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史上最強の初恋  作者: えみお


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20/34

5-1

 ・・・ダンジョン『闇の城』内は、常に夜である。

 現実のモノよりも2回りは大きいのではないかと思われる月が、常に欠けること無く煌煌と、周囲を照らしているのだ。

 このダンジョンの興味深い特徴・・・それは月が沈むと、間髪を入れずに、その反対側から新たな月が昇ってくるところにある。

 そんな特殊な環境下に、薄い革鎧と、頼りない短剣だけを持ってやって来た少年・・・トール=ハワードは、このダンジョン内で、学んだ知恵を忘れないように、日頃から愛用しているメモ帳に書き付けていた。


「モンスターは月光を目指し移動する。そして、月光を浴びている間は一時的に強化される・・・と」


 今、彼がいるのは、強敵(トールの実力を鑑みれば、ここにいる全モンスターが該当する・・・)から身を隠しつつ、移動している最中に見つけた洞穴だった。

 月光を追い求める彼等の性質上、月明かりとは縁の無い、このような場所に来るはずがない・・・と考えたトールは、ここに身を隠しつつ、移動する好機を窺っていた。


「いつまでも、こんな所に隠れているわけにも行かないからな。早く『月下草』を見つけないと!」


 トールには焦りが見え始めていた。

 しかし、下手に洞穴から出て、モンスターとかち合えば、九分九厘、待っているのは死・・・。

 この洞穴を見つけた当初は、月が沈めば、モンスター達の行動も沈静化すると踏んでいた。 しかし、月が沈むと何故か新しい月が現れる、このダンジョンの特性を知った以上・・・待機は時間の無駄である。

 常日頃から、食べれそうな物は何でも口に入れる生活を余儀なくされているだけあり、食事に関しては、あまり心配することは無い。

 そこら辺に成っているものがあれば、とりあえず食べる・・・それでここ2、3日程は、どうにか生きてこれた。

 しかし・・・目的を達成することが出来ないのなら、自らの命を繋ぐことに、どれだけの意味があるというのか!


「待っててくれ!絶対、僕が皆を助けてみせるから!」


 母や子供達の表情を思いだし、勇気を補充したトールは、ようやく重い腰を上げる。

 彼は遂に、安全な洞穴を出ることにしたのだ。

 トールは周囲の気配を探る。

 といっても、駆け出し冒険者である彼に、その手の技術やスキルは無い。

 出来ることといったら、精々、耳をそばだたせながら、目視で安全を確認することくらいだ。

 

「・・・よし!大丈夫そうだぞ!」


 トールは、些か信憑性に欠ける判断を下すと、足音を鳴らさないように気を付けながら、ゆっくりと歩を進めた。

 木陰や岩肌に身を隠し、少しずつ少しずつ。

 正に牛歩の歩みでもって進む彼が目指す所・・・

 それは、先程の洞穴に隠れる前、ダンジョン内を当てもなく彷徨っている際に、偶然見かけた場所。

 月光の下・・・木々の生い茂る森の中にある湖だった。

 見つけた当初は、月の光を反射し、青く輝く湖の余りの美しさに、自らの危機的状況も忘れ、呆然としてしまった程である。

 結局、あの時は安全地帯の確保を優先したが、彼はそこにこそ、自らの探し求める物があるのでは?という直感を抱いたのだった。


「『月下草』と言うくらいだ。きっと月の光の恩恵をより強く受ける場所にある筈・・・。起伏が激しいこのダンジョン内で、あれほど開けた場所はそうないだろう。だから、行ってみる価値はある!」


 ・・・追記しておくと、トールがこのダンジョンについて知っていることは、彼がダンジョン内で知ったことが殆ど全てである。

 だから、彼の知識は、あくまで付け焼き刃であり、彼の見た事実だけを反映させたものだ。

 


 何が言いたいかというと、彼は『未知』に対して、余りにも脆弱だということだ。

 



 トール=ハワードは決して馬鹿ではない。

 王都に住む一般的な住人達と比べても、平均以上の教養を持ち合わせており、知識が自らの生きる助けになることを知っている彼は、子供達に学問の大切さを教える教師としての顔を持ち合わせる程には勉強家である。

 いつもの彼なら、未知のダンジョンに出向く際は、出来るだけの情報収集をするべく、ギルド内の資料を読みあさる。

 しかし、火急の事情があった為、今の彼には、その慎重さが些か欠けていた。

 そして、ダンジョンというのは、そういう愚か者に対し、容赦なく牙をむく・・・。




 そして、牙がむかれた、その時にする後悔ほど、この世で無駄なものは存在しないのであった




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