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史上最強の初恋  作者: えみお


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14/34

3-4

「なんだ?まだ本決まりではなかったのか?」


 会議の開始した直後、そう発言したのは胸板厚く筋骨隆々な男・・・ガウス=シルバ=ガイアだった。

 彼の意見はその見た目を裏切らず、果断にして残忍だ。


「今日はてっきり、その具体的な方法について話し合うのかと思っていたが・・・、前々から邪魔だと思っていたのだ、貧民街なんてものは!」


「邪魔・・・とおっしゃいますが、そこに住んでいる者達がいることも事実でしょう」

 

 議長であるジェーンは、ガウスの強硬な姿勢をやんわりと咎める。


「確かに私は先ほど、本日の議題を『貧民街とそこに住む住人の排除』と言いました。しかし、貧民街を無くしたとして、そこに住む人達がいなくなるわけではありません。何らかの方法で最低限の住居及び、職の斡旋を行い、彼等が最低限の生活を行えるような仕組みを整えなければなりません。あなたの発言は、そこまで熟考した上でのものだと捉えて宜しいのですか?」


 ジェーンの意見は、貧民街やそこに暮らす者達に対し、少なからず配慮しようとする部分が見受けられたが、一報のガウスはというと・・・こうしたジェーンの発言を、片肘を突き、耳をかっぽじりながら、まるで退屈な教習を受けているような姿勢で聞いていた。

 彼の頭部に生える髪は炎の様に赤く、噂によると戦闘時には彼の覇気に呼応するかのように逆立つそうだが、どことなく萎れた今の頭髪は、ジェーンの意見に対して暗に「否!」と言っているかのようだ。


「あ?なんで貧民街の住人なんか気に掛ける必要がある?奴らは税金も払わず、この国に住んでいる・・・謂わば非国民だ!そんな奴らに国が住居や職を与えてやる必要がどこにある!?」


「・・・住居や職の斡旋は、何も彼等の為だけではありません。仮にそういった用意無しに、貧民街の撤去が行われれば、より一層貧しくなった彼等が、一般街区に住む住人達に危害を加える事案が増加することは間違いないでしょう。彼等に対する生活の保障はそういった事態を防ぐ意味合いもあるのです!」


 ジェーンは出来の悪い生徒に噛んで含めるかのように説明する。

 が、それに対するガウスの返答は、私の度肝を抜いた。




「なら、貧民街を潰すついでに、そこにいる奴らを皆殺しにすればいいだろう」




 こんな大それた発言を、さも今日の献立を聞くような平坦な声で言えること・・・それ自体が、ガウスが貧民街の住人を、全く人間扱いしていないこと、そして、この意見に同調している者が、この場に一定数存在することを示唆していた。

 ジェーンは開いた口が塞がらず、目を見開いたまましばらく硬直してしまっていたが、やがて、我を取り戻すと、ここからでも唾が飛ぶのが見えるほどの大声で反論した。


「な、なんてことを言うのです!皆殺しなど!彼等を何だと思っているのです!?」


「少なくとも国民ではないだろ。我が国の役には一切立っていないわけだしな。それどころか、あそこは犯罪を犯して一般街区で表を歩けなくなった奴らの逃げ場所にもなっている。なら、そんな奴らもまとめて極刑に処せるってもんだ。一石二鳥じゃねえか!」


「犯罪を行ったとされる人間を逃してしまう事案に関しては、別途考える必要があることは認めます。ですが、だからといってそこに住む者を分別なく殺すなどという選択肢はあり得ません!あそこに住む者の中には、貧民街で生まれ育った者達も大勢います!彼等は運悪くあの場所で生きていくことを余儀なくされた人達です!あなたはそんな方々に対しても情けを掛ける余地は無いと言うのですか!?」


