう」


「そりゃ・・・普通はそうなんだろうけど」


 しかし、私の中の『貧民街冒険者は貯金が出来ない』・・・という固定概念が、その考えを否定するのだった。

 そんなことをデュランと話しながら、貧民街を歩き続けること数分・・・。

 



 目の前に現れた光景に、私たちは言葉を失う。



 

 以前、仕事の一環でこのあたりに来たのは3、4年以上前になるだろうか。

 その当時、確かこのあたりは、かつて発生した天災により、倒壊したとされる多くの家の残骸で溢れかえっていた。

 人が住むなんて勿論、廃材から飛び出た釘などが理由で、満足に歩くことすらままならない状態だったはずだ。

 もしこの場所が一般住宅街だったら、国が直ちに修繕を行うべく動くのであろう。

 しかし、貧民街にそれが適応されることは、ほとんどあり得ない。

 その理由は、彼らが税金の類いを一切納めていないからである。

 この国に住む者は、住む場所や所得に応じて、一定の税を納めることになっている。

 しかし、貧民街に住む人間には当然、支払い能力が無い。

 もし、国民の納めた税金をそのような奴らの為に使うと国が言い出したとしよう。

 そうなれば、国民の反感を買うことは避けられないだろう。

 ここ、サートゥン王国は文字通り王国である。

 その王は世襲であり、仮に民が政治に対して文句をつけようと、極論、無視してしまえばそれまでだ。

 だが、だからといって、国民から反感を買いたいわけではない。 

 だから、この場所・・・貧民街に国の手が入るなんてことは、まずあり得ない。

 あり得ない・・・はずだ。

 しかし・・・


「どうなってるの、これ?」


「・・・・・・・・・」


 ようやくそれだけ言った・・・私の横でデュランは目を見開き驚いている。

 それだけ衝撃的だったのだ・・・この光景が。


「・・・すごく、綺麗になってる」


 ここにあったはずの瓦礫・・・その殆どが綺麗に片付けられており、少し残っていたものも、一カ所に綺麗に集められている。

 そして、ソコに出来た広い空間。

 その、ほぼ中心に位置する場所に、1軒の建物が立っていた。

 私たちは、まるで吸い寄せられるように、その建物に向かう。

 すると、近づくにつれ、人の話し声が聞こえるようになった。

 

「・・・ですから・・・することが大切です。分かりましたか?」


「「「はーいっ!」」」


 1人が教え、それに対する大勢の返答。

 これは・・・授業?


「もしかして・・・これ、学校?」


「・・・覗いてみよう」


 私たちは、こっそり中を窺う。

 そこには予想通りの光景があった。

 机に向かい、鉛筆を持ちながら、何かを紙に書きつけている子供達。

 その向こう側には、黒板らしきものが置かれており、簡単な加算の問題が記載されていた。

 どうやら、今は問題を解く時間のようだ。

 黒板の横に椅子を配置し、そこに座る女性はおそらく教師なのだろう。

 少し肉が足りない体つきではあるが、先ほどの声の持ち主が彼女ならば、健康に問題は無さそうである。

 そして、トールはといえば・・・生徒の子供達の机の間を巡回し、鉛筆が止まっている子供を見つけては、何か小声で話しかけていた。

 恐らく、何か助言を与えているのであろう。

 それを黙って聞く子供の姿勢から、彼がその子達から信頼を得ていることは推察できた。 どうやら、ここは昨日今日出来た施設ではなさそうだ。

 しかし、あの荒れ果てた場所が、知らぬ間にこんなことになっていようとは・・・。


「凄いわ」

 

 私は率直に思った。

 子供達に教育を受ける場を設ける。

 それは、本来国が率先して取り組むべきものであることは言うまでも無い。

 しかし、これも税金の使用が前提となる以上、着手することの難しい事業には違いない。

 だが、私は貧民街の出身者にこそ、こういった教育機関が必要なのではないかと、ずっと思っていた。

 ギルドにやってくる貧民街出身者の教養は・・・すこぶる低い。

 字が読めない、字が書けないは当たり前。

 そんな人たちのダンジョンでの生還率は、お世辞にも高いとは言えない。

 当然である。

 先人達が残したダンジョンや、ソコに生息するモンスターの情報を、本などを通じて仕入れることができない彼らは、必要以上の冒険を余儀なくされるのだから。

 結果・・・生きて帰ってこない冒険者の多さを、私は知っている。

 だからこそ、この建物で行われていることは、まさにその問題を解消する試金石になり得るのだ。

 しかし、いったい何故こんな取り組みが・・・。


「私、貧民街のこと、思った以上に分かっていなかったみたい」


 反省の言葉が、ふと口から漏れる。

 

「・・・私もだ」


 沈黙から帰ってきたデュラン。

 彼女はようやく一言呟くと、また黙ってしまう。

 そして、結局トール君に会うこと無く、帰宅の途につき、別れの挨拶を済ますそのときまで、お互い一切口を開くことはなかったのだった。

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