第六話 「囚われの犯罪者」
◇2030年12月23日 春先邸◇
私たちも冬休みに入り、次の敵である桐生楓木率いる狂者を倒すための作戦会議を開くため山口県下関市にあるシオンの家に来た。シオンは北九州市から車を出してくれて圭吾と共に向かった。シオンの家を見た瞬間、私は驚きで声を出すことができなかった。圭吾は言った。
「これがシオンの家なのか…?どう見たってどこかの財閥の豪邸じゃないか!?」
「えっとー。来る家間違っちゃたのかなぁ。どう考えたって1中学生の家じゃないよね。シオン君が見えをはりたいのかもしれないけど野乃にはわかるんだから。」
私も続けて講義した。シオンはキョトンした顔をしながら家に入っていく。まるでそこは自分の家だとアピールするかのように。私と圭吾も追いかけるように入っていた。
中に入ると広い玄関がある。この玄関だけで私の家の一部屋はあるんだけど次元が違うのかな。シオンはそのまま客間に案内してくれて色々説明する。
「ようこそ、春先邸へ。来客なんて初めて呼ぶから掃除したんだぞ。俺1人でこの屋敷内を掃除するのは不可能だから掃除屋雇って一緒にしたんだけどね。まぁゆっくりしていけよ。今日は疲れるから。」
やっぱりここはシオンの家らしい。でも色々引っかかるところがあった。一つは俺1人ともう一つは今日は疲れるだ。シオン1人ということは親とか兄弟はいないのだろうか。確かに靴を下駄箱に直すときに男物しかなく、女物はなかったが1人でこの広さの屋敷に住むのは単純に羨ましい。私は羨ましさが顔に出ていたのかシオンに話しかけられる。
「やっぱり俺の家って羨ましいのかな。ずっとこの家に住んでいたらわかんなくなってさ。いつかそこら辺にある家にも住んでみたいんだよね。」
自慢だ。どう考えたって自慢だ。許せない。私は怒りながらもう一つの今日は疲れるの意味を聞いた。
「シオン君。さっき、今日は疲れるって言っていたよね。今日は作戦会議って聞いたけど何か予定でもあるのかな?」
たぶん怒りが漏れていたのだろう。シオンは消極的になりながら答えた。
「野乃、そんなに怒らなくたっていいんじゃないか。まぁいいです。今から絶海孤島の刑務所、Abyss Nine(アビス•ナイン)にいくからな。お前らにももちろんついてきてもらうから疲れるって言ったんだ。」
「俺はあんなところ行きたくねぇよ。確か船で2時間だろそんなところになんでいくんだよ!!」
圭吾は紅茶を飲む手を飲む手を止めて声をあげて言った。シオンは冷静に説明する。
「そりゃあ…。蒼井爽馬を仲間にするために決まっているさ。あいつの銃の腕には期待をしている。きっと楓木の戦いでも役に立つだろう。」
「はァ!?あの蒼井 爽馬を仲間に入れるだっていくらシオン君がリーダーだからってそんな要望通るはずがないよ。」
「野乃の言う通りだ。第一にあいつは刑務所に入っているんだ!脱獄させる以外、仲間にする手段がないじゃないか。」
私と圭吾は声を荒げて反対した。だってあの爽馬だよ。5ヶ月前に大庭 大和を殺した張本人。この国では未成年とか関係なく、犯した罪によって刑務所に入れられる年数が決まる。殺人は緩い方で10年くらいだ。この国は、暴力国家なのに殺人は許されないだなとはいつも思う。シオンはまさかの反応をされた顔をしながら言う。
「い、いやー。それでも、強いよ。この3人じゃきっと戦力不足だしさ。蒼井 爽馬と話をしてからでも遅くないんじゃないの…。」
「話すだけだからな。もしあいつがまだ人を殺そうと考えているならすぐに帰るぞ」
圭吾はそう言って出かける準備をして客を出て行った。私とシオンも準備をして春先邸を後にした。
◇ Abyss Nine
圭吾は船が弱いらしく終始吐いていた。私はそんな圭吾をみて見窄らしいと思った。そのまま、私たちは刑務所がある島に着く。
「よくよく考えたらさ。爽馬は捕まっているんだし、釈放することなんてできなくない…。だから無駄足だったんじゃ。」
私は疑問をぶつける。シオンは待ってましたみたいな顔をして胸ポケットからとあるカードを取り出す。私と圭吾はそのカードを見たことなくて顔をしかめる。シオンは優しく説明してくれた。
