第二十四話 演説
◇2032年4月3日 北九州市・皿波ビュッフェ◇
私たちは、ようやくすべての3年生チームを倒せた。樹焔、如月、南国、機械者、PSYCHO、そして覇者。この6つ。誰一人かけることなく、1年間を乗り越えられたのは、すごいことだと思う。
今日は、春先シオンの約束通り反逆者6人でビュッフェに行くことになった。噂に聞けば、ここは北九州市の中で1番高い、高級ビュッフェらしい。貸切で、すべてシオンの奢り……。
…でもでも、野乃は優しいから自分が食べた分は自分で払うよ!他のメンバーは払わないと思うけど。……ねぇシオン、野乃いいお嫁さ……っ!!違う、違う!
外観はどうみたって高級ホテル。最上階が、ビュッフェのあるレストランらしい。エレベーターに乗ったけど、ボタンの数が多すぎる。40階建てって大変だ。
内装も外観に劣らず、高級感が溢れている。私の家は、貧乏でも裕福でもないけど、これは絶句してしまうほどすごい。
1番最初に動いたのは、大海羅瞿だった。教室4つ分のスペースに置かれた6人用のでかくて、高級そうなダイニングテーブル。そして、左右には絶対に美味しい食事が置かれている。
羅瞿は、自分が座りたい椅子に上着をかけ、右に置いてある食事を取りに行った。どちらかといえば、ローストチキンやローストビーフ、アクアパッツァなどのメインディッシュが置かれている。
左には、デザートやちょっとしたおつまみ程度のもの。羅瞿が食事をとり、先に戻った時、私たちは動き始めた。こんな高級な場所に来ることなんて滅多にない。だからシオン以外はお腹を空かしてきている。……よだれが止まらない。
櫻田圭吾や蒼井爽馬は、飢えた野生動物のように肉ばかり取っていた。細井篤樹は、栄養バランスを考え、サラダやスムージー、スターゲイジーをとっていた。前者二つは洒落ているが、最後のはキモい。
私は、もちろんシオンの後ろをついていく。シオンは篤樹と同じように、バランスを考える。……偉い♡
シオンが取ったものと同じものを、私のお皿にも乗せる。高級ビュッフェなんて行ったことないし、わからないからおかしくないよね?
シオンは一気に食事をとるタイプではなく、ちまちま取りに行くタイプだ。私も今日からそうしよう。シオンが先に向かった時、大問題が起きた。
シオンの前が空いてない!6席用意されているから、2人が向かい合うよう設置されている椅子が3つある。すでに片方の3つは、羅瞿、篤樹、爽馬で埋められていた。もう片方には、端っこの方にシオン、そして真ん中に圭吾。
つまり、空いている席がシオンのことを見れないし、近くもない。もっと配慮してほしかった。
「……圭吾。ちょっと床で食べよっか?野乃は副リーダーだよ?副リーダーの命令だよ。それか、席をずれよっか?」
「なんでだよ!俺まだ食べ始めたばっかなのに。席空いてるんだからそこに座ればいいのに。それと副リーダーの話題を出さないでくれ。悲しくなる」
「……。ちっ!もういいよ。野乃が地面で食べるから!」
私はそう言って、シオンが座っている椅子の近くで食べ始める。床が硬くて食べにくいけど、シオンを見てればそんなことはどうでもよくなる。
「この肉美味いなぁ!!篤樹も絶対取るべきだって!!爽馬も一枚だけじゃ足りないだろ!俺のもやるからもっと食べろ!」
「いらないですねぇ〜。それよりも、このレアステーキ最高ですねぇ〜。まるで焼かれてない生肉のようでぇ〜」
「それ大丈夫なんですか?僕は、普通に焼かれた肉の方が絶対美味しいと思いますけどね。味覚は人それぞれですが」
羅瞿、爽馬、篤樹が楽しく談笑している。シオンは、あまり食事中に喋るタイプじゃない。
ちょっとは野乃とお喋りしてくれてもいいじゃない!!
