番外編① アンジュ•アンダーソン
いつもより長いですがこの物語における重要回ですので読んでくださると助かります。
◇2029年4月11日 県立風花中学校◇
私の名前はアンジュ•アンダーソン。純系のアメリカ人です。親とも仲が良かったはずなのに何故か小学校3年生の時に日本に1人で飛ばされました。親が言うには、「日本では今誰でも総理になる権利があるんだ。もしなれるならなったほうがいい。もしなれなかったら帰っておいでいつでも待っているから。」とのこと。だったら最初から送らないでほしい。
今日は、中学校の入学式でこの学校は国から認められた”未来創生”の学校らしい。未来創生の学校では、同じ中学校のメンバーと戦い、卒業時点で生き残った組織がその地方の代表(高校)として全国と戦える。そしてトーナメントをして生き残った組織が政府と戦い、政府に勝てば自分たちが政府になれる。それなら何度も政府は入れ替わっているんじゃないかって思うじゃない?でもいろいろルールが厳しい。
すべての政府公認校が生き残る必要がある。つまり、8地方中の1地方でもかければ、その7組織は、政府と戦う権利を失う。中学校は一度きりだからやり直せない。これが主な理由。つまり、最低だったら私は、16歳になるまでには帰れるってこと。
◇県立風花中学校 1年B組
あの禿げた吉満校長は話が長い。きっと、世界が自分中心に回っている頭がおかしいやつなんだと思う。
私は日本で言うとあ行らしくて一番前で少し気まずい。あと、アメリカ人と言うのもあるのだろうか。誰も話しかけてこない。みんなより少し変わっているのは、認めるけど身長が小さいのはどうしようもなくないですか?小4の時からずっと139cmなんですけど!親は高いから伸びると信じきっているから安心しているけどね。
◇◆◇◆◇
入学式からもう1ヶ月以上経ったのにいまだに誰も話しかけてこない。話しかけない私も悪いかもだけど避けていくのは違うんじゃない?だから最近は、場所を問わずロボットとお話しているんだ。ロボットは返答はしてくれないけど、私の話は真剣に聞いてくれる。これはもう友達だよね。絶対にそう。
その日の放課後、友達をカバンの中に詰めて、学校から出ようとした時、初めて話しかけられた。
「なぁ、いつも一人で帰っているけど寂しくないの?良かったら、今日は僕と一緒に帰らない?実はさ、僕も最近友達と喧嘩して孤立しているんだ」
は?何この人でかすぎ!?私が小さいのもあるんだけど多分180cmくらいかな。巨人じゃん
そのまま流れで帰ることになった。この男は、坂本湊晴というらしい。とても明るく気さくな性格だ。私とは全く違う。
「そういえば名前を聞いていなかったね。なんていうの。髪の毛が薄い水色だし、アクアちゃんかな?」
気さくすぎて失礼だと思う。名前はアンジュだけど髪色はアイスブルーという可愛い髪色をしてるのに!あんな変な色と一緒にしないでほしいよ!
「私は、アンジュ•アンダーソンって言います。親がエンジニアをやっていて……ロボットを作って動かすことが好きです」
「アンジュっていい名前だね。フランス語でアンジュは天使って言うんだよ。天使みたいに可愛いから似合うよ。それにもう友達なんだから敬語なんて使わずにタメ口で話していいのに」
……!?今こいつ私のこと友達って言った?日本に来てから4年間友達ができなかった私に…?それよりも私のことを可愛いと言った!?………どうせお世辞だ、友達って言ったのも気を遣っているんだ。そうに決まっているはず…
「ロボットを動かせるって言ったよね。めっちゃすごいじゃん。あのさ……」
湊晴は、少し息を吸ってから私にとって運命を変える言葉を発した。
「組織を作ろうかなって思っているんだ。名前はまだ決めていないんだけどね。それにアンジュも入ってほしいんだ。きっとそのロボットの技術を活かして活躍できると思う。だからお願いします。」
「…よろしく……お願いします」
これは都合が良い、どのみち組織に入らなければいけなかったからここで入ることになって助かった。別になんでも良かったけどね!ほんとになんでも良いけどね!