「このカードは政府から支給されるものでこの先に歴史を変える可能性を持つものだけに渡される最強のカードなんだ。確かこのカードは、誰か1人の罪を無効にできると言うものだったはず。つまり、これで爽馬を流してやるのさ。」
初めて聞いた。つまり、シオンは政府から歴史を変えると認められていると言うこと!?私もそれ欲しいんだけど。私は無理承知で聞く。
「シオン君、野乃もそれ欲しいなぁ〜。どうしたら手に入るのかな。それかくれてもいいんだよ」
「馬鹿を言うな。このカードは1人一枚だ。野乃ももらっているなら小学生の時に親から渡されているはずだろ。このカードは親に支給されて子に渡す仕組みだからな。もっとも、親が子に危険な目に遭って欲しくなくて捨てるケースもちらほらあるけど。」
シオンは答える。このやりとり中、圭吾はそのまま刑務所の中に入っていた。圭吾は刑務官に止められるがシオンがカードを見せると頭をヘコヘコしながら通してくれた。権力者の犬め。
刑務官は私たちを面会室に案内して爽馬を呼びに行った。数分後、作業着に包まれた爽馬が暗そうな顔で現れた。下を向いているようで私たちが誰かわかってない様子だ。
「僕に何か御用ですか?こんな10代で殺人を犯したゴミに。」
「どうしたんだ、そんな見窄らしくなって大庭を殺した時の威勢はどうしたんだ。」
爽馬は顔を上げる。爽馬が尊敬している圭吾が目の前にいるからだ。
「なんで櫻田さんがここにいるんですか。もしかしてあの大庭とか言うゴミを殺した復讐ですか。でも僕はあれは正義だと思います。櫻田さんを侮辱する奴には生きる価値はないです。」
さっきの発言と矛盾してたり、大庭が圭吾のことを侮辱してたことはなかったと思ったり、しながら会話を聞いていた。圭吾はここにきた理由を説明し始めた。
「今日は、この現在の反逆者のリーダーである春先 シオンがお前に用があるそうだ。しっかりと聞いてやれ。」
「どうも、俺が春先シオンだ。2学期から風花中に転校してきたピチピチDCだ。俺はお前に仲間になって欲しいと考えている。お前が大庭を撃った時、あれはプロにしかできない凄技だと思った。きっとこれを役に立ててこれから…」
「あなたに何がわかるんですかっ…!もう銃を僕は握りたくない…。もう誰も傷つけたくないんだ。帰ってください。もう話すことはないです。」
爽馬は席を立ち、面会室から出ようとした。その時、私が発した言葉は確実に爽馬の心を掴んだはず。
「才能を無駄にするって、野乃…最低だと思うの。人を殺せるってことは、裏を返せば、誰かを守れるってことでもあるでしょ?爽馬君はきっと、大庭を“ただ殺した”って思ってるかもしれない。でも、あの時…野乃、大庭に殴られそうになってたの。あなたの銃がなかったら、どうなってたか、わからない。だからね…助けられた人がいるって、そういうことも…忘れないでいてほしいの。殺したことばかりじゃなくて、守れたことも…考えて欲しい。」
私いいこと言うね。これで爽馬は考えて席に戻り言った。
「仲間になれば僕は幸せになれますか?もう辛い目に遭いませんか?」
「そんなことする奴がいたら俺がボコボコにするし、お前が悩んでいるなら解決してやるよ。」
圭吾が笑いながら言った。シオンも後ろで腕を組んで笑っている。私はガラス越しに手を掴むように手を差し出した。その後、シオンは刑務官にカードを渡して爽馬を釈放する手続きを行って爽馬の罪は完全になくなった。
帰りの船、私はシオンに天才的なことを相談する。
「ねぇ、シオン君。爽馬の銃の腕前は強いけどやっぱり実弾じゃ危ないと思うからゴム弾にしない?これなら相手が痛がるだけで死なないし、足止めにもなるよ。」
シオンは度肝を抜かれたような顔をした。私はシオンに勝てたと思って優越感に浸っていたがシオンが衝撃的な言葉を発する。
「野乃も同じ考えだったのか。後でゴム弾を渡すつもりだったんだ。仲間なら考えることは一緒だな。」
シオンは笑いながら言った。とても悔しい。その後、すぐにシオンは爽馬にゴム弾を渡した。爽馬は感謝した。
「これなら僕の銃の腕を撃たれた人や見た人に見せれそう。いやー撃つの楽しみだなぁ。」
こいつも激ヤバなのかよ。そう思いながら甲板で吐く圭吾の背中をさすってあげた。
次の敵は狂者。確か2031年3月21日だったはず。これに勝って3年生と戦う権利を絶対に勝ち取ってやる。