第九話 自称最強
◇2031年6月8日 春先邸客間◇
私たちは、次の敵である3年生チームの最初の相手を倒すための会議に集められた。次の敵の情報は、学校側から配布されるのでそれを6人で確認している。
「次の敵は、”樹焔”というチームですね。リーダーは、木村神凱というらしいです。幹部が3人、そのほかが16人ってところですね。」
篤樹は、確認のために読み上げてくれた。プロフィールによると木村神凱は、巨体で暗そうな見た目が特徴らしい。幹部が阿久根紗夜、氷室貢、林原栄吾。プロフィールを見ても対して興味を持てない。
「これなら勝てそうじゃん。野乃たち6人だけど、余裕すぎるね。」
私は、腕を組んでふんっと鼻で笑いながらいうと、シオンが真剣な顔で指摘してきた。
「気楽になるのはいいが油断をするな。木村は過去に試合中に殺人事件を起こしている。今回も起きないとは限らないから危険かもしれない。……待て。殺人を犯しているのになぜ…ここにいるんだ!?…もしかしたらこいつもあの権利を持っているかもしれない…。そしたら相当強いはずだ。尚更、油断してはいけないな。」
「えっと……つまり、樹焔は強敵になり得るってことですよね。でも…命を賭けながら戦うって……なんか、すっごい唆るなぁ。圭吾さんもそう思いますよね?」
その瞬間、周りの空気は一瞬で変わった。さっきまでは、どうやって樹焔を倒そうと燃え上がっていたが爽馬の発言でみんなは爽馬のヤバさを再確認して凍りついた。話をふられた圭吾は冷や汗をかきながら解答を模索しているように見える。しかし、それは爽馬による意図しないトラップだと気付けない。
「あ〜、俺もそう思う。命を賭けることは大切なことだ。でも命をだいー」
「そうですよね!そうですよねっ!なら……前線で戦ってくれますよね、圭吾さんっ!期待してますからねっ♪」
爽馬は、目をキラキラさせ、笑いながら言ってきた。圭吾は、一瞬動揺したが尊敬している兄貴がひよる姿を見せるのは恥ずかしいと考えて了承した。すぐに正面にいる爽馬に目が見えないように少し手を浮かしながら頭を抱えて横に座っていた篤樹と羅瞿に目配せして助けを求める。
「なら圭吾が前に行くなら俺たちも出て戦うぜぇ!まだ仲間になってから浅いしなぁ〜!ここらで一発、俺たちが役に立てるところ、見せてやろうや!なぁ、篤樹ッ!!」
「そうですね。ここで皆さんに信頼を見せ信頼を得ることは、必要です。今回のチームの幹部は、僕と羅瞿、圭吾くん……それと野乃くんにお任せください。」
なぜか私も巻き込まれたけど全然大丈夫。それよりも篤樹が私のことを君付け…?こんなに可愛い女の子に……。後でしばこう。圭吾は、会議が終わった後、爽馬が先に帰ったのを確認して篤樹と羅瞿にお礼を言った。…でもよくよく考えたら圭吾の前線行きは変わってないから意味ないよね?頭火傷したから馬鹿になっちゃったかも…。
◇2031年6月20日 風花中学校校庭◇
私たち6人は、いつもの正門と逆側の位置について開始の合図を待つ。今回は、シオンと爽馬があまり活躍してくれないので少し心配だが私たちなら余裕なはず。2年生では、校長は来てくれなかった。その代わりに校長の声が流れるAI型スピーカーが置いてある。これを作ったやつも置いてやつも趣味が悪いと思う。そのまま開始の合図がなった。
その瞬間、爽馬は銃を構えて前線にいる敵の部下を撃とうとした。しかし、撃つ前に倒れる。私も意味が分からず立ち止まる。よく目を凝らすとシオンが特殊なパンチを喰らわしていて目にも止まらないスピードで次々と部下を倒している。きっと、幹部までの道を作ってくれているんだろうか。しかし、止まらない圭吾。圭吾も活躍したいのだろう、真っ先に氷室貢の元へ突っ込んだ。私は、林原栄吾。篤樹と羅瞿は、阿久根紗夜の元へ。
圭吾は、一番最初に氷室のところについて戦闘を始めた。
「君のさ、戦闘記録見せてもらったよ。……まさか、幹部級ひとりも落とせてないって、本当?それで僕に勝てると思っちゃんだ。めでたいね。」
いつもの圭吾ならここで突っ込んで負けるだろう。でも今回は違う。その煽りを胸で受け止めて立ち止まった。きっと決意をしているのだろう。初めて幹部を落とすかどうかを。
「俺は……確かに、今はまだ弱いかもしれない。だけど――仲間に頼らずとも強くなりたい。だから……お前を倒す。」
その目は一切曇っておらず、拳を握りしめながら氷室の方を見つめていた。氷室はその態度が気に入らなかったのか近づいて蹴りをかます。しかし、圭吾はそれを受け止める。
「お前は……俺に似ている。昔の弱かった頃にな。だから手に取るようにわかるんだよ!お前の行動がな!」
