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反逆者  作者: つゆさき
第三章 〜風花中学校3年生編〜
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第三十六話 「“あい“たかった」

◇2033年3月17日 風花中学校・校庭◇


 圭吾の拳が止まった。

 春の匂いがより一層濃くなった。

 小鳥はさえずり、木々も生い茂った。

 ぼやける視界の向こうに、見慣れた影が立っている。


 ……視線が止まった。

 

 武道場の扉から出てきた男。

 右耳にはおしゃれなピアス、セットされた髪型、微笑みかけるような唇、かっこいい顔。

 どこをどう切り取っても私が好きな人――春先シオンそのものだった。


 赤く染まった黒い制服は、最近まで放置されたように埃まみれだ。

 しかも、ボタンも壊れているようで、筋肉がうっすらと浮かぶシャツが丸見え。

 上下する胸は、生きている証拠を私にくれた。


 ――シオンは、死んだはずじゃ……?


 私は信じられずにいた。

 目の前で撃ち抜かれ、目の前で葬式をした。

 普通なら死んでいるし、今見えるのも幽霊だと思うのが当然だろう。

 でも、シオンなら……と思ってしまう。


 なぜならシオンは、私が見た中で最強だからだ。

 負けたとかなんて、見たことがない。

 それくらい強い。


 だから……撃たれたときはドッキリだと思った。

 手に血がついたとき、息が浅くなるとき、

 ――死を実感したんだ。



 でも目の前にいるのは、きっと本物だ。

 今まで、反応がなかった胸の奥が、歓喜の呼び声をあげている。

 自分でもなぜかわからない。


「……シオン?」


 かすれた声で呼びかける。

 圭吾も私の上から身を起こし、信じられないと言った表情でシオンを見つめる。


「本当に……シオンなのか?」


 圭吾の声にも動揺が隠せてない。

 シオンは静かに歩いてくる。

 足音は確実に地面を踏みしめている。

 幽霊ではない。生きている人間の歩き方だ。


「よっ、久しぶりだな」


 懐かしい声が校庭に響く。

 少しかすれているが、確実にシオンの声だった。


「野乃……俺の出番なのか」


 いつものような、少し呆れたような口調。

 でも、その奥には安堵のような感情が混じっている。


「……シ…オン! シオン!」


 私は圭吾を押し退けて立ちあがろうとするが、足に力が入らない。

 身体中の痛みが一気に押し寄せてくる。

 それでも、這うようにしてシオンに近づこうとした。


「おい、無理すんな。

 それでも『リーダー』かよ」


 シオンが駆け寄ってくる。

 その手は確実に温かく、私の肩を支えてくれた。


「……本物……? 夢じゃない……?」


 触れた瞬間、涙が溢れた。

 温もりがある。脈拍が感じられる。

 間違いなく生きている。

 でも、心臓の音は聞こえなかった。


「…シオン……むn――」

「夢じゃない。俺だ、シオンだ。

 その調子じゃ情けない。

 まだ戦えるだろ?」


 そう言って、いつものように目にかかる前髪をかきあげる。

 その仕草も、表情も、全て私が覚えているシオンだった。


「でも……撃たれて……血が……」

「それは後で説明する。

 今は圭吾を倒すことが先だ」


 シオンは私の顔の傷を確認しながら、圭吾の方を振り返る。


「俺は、“反逆者“副リーダー――春先シオン。

 リーダー――深雪野乃に全霊を尽くす」

「……あぁ、知ってるよ」


 圭吾の顔から笑みが漏れる。

 さっきまでの驚き顔はどこかに消えた。

 シオンも軽く口角を上げた。

 

 シオンは立ち上がり、校庭全体を見渡した。

 倒れている仲間、そして敵、血の跡、散らばった花びら。

 もう私たち以外、誰も立っていない。


「……いつものお前はどうした?

 俺の演説にでも……連れて行かれたか?」

「そんなて……わけない! 野乃は…行ける!」

「よく言った」


 シオンは手を差し伸べる。

 その手の温もりは、冷たかったあの頃とは違った。

 私は彼と肩を並べていいんだ。

 そう思えるほどに。


「……降参だ」

「…残念だ。これからの活躍を見たかったが」

「どう考えたって勝ち目ゼロだろ!