◇2029年7月19日 風花中学校屋上◇
いよいよ、次の日が一年生最初のバトル。正直言ってこのバトルに生産性はない。本番は二学期だからだ。けどみんなここでやる気をだす。自分たちの組織をアピールしたいからだ。
今日は、”アストレイド”のリーダーである湊晴がメンバーの紹介をしてくれるらしい。私は正直言ってコミュ障だ。ロボットとしか前まで十分に話せなかった。でもこの際だから克服しちゃおう!最初に紹介されたのは、少し暗そうだが根は優しそうそうな男の人。
「俺の名前は木村神凱だ。主にタフネスが優れている。もしもの時は盾にしてもらっても構わない。絶対に守る」
2人目は、身長が高くて性格は悪い男の人。
「僕の名前、朧永良。覚えときなよ。君たちより何倍も頭回るから、作戦とか全部、僕が考えて“あげる”よ。…感謝してよね、バカでも分かるように組んであげてるんだからさ?」
3人は勝野智哉というらしい。彼は私たちと話すつもりはないらしい。湊晴の強さにほ惚れてるらしく雑魚には興味ないとのこと。
4人目は可愛くて誰にでも優しくそうなギャルって言うのかな?そんな人。
「やっほ〜!甘夏蜜柑でぇす☆ あんま頼りになんないかもだけど、よろしくねっ♪」
あと、私を含めて初期メンバーってことになるのかな?みんな陽よりの人で怖いなぁ。私ももちろん自己紹介したけど「わ、私は…アンジュ。えっと……な、仲良く…して、ね……?」こんなことしか言えなかった。きっと舐められている。
その日の放課後、私が一人暮らしをしているアパートで私は、いろいろ考える。
もしかしたら、馴染めずに辞めてしまうかも…。だったら少しでも馴染めるようにみんなのためにいろいろしよう。試しにロボット工学の理論から腕にハマるタイプのメリケンサックでも作ってみようかな……
◇同年7月20日 県立風花中学校 校庭◇
これが中学校で最初のバトルなのかな?あんまりそんな気がしないけど……。今回は坂本君のチームを含めて4つあるらしい。どれも人数が多いが弱そうに見える。カリスマに入れるリーダーがいないから……。
3つ挙げると”灰鴉”と”絶対圏”、”虚勢連”がある。それぞれリーダーは九頭海女、夜叉丸烈火、馬渡有流というらしい。あまり興味ないけど。チームの構成員はそれぞれ約30人くらいで私たちの6人よりも圧倒的に多い。
入学式に見て以来の吉満校長が現れた。そして少し長い話をしてホイッスルを鳴らす。それが開始の合図であり、終わりの合図でもあった。
ホイッスルがなった瞬間、勝野智哉は絶対圏に近づいて部下にも目もくれず、夜叉丸烈火のところに行き、胸ぐらを掴んだ。
「……え? ちょっ、いやいや、ちょっと待って!? これ、冗談だろ!? マジで!? な、なぁ!?」
足が震え、腰が抜けそうになりながらも、必死に智哉の片腕を掴みながら命乞いを始める夜叉丸。しかし、智哉は期待はずれな顔をしてもう一方の腕を振りかぶり夜叉丸の腹に直撃。夜叉丸は口から血を流して意識を失った。部下もリーダーがいなくなったので散り散りに逃げて行った。
朧永良は私が作ったメリケンサックを気に入ってくれたらしくそれをはめて灰鴉の元へ向かった。永良は別に倒す必要もない灰鴉の部下を一人ひとり丁寧に倒しながら九頭海女の目の前に着く。永良は得意の煽りで挑発する。
「……アンタさ、口の動かし方より、骨の折れ方に自信あるって聞いたけど?」
「……ふん、来るなら来なさいよ。あんたにウチが倒せると思っているの?」
永良は無言でメリケンサックを付け直して無言のまま一歩前に出る。海女はそのメリケンサックが相当やばいことに気づいて止めようとした。遅かった。
「……つ、ちょ、ちょっと待っ……」
この一言が終わるよりも早く、永良の拳が振り抜かれる。鈍い音と共に、海女の頬が殴られ、体がよろける。目に涙を溜め、鼻を抑えて震えだした。
「い、いた……っ、な、なに殴ってんのよ、マジで……! ちょっとやりすぎじゃない……? ごめんなさいって言ってるじゃん……うぅ……!」
涙がぽろぽろと流れ、膝を抱えて情けなく泣き始める。永良はその姿に呆れてため息をつきながら笑いながら言う。
「……あれ? 一発で終わりかと思った〜? ざんねーん、まだありまーす♡」
「ねぇねぇ、なんかさっき’来るなら来い’とか言ってなかったけ?どうしたの?口だけ?それとも痛すぎて戦意喪失しちゃったかん〜じかな〜?」
