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史上最強の初恋  作者: えみお


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7-6

「えっ・・・弟子・・・ですか?」


「そうだ。トール、君は冒険者としてはまだまだ未熟だ。その実力では、先日の様なイレギュラーはともかく、一般的な任務でも危険な目に遭いかねない。だから、私が冒険者に必要な技能なんかを教えてやってもいい・・・と思うんだが、どうだろう?」


 何となく上から目線の偉そうな言い方になってしまったが、要旨はしっかり伝わったはずだ。

 トールはこれからも、『みんなのいえ』の子供達の為に冒険者業を続けることになる。

 ならば、実力を向上させ、より報酬の高い依頼を受ける方が効率が良い。

 それに、その指導でトールは、秘めたる野望である、『本当の冒険をしたい!』という目標への達成に近づくことができる。

 トールにとっては至れり尽くせりの提案・・・の筈なのだが、肝心のトールの反応は鈍い。


「・・・何でですか?」


「ん?何がだ?」


「弟子っていうのは『冒険者』としてということですよね。僕の冒険者としての実力向上を手伝ってくれるということですよね」


「・・・まあ、身も蓋もなく言えば、そうだな」

 

「デュランさん・・・僕が冒険者を続けるのは反対だったんじゃないんですか?」


「・・・そうだな。正直、今でも諸手を挙げて応援しようとは思えない」


「・・・言ってることと、やろうとしてることが矛盾してます。今の提案以上の応援はありませんよ?」


「・・・そうだな」


 その通りだ。

 ダンジョン内でのデュランは必死になって止めたのだ。




 本当の冒険などすべきでは無いと・・・。

 自らの大切な人達に心配を掛けるような生き方はするなと・・・。




 にも関わらず、それと正反対のことを言われれば、流石のトールも疑うのは仕方が無い。

 デュランは少しの嘘を織り交ぜつつ、それでもなるべく正直に、自身の思考の変化の理由を述べた。


「実は・・・友達に言われたんだ。『お前はトールを籠の中の鳥にしたいのか?』ってな」


「籠の中の鳥・・・ですか?」


「ああ。私はな・・・お前に今のお前のまま、幸せになって欲しかったんだ。冒険者としての実力が無くても、お前には大切にしている人達がいる。そんな彼等を支えることに幸せを得る生き方をして欲しかった。正直その為なら、私はお前に幾らか金銭を援助してやってもいいと思っていたんだ」


「そ、そんな!頂けませんよ!」


「焦るな。そのくらいの気持ちでいたという話だ。だが、君にそういう提案をするかも・・・ということを友達に話した。そしたら言われたんだ・・・さっきの言葉をな」


「・・・・・・・・・」


「相手を大切にしようとする余り、その人の『意思』を無視するのは違うと・・・それはエゴだと言われてな。それが、私が以前の考えを改めた理由だ」


「・・・・・・・・・」


「トール」


「はい」


「そんなわけで、私はお前を1人前の冒険者にしたいと思っている。それが、お前に安全にいてほしいという私の願いを叶えつつ、お前の『意思』を大切にすることにもなるからだ。しかし・・・だからといって、冒険が危険であるという考えは変わらん。だから、私のこの提案に乗るかどうかは時間を掛けて決めてほしい。今日はそれを言いに来たんだ」

「・・・・・・・・・」


「また、暫くしたらここに来る。その時にお前の返事を・・・」




「デュランさん・・・いや、師匠!ご指導の程よろしくお願いいたします!」




「!」


 トールのその宣言は高らかに響き渡り、周囲に蔓延っていた者達の耳目を一瞬にして集めた。

 デュランとしては、じっくり思考してから決めるべきだと思っていた矢先だったので、その大きな声での返答に、彼女はとても驚いた。


「・・・私は覚悟する時間をやったつもりだったのだが?」


「覚悟はもう出来ています!憧れのデュランさんに指導して頂けるなら、悪いコトなんて何も無いじゃないですか?」


「正直、私がさっき言った金の援助・・・アレは本当にしてやってもいいんだぞ。こう見えて私には、かなりの財産がある。だからお前達を食わせることくらい・・・」


「デュランさん、僕は『籠の中の鳥』じゃありません」


「!」


 不思議だった。

 自分より背は低く、身なりも決して良くはない。

 そんな幼い顔の彼だが、それでも、目だけはしっかり男の子・・・いや、矜持を持った1人の男になっていた。


「今の僕が頼りなく見えるのは仕方ありません・・・事実そうですから。でも、こんな僕でも、あの家の大黒柱なんです。母と子供達は僕が養います。その役目は誰にも譲れません!」


「・・・それが出来なかったら?もし、だれか死んでしまったら?」


 意地の悪い問いかけである。

 彼女は、この家の子供2人が、帰らぬ人になったのを知っている。

 知っていて・・・トールが辛い思いをしたことまで分かっていて、その上でこんな問いを投げかけたのだ。




 後の話だが、デュラン曰く、この問いで、心に迷いが出るようなら、自らの提案は白紙にしようと思っていたようだ・・・。




 が!




「次は、絶対に死なせません!自分が皆を守ってみせます!その為に強くなってみせます!




 過去を忘れたわけでは無く、無視したわけでも無い。

 過去を飲み込んだ上で、先に進もうと決めたトールの意思。

 それをデュランはハッキリ感じ取る。

 なら、もうこれ以上言うことは無かった。

 



「明朝6時!ギルド前だ!」


「・・・ッ!はい!!!これからよろしくお願いします!」


 深々と頭を下げるトール。

 デュランはそれを背中で受けつつ、『貧民街』を後にしたのであった。

 

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