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史上最強の初恋  作者: えみお


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5-2

 どうにか辿り着いたその場所は、例えるならば砂漠に咲く一輪の花を連想させる。

 件の湖面は、月から放たれる煌煌とした光を余すことなく受け止めると、それを青い光線に変えて、周囲に放出している。

 それが原因なのか・・・トールには湖の周囲に群生する、名も知らない草花達も、生命力に溢れているように見えた。

 

「つ、着いた・・・」


 湖面を目前にした彼は、そう言うと、辺りを気にせず腰を下ろす。

 本来なら、こんな時こそ警戒心を解いてはいけないのだが、気が遠くなるほどの距離を、神経をすり減らしながら歩いてきた彼には、最早、それを行うだけの余力は残っていなかった。

 トールは長靴を脱ぎ裸足になると、湖に浸す。


「はぁあ・・・気持ちいい・・・」


 思わず声が出る。

 この湖特有のモノなのかは不明だが、まるで浸した足の先から、疲労が抜けていくようだ。 

「もしかしたら、これは月の力なのかも知れないな・・・」


 勿論、現実世界の月にそういった効能は無い。

 しかし、ここはダンジョン・・・現実のルールが一切当てにならないこの場所に、常識を持ち込む方が野暮というものだ。

 ここに住む全ての生き物たちが、この月光を求めて駆け回る。

 ・・・なら、この光には、彼等にとって必要不可欠な栄養のようなものが含まれているのかも知れない。

 だとすると、それを十分に受けたこの湖の水に、何か特殊な恩恵が付与されていても、おかしくはないのでは・・・?

 トールはそこまで考えるも、それ以上の思考は放棄し、疲れた身体を休めることに注力した。


「理由なんてどうでもいい。肝心なのは『この水には身体を癒やす効果がある』っことだ」

 

 今の自身にとって、大切なのは、この水で疲労がとれていく・・・と言う事実のみ。

 ならば、真に解明出来るわけもない、ダンジョンの秘密について考えるだけ時間の無駄だ。

 そういったことは、もっと強くて賢い、真の冒険者達に任すもの・・・。

 自分のような迷える子羊に、そんな余裕は無いのだ。


「・・・・・・・・・」


 ・・・さて。

 では、どうやったら、その恩恵をより効率よく享受できるか・・・彼は考え始める。

 というより、考えるまでも無く答えは出ているのだが・・・。


「でも、流石にマズいよなぁ・・・」


 いくら、それが合理的な解だからといって、いざ決行するとなると、彼の中にある倫理観が邪魔をする。




「ダンジョンで・・・全裸はマズいよなぁ・・・」




 足先だけでこれだけの効果を得られた。

 なら、全身なら・・・っ!

 そう考える彼の思考は、単純極まりない・・・が、間違ってもいない。

 しかし、それは余りに無防備だった。

 ・・・色々な意味で。


「なら、帯剣はするか・・・?何なら、革鎧も着るか・・・?」


 トールは苦肉の第2案を出し、それを実践した場合の自らの姿を想像する。

 全裸の自分が・・・革鎧とベルトだけを装備し、剣を佩いている姿を・・・。

 

「・・・・・・・・・」


 何というか・・・キツいモノがあった。

 もし、そんな姿を誰かに見られでもすれば、その時受けるであろう羞恥の記憶は、自らの墓場まで持って行かなければならないだろう。

 特殊な環境で生まれ、今、重大な使命を帯びている彼も、思春期真っ盛りの1人の少年に過ぎない。

 この非常時に、何を馬鹿げたことを考えているんだ!・・・と、思われるかもしれない。

 しかし、彼はこの些末な問題に対し、本当に真剣に取り組んでいたのだ!


「効率の良い回復のためにリスクを冒すか・・・それとも、倫理やモンスターとの遭遇を優先して、足先だけで我慢するか・・・」


 トールは考えた。

 考え・・・考え・・・考えた・・・。

 そして、結論は出た!




 ババッ!




 彼はあっという間に生まれたままの姿になる。

 そして・・・


「トウッ!」


 という、かけ声を発すると、勢いよく湖の中に飛び込んだ!

 鎧も、帯剣もせず・・・完全な全裸。

 思考に思考を重ねた結果・・・彼は、完全に無防備な状態での回復を選んだのだった!


