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王城に到着し、憲兵達の視線を躱して、滞りなく目的の1室に足を運ぶ。
やたらと重厚な扉を開くと、まだ、殆どは空席だった・・・が、よりによって、今1番会いたくない人物のみが、一足先に着席していた。
「やあ!デュランじゃないか!」
さらりと音が鳴りそうな金髪をなびかせると、席を立ち、颯爽と近づいてくる男。
奴の名はシャルル=シルバ=ルルーシュ。
ルルーシュ家の次期当主である男であり・・・前々から、幾度となく、この私に結婚を迫るいけ好かない奴だ。
「なんだ?声なら先ほどの位置からでも、十分届くだろう。何故こちらに寄ってくる?」
暗に近づくな・・・と言っているのだが、それが理解できないのか、はたまた無視しているのか、シャルルはその歩をむしろ早め、距離を詰めてくる。
そして、私の前に立つと、見下ろす様な視線を送りつつ、話し始めた。
「何で?ハハッ!面白いことを!自分のフィアンセに会えて嬉しいからさ!」
「・・・語彙力が足りないようだな。確かフィアンセとは婚約者の意味だったように思うが・・・?」
「そうだよ!そうだろ?」
「私が、何時、お前と婚約したと言うんだ?」
運悪くコイツの目に留まってしまって以降、ことあるごとに贈り物をされたり、訪問されたりして、迷惑なことこの上ない現状・・・。
流石、由緒正しき家柄のボンボンだけあって、送られてくるものはどれもコレも高級なものばかりであり、また、シャルル当人も、巷では絶世の美男子と称されるほどの器量良しだ。
もし私が、一般人としての感覚を少しでも持ち合わせていれば、運が良いと喜んだのかもしれない。
だが、残念ながら私は、それに当てはまらぬ例外なのだ。
「もう何度も言っているが、私はお前と男女の仲になるつもりは無いし、当然結婚もする気は無い」
すると、シャルルはひどく驚いた顔をする。
「えーっ!でも、この僕だよ!シャルル=シルバ=ルルーシュだよ!断る理由なんて存在しないじゃないか!一体何がお気に召さないんだい?」
「全てだよ」
シャルルの疑問に、これ以上無いほどに簡潔に答えてやった。
そうして、改めて彼の容姿を見、分かった限りの内面を踏まえて考えたとき、私には1つ気付いたことがあった。
(「こいつ・・・トールとは正反対の男だな」)
私はそう思うと、なんだか少し可哀想にすら思えてきた。
だって、そうだろう。
好きな人と何もかもが真逆な男に、いくら詰め寄られたからといって、靡く可能性は全くないのだ。
0、完全なる0である。
私は早くシャルルに、この行為は全くの徒労だということに気付いて欲しかった。
「ふう・・・そうかい、分かったよ。今日は諦めよう」
今日だけじゃなく、未来永劫諦めてほしいのだが・・・。
「だけどね・・・覚えておくといい。僕はね・・・今まで自分が欲しいと思ったものは何でも手に入れてきたんだ。だから、例え君がどれだけイヤだと言おうと、最後には絶対、僕のモノにしてみせるよ」
(「・・・コイツとはわかり合える気がしないな」)
私はシャルルの宣言を聞かなかったかのように受け流し、自らの場所に着席する。
いくら嫌だと言っても、しつこく付き纏ってくるコイツをどうしたものかと考えていた私の脳裏には、ダンジョン内を逢瀬の場所に指定して、彼1人をそこに置き去りにする・・・という卑劣な考えまで浮かんできた。
しかし、あまりの後味の悪さと、その後の始末がとてつもなく面倒になりそうなことにすぐに気がつくと、その案を破棄する。
その後、他の出席者達が続々と到着し、先ほど2人しかいなかった空間には、あっという間に、大勢の人間の談笑の声が響き渡るようになった。
そして、巨大な机を囲む全ての椅子が埋まり、1つ間を置いた頃・・・。
「おっ、皆集まってるね。なら始めようか」
まるで、酒場で気心知れた友人と飲み会でも始めようかといった様子で現れた男・・・。
意匠なんて知ったことか!というような上下青で統一された上着とズボン。
ひょろっとした長身を若干猫背にして入室してきた・・・一見、無礼極まりない。
しかし、彼の存在を認識した者達は即座に立ち上がると、深く深く礼をした。
「そんないいっていいって。みんなソコソコ歳イってるんだから、立ったり座ったりするだけでも辛いでしょ。ほら、皆ちゃくせーき!」
その男は、自らの為に席を立つ者達を気遣い、腰を下ろすように言う・・・が、臣下として、それを真に受ける者など、何処にもいなかった。
「まったく、皆堅いんだから」
男はそう言うと、威厳もへったくれもない駆け足で、数段高い位置に備えられていた一際煌びやかな席へ向かい、ヒョイッとソコに座る。
それを確認した者達は、ようやく、彼の命を受け入れ、着席した。
(「この光景は、未だに見慣れんな」)
そう・・・信じがたい・・・というより、私などはまだ半信半疑なのだが、この、ある意味シャルル以上にふざけた男。
コイツこそが現国王・・・アルル=ゴルド=サートゥンなのだった。
「さっ、面倒臭い会議を始めよー!で、議長、今日の議題は何だったっけ?」
「はっ」
国王アルルの気の抜けた質問に答えたのは、彼の後ろから静々と入室してきた禿頭の議長、ジェーン=シルルクだった。
「本日の議題は・・・貧民街の破壊、及び、そこに暮らす者達の排除についてです」




