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史上最強の初恋  作者: えみお


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16/34

4-1

「アンタも大変ね・・・わざわざご指名での依頼なんて」


 私・・・受付嬢マリアはそう言って、デュランをねぎらった。

 今は勤務時間であり、業務の真っ最中なわけだが、その相手が友人であり、また、館内の個室を使用していることから、その口調も砕けたものになっていた。

 

「まあ、仕方ないと思うしかないな。だが、報酬は悪くない」


「こらっ!アンタ、またお金に執着して!」


 私は、デュランのとある秘密を知って以降・・・彼女がお金に対するこだわりを見せたときに、それを諫めるようになった。

 私は彼女の事情を知った。

 そして、その気持ちに共感できないわけでもない・・・。

 しかし、だからこそ、理由を知っている私くらいは、それに気を配り、注意してあげてもいいのではないかと思ったのだ。。

 だって、彼女に足りないのは『幸せ』であって、『お金』では無いのだから・・・。


「・・・っ!だ、だがな、お金の払いとは、即ち相手がどれだけ自分の働きに対して報いたいかという気持ちの現れでもあるわけだっ・・・だから、その額が大きくて嬉しいのは、何らおかしなことでは・・・」


「だまらっしゃい!」


 私の説教じみた発言を、デュランが邪険にせず、それどころか弁明する素振りを見せるのは、そんな私の気持ちが彼女の心に届いているからだと思う。

 しかし、そんな私の拙い注意程度では、彼女の奥底にある、金に対する強い拘りは、なかなか消えてはくれないようだった。


「とにかく、あなた個人に対して依頼があったのは事実だし、どうやら急を要する様だから、チャッチャと行って片付けてきなさい」


「・・・そんな簡単な相手ではないのだがな。『サンダードラゴン』は」


「そんなこと言って、どうせ簡単に片付けてくるんでしょ」


「・・・今度、一度で良いから、お前をダンジョンに連れていってみたいよ・・・。そうすれば、きっと、そんな軽口叩けなくなるはずだからな」


「ヘヘーン。私は絶対に行きませーん!一生ここで受付嬢として生きるんですー!」


「・・・夢の無い人生だな」


「アンタは今、全てのギルド職員に喧嘩を売ったぞ!」


 冗談を交えた歓談は程々に・・・デュランは荷物を抱えると


「じゃあ、行ってくる」


 と、まるで、職場に向かう夫が愛する妻に対するように、さり気なくそれだけ言って、ギルドを後にした。

 

「じゃあ、行ってくる(キリッ)だってさ・・・」


 ホント、あの手の仕草が絵になる女だな。

 私はそう思うと、直ぐさま先ほどの個室に戻り、資料等を片付ける。

 彼女曰く、夢の無い業務は、まだまだ残っているのだ。

 

「夢は無かろうと、意義はあるわよっ!」


 私はそれだけ吐き捨てると、以後は粛々と片付けを進め、それ以降は理想のギルド職員といっても過言では無い態度で職務に励むのだった。






 

 そして翌日・・・ギルドに入ったもう1つの依頼クエストが、事件の発端となった。







「えっ!駆け出し冒険者にクエストの依頼!?」

 

 早朝・・・ギルドに出勤した私の耳に飛び込んできたのは、そんなあり得ない話だった。

『駆け出し冒険者』とは、その名の通り、一般人に毛が生えた程度の冒険者であり、その実力はというと、こういってはなんだが高が知れている。

 本来、特定の冒険者にクエストを依頼しようとする者は、より早く、より確実な任務の達成を求める。

 その為、依頼される冒険者の格は、大抵が上級・・・低くても中級が殆どで、初級冒険者が選ばれることはまず無いと言っても良い。

 しかし、その下・・・駆け出し冒険者に、指名が入るなどということは本来あり得ず、また、彼らの安全面の観点からも、あってはならないはずなのである。

 何が起ころうと自己責任・・・それは冒険者として当然の心構えであるが、それを駆け出しの人間にまで求れば、それが結果的に冒険者の減衰に繋がり、冒険者業の衰退の引き金を引くことになる。

