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史上最強の初恋  作者: えみお


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19/34

4-4

 ・・・つい先ほどまで、私の心の中は真っ暗だった。

 トールに対する想いを一刀両断され・・・何も言い返すことが出来ず、受け入れてしまった私。 

 自らという人間の狭量さに幻滅し、さらに、想い人を失うかも知れない非常事態に混乱する中で、私は自らの膝を着こう・・・としていた筈だった。




(「・・・なのに、何故、私は今、宙を舞っているのだろう?」)




 実際には、ほんの一瞬に過ぎない時間の間に、それだけのことを考えた私の身体は、ようやく地面に触れ・・・いや、叩き付けられたのだった。


「あっ、やり過ぎた!」


 私の頬にビンタを食らわし、床に叩き付けた当人・・・マリアもまた、自らの張り手の威力に驚き、そして、これを見ていたシャルルはというと、呆然・・・と言った表現が相応しい顔つきになっていた。

 きっと彼は、女性の暴力など見たことが無かったのではないだろうか?

 たとえ、見た経験があったとしても、自身マリアに比べ明らかに体格が優れている者(私)をビンタ1発で吹っ飛ばす・・・そんな光景を見せられれば、誰だろうが、こんな顔にならざるを得ないのかも知れないが・・・。


「デュ、デュラン?大丈夫?」


「あ、ああ。私は大丈夫だ。むしろ、お前の方こそ大丈夫か?」


「え?・・・ええ、私は大丈夫だけど・・・」


 ・・・私が自身の身を顧みず、真っ先にマリアの心配をしたのは、私のスキルによって、逆に彼女が怪我してしまった可能性を考慮したが故であった。

 私の身体には常時自身を強化するスキル『肉体活性』が掛けられている。

 このスキル自体はオンオフ可能なものなのだが、幼い頃から、いつなんどき襲われるか分からない状況下を生きていた私は、この能力を解除せずに、常時オンの状態で日常生活を送っていた。

 それによって強化された私の身体は、一般人の張り手程度はダメージを食らわないのは勿論のこと。

 それどころか、殴った相手は、その反動を、自らの拳に受けてしまうので、手首等を痛めかねない・・・。

 だから、私は咄嗟にマリアの手の具合を心配したのだが・・・彼女の手は元来丈夫なのか・・・問題は無さそうであった。


「・・・大丈夫そうだな」


 彼女の指の動き等を確認して、私はホッとする。


「だから、大丈夫って言ったじゃない」


「・・・だが、マリア、どうして私を殴ったんだ?」


「殴ったんじゃないわ。叩いたのよ!」


 そんな子供じみた言い訳を聞きたいわけじゃないのだが・・・

 と、思っていると、マリアは話し始める。


「何!アンタはもう諦めてるの!?トール君のこと!?彼には自分じゃ相応しくないって!?」


 ズキン。

 胸が痛む。

 そうして再び項垂れ、下を向く私。

 すると、そんな自分の肩を、マリアはそっと抱いてくれた。

 ああ、慰め、励まそうとしてくれているのか・・・。

 そんな風に思い、自らの心の弱さからか、彼女の胸に顔を埋めよう・・・と俯いた・・・その上から・・・




「何いってんの!そんなの今更でしょ!?」



 

「・・・・・・・・・」


 予想外の言葉が飛んできた。

 私は埋めようとしていた頭を、再び持ち上げる。

 友よ・・・そこは嘘でも励ましの言葉を掛けてくれるところでは・・・?


「マリア?ここは励ましてくれるところでは?」


「はぁ?励まし?いらないでしょ、そんなの」


「な、何故?」


「だって、アンタもう元気そうじゃない!」


「!」


「少なくとも、膝を折りかけてた時に比べれば雲泥の差よ!だから、さっきは精一杯励ましてあげたじゃない!」


「・・・それは、あの暴力のことを言っているのか?」


 あれは励ましと言っていいのだろうか?

 あの威力なら、並みの人間は首を痛めると思うのだが・・・。


「そうよ!現にあなたは元気になったじゃない!」


「元気・・・と言えるほどではないが・・・」


 まあ、確かにあの時の悲壮感は、今や私の中から綺麗さっぱり消え失せていた。

 不思議なものだ。

 現状は何1つ変わっていない。

 なのに、まるで道が開けたような気がする。

 何故だろう?


「・・・そうだな、訂正する。確かに私は元気になった。だが、何故だ?」


 そう言うと、マリアは、簡単なこと!・・・と言わんばかりに答えてくれた。




「それはね、アンタが過去じゃなくて、今を見ているからよ」




「・・・過去じゃなくて、今を?」


 一体どういう意味だ?


