5-3
・・・未熟な人間が、皮算用していた、その頃。
そこから遙か先にそびえる、白亜の城で、1つの命が産声を上げた。
「・・・グルォ」
・・・といっても、『彼』は母の胎内から生まれ落ちたわけでも無ければ、卵から孵化したわけでも無い。
『彼』は無から現れる・・・というかたちで、この世に生を受けたのだ。
当然、名は無い。
だが、『彼』は自らの生きる目的を、誰に教えられるでもなく知っていた。
『彼』は周囲を見渡す。
自らは人が玉座と呼ぶ場所に収まっている。
そして、精巧な意匠が施された巨大な城の内部を観察し・・・気付いた。
「グルォ?」
出口が無いことに・・・。
『彼』が自身に課せられた役割を果たすには、ここを抜けだし、外に旅立たなければならない。
なのに、出口が無いとはこれ如何に・・・?
「・・・・・・・・・」
『彼』に備わった役割という名の本能は、その状況を解決する方法を見いだせないことに、次第に我慢できなくなっていった。
焦り、不安、苛立ち・・・そして怒り。
幼い『彼』は、それを抑制する方法など知らず、故に一刻も早い解決を求めた。
彼は、瞳を閉じ自身を探った。
自身は何者なのか・・・何が出来るのか・・・それをどう使えば、この危機から自らを救えるのか・・・。
そして、瞳を開いた『彼』は・・・
「ウウッ・・・」
と何かを胸に溜める様な仕草をすると、やがて・・・
「ウゴッ!」
という声と共に、口から火球を吐き出した。
城の天井に向かって吐き出されたソレは、予想外の威力で上空まで貫通する穴を拵える。 そして、『彼』は自身の作った出口を目指し、自らに生える、その小さな翼で飛び立ったのであった・・・。
・・・満月は『彼』を歓迎した。
「グルォ?グッ・・・グオオ!!!」
その時、月から放たれた一条の光は、一般的な人間でもハッキリと黙視出来るほどのものだった。
『彼』はその光の恩恵を一身に受ける。
すると・・・か弱さを備えていた身体は、みるみるうちに大きくなった。
どんどん・・・どんどん・・・大きくなる。
まるで際限をしらない自身の成長に対し、『彼』は一切動揺を見せなかった。
『彼』は知っていたのだ。
これも役割であることを・・・。
「・・・ウウウウウウゥッ」
やがて、月光が役割を終え、光線が消えると、そこには・・・
「ウオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」
自らの生まれた巨城・・・それを踏み潰さんばかりに大きくなった、巨龍がいた!
白亜の城から受け継いだと言われれば、信じてしまいそうな真っ白な身体は、月光を反射すると、さらに鮮やかな白を見せる。
「グルッ」
『彼』はふと、とある方向を向く。
そして、遠い彼方の、とある一点を睨み付けた。
そして、『彼』は・・・
「グルゥオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
と雄叫びを上げると、そちらの方向に飛び立つべく翼をはためかせた。
その風圧は、それだけで周囲の地形を変貌させる。
何食わぬ顔をして生えていただけの草木なぞ、その翼の一振りで、根こそぎ飛んでいってしまった。
親はいない・・・、つまり教わることは出来ない。
しかし、生後間もない巨龍はというと、まるで、何度も繰り返してきたかの様なスムーズな動作で空に舞い上がる。
そして、これまた凄い速度でもって、目的の場所に旅立っていった。
『彼』の目的・・・それは、愚か者の排除だった。




