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3.役立たず卒業? スキルで挑むサバイバル!

「あっ、煙……! 絶対、人がいる証拠ですよ!」


遠くの空に立ち上る細い煙を見つけた瞬間、私の足は勝手に駆け出していた。疲労なんて吹き飛んだ――というのは嘘で、足は鉛のように重かったけれど、それでも心が跳ねるのを止められなかった。

人里! 文明の灯! 温かいスープとふかふかのベッドが、私を待っているかもしれない!


「おい、待て。浮かれるな、愚か者」


背後から、いつものように冷ややかで、それでいて有無を言わせぬ声が飛んできた。振り返ると、アシュレイが眉間に深い皺を寄せ、こちらを睨んでいる。


「な、なんですか! やっと見つけた希望の光なのに!」


「希望とは限らんだろう。魔物の巣穴かもしれんし、あるいは盗賊の類のアジトかもしれん。不用意に近づくのは危険だ」


「うっ……そ、それは、そうかもしれませんけど……」


彼の指摘はもっともだった。ここはメルヘンなだけの異世界じゃない。双頭狼なんていう物騒な魔獣が普通にいる世界なのだ。

でも、それでも。可能性に賭けたい。この、頼れるけど心は全く通わない騎士様と、いつまでも二人きりでサバイバルなんて、精神がもたない!


「だ、大丈夫ですよ! きっと親切な村人たちが……!」


「……楽観主義も大概にしろ。行くなら行くぞ。ただし、警戒は怠るな。貴様の命は、貴様自身で守れ」


結局、彼は私の先導を許してくれた。ただし、その視線は常に周囲に向けられ、ピリピリとした緊張感を漂わせている。まるで「ほら見ろ、何かあったらお前のせいだからな」と言われているようで、私の浮かれた気分は急速にしぼんでいった。


煙が見えているからといって、すぐにたどり着けるわけではない。それが世の常、異世界の理。

道なき道を進むのは、想像以上に大変だった。足場は悪く、鬱蒼と茂る木々の枝葉が視界を遮り、時折聞こえる不気味な物音にビクビクしながら歩を進める。


「はぁ……っ、はぁ……」


すぐに息が上がる。汗が噴き出し、麻のワンピースが肌に張り付いて気持ち悪い。足元はといえば、もはや泥だらけのズタボロだ。昨日【鑑定】した【ただの石】で足を打ったり、木の根に躓いたり、もう散々である。


ちらり、と後ろのアシュレイを見る。

相変わらず、彼は涼しい顔をしていた。長い銀髪を後ろで緩く束ね、鎧姿にもかかわらず、その動きには一切の無駄がない。まるで、この険しい森が彼の庭であるかのように。


(……なんでこの人、こんなに平気なんだろう。イケメンは疲れ知らずとか、そういう設定? いや、私がつけた設定じゃないけど!)


時折、彼がすっと手をかざすと、周囲の空気がわずかに揺らぎ、嫌な気配が遠ざかるような気がした。もしかして、魔物避けの結界か何かを張ってくれているのだろうか? **だが、**彼は何も言わないし、私も聞けない。きっと、「契約だから当然のことをしているまでだ」と一蹴されるのがオチだろう。


日が傾き始め、再び野営の準備が必要になった頃、私の足はもう限界だった。靴代わりの粗末な布は破れ、足の裏にはいくつもマメができ、一部は潰れてヒリヒリと痛む。


「い、痛たた……」


座り込んで自分の足を見ると、赤く腫れて痛々しい。これじゃあ、明日まともに歩けないかもしれない。


(……どうしよう。アシュレイさんに頼る? いや、絶対「だから言わんこっちゃない、足手まといめ」って言われる……!)


涙が滲みそうになるのを、ぐっと堪える。

そうだ、私にはスキルがあるじゃないか! 【型式決壊】!

人物はダメだったけど、「物」なら……? 治療に必要なもの、例えば包帯とか、消毒薬とか、そういうのなら描けるかもしれない!


「やってみよう……!」


幸い、昨日のキラキラベリーのおかげでMPは少し回復している。私は近くにあった平らな石を拾い、その表面に、震える指で木の枝を使って描き始めた。


(えっと、包帯、包帯……清潔な白い布。くるくる巻いてあって……。できるだけ、リアルに、衛生的に……!)


意識を集中させる。前世で、怪我をした推しキャラに包帯を巻いてあげるシチュエーションを何度妄想……いや、描いただろうか。その時のイメージを呼び起こす!


『【型式決壊】!』


心の中でスキルを発動! 石の表面に描いた線が、淡く光る。

そして――ぽすん、と軽い音を立てて、石の上に何かが現れた。


「……!!」


それは、紛れもなく、包帯だった。

ただし。


(……なんか、薄汚れてない……? しかも、ちょっとゴワゴワしてる……?)