 ザバンッ!!!

 

 大きな水しぶきを上げての入水。

 ・・・そういう不用意な行いこそ、本来なら慎むべきものなのだが、一刻も早くこの疲労から解放されたい!・・・という思いが反映してしまったようだ。

 トール=ハワード・・・彼は決して馬鹿では無い。

 しかし、若く未熟な1人の少年ではあった。


「きっ、気持ちいい!!!」


 リスクを冒した甲斐もあって、トールには、自らの身体から、疲れがみるみるうちに溶け出していくのが実感出来た。

 彼は湖で仰向けになる。

 淡水の筈なのに、不思議と浮力の大きな湖水は、トールの身体を優しく浮かせた。

 彼の視界に映るのは、ひたすらに大きい月が1つで、他の星は見えない。

 それが、月光の明るさに、星達の輝きが負けているが故なのか、それとも、そもそも他の星など存在しないのか・・・トールには判断が付かなかった。


「不思議だなぁ・・・ダンジョンって」


 彼は新米冒険者だ。

 その為、まだ数えるほどしかダンジョンに潜ったことがなく、また、そのダンジョンも、初心者が安全に経験を積めるよう、ギルド側が手配してくれたものに限られる。

 事前に講習を受け、その場所の特徴や、出現するモンスターの情報を頭にたたき込んでから入るダンジョンでの訓練や、簡単なクエストは、安心安全ではあるが、やはり『冒険』という感じはしなかった。

 だが、今回は違う。

 殆ど未知の場所に命知らずにも飛び込んで、手探りで知識を得ていく今回は、本当に『冒険』をしている!と胸を張って言えるものだった。


「僕は・・・冒険者になったんだなぁ・・・」


 そう、今更ながらに思うトール。

 ・・・元々彼にとって冒険者業は、少しでも金銭を稼ぐべく始めた『仕事』であり、そこに個人的な思い入れなど一切無かった。

 先人が幾度も利用したダンジョンに足を運び、快適にクエストをこなして、そこそこの報酬を得る行為には、『みんなのいえ』で彼の帰りを待ってくれている者達に、良い思いをさせてやれるという喜び以外のものは、特に無かった。

 しかし、今、トールに宿ったこの気持ちは、純粋な『冒険』に対する『魅力』そのものだった。

 

「これからも、知らない場所に行って、見たことの無い景色を見てみたい・・・!」


 上空に浮かぶ満月を見ながら、彼は1人希望を語る。

 その思いを叶えるには、まず、この現状を突破しなければ・・・!

 トールはそう思うと、視線を上空から四方に巡らせる。

 この湖の近辺に、きっと『月下草』はある!という直感を正しいものにするべく、彼は目を凝らした。

 すると・・・


「うん?あれは、小島・・・?」


 よく見ると、湖の上に浮かぶように、小さな浮島があることに気がついた。

 そして、さらに注意深くその島を見ると、その表面がぼんやりと青白く輝いていた。


「あ、あれは・・・!」


 トールは記憶を掘り起こす。


「確か、『月下草』は月光の下青白く輝くって話だった筈・・・じゃあアレが!」


 彼は偶然にも、目的の物を眼中に納めたのだった。

 幸いにも今は全裸。

 故に、泳ぐには最適の格好である。


「よし!このまま泳いでっ!」


 トールは拙いながらも水をかき、目的の小島に向かって前進を始める。

 今の彼の頭には、『月下草』を片手に、『みんなのいえ』に帰る場面が想像されていた。

 心配から解放され喜び半分、安堵半分で涙ながらに抱きしめてくれる母の顔。

 それに対し、彼の帰還を一切疑うことの無い子供達の、いつもの出迎え。

 自らの帰りを待っていてくれる者達の元へ、五体満足で帰る姿が、トールの脳内に、まるで確定した未来のように出現していた。


「やった!やったぞ!」


 泳ぎ慣れない彼は、終始水を口に含んでいたが、そんな状態でも、終始喜びの声を発することは止めなかった。

 それほど嬉しかったのだ。




「やった!やった!やったあーーー!!!」




 



 ・・・しかし、彼は喜びの余り失念していた。

『冒険』とは、最後まで何が起こるか分からないものだということを・・・。

 そして、それを忘れた者が払うことになるツケは大抵、望まない形で返さなければならないということを・・・。

 


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