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私・・・デュランが王都を留守にしていたのはたったの数日だったように思う。
しかし、その数日の間に、王都の様相はとんでもない変化を遂げていた。
色とりどりの飾り付けが施され、どこからともなく陽気な音楽が流れる街中には、老若男女がひしめき合い、飲めや歌えの大騒ぎ・・・。
「はて?今日は何の祭りだったかな?」
王都はとかく、祭りが多い。
春夏秋冬、季節が巡れば、その都度何かを祝っている・・・私にはそんな風に思えるし、事実そうなのだろう。
・・・噂によると、世の中には祭りの売り上げだけを頼みとして生きている者も少なくないらしい。
最初、それを聞き知ったときは何かの冗談だろう・・・と思ったのだが、いざ、祭の中を練り歩き、通りを行き交う人の数の多さと、それをどうにかして釣り上げようとする屋台の多さを見知った今となっては、そういう商売の仕方も可能なのだろうと思えてくる。
生き方も商売も・・・その形は十人十色だ。
「にしても、これだけ人が多いとギルドまで行くにも一苦労だ」
今、自らの周囲にいるのが、全部『ゴブリン』であれば、切り進んでいけばよい。
そんな思考が一瞬頭の中をよぎる。
が、当然、人間相手にそんな手段がとれる訳もなく・・・
ダンジョンでどれだけの活躍が出来ようが、回りを烏合の衆で囲まれた、この状況で出来ることは、それこそ、目の前で奇妙なお面を被りながら、くし焼きを頬張る男の子と同じ・・・
「何時になったらたどり着くのやら・・・」
・・・1歩1歩、緩やかに歩を進める以外無いのだった。
ギルド前も人の数は変わらないが、中に入ろうとする人間は皆無に見えた。
(「そりゃそうか、こんな時に羽目を外してこそ冒険者だものな」)
きっと、今頃、ギルド内をたむろしている彼らの多くも、このざわめきの一部となっているのだろう・・・。
そう思いながら、私はギルドの扉を開けた。
すると・・・
「デュラン!!!」
受付から大声を張り上げ、こちらに向かってくる者がいる。
マリアだった。
なんだか妙に切羽詰まっているように見えるが、気のせいだろうか?
「マリア、今帰った。早速、依頼達成の報告をしたいんだが・・・」
「そんな場合じゃないの!」
「・・・?それは一体どういう・・・」
マリアは次の言葉を紡ぐ前に、1度、周りを見回し、人がいないことを改めて確認してから私に話し始めた。
「デュラン、落ち着いて聞いて。今から3日前、トール君がダンジョンに向かったの」
「・・・?」
最初、それだけ聞かされても、彼も冒険者なのだから当然だろう・・・と思っていた。
が、しかし・・・
「目的のダンジョンはLEVEL50『闇の城』。彼はそこに1人で向かったの!」
「・・・・・・・・・えっ?」
マリアの言葉の意味・・・
そして彼女が、やたらと取り乱している理由・・・
それを知った私に出来たことは、言葉にならない声を発することだけだった。
LEVEL50『闇の城』・・・。
かつてそこに巣くっていたモンスター・・・『ドラゴン』との闘いはもう8年近く前のことだが、ヤツとの死闘やそれに関係する出来事は、まるで昨日のことのように思い出せる。
ヤツの首を引きずり、ギルドに帰ってきたあの時・・・私は、さも余裕で倒したかのように振る舞った。
・・・が、実際はというと、激戦の上での辛勝だったのだ。
若かりし頃のマリアから『ドラゴン』の情報を聞き出そうとした結果、とある偶然からヤツの居場所をつかむことが出来た私は、すぐさま帰宅すると、ボロ宿に貯め込んでおいた、なけなしの金を握りしめて市場を奔走。
ありったけの回復ポーションを買いあさり、袋一杯のソレを持って、ダンジョンに向かったのだ。
その結果、運も味方し勝つことが出来たが、あれは普通の人間が単体で相手にするべきモンスターではない・・・と今でも思う。
「そんなところに・・・1人で?」
冗談だろう?
