第二十一話 偵察
◇2032年1月16日 風花中学校部室◇
翌日、戦いのあった校庭には、無惨に踏み荒らされた雪と、いくつかの倒れた雪だるまだけが残されている。痛々しいくらいの静けさが、昨日までの壮絶な戦いを物語っていた。
私はまだ信じられないでいた。昨日、あのやばい嫁持ちの男……蒙古大胆がリーダーのチーム”PSYCHO”を、春先シオン抜きで倒し切ったことを。
「野乃姉貴はやっぱすごいっすね!!俺にはあんな威力出せないっすよ!」
大海羅瞿が遠くから手を振って私を褒めてくれた。あのあと軽い脳震盪だったらしいが、今は元気みたい。細井篤樹も、一生懸命にハンマーを磨いていた。
そして、私は1人……校庭の隅に立って、校門の方を見つめていた。
……今日、戻ってきてくれるんだよね
春先シオン。私たち”反逆者”の中で、最強で、優しくて、かっこよくて……♡そして私が好……す、素敵だと思う人!!!!
私がシオンのことを好きなわけないじゃん!自分でもどうかしているようだ。一瞬でも好きと言いかけた自分を悔いたい……。
胸がぎゅう、と締め付けられる。なんでだろう。会うのが怖いような、でも、楽しみで仕方がないような、そんな気持ちがごちゃ混ぜになっている。
……足音がした!乾いた雪を踏む、静かで確かな音。私は気づいたら走り出していた。
「シオンっ!!」
駆け寄る私に気づいたシオンは、少し驚いた顔をして、でもすぐに小さく笑ってくれた。
「ん……あっ、野乃か?一昨日ぶりだな」
その瞬間だった。私は気づいたら彼の胸に飛び込んでいた。言葉よりも先に、体が勝手に動いていた。
「……っ、ばかぁっ……なんで昨日来てくれなかったの……寂しかった♡……心細かったんだから……」
胸に顔を埋めながら、私はそう言った。声が震えていたのは、寒さのせいじゃなかった。シオンの制服は冷たくて、でもほんのりあたたかくて、私の心まで包んでくれるような気がした!
……そして、どさくさに紛れて、私はふんわりと鼻を動かした。
っっ……うわぁぁっ、シオンの匂い♡
柔らかな洗剤の匂いと、下関から歩いてきたのだろう……少し汗の混じったような、でも全然嫌いじゃない……むしろ、めちゃくちゃ落ち着く香り。
私は気づかれないように、そっと息を吸い込んだ。
……あぁぁっ、これ……シオンの……体臭……っ♡野乃だけの……もの♡
頭がくらくらする。これはいけない、へんなスイッチが入っちゃう。今にも顔を擦り付けてしまいそうで、ぎゅっと自分を抑えた。
「シオン……俺を副リーダーにしてくれ!!」
ちっ。
邪魔者(櫻田圭吾)が来てしまった。もう少しだけシオンの胸に顔を埋めておきたかったのに。私はしょうがなく離れた。
「副リーダー……か。いいぞ!ただし、最後の戦いでお前が負けなかったらな」
シオンは笑いながら言った。シオンが笑う時はだいたいは本音である。つまり、圭吾が勝ってしまえば野乃はシオンの横にはいられない。副リーダーにならなきゃ……。
「待って!……野乃が副リーダーになるから圭吾は黙ってて!!!」
「はぁ!?俺が先にシオンから許可を得たんだ。野乃がおかしい!」
私と圭吾は目を合わせてばちばちに歪みあった。シオンはめんどくさそうに雪を集めて椅子を作っていた。
「あーもうめんどくさいなぁ。……最後の戦いで敵の副リーダーを倒した奴が副リーダーな。これで文句はないだろ」
シオンは作って椅子に座りながら賢い提案をした。野乃も圭吾をそれでいいと納得した。蒼井爽馬も仲間に入れて欲しそうにみていたが絶対に近づけるものか!
学校に来てもすることがないシオンは帰ろうとしていた。私は急いで近づいてシオンの背中に小瓶を当てる。そしてすぐ離し、蓋をする。そうすれば匂いをゲットできるはず♡
シオンが帰った後、私はその瓶を大事に抱えて部室に置いた。絶対に壊すわけにはいかないんだから。だってこれは国宝なのだから!
