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反逆者  作者: つゆさき
第二章 〜風花中学校2年生編〜
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第十五話 ムカついたから

◇2031年8月17日17時 志賀島◇


 花火大会を成功させるためには2つのことをしなければならない。一つは、シオンの家を燃やした犯人を捕まえてシオンを元気にさせること。もう一つは、シオンと2人きりになること。


 まずは、一つ目を解決しないと話は進まない。このままでは花火大会の話はなかったことになってしまう。それは非常にまずい。


 圭吾、篤樹、羅瞿には花火を買ってもらうためにタクシーを呼んで博多の方に向かった。残った私と爽馬、そしてシオンは犯人を捕まえることで合意した。


 シオンに言われるがままに私たちはビーチに戻った。この時間帯は夕方に近く、赤く光る夕陽が綺麗だが誰1人として泳ごうとしない。クラゲが多く出現するからだ。


 つまり、今ビーチにいるのは私たちの3人だけ。どう考えたってここに犯人がいるはずもないのにシオンは覚悟を決めたような目をしていた。


 爽馬が先導して海の家に向かった。海の家自体はまだ閉まっておらず、従業員が1人だけ残っていた。額に汗を流しながら一生懸命作業しているのは朝に会った甘夏蜜柑。閉店間際でもみんなのために行動していると思われる。


 私たちが近づくと、蜜柑がこちらに気づいて手を握ってきた。帽子を取った彼女の顔は夕陽に照らされて、まるで女神のように美しかった。


「さっきはありがとうね〜。かき氷、おいしかった?」


「はい!美味しかったです!」


 私は即座に答えた。シオンが返答していい関係になられては困るからだ。しかし、シオンの方を見ても最初から答える気は無さそうだった。


「それはよかった!で?ここにきたってことは……何か注文するってことだよね♪何にする!おすすめはねぇ〜」


 蜜柑は笑顔で対応してきた。私も笑顔で返す。そして渡されたメニュー表を見ながら何にしようかと迷った。爽馬とシオンはずっと黙ったままだ。けど、シオンは口を開いた。


「いつまで……そんな態度をしているんだ?」


 その瞬間、周りの空気感が変わった。蜜柑の笑顔がすっと消えたがすぐにニコッとして焦ったように返した。


「……え、なにが?シオン君、どうしたの?」


 蜜柑は無邪気な笑顔を保ったまま、少しだけ首を傾けた。だが、その笑顔の裏にある冷たい違和感は、私にも伝わってきた。


「証拠はあるんですよね〜。春先くんのスマホに匿名で動画が送られてきたんですよ。あなたが家を燃やす姿がね」


「最初からおかしかった。ただの店員にしては喋りすぎだし、名前まで名乗ってくる。初対面にしては親しげすぎる」


 爽馬とシオンは蜜柑を問い詰める。その瞬間、蜜柑の目がすっと細くなった。笑っているようで笑っていない。まるで、仮面の裏の本性が見えたような気がした。


「……あーあ♡バレちゃったかぁ」


 蜜柑の声はさっきまでのトーンと全く違った。明るく、無邪気で、どこか人を喰ったような音声。まるで巷で有名なメスガキのような喋り方だった。


「お前、3年生だろ?」


「せいか〜い♡あたしは風花中学校の南国トロピカルのリーダー、甘夏蜜柑ちゃんで〜す♡ピチピチJC3年生っ♪」


 今ようやくわかった。シオンは初めから甘夏さんに好意なんて持ってなかったんだ!あの目やあの態度は全てこの犯人に対する殺意だったんだ……。

 私は安心した。もし、シオンが蜜柑に好意を持っていたら私がおかしくなりそうだったから。

 

「どうして……家を燃やしたの?」


「あ〜聞いちゃうんだ♪そ・れ・は、ムカついちゃったからだよ♡君たちが仲良くしていることにね」


 私の問いにバカにしたような口調で蜜柑は答えた。シオンは普段から怒ったりしない。それなのに、頭から血管が浮かび上がるほど怒っていることが目に見えてわかる。


「そんなくだらない理由で?俺の家を燃やしたのか……」


「くだらなくなんてな〜い♡ あたしにとって幸せなんてゴミだし? だったら他人にも味わわせてやらないと、平等じゃな〜い?」


 蜜柑は肩にかけていたポーチからナイフを取り出して私たちに向ける。そのナイフは錆びていてすでに誰かを刺しているように血生臭かった。


「春先くん、深雪さん!ここは僕に任せてくださいよ♪こんな狂った人が痛みで降参するなんて興奮しちゃいますって」


 銃を構えた爽馬はそう言って前へ出た。シオンは爽馬の肩を掴み、そのまま後ろに投げ飛ばす。


「うわ〜投げ飛ばすとか酷くないですか?まぁ構わないですけどね」


「これは俺の問題だ。2人は手を出さなくていい。危ないから野乃は離れてくれ」


 ……はい♡

 私は心の中で返事をした。私のことを心配してくれている。かっこいい……♡

 