そう言いながらじりじりと永良は海女に近づく、海女は逃げようとするけど足がすくんで動けない。そのまま何発も殴られる。そして動かなくなったのを確認した後、口笛を吹きながら私の元へ戻ってくる。もう改良が必要になっちゃった。危険すぎるから弱くしないと。
ふと、さっきまで隣にいた湊晴の方を見るとすでにいなくなっていた。
…坂本君は、あの2人よりもしっかりと…ちゃんと、勝負してくれる人だから、安心…
実際に湊晴は真面目でどんなに相手が不意打ちをしようとも絶対に正々堂々としか戦わない。その魅力が智哉を惹きつけたのかもしれない。
湊晴はすでに虚勢連を壊滅させていた。仕事が早くて助かる。
「ん〜やっぱさ〜、あの3人ってバチバチに強いよね〜!アンジュちゃんも、そう思わん?うちだけじゃないっしょ?」
「え、あっ、えっと……う、うん。私も……そう思う、…よ?」
私は甘夏ちゃんの明るいテンションにビビりながらも答えないといけないと思って頑張って話した。褒めてくれてもいいよ。そういえば、神凱は湊晴と共に虚勢連を倒しているよ。
◇同年8月3日 脇田海水浴場◇
3つの組織を倒したアストレイドは、2学期の戦いに備えようとしたものの誰も組織を作ろうとはしなかった。つまり、実質一年生での戦いは私たちの勝ちってこと。
……これで、ちょっとは政府に近づいたよね?う、うん……次も頑張らないと
私はそう思いながらパラソルの下の砂に潜った。そもそも、陰キャな私が陽キャの巣窟であるビーチになんで来ているんだろうか。話は数時間前に遡る。
◆◇◆◇◆
突然、坂本君が海に行きたいとか抜かし始めた。それに木村君、甘夏ちゃん、朧君は大声をあげて賛成する。勝野君も無言のまま頭を縦に振る。私は心の中で反対したけれどもちろん伝わらなかった。朧君は私が行きたそうにないのを気づいていたけれど私の嫌がる顔が見たかったのだろう。それを無視してみんなで無理矢理連れてこられた。
私は、体が色っぽくないというか平なのは認めるけどそれにしてもスク水は酷くない!私が1人で買いに行けなそうなのを察して甘夏ちゃんが用意してくれたけど、けども私のことバカにしすぎじゃん!勝野君以外の4人はキャッキャしながら海で遊んでいる。勝野君はというと少し長い木の枝でサーフィンしている。長いと言っても50cmくらいだから乗れてるかは近づかないと目視できないほど。
私はもちろん海で遊んだ経験もないし、プールに行ったこともないから泳げるわけないんですね!つまり、ビーチでゆっくりするしかないってこと。だったらよく見る砂に埋まっていようと現在に至る。
そもそも、坂本君が海に行きたいと言い出さなければこんな惨めな思いしなかったのに………。
私はそう思いながらビーチバレーをしている湊晴を睨む。湊晴はそれに気づいて平謝りをする。
「ごめんね!人混み、やっぱりきつかったよね。無理しないで、車に戻ってていいからさ。後でバーベキューするからその時おいでよ」
なんだこいつは?無理矢理連れてきておいて可哀想だから1人寂しく車に戻れと!?いいよ戻りますとも!
そう思いながら車に戻ろうと更衣室に向かうと何故か女子更衣室の前に勝野君が立っていた。もしかして変態さんなのかなと思いながら避けて入ろうとすると智哉は重い口を開けて喋った。
「アンジュ、お前は………組織に必要なんだ。辞めるとか言わないでくれ」
初めて智哉の声を聞いた。それよりも私が辞める?必要?なんのことだろうか。私は別に辞めるつもりもないし、必要だと思われることはしてないはずなのに。
「…わ、私……何か…しちゃったかな……?」
私は疑問に思ったことを口にする。待って……?なんで智哉は私と話してんの?智哉は真の実力者としか話さない合理主義なのにもしかして認めてもらえたってこと?それは普通に嬉しい♪
「お前の技術……朧から見せてもらった。あれは、最新技術だ。もし、お前が……乗り込めるロボットを作れるというならば……きっと、最強だ。だから……俺はお前を信じる。アンジュは絶対に強いと」
そう言って智哉は自分の近くにあった木の枝を海側に投げて釣竿に引っ掛けることでバンジージャンプのように智哉は木の枝に引っ張られて去っていた。
私はロボットを作れるのだろうか。今まで小道具しか使ったことないし、ロボットなんて可愛い女の子が作るものじゃないはず。それでも智哉は作るべきと言ってきた。つまり、私は期待されてる!それなら頑張んなきゃ!