私がイメージしたのは、清潔で柔らかな医療用包帯だったはずなのに、出てきたのはどう見ても使い古しの布きれレベルのもの。しかも、長さも中途半端だ。


「うーん……やっぱり、難しいのかな……」


がっくりと肩を落とす。でも、ゼロよりはマシだ。私はその「包帯もどき」で、慎重に足の手当てをした。気休めかもしれないけど、何もしないよりはいいはずだ。


ふと視線を感じて顔を上げると、アシュレイがこちらを見ていた。すぐにプイと顔を背けられたけど、一瞬だけ、彼の目に何か……興味、あるいはわずかな驚き? いや、まさかね。きっと、私が何か間抜けなことをしているのを呆れて見ていただけだろう。


(……でも、物なら、できるかもしれない!)


少しだけ希望が見えた私は、調子に乗って、他のものも試してみることにした。

次は、水筒だ。昨日使った【水含みツル】は便利だけど、持ち運びには向かない。丈夫で、口がしっかり閉まる水筒があれば……!

今度は、拾ってきた木の板に描いてみる。イメージは、前世で使っていた、お気に入りのステンレスボトル。


『【型式決壊】!』


ぽすん。

現れたのは……なんだか歪んだ、ブリキ製のような、頼りない水筒だった。蓋もちゃんと閉まるか怪しい。


「…………」


だ、ダメだ。複雑な形状や素材の再現は、今の私のスキルレベルと描画力(木の枝と地面or石or板)では無理みたいだ。

それでも、私は諦めなかった。


(そうだ! 靴は!? さすがにブーツとかは無理でも、もっと丈夫な、サンダルみたいなものなら……!)


何度も何度も、地面に描いては消し、描いては消し……MPがどんどん減っていく。それでも、少しでもマシな移動手段が欲しかった。


そして、何度目かの挑戦で。

ぽすん。

現れたのは、わらを編んだような、粗末だけど、今の私の足よりはずっとマシに見える、草履ぞうりのようなものだった。


「で、できた……!」


完璧じゃない。でも、私が描いたものが、確かに形になった!

MPはもうほとんど残っていないけど、確かな達成感が胸に込み上げてくる。


「やりました……! アシュレイさん! 見てください! 靴、作れましたよ!」


興奮してアシュレイに見せると、彼はやはり冷淡な反応だった。


「……フン。そのような粗末なものを『靴』と呼ぶのか? 見るに堪えんな」


「うっ……で、でも! これで少しは早く歩けます! 足手まとい卒業、です!」


「……好きにしろ」


彼はそれだけ言うと、また自分の世界に入ってしまった。

ちぇっ、少しくらい褒めてくれたっていいじゃない! ……まあ、期待するだけ無駄か。


その夜も、焚き火を囲んで(火起こしはまたアシュレイがやってくれた。感謝は……一応、してる)、私は焼いた硬イモを齧りながら、アシュレイに一方的に話しかけていた。気を紛らせたい、というのもあった。


「このスキル、結構MP使うみたいですけど、練習すればもっと良いものが作れるようになるかもしれません! そしたら、テントとか、寝袋とかも……!」


「…………」


「あ、そうだ、アシュレイさんのその鎧、すごく綺麗ですよね。やっぱり、手入れとか毎日するんですか? ピカピカじゃないですか」


「…………」


「あの剣も、すごい切れ味でしたし……やっぱり、名のある職人が打った剣なんですか?」


「…………黙れ」


「ひゃい!」


ついに、短い返答(というか拒絶)が返ってきた。やっぱりダメか。

でも、私はほんの少しだけ、彼の横顔に見えた気がしたのだ。ほんの一瞬だけ、私の言葉に耳を傾けているような……そんな気配を。気のせいかもしれないけど。

月明かりに照らされた彼の横顔は、相変わらず人間離れした美しさで、見ているだけで少しだけ胸がドキドキした。……不覚。


翌朝、私は自分で作った草履もどきを履いてみた。藁がチクチクするし、すぐに壊れそうだけど、それでも素足よりはずっとマシだった。


「よし、行きますよ!」


少しだけ身軽になった気分で、私は再び煙を目指して歩き出した。アシュレイは、何も言わずにその後ろをついてくる。


煙は、昨日よりも明らかに大きく、近くに見えるようになっていた。木々の密度も少しずつ減り、開けた場所が増えてくる。

森を抜けた先に、緩やかな丘が見えた。その向こうに、きっと……!

期待に胸を膨らませて、丘を登る。

そして――


「……あ……!」


視界が開けた先に、それはあった。

石と木で作られた、素朴な家々。畑らしきものも見える。間違いなく、人の集落だ!


「やった……! やったー! 村だー!!」


私は喜びのあまり、思わず駆け出そうとした。

しかし、アシュレイが素早く私の腕を掴んで制止した。


「待て。……様子がおかしい」


「え?」

彼の鋭い視線の先を追う。

……確かに。村だというのに、人の気配がほとんどしない。畑は荒れ、家々の窓は板で打ち付けられているものもある。そして、村の入り口には、粗末ながらも柵が設けられ、見張りのような人影が……いや、あれは……?

村全体が、まるで死んだように静まり返り、どんよりとした重い空気に包まれているようだった。

希望の光に見えた煙は、どこか不穏な色合いを帯びているように感じられた。

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