 砂浜に頭が刺さって倒れている爽馬を引っ張り出して私はシオンが見える位置まで離れた。


「え〜?ねぇねぇ、もしかしてさぁ……1人で勝てると思っちゃってるの♡なにそれ、あたしのこと舐めてんの?こ〜見えて結構強いんだよ?後悔しても知らないんだから〜♡」


 シオンはナイフを蹴り飛ばした。蜜柑もナイフを一瞬で蹴り飛ばされるとは微塵も思っていなかったようで額から汗がこぼれ落ちる。


「ちょちょちょ、ちょっと待って!!まだお話ししたいのに一瞬で終わらしていいの?よくないよねぇ♡だから一回攻撃をやめよ♪ね?」


 シオンは攻撃をやめる。そして尋ねた。


「どうしてムカついたんだ?匿名のメールではお前は優しくて頼りになる子って書いてあったんだけど」


「メールを送ったのはあの子かな……」

「あたしもね!最初は家を燃やそうとか思わなかったんだよ〜。でもね、君たちがキャンプしてるのを見て壊さなきゃいけないって思ったんだよ!その友情を♡」


「………」


「昔、あたしの仲間が死んだの!だから友情を壊したくなっちゃうの♡家を燃やすことはおかしくないし、問い詰めてくるシオン君がおかしいの!ねっ!あたしを見逃そ♡」


 そう言いながら蜜柑はポーチを探る。隠し持っている予備のナイフを取り出すためだ。シオンもバカではないのでポーチを掴んで海まで投げ飛ばした。


「あっ!」


「……わかった」


 蜜柑はシオンの言葉を聞いて胸を撫で下ろした。次のシオンの言葉に泣き喚くとも知らずに。


「1発で終わらしてやるよ」


 その目は怒りも憎しみも超えて、ただ静かに燃えていた。


「ちょ、ちょっとやりすぎただけじゃん!?火をつけたのも……本気じゃなかったし!ね、ねっ?ごめんってば……あたしが悪いって、認めるからっ!」


 シオンは無言で蜜柑に向かって一歩、また一歩と近づいていく。足音だけが、静かな砂浜に響く。


 ――殺される。


 その本能的な恐怖が、甘夏蜜柑の虚勢を完全に崩壊させた。


「あっ、あっ……じゃあさ、ほら!お姉さんが君の彼女になるからっ!ね?それで、問題は解決ってことで、どうかな?あたし、結構可愛いし、スタイルもいいし、他の子より絶対――」


 私は蜜柑を哀れに思った。シオンの地雷を2つ踏んだからだ。シオンは命乞いするのと彼女になりたいということが大嫌いだ。


 「湊晴がいれば……。こんなに壊れたりしなかったのに……」


 蜜柑は軽くつぶやいた。シオンは尻をついて倒れている蜜柑と目線を合わせるためにしゃがみ込む。そして、右手を強く握り、軽く蜜柑の顔目掛けて殴る。


 軽く殴られたはずなのに、蜜柑の身体は大きく揺れ、崩れるように倒れた。惨めに鼻から血を流しながら。シオンは恨みを晴らして満足したようでいつものように笑顔になった。


 シオンの1発の威力はおかしい。例えば、頭を普通に殴れば頭蓋骨が割れる危険性がある。だからシオンは手加減をしたことが目に見えてわかった。


     ◇◆◇◆◇


 蜜柑は救急車で運ばれた。治療を受けたのちに警察へと連れていかれるらしい。相応の報いを受けてほしい。


 ……けど、甘夏さんのおかげでシオンが家に来てくれた。それには感謝しています。

 私はそう思いながら戻ってきた圭吾から花火の入った袋を受け取る。


 急いでシオンの元へ走るがビーチには寝転んでいる爽馬の姿しか見えない。


「爽馬……シオンの姿が見えないんだけど知ってる?野乃、会いたいんだけど」


「春先くんなら僕の家に帰りましたよ〜。目的を果たしたら帰るなんてあの人らしいですよね」


「そんなぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 せっかく、甘いセリフとかシュチュエーションとかも考えてきたのに。まだチャンスは絶対あるはず!私は諦めない。


 結局、夏休みに花火をすることは一度もなかった。

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