そう思っていると、まるで願いが叶ったようにシオンが話しかけてきてくれた。……神様っているんだなぁ。
「野乃……先に戻れ。そこがいいなら無理には止めないが、座っていた方が印象はいい」
「ここがいい!野乃は圭吾がどくまで、ぜっーたいに動かないからっ!」
「まぁいいや。……。……。あっ、副リーダー就任おめでとう。これで俺の仕事が楽になるな。何もやってないけど」
「そ、そんなことないよっ!?シオンはいつも、みんなを引っ張ってて……いるだけで最高なんだからっ!……これからは、野乃が、もっと支えられたら……いいなっ♡」
色んな意味で♡きゃあああ〜♡はぁ、現実でも言えたらいいのになぁ。
「……。そうか……。“反逆者”に入って良かったか?俺はお前を誘って良かったって思ってる。だって、強いし、面白いからな!」
「…………………っっ」
「……シオン、それ……ずるいよ……っ。そんなの言われたら……野乃、もう、頑張るしかないじゃん……!」
「感謝するのは……野乃の方だよっ!……シオンが誘ってくれたから居場所が出来た、楽しい思い出も出来たっ!シオンがいたから……野乃、ここにいるんだもん」
「そうだなぁ。……野乃だけじゃない。みんなにも感謝している。ここまで進めたのはみんなのおかげだ。ほんっとうに…ありがとう!」
シオンは椅子から立ち上がり、みんなに頭を下げた。みんなは笑っていた。バカにする笑いではなく、当たり前だと言う意味を込めて。
「今日のシオンくんは珍しいですね。いつもなら感謝なんでしなそうなのに」
「篤樹の言うとおりだ!!辛気くせぇのは、俺嫌だぞ!今日は楽しく飲み会しようや」
「そうですよぉ〜。僕なんて向こうに置いてあるパン、すべて食べ尽くしましたからぁ〜。圭吾さんもできますよねぇ〜」
「爽馬は、俺に期待しすぎているんだよ!そこまで言われたらやるしかないなぁ。勝負としてやってやるよ!」
「それよりもさっ!ねぇねぇ、野乃、乾杯したいなぁ!ここまでがんばった野乃たちに!!こういうのってタイミング逃すとできないじゃん!?だから今、やろ!ねっ!シオンも、みんなも、ちゃんとコップを持って!!」
「仕方ないなぁ。確かに、こんな機会はもうないかもしれない……。俺の掛け声でやろうや」
シオンは、そう言ってコップを構えた。みんなもワクワクしながらコップを持った。
「え〜と、これまでの反逆者の頑張りに……」
「「「「乾杯っっっ!!!!」」」」
「乾杯です」
「乾杯ですねぇ〜」
◇2032年4月12日 風花中学校体育館◇
4日前に、私たちはついに中学3年生なった。そして、今日はシオンの演説!新1年生に向けて、バトルの心得とか話してくれるらしい。私たちの代じゃなかったのに。
一応、私たちも壇上の上で待機することになっている。シオンの後ろ姿楽しみ♡
けど、シオンはなんかやつれているっぽい。まるで、長距離をノンストップで歩いた人のように。私は、理由が気になるすぎて尋ねてみた。
「なんで疲れているかって。……そりゃあ、成田空港からここまで歩いてきたんだ。疲れるに決まってる」
「えぇぇぇ!?……どうしてぇっ、そんなことになってんのっ!」
「目が覚めたら成田空港にいたんだよ。アンジュと一緒に。アンジュは一個年上だからさ、卒業したじゃん。だから、アメリカに帰るって前々から聞いてた」
「アンジュは『シ、シオンくん……も、一緒に、アメリカで、くらそ?』とか言われて誘拐された。めちゃくちゃ引きずられたけどなんとか助かった。そして、見送った。で、歩いて帰ったわけ」
「へぇ〜。それは災難だったね」
よっしゃ!よっしゃ!アンジュっていうシオンに色目を使う女は帰ったっ!!つまり、野乃の勝ち!サイコー!
「まぁそのあと、原稿書くの忘れてたから今日は徹夜だ。演説には問題けどな!」
シオンは笑いながらそう言った。シオンが元気そうで私も元気をもらえた気がする。
新一年生が入ってきた。そして、長い校長の話。昔の私は、こんな学校なら入らなかったって言ってたっけ?と思い出に浸りながらやり過ごした。
新一年生たちはやる気に満ち溢れている。だって、自分たちが新しい政府になれる可能性があるから、誰だってやる気が出るはずだ。逆に、なんで野乃は一年生の時、1人だけやる気なかったんだろ?まぁどうでもいいや!