◇2032年2月9日 風花中学校 コンピュータルーム◇
私たちはある人に連絡をもらい集まった。そいつはアンジュ・アンダーソンという元”機械者”のリーダー。つまり、中学3年生で私たちよりも一歳年上。
アンジュはシオンに色目を使う不届き者として女の敵だと思っている。ちょっと優しくされただけで惚れちゃうなんてちょろすぎ。
「……み、みんな……特にシオンくん♡よ、よ、よく集まってく、くれたね……ありがとう」
「話ってなんですかぁ〜?つまらないなら今すぐ帰りますよぉ〜」
アンジュは俗にいうコミュ障インキャというものらしい。爽馬に詰められて相当ビビっている。タジタジしながら話を続けるアンジュ。
「えっ、あ……集まってもらった、のにはほか……でも、な、ない。つ、つぎのチーム……について……教えて、あげる」
アンジュは小さい体ながらも腰に手を当ててドヤっている。どうみたって小学生にしか見えない容姿に私は運動会の時にリレーで一等を取った子供に見えてしまう。
「次のチームについて教えてもらう必要はない。なぜなら俺はリーダーを1人倒しているからだ!」
圭吾はいつまで過去の栄光を引きずっているのだろうか?1人倒したぐらいでイきれるなら私もとっくにイきってるし、シオンに褒めてもらいたい。
「つ、つぎの……チームは、べ、べっかくでで、つよいよ。その、名も……”覇者”だよ」
「覇者って名乗るってことは相当強いな。確かにアンジュさんのいう通りだな」
シオンはアンジュの肩をポンポン叩いて笑っている。
……ふざけるな!野乃にもしろー
と思いながらも声には出さなかった。流石にドン引きされると思ったからだ。別にシオンのことが好きじゃないから。
「その情報をどうするんですかね。僕たちは何をすれば?」
「まぁ〜落ち着けって篤樹!!!相手のチームなんてわかったって何も変わんねぇぜ!!ただ倒すのみ!!」
また、篤樹と羅瞿の温度の差が激しい会話が続いている。アンジュは離そうとするが2人の空気についていけず、もじもじしている。
「あっ、そのぉー……偵察を、進めたい……です。偵察、すれば……情報、あ、あつまる。リーダーは………勝野智哉君だよ…」
「偵察って面白そうですねぇ〜。僕がやりたいですぅ〜。必ず成功させますからぁ〜」
「爽馬に任せるべきじゃないよ!ここは野乃にまかして……野乃なら完璧にこなせるから」
「野乃……お前はやるべきではい。隠密行動が得意な爽馬の方が適任だと思う。野乃は待機してくれ」
「……はい♡」
やっぱりシオンの言うことには逆らえない。どうしてだろう?でも、私よりも爽馬の方が気配は薄いかな。私……目立つし!
「えっ、あー決まった……みたいですね。あっ、今日か、から、1ヶ月…お願い、ね」
「わかりましたぁ〜。みんな僕の活躍待っててねぇ〜」
そう言いながら爽馬は、部屋に置かれていた探偵帽子らしきものを持ってコンピュータルームから出て行った。圭吾はかなり心配している。
「あいつ大丈夫かよ。俺かなり不安なんだけど」
「まぁ……結果次第ですよ。僕は成功するに千円賭けます」
「篤樹ずるいぞ!!だったら俺は成功しないな三千円だ!」
「篤樹と羅瞿……そんな少なくていいのか?俺は成功しないに五千円賭けるぞ!!」
「「まじ!!」」
馬鹿3人はめちゃくちゃ盛り上がっている。私は馬鹿らしくなり、シオンと一緒に帰ろうとしたが、シオンの姿が見えない。
「シオンくん……この後、時間空いてる?カフェでお茶したいなって思って♡」
「……アンジュさん。そのカフェってデザートとか置いているんですか?あるなら行きたいです」
「も、も、ももちろんだよ!!!プリンだって、ドーナツだって!!食べ放題!……アーコレカラデートシチャウンダ♡」
「早く行きましょう!!時間は有限なので……急がないと店が閉まる可能性が!」
「待って〜シオンくん♡もう……強引なんだから♡」
シオンはアンジュの手を引っ張ってコンピュータルームから出て行った。
……。
……。
あのアンジュってやつ、絶対に許さない。次は絶対に私が誘ってやるんだからぁぁぁ!!!