「そう!アンタ、さっきはずっと自分の過去のことばっかり思い返して、取り返しがつかないことを、ただひたすら悔いてたでしょ?」


「ああ、確かに・・・」


「でも、私のビンタで、アンタはそんなこと気にしてる余裕が無くなったのよ!」


「・・・?どういうことだ?」


「アンタには、ほんのちょっぴりしか効かなかったのかもしれないけど、それでも、少しは痛みを感じたでしょ?」


 うーん、そう言われてみると、強化された肉体にも、ジンジンとした痛みが芽生えていることに気付く。

 

「まあ、たしかにホンノリと痛みのようなものがあるような・・・無いような」


「あるのよ!そしたら、アンタの身体は『今』のこの痛みに対処せざるをえなくなる。だから、過去のことを放り出せたのよ!」


 要は、過去のことを考えることが出来るほど『暇』な状態では無くなったことが、結果的に頭をスッキリさせたということか・・・。


「・・・なるほど。凄いなお前は」


 私は素直に賛辞を送った。

 つまり、私が膝を着こうとする僅かな時間で、彼女はそこまで考えて、私に一発かましたということだ・・・。

 もし、そうだとするなら、私はこの友人の評価を大いに改めなければならな・・・


「ふぅ・・・まあ結果オーライよね!」


 ・・・どうやら、評価は、元の位置でよさそうだ。


「な、なによ!?なんか今、凄く失礼なこと考えなかった!?」


「いや、別に」


「嘘だ!絶対に嘘だ!言いなさい!何考えてたの、一体!?」


 そうだな、今考えていることか・・・。

 うーん。

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・




 ありがとう。

 お前に会えて本当に良かった。




「それはまた、今度な」


「な、なんでここではぐらかすの?ホントに何考えてたの!?」


「いや、今はそれより大事なことがあるだろ。私はトールを助けに行かないと!」


 マリアは、まだ文句を言い足りなさそうにしていたが、本題に話が戻ると、流石にこの事態の解決が最優先だと判断してくれようで・・・。


「なら、話は後!早くダンジョンに向かいなさい!」


 彼女はそう、私の背中を押してくれた。


「ああ、行ってくる!」


 それに私は、いつも通りこう答える。

 そして、目的地に向けて足を進め・・・




「そうさせると思っているのかい?」




 ようとしたところで、私はここにもう1人に声を掛けられる。


「・・・なんだ、いたのか?」


「なんで、いなくなっていると思っているんだ!?」


 いや、だってあれだけ存在感を希薄にさせてたら、とっくに退散したと思われても仕方ないと思うが・・・。

 しかし、自らの存在を無碍に扱われたと感じたシャルルの方はというと・・・。


「・・・っ!馬鹿にしやがって!おいっ!入ってこい!」


 その、舐めきった私の態度が余程お気に召さなかったのか、彼は、次の手を打つことにしたようだ。

 シャルルが外に向かって一声発する。

 すると、ギルドに来た時は全く見かけなかった甲冑姿の兵達が、次から次へと現れたのだ。 その数・・・ざっと20余名。 


(「一体何処に隠していたんだろうか・・・」)


 祭りの期間中は大小ある全ての道が人で埋め尽くされ、それこそ、ネコの子1匹入る隙間も無いほどだ。

 そんな状況下で、何処にこれだけの兵を待機させていたのだろうか・・・そのことについて考えていた自分の姿を見たシャルルは何を誤解したか・・・


「ハハッ!驚きのあまり声も出ないかい、デュラン!?」


 ビビっていると勘違いしたようだ。


「・・・驚いてはいる。が、声をあげる必要性は感じないな」


「ホザケッ!幾ら最強の冒険者とて、この人数を相手に、足手まといを抱えながら勝つことなど出来るはずが無い!」


 そのシャルルの物言いに、私はカチンときた。

 確かに、マリアに大した戦闘能力は見込めない。

 だが、間違っても・・・彼女は足手まといじゃない!

 私はヤツの言い分を訂正するついでに、挑発し返してやった。


「足手まとい・・・?マリアは友達だ!断じて足手まといじゃない!大体、それを言うなら、彼等だって同じだろう?ここにいる騎士共も、お前というお荷物を守りながら戦わなければならないんだからな!」


「なっ!俺が・・・お荷物・・・だと!?」


「そうだろう!婦女子1人捕らえる為に、大の男が、自分1人じゃどうにもならないと、大勢の重装備の兵隊に助けを請うている・・・この状況で、お前がお荷物じゃ無いと、どうして言えるんだ?」


「い、言わせておけば・・・!デュラン、お前が婦女子の枠に入るわけがないだろう!」


「・・・曲がりなりにも、交際を申し込んできたのはお前だ、シャルル!その相手を女扱いしないどころか、数にモノを言わせて力ずくでモノにしようとする所業・・・情けないと思わないか!」


「ええい、うるさい!所詮、孕み袋の分際で!言ったはずだ!俺は欲しいものはどんな手を使っても手に入れるとな!」


 フン、やはりお前もその類いの奴らか。


「・・・なら、手加減する必要は無いな」


 ・・・私はそう言うと、息を大きく吸い込む。

 すると、私の、その動作を隙だと見たシャルルは、兵達に大声で指示した!


