第十三話 同棲?
◇2031年8月11日 深雪家◇
その日の夕方、私の母である深雪好美が帰ってきた。帰って早々、普段ならないはずの男物の靴があることを私に問い詰めてきた。
「……あら、玄関に男物の靴があるけど……どういうことかな、野乃?」
「俺のです」
2階につながる階段の上からシオンが頭を出してそれは自分のものだと主張した。好美は一度、シオンの顔を見たことがある。しかし、泊まりに来る関係だとは思っていなかったらしい。
「野乃……やるじゃない!まさか、そんな関係になってたとは思わなかったわ」
「な、なってないから!緊急事態で!シオンが住む場所なくて、しょうがないじゃん!」
好美は私の耳元で軽く囁いた。私は必死に否定した。私たちの声が聞こえていなかったシオンは私の部屋に戻り、犯人探しを始めた。
「あの子……なかなか顔立ちもいいし。私的には応援してるわよ。孫の顔、楽しみにしているから」
「うわあああああ!!何言ってんの!ち、違うってばぁぁぁ!!///」
シオンとお母さんを近づけるのはまずかったらしい。確かに私のお母さんは人の恋愛模様についてうるさかったけど、自分がとやかく言われるとか思ってなかった。
◇◆◇◆◇
私のお父さんである深雪修一が帰ってきて私たちは夕食を取ることになった。もちろん、今日から暮らすシオンも同様に。
昔から思っていたけどどうしてこの机は5人用なんだろうか?深雪家は私とお母さんとお父さんの3人暮らしのはずなのに。3人用の机がなくても普通は4人用を買うはず。
考えても無駄だと考えて私は席に座った。食事が来るまでテレビを見ようとリモコンを探すために横を見るとなぜかシオンが隣で座っていた。
「……えっ!?なんでシオンが隣に座っているの!?」
「なんでって、最初からここに座っていたんだけど?」
もしかして私が無意識にシオンの隣を狙ってしまった?いや、ありえない、ありえない。これはきっと誰かの罠だ。誰かが私をシオンの隣に座らせようとした犯人がいる。
そんなことはどうでもいいとして食事が運ばれてきた。今日のご飯はシオンとお母さんが一緒に作ってくれたらしい。
「……いつもより、美味しい」
「まぁ、やっぱり好きな人が作った料理は特別なのかしらねぇ〜」
「おい、野乃!好きな人ってまさか!えっ、まじか!」
「ち、違うってば!!///お母さんは黙って!!」
「頼む場所……間違った」
私たち家族とは対照的にシオンは吐きそうな顔をしながら落ち込んでいた。確実にいつもよりやつれているのが目に見えてわかる。
◇◆◇◆◇
シオンが家に来てから5日が経った。私のお母さんはずっとあの調子なのだが流石に慣れたようでほとんど無視している。私も最近は悪い気はして来なくなった。
一緒に料理を作ったり、同じ食事を食べたりこれはもう同棲なのではと思う場面も多くあった。日を跨ぐたびにシオンの顔から生気が感じられなくなっている。私は流石に可哀想だと感じた。
「ねぇ、シオン。……気分転換に、海に海に行かない?」
私の問いに、シオンは手を止めてこちらを見た。シオンの表情はさっきよりもかなり曇る。
「……2人っきりは嫌だ」
その言葉が刺さった。私はほんの少し、いや――かなり期待していた。正直に言えば2人だけで行きたかった。でも、シオンとの関係をこれ以上悪くしたくない。
「……みんなで、行こうよ。みんなでさ。すぐに連絡してから」
そう答えた瞬間、シオンの顔がパッと明るくなった。
「それなら決まりだな!海か……遊ぶために行くのは久しぶりだな」
シオンはすぐにスマホを取り出して全員に連絡した。今日はもう遅いので明日行くことに了承した。さっきの様子とは一変してソワソワしているシオンに寂しいという気持ちを抱いた。
「じゃあ決まりだな。明日の朝、八幡駅に集合かな?あんま知らないけど志賀島にしよう!」
「う、うん……楽しみにしている」
私の返事に、シオンはニッと笑った。その笑顔が、なんだか悔しいくらいに眩しかった。
その日の夜、私は、もしかしたらシオンは明日で家を出ていくのかもしれないと思ってしまった。シオンはもともと他のメンバーを最初に頼っていたようだし、圭吾が「泊めてやるよ!」と言い出したら終わる。
シオンのことだ。男同士の方が気を遣わなくていいはず。その方がシオンにとって楽に過ごす最善のこと。
気づいたらシオンが泊まっている部屋の前に立っていた。そのまま、扉を開けて寝ているシオンを見下ろす。シオンの寝息を見て胸を締め付ける。
私は数時間ぐらいシオンの顔をずっと見つめていた。私はいろいろしたいと思ったが思いとどまった。
なにやってんの野乃……バカじゃないの!?
私はそのまま立ち上がり、足音を立てないように部屋を出た。顔は火照って、冷たい水で冷やしても消えなかった。
諦めたわけじゃない。私はもうシオンにはアピールをしない。シオンが私のことを見てくれるまでは……。
◇2031年8月17日6時北九州市八幡駅◇
私は珍しく早起きをした。厳密には寝れなかったというのが正しい。疲れはきっと取れてない。けど今日は楽しまなければいけない。楽しい思い出を作るために……。
シオンは早起きすぎる。私が準備をしている時にはもう駅に着いていると連絡が来た。本当は一緒に行く予定だったのに。長く遊べることは嬉しいことだと思い込もう。
私が駅に着いた頃にはみんながすでにいた。シオン以外はみんな眠そうにしていた。無理もない、昨日連絡したのが23時だったからだ。
「こんな朝早くから、いったいどこに行くんだよ……」
「海だって……夏といえばだよね!」
テンションの低い圭吾とは裏腹に爽馬は少し高めだ。羅瞿はテンション爆上げになり、篤樹はそれを諌める。いつもの光景だ。
「海ってマジでサイコーじゃん!みんなで行ったら絶対楽しいし、最高の思い出になるってば!」
「落ち着いてくださいよ。公共の場なので迷惑になりますから」
目的地までは2時間以上かかる。ゆっくり電車に揺られながら気長に待とうかな……。