「ごめんなさい!本当は止めなきゃいけなかった!でも、私がギルドに来たときには、もう、彼はクエストを受注して出発した後だったの!」
「クエスト!?今の彼にあんな場所に行くような依頼が受注出来るわけ・・・」
ないだろう!・・・と続けようとした、その時・・・
「そこからは、俺が説明しよう」
「「・・・っ!」」
外に続く扉の向こうから聞こえた声。
私たち2人は咄嗟に振り返る。
すると、そこにいたのは・・・
「ッ!?シャルル、どうしてお前がここにいる!?」
あの金髪貴族・・・シャルル=シルバ=ルルーシュだった。
ヤツがここに姿を現すとは、全く予想していなかった。
というのも、彼等、貴族にとって、卑しい冒険者の集まるギルドという場所は、頼まれたとしても近づきたくない場所なのだ。
その貴族であるヤツが、このタイミングでやって来る。
・・・それが意味することはただ1つだ。
この件には、シャルルが絡んでいるということだ。
「そうか・・・張っていたんだな」
「うーん、半分正解半分外れかな?正解は下僕に張らせていた、でした!」
張られていた側である私たちからすれば、どちらも同じようなものだが、彼にとっては重要なことなのだろう。
誇り高い貴族様が日夜ギルドを見張る・・・なんて泥臭い行為をやっていたなんて思われたくないのかもしれない。
しかし、強いモンスターの隙や弱点を探る為に、あらゆる場所でそれを行ってきた私の様な冒険者からすれば、その価値観は全く理解できないものだ。
(「つくづく、コイツとは縁が無い・・・」)
そう思いつつ、私はコイツに話の続きを促す。
「で、このタイミングで出てきたということは、トールが分不相応なクエストに出かける羽目になったのも貴様のせい・・・というわけだ」
「確かにそうとも言える。だけどね、コレはトールも望んだことなんだよ」
「はぁ!?何を言っているんだ?そんなわけないだろう?」
と私が言うと、シャルルはなんとも滑稽なモノを見たかのように天を見上げ笑い始めた。
「ハハッ!本当に分からないのかい!?それでよく彼を想っているなんて言えたものだな、デュラン!」
どうやら、コイツには私の気持ちが知られているようだ。
・・・私のトールに対する想いは、現状マリアにしか伝えておらず、彼女がコイツに告げ口するなんてことはあり得ない。
とすると、おそらく、相当前から私の周辺を嗅ぎ回っていたのだろう。
そして、私の想いを知ったコイツは、自らの目的を果たすために、彼を利用したのだ!
「私はお前のことをいけ好かないヤツだと思っていたが、まさかここまでするとは・・・。覚悟は出来ているんだろうな?」
私はいよいよ腰の剣に手を掛ける。
しかし、当のシャルルは至って冷静に・・・
「まあまあ。俺を切るのは話を最後まで聞いてからでも遅くないだろう?」
「なんだ?辞世の言葉でも残したいとでも言うのか?」
コイツにそんな殊勝な面が存在するとは思わんが・・・。
「違うよぉ。俺が言いたいのは、何でトールがこんなクエストを受けたのか・・・いや、受けざるをえなかったのかってことさ」
「受けざるを・・・えなかった?」
妙な物の言い方をする。
しかし、そういえば先ほどもシャルルは「トール少年が望んだこと」などと言っていた。
「まさか・・・本当に?本当にトールは自ら望んでこのクエストを受けたというのか!?何故!?」
功名心から?
それとも無知故の無謀か?
私は思いつく限りの理由を考えるが、どうもしっくりこない。
そして、私が思考している間、沈黙していたシャルルは、しばらく経ってようやく口を開いた。
「分からないだろう。デュラン、それこそが君が彼と恋愛する資格が無い証拠なんだよ」
「・・・っ!どういう意味だ!?」
トールの無謀の意味が分からないことが、トールを想ってはならない理由だと?
私はシャルルの言葉の続きを待つ・・・がそこで、マリアが声を上げた。
「デュラン!そのことは私から話すわ!奥に行きましょう!」
「・・・?何故だ?」
「それは・・・」
・・・後から思えば、この時の提案は私に対する善意だったのだ。
おそらく、マリアはこの時、既に気付いていたのだろう。
何故、シャルルは、デュランに殺されるかも知れないリスクを負ってまで、わざわざギルドに来たのかを・・・。
その目的に一足先に気付いた彼女は、私を庇おうとしてくれていたのだ。
しかし、この時の私はそれに気付くことが出来なかった。
いや、仮にマリアの真意を知ることが出来たとしても、私は彼女の誘いを断っていただろうが・・・。
「ハハッ!美しきかな、女の友情。デュラン、いいんだよ。彼女の提案に乗っても」
「結構だ。さっさと話せ。トールが1人で無茶な行いをした・・・その理由とやらは一体何だ!?」
・・・やはり、これも後から思えば、きっと罠だったのだ。
情けを掛ける素振りをすれば、きっと私をこの場に引き留めておける。
そう考えたシャルルの術中に、私はまんまと嵌まってしまったのだ。
冒険者としては1流を気取ってはいても、奸智の部分において、貴族を舐めたこと・・・それがこの場での敗因の理由だった。
そうして、逃げられなくなった獲物を、シャルルは仕留めに掛かったのだった。
ゆっくりと・・・言葉という毒を流し込むことで・・・。
「教えてあげるよ。今の貧民街の惨状を・・・。そして、彼、トール君の現状を・・・」