 万全シオンとかズルすぎる。

 せっかく勝てそうだったのに!」


 さっきまでのクールを演じてた圭吾は消えた。

 昔のように、

 ドジを踏むような彼の口調だ。

 シオンがいて元に戻ったのだ。

 懐かしくて心が踊る。


「ふふっ……」


 私は思わず笑みが漏れた。

 痛みを忘れるほどに嬉しかった。

 シオンがいる。圭吾が元に戻った。

 今この瞬間だけは、昔のようになれた気がする。


 しかし、ふと気づく。

 やっぱりシオンの心臓の音が聞こえなかった。

 温もりはあるのに、鼓動が感じられない。

 むしろ機械音のような音が、私の耳を渦巻く。


「シオン……」

「ん?」

「あなた……本当にシオンなの?」

 

 疑問が口に出た。

 疑いたくないのに。

 シオンは困ったような表情を見せる。


「何言ってんだ。俺は俺だよ」

「でも……心臓の音が……」

「ああ、それな」


 シオンは苦笑いを浮かべながら、制服の胸元を軽く叩く。


「まあ、実質死んだようなものだ」

「……え?」


 喉の奥から何か出そうだった。

 嫌なものが。辛いものが。


「でも見てみろ。今はピンピンしている。

 ……人工心臓を入れたんだ」


 この説明なら納得がいく。

 でも、今までのシオンじゃない。

 やっぱり私が守れなかったからだ。

 私のせいだ。


「10年おきに交換が必要だがな。

 気にするデメリットじゃない」

「そう……」

「どうして助かったんだ?」

「うんうん……」


 圭吾も疑問をあるようだ。

 私もそれが気になっていた。

 あの状況で生きている方がおかしいからだ。

 生きててよかったけどね。


「実は……こいつに協力してもらったんだ」


 シオンは壇上に立っていた初老の男性を横に立たせる。

 吉満校長――この学校の長。


「私は何もしていないですよ。

 救急車の手配と、死亡偽装の手伝いぐらいしか。

 ……今、春先くんが生きているのは、彼自身の生きる意思があったからです」

「そうそう。

 俺ははなから死ぬかなかったし、

 お前らも俺が死ぬなんて、

 思ってなかっただろ?」


 冷静な校長とは真逆に、

 シオンはばちばちと校長の背中を叩く。

 最近気づいた。

 校長って話が長いだけで、まともなんだと。


「ばかぁ……」


 私のダムが崩壊した。

 痛む身体を全て、シオンに預ける。


「……野乃、壊れそう……だったんだ……よ? でも、……みんな励まして……くれて……なんとか……シオンいなくても……やっていこうと……」


 私の顔はきっと悲惨だろう。

 血と涙で、とても見れるものじゃない。

 でも、

 シオンは何も言わずに身体をまかしてくれた。


「でもでも……シオン現れて……もう……我慢できない。

 ……あいたかった。

 もう……どこにも行かないでぇ。

 

 ――あいしてるからぁ……」


 言ってしまった。

 ずっと隠してきた気持ち、認めたくなかった気持ち、全てが口からこぼれてしまった。

 でも、後悔なんてしない。

 やっと伝えられたからだ。


 シオンは頭をクシで整えるように、

 激しく頭をかいた。

 きっと、嫌だったのだろう。

 前も恋愛したくなかったと言っていたから。


 でも死ぬ直前、

 ――「のの、すき」って言っていた気がする。

 あれは私の幻聴かな。


 また視界がぼやけてしまう。


「野乃……」

「まえ……にぃ、シオン……野乃こと……好きってぇ…言ったぁ!」

「……ん?」

「俺も聞いたぞ」


 圭吾ナイスアシスト!