「行けっ!ヤツを捕らえろっ!横にいる受付嬢の女は後でお前らの好きにしていい!」


 シャルルがそう言った瞬間・・・兵のうちの何人かが、私の後ろにいるマリアに視線を向けるのを感じた。

 男が女に向ける・・・ネットリとした下卑た視線を・・・!

 私の堪忍袋の緒が切れる。

 もう・・・容赦はしない!




(「叫声ハウル!!!」)




 私は、胸いっぱいに吸い込んだ空気に、自らの怒りを乗せて吐き出す。

 それは、おおよそ人間が、日頃、発する声とは似ても似つかないもので・・・

 あえて例えるのなら、コウモリが出す超音波を、より激しくしたもの・・・に近い。

 甲高い・・・何処か金属をこすり合わせたような不快な音が、ギルド全体に響き渡る。

 そして、それを真正面から聞いた兵達は、その場で突っ伏したきり、動けなくなっていた。




「な、なんだコレはぁ!!!」




 唯一、敵方でピンピンしているのは、お荷物・・・こと、シャルルただ独りだ。

 彼は咄嗟に耳を両手で塞ぎ、難を逃れた・・・とでも思っているのかもしれないが、実際は私が効果領域を制御していたのだ。

 だから、彼が特別丈夫なわけでも無ければ、兵達が特別弱いわけでも無い。

 しかし、シャルルにはそれが理解できなかったようで、目の前で動かなくなっている兵達の姿を見て・・・


「おい?どうした、早く戦えっ!」


 と必死になって指示を出している。


「無駄だ。私の『叫声』をまともに受けたんだ。しばらく起き上がることはないだろう」


 これは本来、モンスターに対して行うものだ。

 それを、生身の人間が急に受けたのだから、ひとたまりもない。

 おそらく2、3日はこのままだろう・・・。


「そ・・・そんな」


 それを知ったシャルルの表情は、ギルド内に兵を招き入れた時と打って変わり、悲壮なものになっていた。


「さあ、残るはお前1人だ。どうする?私と戦うか?」


 彼にとっては正に絶体絶命の状況・・・

 私としては、こんな時こそ、貴族様の大好きなプライドの出番だと思うのだが・・・


「う、うわぁーーー!!!」


 シャルルは、それこそ、まるで婦女子の様な叫び声を上げると、仮にも自らの為に戦おうとしていた兵達を見捨てて、一目散に扉の向こうへ去って行った。

 これで、一件落着・・・と言いたいところだが、本命の案件が残っている・・・。


「マリア」


「な、何?」


「今度こそ私は行くよ。悪いが、ここにのさばっている奴らの処理を頼む。さっきシャルルにも言ったが、しばらくは起き上がることはないから、その間に警吏を呼ぶなりして拘束しておいてくれ。もし、必要なら私の名前を使ってくれて構わない」


 私はそれだけ言うと、今度こそギルドを出ようとする。


「デュラン!」


 すると、背後から、投げかけられる声・・・。


「・・・気をつけてね」


「・・・珍しいな。私を心配してくれるのか?」


 いつもなら、「どうせ、帰ってくるでしょ」と言わんばかりに、おざなりな言葉しか掛けてくれないのに・・・。


「今日は、いつもと違うでしょ・・・。本当に気をつけてね。あの貴族・・・まだ何か仕掛けているかもしれないし・・・」


「そうだろうな」


 彼女の進言を、私は素直に肯定した。

 きっと、道中、もしくはダンジョン内には、まだ、なにがしかの策が張り巡らされているに違いない。

 しかし、だからといって、行かないと言う選択肢は存在せず、また、時間も無いのだから、対策のしようも無い。

 せいぜい、常に周囲の警戒を怠らないよう、目を配るのみだ。


「お前こそ、私が王都を離れている間は注意しろよ。シャルルがお前にちょっかい掛けてくるかもしれないからな。警吏の人間に、事の次第を話して匿ってもらえよ!」


 私はそれだけ言うと、いよいよギルドを出た。

 準備万端とは言い難い状況ではあるが、いかんせん時間が惜しい。


(「・・・最悪の場合には、アレを使うしかない!」)


 ・・・と、私は、自らが絶対に人目の着くところでは使用しないと決めていた、とあるスキルの使用を検討していた。

 しかし、アレは、色々な意味で他者がいるところで使って良い代物ではない。

 ましてや、自らの思い人の前で、アレを使用している時の顔は絶対に見られたくない!


(「何か良い方法はないか・・・?」)


 祭も盛りを過ぎたのか、幾らか人通りが少なくなった街中を、出来る限りの早さで移動しながら、その解決方法を模索していた私の横を屋台が通り過ぎていく・・・。

 いや、勿論、屋台が自ら動くわけもなく、自らの移動に合わせ、相対的に移動しているように見えているだけなのだが・・・そんな屋台の一角に、私はその答えを見つけたのだった。




「こっ、これだぁ!!!」




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