第十四話 海の家
◇2031年8月17日9時 志賀島◇
ようやく志賀島に着いた。いつもならシオンが運転する車に乗るんだけど大破している車には乗れない。だから電車に乗ったんだけど快適すぎる。
昨日、シオンがみんなに連絡した後、私は急いでデパートへ向かった。水着を買うために。シオンのとな……中学生に相応しい水着を見つけるのは難しかった。
私は年齢にしては大きい方だと思うし、見せるならやっぱり可愛い方がいいと思う。タンキニ水着の上はまるでパーカーのような水着、そしてショートパンツみたいなもの。
露出は少なめだけどきっと見てくれるはず……。
私はそう思いながら更衣室から出た。シオンを一目散に探すが海側もビーチ側にも姿は見えなかった。
「……どこ行ったの、シオン……」
私は少し不安になりながら浜辺を歩いた。お盆が明けたばっかりなので海水浴場は色んな人の声で混ざっている。
昨日、あれだけ楽しそうだったのに。もしかして私が変なことしたから?
そんなわけがない。私は可愛いはずなんだから一度見たら見惚れてしまうからあえて離れてるんだ。きっと。
けれど、焦りは消えなかった。なんでだろう、鼓動が早いし、胸もなんだか苦しい。熱中症かな?それともシオンを信用できない罪悪感?
「野乃姉貴〜〜!」
遠くの方から羅瞿の声が聞こえた。何故か頭の上にカニが乗っていることはスルーしよう。
「野乃姉貴!シオンを慰めてやってくれよ!あのパラソルの下でうずくまっているから話しかけてあげて。野乃姉貴ならできる!」
羅瞿が言い終えた後、私は急いで例のパラソルに向かった。水着を見せたいのではなく、普通に心配しているからだ!!
パラソルを覗くとうずくまっているというよりも逆立ち?をしていた。でも、朝と比べて顔色は悪い。
「シオン、大丈夫?羅瞿が、シオンが落ち込んでるって……言ってたからさ!」
シオンは私の声に反応し、仰向けになるように倒れた。シオンは暗い顔をしながら口を開けた。
「実は……水着を忘れてしまったんだ。海のことばかり考えていたら、水着じゃなくてボートを優先してしまった……。泳ぎたいのに泳げないよ」
シオンはかなり項垂れている。確実にいつもの3倍くらいは落ち込んでいる。楽しみにしていたからしょうがないかもだけど。
「見て見て、野乃の水着!昨日めっちゃ悩んで買ったんだよ?……ど、どうかな!?可愛いでしょ!」
今のシオンにこんなことを言うのは間違っているかもしれない。けど、やっぱり褒めてほしい……可愛いって言って欲しい。
「……あー、確かに。いつもと違う雰囲気で可愛いんじゃないか」
まるで言わされているような口調だったがそれでも満足した。シオンが私のことを可愛いと言うことなんて滅多にないし、録音したけばよかった。
私は、シオンを無理矢理引っ張って海の家まで連れて行った。少しでも元気になってもらおうと少ないお小遣いでかき氷を買おうしたのだ。
海の家の周りには多くの人が群がっていた。数十分ぐらい待っているとやっと私たちの番が来た。私はメニューを見て店員に声をかけようした。しかし、驚いた。
その店員は、オレンジのロングヘアで麦わら帽子を被っていた。そして、白いTシャツと短いパンツ、服の隙間から見える少し焼けた肌。可愛らしい顔。まさに夏に相応しい女の子でした。
「――あっ、いらっしゃいませっ!」
元気な声とともに、彼女は顔を上げた。一瞬、時が止まったような感覚が私の中に広かった。隣を見るとシオンの態度がおかしい。少し彼女を見る目線が私とは違った。
もしかして……?まさか、まさか、そんなわけない――ない、よね?
「ごめんね、待たせちゃって!今日はお祭りみたいに忙しくて〜!」
「……えっ?あっ、大丈夫です。……それよりもお姉さん可愛いですね!名前……聞いてもいいですか?」
「甘夏蜜柑だよ〜!君、あたしのことお姉さんって言うけどそこまで歳、離れてないと思うんだけどなぁ〜」
「おいくつなんですか?」
「まだ中3だよ♪君たちより一個年上かもね〜」
まさかシオンはお姉さんみたいな人が好きなのかな?それなら私に勝ち目はない……。
「じゃあ……野乃はかき氷のイチゴ味をお願いします!シオンもそれでいいよね!」
「……なんでもいいよ」
蜜柑が手際よくかき氷を作り始める。目の前で氷がふわふわと削られていくのを見つめながら、私は思った。
もし……もしもだけど、シオンが甘夏さんに好意を持っているのなら……遠ざけないと!
かき氷を受け取った私たちは足早にその場から離れた。離れる時に蜜柑が何か言っている気がしたが聞き取れなかった。
「シオン君……また、あとでね」
パラソルに戻り、掴んでいたシオンの手を離し、私の隣に座らした。夏の暑さは激しく、かき氷はすでに溶けかけている。私とシオンは溶ける前に食べようと急いで食べた。
ふと、海の方を見ると問題児2人がまた問題を起こしていた。羅瞿と圭吾だ。シオンが持ってきたボートを使って遊んでいたところ圭吾がやらかしたらしい。
圭吾は初めての運転に浮かれて手を離して運転していたらしい。岩礁にぶつかってボートが沈没した。
「シオン!ボートがっ!」
シオンが持ってきたボートは海の底へ消えていった。圭吾を無許可でシオンの横にあったボートを持って遊んでいたらこうなったらしい。さすがのシオンもブチギレるかと思いきや上の空だ。
水着を忘れたことなのか、蜜柑に恋心を抱いているのかは本人にしかわからない。でも、前者であって欲しい。
「シオンさんが、元気ないならミニ花火大会は無理そうですね。次の機会に回しましょう」
「……は?」
私の口から、低く短い声が漏れた。花火大会をするのも今知ったし、中止になることも今知った。花火大会とか仲を深めて恋仲になるチャン……楽しいイベントになるはずなのに。
今の私はかなり焦っている。強行してでも絶対にこのイベントは成功させないといけない。大切な人が取られないようにするためにも。
「ちょ、ちょっと待って!?なんで勝手に中止とかにするの!?野乃!野乃がシオンを元気にさせるから中止とか言わないで!」
「……野乃姉貴がそう言うなら、やるしかねぇよな!手伝うぜ!」
「おい、羅瞿!シオンには……やることがあるんじゃないか?だから、遠くからここまで来たんだろ」
「……そうですねぇ。僕とシオンとで話し合ってここまで来ましたから。あの犯人捕まえてからでもいいですよねぇ〜」
あの犯人?あー、シオンの家を燃やしてくれて私の家にシオンをくれた貢献者、じゃなくて犯罪者のことね。もしかして、犯人の目星がついていたからこの島に来たってこと?
シオンは、海の方を眺めながらいつもとは違う、殺意のような目をしていた。