 ・・・私はジェーンがこれほどまでに流暢に話すところを初めて見たし、また、貧民街とそこに住む者に対してこんなに真剣になって考えてくれていたとは思わなかった。

 超級冒険者として名が広まった私は、国から招集される形で、この手の会議に参加させられることが幾度かあった。

 それらの場では、彼は終始、寡黙な進行役に徹し、自らの意見を口にすることなどほとんど無かった。

 その彼がここまで言うとは・・・言ってくれるとは・・。

 と、そこまで思ったとき、私は1つの可能性に思い当たる。

 もしかして、彼は・・・いや、彼も・・・


「なんだぁ?お前・・・ヤケに貧民街の人間の肩を持つなぁ」


 ガウスのその発言にジェーンはピクリと反応する。

 そして、何か覚悟を決したのだろう。

 彼は、こう言い放った。




「私は・・・私は・・・貧民街の出身です」




「・・・・・・・・・」


 外の豪雨が止むことは以前無く、その音はこの王城の堅牢な壁をもってしても完全には遮れない。

 しかし・・・


「な、なんだとぉーーー!!!」


 ジェーンの発言が頭に染み入った者達が発する叫声は、それを一瞬のうちにかき消した。


「き、貴様、貧民街出身の分際で、よくもおめおめとこの場に出てきて、しかも、この俺に意見してくれたなぁ!?」


 ガウスの発言を皮切りに、貴族階級である者の多くが、それに賛同するかのようにヤジをとばす。

 並みの者では耐えられないであろうその非難の嵐。

 しかし、ジェーンはそれを真っ向から受け止めると、それらを吹き飛ばすかのような怒声で彼等を非難した!


「私は貧民街出身ですが、何もそれだけを理由にあの場所に住む人達の保護を提案しているわけではありません。そして、議長というこの立場も、正規の手段でつかみ取った者・・・誰に文句を言われる筋合いもありません!」


「お、おのれぇ、そこまで言うからには覚悟は出来ているんだろうなぁ!」



 堪忍袋の緒が切れたガウスはそこまで言うと、自らの椅子の背に立てかけていた大剣を掴み、つかつかとジェーンの元に歩み寄る。

 

(「流石に見過ごすわけにはいかんな・・・」)


私はとっさに動くと、ガウスが到着するより早くジェーンの前に立ち、彼の行く手を遮った。

「なんだ、貴様!女の・・・しかも冒険者の分際で俺の邪魔をするか!」


「女蔑視に冒険者差別か・・・。ここまで酷いと、怒りを通り越して呆れるしかないな」


「なにぃ!?貴様も我が剣の錆びになりたいと見える!」


 脳筋ここに極まれり・・・といったガウスは、あろうことか仲裁に入った私ごと、ジェーンを真っ二つにしようと剣を振り上げる。

 やれやれ・・・そう来るのなら仕方が無い。

 私も、腰から2本の剣を抜き、正面に構えた。

 来るなら来い、返り討ちにしてやる!




「そこまで」




 後、数秒あれば、互いの刀が火花を散らしていたであろう、その時・・・。

 2人に掛けられたその声は決して大きくはなく、よく通るような声質でもなかった。

 しかし、彼の一声は、一瞬にしてこの場にいる全ての人間の行動を停止させた。

 それは、まるでその発言その者に冷気が内包されていたかのようだった。

 この場にいる全ての者達の挙動を、一瞬にして制御した声の主・・・それは、つい先ほどまでは我関せずといった様子で、終始ニコニコしていた若き王・・・アルルその人だった。


「もう!幾ら何でも喧嘩に刀剣持ち出すのは駄目だよ!会議なんだから反論は拳では無く、言葉でするの!ほら、2人とも剣を閉まってっ!」


 王アルルは、まるで子供をあやすかのように、私たちを叱る。

 

(「別に、私はここまでの大事を起こす気は無かった!」)


 という本音が、思わず私の口から出そうになる。

 しかし、そんな行動こそが、幼稚な行いだとすぐに気付き、私は何も言わず剣を納めた。

 ガウスも渋々大剣を背負い直す。

 どうにか最悪の事態は免れた。

 ・・・が、彼は自らの意見を曲げる気がさらさら無いようだ。

 

