第二十八話 思いを胸に
◇2032年9月15日 風花中学校・視聴覚室◇
私はやっと修行をする気になった。学校には夏休み明けから行っているけど、修行をする気にはなれなかった。だって、春先シオンを超えてしまいそうだったから。
私は“反逆者“を受け継いだんだ!それなのにいつまでも過去に縋ってダサいよね。芝ななみにも言われた。だから未来に向かって頑張らないと。
そういえば、ななみって私の仲間だったんだね。……知らなかった。それに、真緒治郎ってやつ。あんまり印象ないけど元“狂者”だから強いのかな?でも、爽馬に泣かされてたからどうなんだろう?
今思えば、“狂者“に入って良かった。もし、ニートだとしたらシオンが私を仲間に誘っても入らなかっただろう。あの過酷な経験から逃げたいと思った。そして、シオンが逃げ道をくれた。
もしかしたら、あの頃から好きだったのかもしれない。でも、決定的なのはあのキャンプだったよね。熊に襲われた私を助けてくれて……。頭を撫でてくれた♡
……はぁ……好きなのにぃ。どうして野乃の前からいなくなるの……。もっと素直になれば……。
気がつくと、頬に涙が伝っていた。ああ、ダメだね。せっかく強くなろうとしたのに。……“反逆者”のリーダーなのに。
視聴覚室に入ると懐かしの人がいた。高嶺先生だ。唯一と言っていいほど生徒のことを、気にかけてくれる優しい人。修行は全て、この人に見てもらっている。
「おっ!深雪ちゃん、久しぶりだね!最後に来たのは3月だっけ?それなら半年ぶりじゃん。……何かあったの?」
高嶺先生は、生徒との距離感を間違えている。他の先生は、腫れ物を見るかのように私たちを見るが、高嶺先生は一人間としてみてくれている。それはそれで嬉しい。
そもそも先生が私たちの前に現れることは、まずない。別に授業をするわけではない。聞いた話によると、海外の高校まででやる内容を私たちは小学生で終わらしているらしい。
つまり、日本でいう中学校は、海外でいう大学みたいなものらしい。だから勉強が難しかったのかと納得した。……だとしたら、七瀬沙彩は、化け物じゃん。全てわかってたし、予習もしてた。
沙彩……元気しているのかな?あんなお別れ……ないよ。また……話したいな……。
「実は……シオンが死んじゃって……何事にも手がつかなくて……」
「……」
「ごめんなさい……こんな話しちゃって」
高嶺先生は、悩んだようなポーズをとる。その時間は永遠のように感じた。そして、結論を出してくれた。
「シオン君が死んだって情報……入ってきてないよ?大庭大和君、覚えてる?その時は、ちゃんと入ってきたのに……おかしいなぁ?」
私は期待に胸が震えた。もしかしたらシオンが生きているかもしれない。……でも、私は葬式に出たんだ。シオンの葬式に。これで死んでないなら燃やされた人は誰なの?……期待すべきじゃない……。
「……ごめんね、変なこと言っちゃって。いやぁ……まさかあのシオン君が死ぬなんてね。びっくりするよ」
強がっているように見えるが動揺を隠せていない。あれだけの強者が死んでしまったんだ。強さの研究をしていた人間からすれば、絶句するほどの案件だろう。
「思い返せば、シオン君は一度も僕の修行に来たことなかったね。いつも僕たちが、シオン君の映像を撮ってそれを見て訓練するだけ……。一回くらい直接見たかったなー」
「……ん?待ってください!映像あるんですかっ!?」
「あるけどどうするの?」
高嶺先生は、棚の中にあるDVDを取り出して私に見せつける。その枚数は10枚。確か動画の長さは4分くらいだったから、合計40分かぁ……。
「その映像くださいっ!ぜんぶっ!」
生きているシオンが見れる……それだけで幸せだ。
「いいよ。……。……聞いていいか分からないけど聞くね。もしかして野乃ちゃんってシオン君のこと……好きだったの?」
私は動揺した。櫻田圭吾にも同じことを聞かれた。私はまた……否定しようとしてしまった。自分に嘘をつこうとしていた。
横に振ろうとする首を押さえ、口も押さえた。そして、縦に首を振った。初めて、自分の気持ちを素直に伝えられた。大きな成長かもしれない。
「……そっか、それは辛かったね。だったらこの映像を高画質化するしかないな!もっと見やすくしてあげるよ」
「ありがとうございますっ!!」
高嶺先生は私の背中をさすってくれた。その手は、私を慰めるだけじゃない気がした。高嶺先生も何かを抱えているように感じた。
「もしかして……先生も誰か好きだったとか?」
「……!?」
「あはは、バレちゃうかぁ〜。そうだよ、僕も君たちと同じ年齢の時、好き人がいたんだ。振られちゃったんだけどね」
その声は、明るく聞こえるだけだった。実際は、辛かったのがわかりきっている。触れると可哀想だから触れない。
「悲しかった……ですよね?」
「そりゃ〜もちろん!でもね、素敵な人を見つけたんだよ。ほら、これ!」
