エピローグ
「ふう・・・上手くいきそうだね」
目を閉じた・・・その目蓋の裏に何を見ていたのだろうか。
玉座の主はただ独り、そこに腰掛けた状態で、何かを終始見守っていた。
それを終えて開眼し、現実に視線を戻す。
今、この場にいるのは自身だけ・・・
「いや、正確には、3人か」
おもむろに顎を引く。
玉座から数段下・・・本来なら、王に対し発言を求め、その許しを得た者が、頭を低くし跪くことで存在を許される場所。
そこには・・・今や跪くことすら出来ない存在がいた。
まだ、人という概念の範疇にいる・・・というのであれば、その数は、確かに2人。
だが、その姿を見て、生きていると思える人間は、いないのではないだろうか・・・。
金の頭が話し始めた。
「王よ!?これは一体どういうことですか!?私たちが何をしたというのですか!?」
それに追従するように、紅い頭も喋りだす。
「そうだ!何故、私達がこんな目に遭わなければならん!?」
騒ぎ立てる2つの首は、気道が無くとも・・・肺が無くとも直訴を止めない。
彼等は最後まで馬鹿だった。
ここでの正しい選択は、王の機嫌を損ねず黙って時の流れに身を委ねることだったというのに・・・。
「とりあえず、関係は進展したということでいいかな。結果オーライっと」
終わり良ければ全て良し。
帳尻さえあえば、過程の巧拙など些末なこと。
王らしからぬ思考ではあったが、そのような開き直りもまた、王にとっては大切なのだ。
しかし、それは反省をしないと言う意味では無い。
謙虚な王は、結果を見て考え、次はより正しき行動を採れるよう努める必要があるのだ。
失敗した原因を特定し・・・修正・・・または排除する。
まもなく、本日最初の反省が始まるところである。
「君たちも馬鹿だよね。いやぁ、馬鹿だ、馬鹿だと思ってはいたけど、ここまでとは思わなかったよ・・・。他国との裏取引で得たアイテムを使ってモンスターを懐柔したり、ギルドの信頼を貶めるような任務を無理矢理こしらえたり・・・そんなこと、僕が見逃すと、許すと本気で思ってたの?」
「「!」」
「あらら・・・本気で思ってましたの顔だよ。舐められたモノだね。君たちの様なじゃじゃ馬に手綱を付けない理由が無いだろう。君たちが今までやって来た悪事は、おおよそ把握しているんだからね」
「で、では何故・・・何故今まで・・・?」
金の首が問う。
何故、今まで見逃していてくれたのか。
何故、今回は許されないのか。
それが知りたいようだった。
「バランスだよ・・・バランス。あと順序かな。大事を成すには小事を1つずつ片付けていく必要があるんだよ。それに、君達には、各々がしでかしてきた諸々を考慮しても、まだかろうじて存在価値があったからね。だから、大事の為に見逃していてあげていたんだ。でもね・・・流石に今回の件は見過ごすわけにはいかない」
「・・・それはどういう?」
「分からないかい?つまりだね・・・」
君たちは『大事』の邪魔をしちゃったんだよ・・・。
「・・・ッ!王よ!王の言う『大事』とは一体何なのですか!?それはデュラン、もしくは、あのトールというガキと関係が・・・?」
「そんなことを教える筋合いは無いよ」
その言葉を最後に、王は彼等との会話を終えた。
事情聴取の邪魔になる・・・という理由から、首から下には、早々にこの世から退場して貰ったわけだが、そろそろ上の方にも、その後を追ってもらうときが来たようだ。
もっとも、その手続きに少々の違いはある。
が、行き着く先が同じであるから、文句を言われる筋合いもない。
「傀儡人形」
そう唱えた王の左右に、突如として現れたのは、人間の頭部ほどの大きさの球体だった。
絵画を描く際に用いるパレットの上で、様々な色の絵の具を混ぜ合わせる・・・その過程を切り取ったかのような、どこかおどろおどろしい紋様を周囲に展開するその物体は、王の・・・
「行け」
の合図を切っ掛けに、それぞれ、ゆっくりと2つの首の方に向かって前身を開始する。
そして、それらが、2人の真上に、拳一つ分ほどの間隔を開けた位置で停止すると、王は彼等に最後の情けをかけた。
「フィクションなんかじゃ使い古された言い回しで、正直僕はあまりこの言い方が好きじゃないんだけど・・・それでも、これより優れた文言はやっぱり思いつかないね・・・。」
最後に何か、言い残すことはあるかい?
王のこの言葉に、馬鹿の称号を得た彼等も流石に気付いた。
自分達は今、生死の境目にいるということに!
「お、王よ!お待ち下さい。私はこの男に脅され、やむなく手配するしかなかったのです!」
紅の首が、それはそれは聞き苦しい言い訳を述べると、それを聞いた金の首は、それ以上に醜い弁明を開始する。
「なっ・・・言わせておけば!王よ!ヤツこそ、この件の真の首謀者であり、私は彼の哀れな立場を救ってやろうとしただけなのです!」
「な、なんだと、人に責任を擦り付けおって!」
「貴様こそっ!」
わあわあぎゃあぎゃあ・・・。
「・・・・・・・・・」
王は思った。
こいつらには、もう呼吸の為の空気すら惜しい。
「・・・じゃあね、お馬鹿さん達」
彼等の意識は、王のその言葉を最後に、冥府に旅立ったのであった。
了