「しかし、王!貧民街出身者がこの神聖な王城を闊歩していたのですぞ!問題ではありませんか!」


 今や完全に逆立ち、臨戦態勢を示すガウスの赤髪。

 それに反して王アルルはというと・・・


「別に良いじゃん。何が問題なの?」


 王座の上で膝を抱え、縦横にゴロゴロとする姿は、まるで機械仕掛けの人形の様だった。


「な、何が・・・ですと・・・?」


「そう。ジェーンは何かズルした訳でも、ましてや侵入した訳でもないよ。きっと何か堅っ苦しい試験を受けて、それに合格、そしてそこでまた頑張ったから、今ここにいるんじゃないの?」


 そうだよね?と王は議長ジェーンの方を窺うと、彼は・・・


「は、はい、その通りです」


 と、どうにか動揺を抑えつつ答える。


 それを聞いた王アルルは、その笑みをより深めて言った。


「なら、彼がここにいて意見することに何ら不都合はないよね!ねぇ、皆はどう思う?」


 そう言って、王はここにいる全ての者達に意思を問う。

 当然、先ほどジェーンに対して野次を飛ばしていた多くの者も含め、その場から、反旗を翻そうと躍起になる者は誰1人いなかった・・・。


「こ、この根性無し共がっ・・・!」


 そう、独りごちる彼の言葉からは、やはり多くの同士がこの場に集っていることが覗えるが、頼みの綱の仲間達も、流石にこの場面で王の注意を引こうとはしなかった。


「ジェーン」


「は、はっ」


「今日の所は会議は一旦持ち越しにするよ。どうにもそんな空気じゃ無くなっちゃったし。また後日、日を改めて開催することにしたから、その予定と準備、お願いねぇ~」


「しょ、承知いたしました!」


「はぁ、何だか何にもしてないのに疲れちゃったよ。先に帰らせてもらうから。皆も今日は解散ね~」


 とそう言うと、アルルは本当に部屋を後にしてしまった。

 王が部屋から退出され、扉が閉まり、そして幾分か時が経つと、ようやく皆が動き出した。

 といっても、その行動は画一的。

 王が退出時に使用したものとは別の扉から、ゾロゾロと帰宅の途に着くだけだ。

 

(「私も帰ろう」)


 と踵を返そうとする直前。


「貴様・・・許さんぞ」


 と怨嗟の籠もった言葉を掛けてきたのはガウスだ。


「許さん・・・とは?」


「とぼけるな!貴様のせいで俺はいい笑いものだ!」


 激高するガウス・・・それに対して私はしらけた態度で答える。


「・・・お前は本当にどうしようも無いな。もし、お前がアソコでジェーンを切っていたら、それこそ取り返しがつかなかっただろう。結果的には私の制止がお前の恥の上塗りを防いでやったんだ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いは無い」


 もし私があそこで動かなかったとしても、王が止めていたであろうから、状況としてはそこまで変化は無かったかもしれない。

 しかし私が間に入ることで、ガウスの剣を向けた先が、戦闘力皆無の議長ではなく、帯剣した冒険者である私になったのは事実だ。

 いくらコイツが貴族で、ジェーンが貧民街出身者だからといって、無防備な人間を気に食わないからという傲慢な理由で真っ二つにしたら、流石におとがめ無しとはいかないだろう。

 コイツも、もう少し冷静になれば気付くかもしれないな・・・と思ったが、彼が冷静沈着でいる姿は全く想像できなかった。

 気に入らないことがあれば、その場の空気を鑑みずに文句を言い、それが通らないと分かると、怒声を浴びせて、以後沈着を決め込む・・・それがガウスのスタンスなのだ。


(「こんなヤツとの議論は時間の無駄だな・・・」)


 私はそう結論づけ、今度こそ退出した。

 

「糞女がぁ・・・絶対に許さんぞぉ!」


 ・・・彼は独身と聞く。

 今後も女性とは縁の無い人生を送ってくれることを、私は影ながら祈った。

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