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史上最強の初恋  作者: えみお


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5-6

「な、何だ、今のは・・・!?」


 ダンジョン『闇の城』内を駆ける中、『彼』の雄叫びを、トール同様、耳にした彼女・・・デュランは、自らの移動速度を更に上げた。

 彼女もまた、嫌な予感を覚えたのだ。

 ここに来てから、ずっと疑問に思ってきたこと、それは・・・


(「モンスターが少なすぎる!」)


 ・・・ということだった。

 このダンジョンの手強い部分は、月によって強化されたモンスター群による波状攻撃だ。 月光の恩恵を受けた化け物達は、その研ぎ澄まされた五感で、戦闘の気配を感じ取ると、一目散にそこに集まる習性がある。

 襲った冒険者を糧にしている・・・という報告は聞かないので、合理的に考えれば、モンスター側に戦うメリットは無い筈なのだが・・・。

 とにかく、このダンジョンを攻略するには、その状況を作り出さないように、ヤツらに見つからないよう、慎重に歩を進めることが求められるのだ。

 しかし、その肝心のモンスターの影を、デュランはここに来てから、殆ど感じることが出来なかった。


「何故だ?一体何が起こっている!?」


 この、ダンジョン内の異常に対し、一流の冒険者デュランもまた、絶えず思考を重ねてはいたが、その間も、彼女は決して足を緩めない。

 何故か?

 

(「もし、この現象によって、彼により一層の危険が迫っているのであれば、尚更、歩を緩めるわけにはいかない。また、何らかの理由で、一時的にモンスターが減少しているのであれば、それこそ、この貴重なチャンスを活かさない理由は無い!」)


 ・・・つまり、この事態がどういう方向性のものであれ、彼女が次に採るべき選択肢は、『より早く進む』以外、存在しないのだ。

 化け物のいない暗い森の中を駆け、『月下草』の自生する場所・・・冒険者の間では『麗しの湖』と呼ばれる場所に向かう。

 そして、枝葉の鬱蒼と茂る森の中を突破し、湖を見渡せる小高い丘の上に辿り着いたとき、彼女は、ようやく『彼』を視界に捕らえた。




「な・・・、白い・・・『ドラゴン』だと・・・?」




 あり得ない・・・!

 それがデュランが最初に思ったことだった。

 日々、数多のモンスターを相手にしてきたが故、個々のモンスターの記憶が曖昧になっている可能性は否定しない。

 しかし、その可能性を踏まえても、あの大きさで、あの色を持つ『龍種』のモンスターと出会ったことを、綺麗さっぱり忘れてしまうなど、あるはずが無い!

 満月を従え、口先に小さき月を思わせる光弾を作る白亜の巨体は、まさに月の化身。

 そして、湖に浮かぶ小さな小島には・・・自らの探し人がいた!


「ま、まさか、あの『ドラゴン』・・・トールを狙っているのか!?」


 彼は、何かあのモンスターの勘に障ることでもしたのだろうか?

 それとも、逆に『ドラゴン』の方から仕掛けてきたのか?

 その場にいなかったデュランには分かるべくもない。

 1つハッキリしていること・・・それは彼が絶体絶命の状況にあるということだった!


「や、止めろ!止めてくれ!」


 デュランの俊足を持ってしても、流石に距離が遠すぎる。

 どうにか、あの巨龍の気を反らせないかと、思索するが、何分時間が足りなかった。




「ゴウウウウウウウウウウウン!!!!!!!!!!」




 ・・・放たれた光弾が小島に衝突したときの余波が、風に乗ってここまで届く。

 それほどの威力の攻撃を受ければ、それが例えデュランであっても、致命傷は避けられない・・・それほどの一撃だった。

 もし、ここで今の様子を眺めていたのが並みの冒険者だったら、最早トールの生存はあり得ないと、匙を投げていたに違いない。

 しかし、デュランの並外れた視力は、水の上を跳ねつつ、岸に辿り着き、木に衝突した彼の存在を捉えていた。

 そして、デュランの見立てでは、まだ死んではいなかった!


「・・・ッ!」


 そう分かった時点で、デュランは再び走り始めた!

 向かう先は、トールの元。

 直線距離だけを見れば『ドラゴン』を奇襲するという策も考えられるが、ヤツの強さが未知数であることを踏まえ、トールを救出後、一度、距離を取ることにした。

 しかし・・・デュランが疾駆している最中に、『ドラゴン』は次の行動に入る。

 再び、光弾を作り始めたのだ!




「・・・やるしかない」




 そこで、デュランは覚悟を決めた。

 もう、「この姿を見られたくない!」だとか言っていられる状況では無い!

 あの光弾をどうにかしなければ、トールは・・・死んでしまう!

 それだけは・・・させない!

 そして彼女は、切り札を切った!

 



狂乱化バーサク!!!」




 デュラン本来の少し褐色がかった肌の色は、この能力の使用を開始した途端に、とても健康な人間のものでは無くなっていった。

 より赤みを増し、茶色くなり、更に黒まる。

 そして、その肌の上を、赤い文様が走り抜ける。

 全身に隈なく広がるその印は、勿論、顔にも及び、顔面全体に奇怪な隈取りが形成された。




 闘気が蒸気となって、周囲に溢れ出す。

 黒い肌に赤い文様を刻み、全身に白煙を纏わせたこの姿を見て、一体どれだけの人間が彼女を『人』として扱ってくれるだろう?




「・・・こんな女は嫌だろうな」




 デュランの口からは、思わず自らを卑下する言葉が出る。

 この恋は・・・叶わないのだろうと諦めもした。

 だが、彼だけは救ってみせる!


「私は、もう・・・間違えない!」


 助けて欲しいと手を差し伸べる想い人の手を、自身の都合で振り払うようなことは、二度としない!