 シオンは手を口元に当てる。

 彼がよくする考えるポーズだ。


「あっ思い出したわ」

「うん……うん♪」


 私は胸が高鳴った。

 これからシオンからの愛の告白が聞ける。

 一年越しの。


「『おれのいえに、ぷらちなのカードあるからすきにつかっていいぞっ!』と言ったな」

「……はっ?」

「ぶはははは」


 拍子抜けした。

 この1年間、

 私がどれほどこの言葉に救われたのか。

 でも、その意味が知れたならもう何でもいい。

 そんなことよりも会えたのが嬉しかったからだ。


 圭吾は、自分の膝を叩きながら笑っている。

 こいつは後でしばこう。

 いつも私のことを馬鹿にするから、みんなも怒らないだろう。


「……はぁ、俺は恋愛とかしたくないんだけどな」

「うん……そうだよね」

「でも、

 そんな事言われたらな……」

「え?」


 シオンの目は、鋭く光った。

 きっと次の言葉は、私の人生を大きく変えることになる。

 そうであってほしい。

 

「後5年だ……5年後なら考える。

 だから、待ってくれ」

「うん……わかった! 

 ……野乃、絶対待つ!」


 私の声は、泣き声と笑い声の中間みたいで、自分でもよくわからなかった。

 でも、心の底から安心していた。

 シオンがここにいる。それだけで、世界はまだ大丈夫だと思えた。


 圭吾は腕を組んだまま、ふっとため息をつく。


「……ほんっと、シオンがいると全部めちゃくちゃになるよな」

 

 それは呆れた声だったけど、どこか嬉しそうだった。

 私はあんたが言うなと思った。





◇◆◇◆◇





 校長が壇上に立ち直す。

 周りを見渡すと、

 ほとんど倒れている“櫻絆サクラン“と“反逆者“。

 そして、2年生に負けた爽馬の“嘲夢団ドリームスカー“……3年生、全員が集まった。


「……先ほど、政府から連絡がありました。各地方、全て3年生が勝利したとのことです。

 つまり、あなたたちは、政府に挑める権利を得られたのです。

 私はとても感動しています。

 なぜなら、初めてだからです。10年変わらなかった歴史が初めて動いた。

 何よりも嬉しいことです」


 校長はハンカチで目元を押さえている。

 いつも思うが、こいつの話は長い。

 今実感が湧いた。

 シオンのせいで、忘れていたが私は勝ったんだ。

 リーダーとして。


「そこでです。

 深雪さん……あなたには“反逆者“のリーダーとして

 ――6人、この中から地方選に連れて行って構いません。

 誰でも好きな人を。

 そして、勝利を共に掴みたい人と」


 まだ痛む身体を無理やり起こし、立ち上がった。

 周りを見渡すと、みんなが私を見ている。

 少し恥ずかしい。

 こんな注目されるなんて思ってなかった。


「えっと……春先シオン!」

「櫻田圭吾……」

「大海羅瞿……細井篤樹」

「蒼井爽馬……そして、そして?」


 今言った5人は、元“反逆者“だ。

 私は彼らと共に歩みたい。

 絶対に見捨てたりしない、信頼できる仲間だ。


 もう一人はどうすればいいのだろう。

 思いつくのは、芝ななみ、千歳屋綾芽、桐生楓木……そして、七瀬沙彩。

 いろいろ名前が浮かぶ。


 ふと、さっき名前を呼んだ人を見ると、誰かから治療を受けている。

 綾芽だ。

 私も自分の身体に目を向ける。全身ボロボロだ。

 やっぱり医者が必要だよね。


「……千歳屋綾芽」

「…はぇ?」

「よし、決まりました。

 新“反逆者“の皆さんにはまた連絡します。

 皆さんこれまでこの学校に勤めていただきありがとうございました。

 今日で卒業式としたいと思います。

 ご卒業おめでとうございます。

 はい、解散」


「はいはい、長い!」

「私のおはこですから……」

 

 伝えるだけ伝えて校長は校舎に消えた。

 取り残された私たちは、各自解散する。

 しかし、綾芽だけ私の元へ向かってきた。


 それを見た人はクスクスと笑う。

 私にはわからなかった。


「何でうちを仲間にしたん!?

 おちょくりたいってことかいな!」

「野乃は、医者してあなたを仲間にしたいの。

 優秀な人だから。

 お願いします。

 これからよろしくお願いします。」

「そこまで言われたらしゃあないなぁ///」


 顔を赤く染め上げて、手に口を当てている。

 かなりちょろい。


 このメンバーで政府打倒するのだろうか。

 それとももっと増えるのだろうか。

 今はわからない。

 ――でも、きっと楽しくなれる。


 

 まさかあんな旅になるとは思っても見なかった。






 


 



 








 

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