 ・・・それで困ることになるのは、私たちの方なのだ。


「この依頼、取り下げることは出来なかったんでしょうか!?」


 私は、何時ぞやの先輩職員、ラーセルにその旨を問うた。

 デュランがドラゴンの首を引っ提げてギルドを訪れたときに比べて、幾分腹の大きくなった彼も、今やこのギルドに務める職員を束ねる立場にある。

 普段は温厚で4人の子を持つ良き夫であるラーセルは、真面目な働きぶりから、部下の信用も厚い。

 その彼がこんな無茶なクエストを黙って見過ごすとは、到底思えなかった。


「私も、勿論反対はした。だがそもそも私の下に来た時点で、このクエストは既にギルドの

認可が通った状態だった」


「えっ?じゃあ職員の誰かが、この依頼内容にOKを出してしまったということなんでしょうか?」


 その問いに、彼は声を細めて答える。


「・・・いや、おそらくこれには上の意向が絡んでいる」


「上・・・?」


「ギルドを実質仕切っている貴族達さ」


「貴族?彼等がなんで・・・?」


「わからん、お前は心当たりは無いか?」


「そうですね・・・」


 と、そこにきてようやく、私は詳細な内容を把握していなかったことに思い至り、上司ラーセルが持っていた資料を拝借して、文面を読み込んだ。

 そして、肝心の駆け出し冒険者の名前を見て・・・私は驚愕することになる。




 依頼冒険者・・・トール=ハワード

 依頼内容・・・LEVEL50ダンジョン、『闇の城』にて『月下草』の採取。




「・・・・・・・・・」


 トール君だ。

 トール君にあの『闇の城』に行ってこい・・・という依頼だ。

『闇の城』・・・その名で思い出される記憶。

 それは、まさに彼女との出会いの場面だ。

『ドラゴン』が初めて、冒険者達の目の前に現れた・・・その場所こそ『闇の城』であった。

 あの時は、そこらにいた冒険者を片っ端からかき集めたにも関わらず、誰もヤツに挑もうとする者はいなかった。

 ・・・この資料に書いてあるのは、そんな化け物が潜む可能性のある場所に、駆け出し冒険者を向かわせることを、ギルドが承認したという事実だった。

 私は・・・激怒した!


「撤回してくださいっ!今すぐに!」


「お、落ち着いてくれっ、マリア君っ!」


「なら、撤回してくださいっ!」


 私は立場も一切わきまえず、ギルドの長であるラーセルの胸ぐらを掴み、抗議した!

 だって、こんな依頼・・・出来る訳が無い・・・生きて帰れる訳が無い!

 もし、そんなことになったら・・・




 私は・・・デュランに合わせる顔が無い・・・。




 別の依頼から帰還して、ヘトヘトに疲れ切った彼女がそれを知れば、どうなるだろう・・・。 暴れ出すだろうか・・・放心するだろうか・・・。

 でも、どのような行動を取るにしても・・・きっと彼女は泣くだろう。

 そして、彼女は幸せから大きく遠ざかることになる。

 それが決して届かない場所まで・・・。


「何とか・・・ならないんですか・・・」


 胸ぐらを掴まれ、揺さぶられたラーセル。

 その胸の中で、泣きながら抗議する部下に対し、彼はさらなる事実を突きつける。




「冒険者、トール=ハワードは先ほど、この任務を受注し、ダンジョン『闇の城』向かった」




「・・・っ!!!」


 馬鹿だっ!

 みんなみんな馬鹿ばかりだ!

 こんな任務を駆け出し冒険者に依頼したヤツも!

 裏で糸を引いている貴族も!

 この事態を防ぐことが出来ないギルドも!

 だが、それに輪を掛けて、トール君は大馬鹿だ!!!


「どうして・・・トール君はこんな無茶な依頼を・・・!彼は拒否しなかったのですか?」


 いくら指名依頼だかといっても、その難易度が自分に見合わないことくらいは理解できていたはずだ。

 なのに、何故彼はこの依頼を受けたのか?