高嶺先生は左手をおもむろに私に見せつける。そこには、光り輝く綺麗な指輪。結婚しているのが丸わかりだ。
「何が言いたいかっていうとね。今、辛いかもしれないけど、絶対素敵な人は見つかる!それだけは覚えておいて」
高嶺先生は私を励ましてくれるために、この話をしてくれたのだろう。私の心は温まった。
素敵な人かぁ……野乃は、1人だけで十分かな。
私はそう思い、少し笑った。結婚する気なんてとうにもない。私の全てはシオンだったから。
「話はここまで!今からは修行タイムだよ。休んだ分厳しく行くからね。辛かったら言ってくれてもいいよ?」
「はいっ!でも、投げ出しません。野乃は強いですからっ!」
「それでこそ野乃ちゃんだ。いつもの調子が戻ってきてくれて嬉しいよ!……まずは、2年生について分析しよっか?」
高嶺先生はそう言うと、この前の試合映像を見せてくれた。内容は、“蒼淵”と“嘲夢団”の戦い。ここで蒼井爽馬が敗北してしまったらしい。
敵の情報を知れることは大きな勝利につながる。だから、1番最初に戦うことはリスクが高い。それを弱かったからと言って残してくれた爽馬には感謝しかない。
「……この“蒼淵”のリーダー、シオンみたい」
「あっ、わかる〜。1発1発の重みが違うんだろうね。でも、シオンには及ばない。野乃ちゃんなら勝てると思うよ」
「ありがとうございますっ///」
褒められることは悪くない。でも、褒めてくれる人がシオンだったら嬉しいだけじゃ、済まないだろうなぁ。……シオン。
映像で気になったのは、幹部クラスと呼ばれているのに何一つ行動をしていない人物だ。名前は、鮫島鋭牙と言うらしい。よくよく考えたら“蒼淵”のチームメンバーって海関係が多い気がする。
「高嶺先生……この鮫島って人、なんなんですか?何もしてないし、強さが分からないですっ」
「う〜ん、僕にもわかんないんだよね。1年生のデータも目立った活躍はない。……弱いのかもしれないが幹部クラスを考えると侮れないなぁ」
敵の情報を掴めてないとすぐ負けてしまう。“覇者”と戦った時も、圭吾がリーダーの勝野智哉と間違って戦って負けた。結局は情報戦なのかもしれない。
「僕が1番懸念すべきなのは、波留美汐ちゃんかな。実力は……かなりやばい。きっと君の幹部クラス3人を使わないと勝てないかな」
冷静に言っているがかなりまずい。“反逆者”の幹部クラスは、大海羅瞿と細井篤樹、真緒治郎、芝ななみの4人だけ。しかし、羅瞿と篤樹はセットで考えなければないらない。実質3人だ。
他の幹部クラスにも対処しないといけないのに、波留に3人も使って入れない。冷や汗をかく。今までで1番のパンチかもしれないから。
「あの……他の幹部には気をつけなくていいんですか?……鮫島に人数回したらかなりキツいです」
「悩むけどね。このサディストの貝沼真珠ちゃんは、ななみちゃんと戦わせるべきだね。……きっと相性がいいよ」
「なるほどっ!野乃、相談します」
その言葉は自信をくれるものだった。攻略法を作ることで、チーム全体が戦いやすいはずだ。私は軽くガッツポーズをして、感謝した。
「……今日はこれくらいでいいかな?また、来てくれたらみてあげるからね。……絶対に勝って日本をよくして……ください」
「はいっ!野乃、絶対に勝ちますっ!!今日は、ありがとうございました」
私は足早に部屋を出た。もっと修行すべきだろうが精神が安定してから日が浅い。もう少し甘えてもいいよね?
◇2032年12月18日 風花中学校・校庭◇
空気が乾燥していて肌寒い。校庭には霧がかかって見えにくいが戦える。いや、戦わないといけないから戦うんだ。
シオンができなかったこと、私が全部したい。胸に手を当てて考える。シオンならどうするか、私はどうすればいいかを。
「おい!!野乃姉貴、体調戻ってよかったすね!女の子泣かしちゃうなんて罪な男だよなぁ。シオンって!!」
「羅瞿、シオンくんの悪口を言うのは良くないですよ」
「えっ?俺、悪口のつもりじゃなかったんだけどな。そう聞こえたらごめんな!」
羅瞿と篤樹は、元“反逆者”でも同じ仲間だったから安心できる。いつものバカなやり取りをしているだけで、あの頃に戻れるような気がするから。
「作戦は前話した通りだからねっ!間違ったら後がないから、覚悟してよ!」
「はぁ〜い♡ちゃ〜んとわかってまぁすっ♪……野乃ちゃんこそぉ?がんばって、ね〜♡」
「……勝たせてもらう。あと、爽馬はボコボコにする」
ななみと治郎もいつも通りだ。ななみには感謝をしているが、やっぱりうざい。女の敵だ。治郎も爽馬への恨みがすごい。
静かな校庭には、私たち3年生と敵2年生のみが立つ。ここで勝たないと私の物語は終わってしまう。本来なら……シオンと紡ぎたかった物語。でも今野乃だけのもの。
期待はずれなんかさせない。天国にいるシオン見ててね♡野乃、頑張るからっ!