……あっ!シオンの番だっ!えっと……えっと、あった!ボイスレコーダーっ!これで録音しなきゃ。
シオンはゆっくりと、壇上に上がる。その姿は、一年生からすれば変えられない壁に見えるだろう。もし私が一年生なら漏らしてるかも。……シオンがカッコ良すぎて♡
「今日から、この風花中学校での生活が始まる。不安や恐怖があるかもしれない。……それは当然のこと。だが、ここはそういう感情を押し殺して生きる場所じゃない。むしろ、感じる力を失ったものから、脱落していく。敗北者になるんだ」
「この一年で、君たちは何度も『選択』を迫られるだろう。誰を信じて、誰を裏切るか。何を守るか。何を見捨てるから。簡単な答えは、一つじゃない。……複雑だからだ。一つだけ言えるのは、強さとは、力だ」
「俺は他の人よりも確実に強い。だから誰かを守る立場になることを強いられる。……弱いやつも支える立場になることを強いられる。なら、努力すればいい。そしたら、現状は変わる。確実にな!」
「今日ここにいるという事実が、君たちの“強さ”の証だ。その強さを……自分の新たな仲間と共に育んで欲しい。俺は、直接関わることはないが3年生として……期待している。これからがんばーー」
パンッーー!パン、パンッ!!
高く乾いた破裂音が、空気を裂いた。誰かが拍手の音だと勘違いしかけたその時。
シオンの胸に、赤い花が咲いた。
「……はぁ」
シオンはそのまま後ろ向き倒れた。心臓には当たってないが腹部や胸部には、穴が空いている。かろうじて息があるようだ。
銃声の発生源は、体育館入り口上部、2階の観覧通路。腕のなるスナイパーが撃ったのだろう。すでに姿を絡ましていた。
もう、びっくりした〜って!はいカメラ!ね?あの角とかにあるでしょ!?ドッキリ大成功!!ってやつ!!
私は信じられなかった。いや、信じたくなかったんだ。少しでも、現実から目を背けるために妄想に浸りたかったんだ。
「ねぇ、やだ……やだよ……ねえええええええええええ!!」
私は気がつくとシオンの横に駆け寄っていた。他の反逆者のメンバーも一緒に。
シオンはかろうじてまだ話せる様子だった。話すよりも生きることに力を注いで欲しかった。
「……あぁ、みん、なか……。わるいなぁ…撃たれ、ちゃっ、たかぁ。ふはは、まぁ、こう……なる…か。」
胸のあたりに手を当てると、べったりした感覚。見下ろすと自分の手が真っ赤に染まっていた。
「……さい、ごに………言って、いく…ぞ。のの、は“はんぎゃ……くしゃ”をうけ、つげ!……リーダーになれ……はぁはぁ」
「……あと、おれが……もし生きて……たら、ふ、くりー……ダーにして……くれよ」
「りく……や、あつ、きは野乃の、し、た……へ。け、いごや……そうま…は…………新た……にち、、ーむを……はぁ、つく……れ」
「……の………、…………の……………………すき…………………っ!」
シオンは最後にそれを言って目を閉じた。誰が呼んだかわからないがなぜか救急隊員がすでにシオンを運んでいた。
「はっ……あっ……ぅ、うっ……」
息が……できない。肺に空気が入ってこない。喉に息が詰まる。
「あ、あ、あっ……シ、オン……っ!!」
言葉にならない。酸素が入ってこない。喉がひっくり返ったみたいに震える。目の前が歪む。運ばれいるシオンなんか見えない。視界の端が白くにじむ。
「やだ……やだやだやだやだやだ……!なんで……!なんでこんな……っ……!」
誰かがシオンが入った救急車に入ろうとした。しかし、すべて拒まれた。相当やばいという状況が誰から見てもわかる。
「あ……っ、は……あ、がっ……あぁ……っ……!」
とうとう声も出なくなってしまった。口を開けても、息すら掴めない。眼球が裏返りそうになる。手足が痙攣する。世界がクラクラする。
「おい野乃!落ち着け。まだわからない。助かる可能性だって」
誰かが喋っているが、そんな声聞こえるはずもない。数時間は床に突っ伏して泣いていた。
私が泣き止んだ時、校長から搬送先の病院に送る救急車の中でシオンは、息を引き取ったと聞かれた。