 すると、どうやらラーセルには心当たりがあるようで、声のボリュームを落として、話しを続けた。


「・・・彼が貧民街で子供達に教育を施していることは知っているかい?」


「・・・!どうしてそれを!?」


「私はギルドの長だ。そして、ここには貧民街出身の冒険者も出入りする。そんな人達の管理も生業とする者として、貧民街の現状を何も知らないでは済まされないだろう」


 なるほど、もっともな理由だ。


「・・・それで?」


「恐らくだが、今、貧民街は相当に酷い状況にあるはずだ」


「・・・?それは一体どういう意味でしょう?」


 最近、急に治安が悪くなったという話は聞かないが・・・。


「先日、酷い天候の時があっただろう」


「・・・。ああっ!」


 私は思い出した。

 あの日の雨風は強烈だった。

 おそらく、あの日はデュランは王城での会議に出席していたはず・・・。

 そして、私はというと、あのとんでもない豪雨の中を、それこそ死に物狂いで出勤していた。

 だが、そんな天気の日にわざわざ冒険しようという気違いは存在せず・・・。

 結局、受付嬢としての仕事は殆どないまま、日中に比べて、より一層強さを増した雨風の中を変えることなど出来なかった私は、ギルド内で雑魚寝することになったのだった。

 私の回想を余所に、ラーセルの話は続く。


「あの日の後、私は業務の合間を縫って、一度貧民街を訪れたんだよ。・・・酷い有様だった」


「・・・!」


 そうだ・・・。

 貧民街はこことは違う。

 廃墟同然で、人の手なんて禄に入っていない建物が、あの天候に耐えられるわけがない。

 勿論、手作りの家ごとき・・・。


「無事な建物は1つも無かったよ・・・。あの学び舎も含めてな」


「そ、そんな・・・。じゃあ今、彼等は・・・?」


「倒壊した建物の影で、どうにか日々を過ごしている状態のようだ。当然、勉強どころじゃないだろう・・・」


「じゃあ、トール君がこんなクエストを引き受けたのは・・・」




「そう、お金さ。彼等には今を生き延び、そしてあの場所を再建するためのお金がいる。だからこそ、多少無茶ではあろうとも、このチャンスに飛びついたんだろう・・・」 




「・・・っ!」


 それを聞いて、私はこの事態の裏で糸を引いているであろう貴族達の周到さを知った。

 おそらく、彼等はデュランに対して何か復讐めいたことをしようと考えたのだろう・・・。

 だが、デュランはこの国最強を謳われる冒険者だ。

 並大抵の人間をいくら集めようとも、彼女に勝つことは困難である。

 となれば、搦め手をつかうしかない。

 彼女の弱点を探り、ソコを突く。

 復讐に燃える貴族達には、使える駒が沢山いただろう・・・。

 そもそも、この件にはギルドに対して、無茶をきかせられる人間が絡んでいるのは間違いないのだ。

 それは即ち、ギルドが所有している彼女の情報も筒抜け同然ということになる。

 彼らは、あらゆる手段を用いて、デュランの素性を丸裸にし、彼女の急所を探り、そして見つけたのであろう・・・。




 彼女の急所を・・・彼女の想い人を・・・。



  

(「・・・そして、デュランが遠征するタイミングを見計らって、トール君に高額の報酬が見込める任務を依頼した。きっと貴族達はトール君達の現状を知って、その上でこんなクエストを発注したのね。彼にとってこの依頼は、高難易度ではあったにせよ、降ってわいた幸運に違いないから!」)


 ・・・そもそも、貧民街の住人は皆、自らの糊口を凌ぐことで精一杯の日々を送っている。

 そんな状況下で、トール君達は多くの子供達の面倒を見てきたのだ。

 ただでさえギリギリの財政状況だった・・・そこにさらなる不運が襲いかかったのだ。

 あれはもう幾日も前のこと・・・。

 ここに住むほとんどの者にとっては、あの時のことなど遠い過去なのかも知れない・・・。

 だが貧民街に住む彼らにとっては、まだ終わった話ではなかったのだ!




(「お願い、デュラン!早く帰ってきてっ!」)




 私は胸中で叫ぶ。

 しかし当然、そんなものが肝心の彼女に届くはずもない・・・。

 何も出来ないことが、こんなにも心苦しい・・・。

 



 私はただ、悲嘆に暮れるしかなかった・・・。


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