 ・・・能力解放により、底上げされた膂力でもって、あっという間に森を抜ける。

 トールの姿は目前だ。

 躊躇は無かった!


「ウォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」


 彼の前に立つ。

 光弾が迫る。

 2刀1対の剣を構える。

 そして・・・




「ハアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」




 交差した愛刀を、光弾にぶつけた!


「キィイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!」


 刃と光弾の接触後、辺りに響き渡ったのは、金属同士をこすり合わせるかのような甲高い音だった。

 

「・・・パキッ!」


 力は五分。

 だが、剣の方は一足先に悲鳴を上げた。


「・・・ッ!駄目か!ならば!」


 そう言うと、彼女はスキルの重複発動に踏み切る!

 

「スキル発動!超筋力オーバーパワー!」」


 デュランの肉体が赤い膜を纏ったように変化し、それと共に、彼女から依然、吹き出されていた白煙の色も赤く染まり始める。

『超筋力』は自らの筋力を一時的に高める便利なスキルだが、デュランは、このスキルと『狂乱化』との併用は行わないようにしていた。

 理由は2つ。

 自身の身体に対する負荷が大きすぎるが故。

 そして・・・自身の増大した力に、装備が耐えきれないからだった。


「・・・今までありがとう」


 思い入れのあった2本の剣に、デュランは短く別れを告げる。

 そして、込める力を更に強めた!


「オオオオオオオオオオオオウッ!!!!!!!!!!!」


 低い唸り声を上げながら、光弾と対峙するデュラン。

 そして・・・遂にその全力は、『彼』の全力を打ち破った!


「ウウッ!?」


 巨龍の側からすれば予想外だったのだろう。

「馬鹿な!?」と言わんばかりの様子で、自身が解き放った光弾の行く先を注視する。

 そして、その先にいた、おおよそ人間には見えない者に視点が合うと・・・


「・・・ッ!」


 ビクン!

 ・・・と、一瞬ではあったが、『ドラゴン』の身体が震えた。

 この巨体にして、未だ生後10分足らずという矛盾した存在である、この龍には、自身の身体に一瞬走った、不可解な痺れの正体が分からなかった。

 しかし、たぐいまれなる視力で、『彼』を見ていたデュランは悟り・・・思わず相手に同情する言葉をかける。




「おい、ビビっているのならココを去れッ!今の私は手加減できんぞ!」




 ・・・そう、未知の感情・・・それは恐怖だった!

 愛刀は粉々に砕け散り、最早彼女に武器はない。

『彼』からすれば、もう1度の光弾を放つことさえ出来れば、事態は全て丸く収まる。

 ・・・しかし、遠くに立つ、小さな女の眼光が、それを許さない。

 そのような隙を与えてはくれない!


「ウウッ・・・。ウッ・・・ウォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」


 結果、巨龍の行動は1つに絞られる。

 それは圧殺・・・即ち、巨体による突撃だった。

『彼』は前足を大地に突き、四つん這いになる。

 もはや、羽の生えたトカゲにしか見えない姿勢は、滑稽と言えなくもない。

 しかし、大抵の人間なら、その迫力満載の顎を見た瞬間に震え上がるだろう。

 それほどの迫力はあった。


「・・・飛んでくれば良いものを」


 しかし、デュランにはその状況下でも、冷静に物事を見るだけの胆力があった。

 そうなのだ。

 突進してくるにしろ、飛行しての加速の方が威力が出るのは自明の理。

 そもそも、1度怯んだ時点で、勝負とは決しているもの・・・。

 その時点でケツをまくれば、1時の恥と引き換えに、命は助かる。

 首が繋がってさえいれば、この世では何度でもリトライが可能なのだ。

 そんなことにさえ頭が回らないほど、『彼』は動揺していたのか、もしくは若かったのか・・・。

 

「そうか・・・ヤツもまた、冒険者なのかもしれないな」

 

 デュランは後ろに庇うトールの姿を、ちらと見て、再び視線を前に戻す。

 すると、不思議と姿が重なる。

 彼が未熟なように、『彼』もまた未熟なのだろう。

 彼女も最初はそうだった。

 これから、色々な失敗をしていく中で、積み重ねた経験が自らを成長させていく。

 それは、人間である彼女たちも、そして目の前の化け物も同じなのだ。




「・・・もっとも、お前に次は無いがな!」




「グルオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」




 巨龍はデュランに向かって走り出す。

 小島をあっさりと踏破し、水中に足を踏み入れる。

 水の抵抗など、関係無いかのように加速し、彼我の距離はどんどん縮まっていった。

 

「・・・しょうがない」


 デュランは、そんな『彼』の愚かさに、最大限の敬意を払うことにした・・・。




 ブォン!!!




 それは2筋の閃光だった。

 彼女は、自らの両手に、それぞれ現れた光の剣を握り、構える。

 その姿勢は、先程、光弾を受けた時の様な、守備一辺倒のものではない。

 両切っ先を・・・そして両足を前に向けた構えは、目の前の敵を『刈る』という気持ちの表れに見えた。

 



「・・・いくぞ」




 龍の方からやってくるのだ。

 だから、こちらは待てば良い・・・とは彼女は思わなかった。

 デュランにとって敬意とは、相手を待って、カウンターを仕掛けるものでは無い。




 相手の力を、それ以上の力で叩き潰すことだ!




 巨龍は速かった。

 しかし、彼女の速度はそれを遙かに上回る。


「ウウッ?」


 そして『彼』がデュランの姿を見失った頃・・・

 彼女は『彼』の目前にいた!




「デリャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」




 ・・・二刀一閃




 巨龍は、合計4つの肉塊に変わり果てたのだった。



 

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