そう言って圭吾は、氷室の頬に向かって拳を入れる。足を掴まれている氷室は避けることができず、モロにくらってしまった。しかし、まだ動けるようだがまだ足を掴まれてしまっている。圭吾はその後も何発も食らわせて相手が降参するまで殴り続けた。圭吾は初めて幹部級に勝てたんだ。これは大きな成長であり、始まりである。
圭吾が氷室に着いた後くらいには、私は、林原栄吾の前に立つ。
……こいつ、弱そう。ふふん♪一瞬で終わせて遠くでお茶しているシオンと爽馬に、さりげなく混ざろっかな♪
そう思いながら、足に力を入れて林原の顔に向かって蹴りを入れる準備をする。その瞬間、林原はポケットからナイフを取り出して私の腹に向かって刺そうとしてきた。私は足の力を飛躍に移して避ける。
「ちょ、ナイフを使うとか卑怯じゃないの!?そんなん反則でしょ!もしかして力に自信がないんでしょ!」
「ナイフを使うとさ、相手がビビるんだよねぇ。……ビビるとさ、動きが止まるだろ?だから刺しやすい。はぇ?いや、違う。そうじゃなくて、その顔がたまんねぇ〜んだよねぇ〜」
なんだこいつは?急に’はぇ?’とか言い出したし、話が通じないのか?それなら早く倒さなければいけない。私は、近くにある枝を拾い、ナイフに向かって投げる。ナイフはトンボのように自由に空を舞った。その瞬間、林原はおかしくなる。
「……えっ?あっ……俺の……ナイフ……ナイフ……ナイフ……っ!」
「あはっ……あはははっ、あひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
林原は、狂ったように笑いながら、地面を這うようにナイフを探しにくねくね動く。私は、キモくてドン引きしたがすぐに気を取り戻し、林原の背中にかかと落としをした。最後まで笑っていたがそのまま気絶した。もうこんな狂人とは戦いたくないね。
たぶん圭吾が氷室を倒した時くらいに篤樹と羅瞿は、阿久根紗夜の元で戦う。
「よーーーし、篤樹ッ!! 一瞬で終わらせっぞォ!! サクッとぶっ飛ばして、ボスんとこまで突っ込むぞーーーッ!!!」
「……うるさい……声が……頭に響く……静かに、して……」
「…これは失礼。でも──悪いですが……眠ってもらいますよ。」
阿久根はクマのぬいぐるみを抱えながら頭をおさえている。それに対照的な羅瞿。冷静に考える篤樹。
「……降伏してください。それでもまだ戦うというなら、一瞬で終わらせます。行きますよ、羅瞿。」
そう言って篤樹は羅瞿と背中を合わせて篤樹は左手、羅瞿は右手を構えて準備をする。そして、2人は離れて阿久根の横から近づき、殴る。その衝撃で阿久根は倒れた。
2人は、急いで木村神凱の元へ向かう。木村は仲間を全員倒されたのにも関わらずどこか余裕そうだ。
「まさか……俺の部下を全員倒したくらいで勝ったとか思ってんのか? おいおい、笑わせんなよ。樹焔はな──俺ひとりで成立してるワンマンチームなんだよ!」
篤樹はそれが負け惜しみだと思うがすぐにそれは勘違いだけ気づく。木村は羅瞿に向かって蹴りを入れる。当たる前は、威力は大したことないと思っていた。しかし、当たった瞬間5mは絶対に飛んだ。羅瞿は口と頭から血を流しながら重い体を起こす。
「やっぱり雑魚じゃないか!?ハハッ、拍子抜けだわ。これで俺たちは、先に進めるってわけだ。そうだよなぁ?」
先に進める?何を言っているんでしょうかと篤樹は思いながら羅瞿を介抱する。篤樹は羅瞿がこの状態では使えるか分からないが合体技を使おうと考える。この合体技は、きっとシオンの軽めの一発よりも強い。つまり石の壁くらいなら簡単に壊すことができるはず。
「僕が足を…羅瞿が頭をお願いします。」
「けっ……楽な方を選びやがってよ……。終わったらラーメンくらい奢れよ、篤樹。」
篤樹は木村の前に一瞬現れる。しかし、突然消えて木村は困惑するが目の前に見える羅瞿にトドメをさそうとする。けれども木村の体は突然、倒れそうになる。そう、篤樹は足元に周り転ばしたのだ。木村は手を着いて衝撃を和らげようとするが羅瞿が木村の顎に蹴りをかます。そうすると木村は仰向けになろうとする。その瞬間、篤樹が木村の頭側に周り上に向かって蹴る。これの繰り返しだ。そのまま、木村は何もできず気絶した。一撃一撃がシオンに匹敵する。つまり相当痛いはずだ。
篤樹は怪我をしていた羅瞿を肩で支えながらお茶をしていた残りの”反逆者”のメンバーの元へ戻る。これを見ていたシオンは思う。
やっぱりこの2人は強い。……阿久根はあの感じで空手九州大会小学生の部の2位か。きっと篤樹と羅瞿が合わさればきっと負けないな。
私は、シオンの部下を一瞬で倒したあの技についてずっと気になっていた。あれが使えればもっと楽になるかもしれない。爽馬にももっと活躍できるように護身術を教えようと思った。