その日のお昼はずっと車の中でロボットの設計図を考えた。
この部分をここに回せば動くはず?いや、これをそこに移動すれば装置が動く!
私は色々と試行錯誤しながら小さなロボットを組み立てた。小さいものを作って大きものに当てはめた方が楽だからね。
ついに、完成した。その名も”ロボロボ1号”。ロボが2個もあるんだからきっとかっこいいはず。このロボットは、一弾しかつまらないけど電気ショックガンを流すことができる。そして、カメラがついてあるから監視も可能。つまり最強ってこと。
夜になり、私はみんながいるビーチに向かうと、既にバーベキューの準備がなされていました。私は、みんなが気楽になったタイミングを伺ってロボロボ1号を披露すると様々な反応がもらえた。
智哉は無言で親指を突き立ててくれた。永良は笑いながら拍手をするだけ。湊晴はロボットと見惚れながら「おー……やっぱりアンジュは僕が見込んだだけのことはあるねぇ。才能があるよ」蜜柑は「え〜なにそれ、名前のセンスめっちゃかわいいじゃん〜♡」と褒めてくれた。神凱は「名前はともかく……性能はそこそこやるじゃねぇか。」と少し馬鹿にしてきた。
神凱の言葉はむかついたので怒ろうと思ったがそんな勇気がない。
あっ、そうだ!このロボロボ1号の試運転を試せばいいんだ。
私は悪い考えが浮かんだが悪いと思ってやめようとした。けど、私の肩に永良が手を置いてきて後押ししてきたために強制的にすることになった。
私は陸側で肉を草に刺している神凱を海側に呼んでそこに立って欲しいとお願いした。神凱は疑問に思ったがロボの性能を観れると思い、ワクワクしながら仁王立ちをした。
遠隔で発動できるようにボタンを作っておいたからそれを押す。押した瞬間、鈍い音とともに、青白い稲妻がロボの目から発射された。避けようと一瞬体を捻る時にはもう遅く、既に神凱に当たって彼は感電した。神凱のオールバックヘアーがアフロになってしまった。けどすごく爽快気分になれる。
神凱は放っておいてそのままバーベキューを始めようと永良は提案したので始まる。
日本のお肉って、そもそもちゃんと食べたことなかったかも……あれ?一回くらいあった……?いや…なかったはず!もしすごくまずかったらどうしよう……。顔に出たら雰囲気悪くなるだろうし…食べない方がいいのでは?私なんかがみんなと食事していいわけないのに…。
私はそう思いながら手に持っている牛肉と玉ねぎが刺さっている串を口前で止めてしまう。いつまで経っても食べようとしなかった私に呆れた湊晴が無理矢理口に捩じ込んできた。
「……め、めっちゃ美味しい……っ!」
ふと口から漏れてしまった。アメリカの肉は革靴の底だとわからされてしまった。今までにない幸福感、満足感に浸っていると湊晴が優しく話しかけてきた。
「やっぱり肉は美味しいなぁ。……特に、みんなと一緒に食べると、もっと美味しく感じるんだ」
一緒に食べると美味しくなるには共感できないけど肉は最高だ。お金があれば毎日、専門の店に行きたいぐらい中毒になってしまった。家の家賃だけで厳しいっていうのに食事に回したら死んじゃうよ。親の仕送りはあるけれど最低額の家賃とニ万円の自由金。家も大していい家じゃないし、むしろ悪いと思う。だって、築60年くらいのボロアパートで雨風をしのげる程度にしか存在してない。だから贅沢なんて今までしたことなかったのにこんな肉で感動させられてしまうなんて情けないね。
蜜柑は美容に気を遣っているらしく肉ではなく、果物を焼いていた。肉は私にくれたのでその度に目を輝かして喜んだ。智哉は隅に座ってゆっくりと食べる。対照的に永良は声を上げながら食べている。私は自然と笑みが溢れた。もしかしたら、一緒に食べると美味しくなるは本当かもしれない……楽しいからだ。
◇2030年4月8日 風花中学校◇
あの後も月一で湊晴が焼肉を開催してくれた。最近は私と湊晴、智哉以外のみんなは焼肉に飽きたので参加しなくなったが中は良好だと思う。タダで焼肉が食べれるっていうのに勿体無いとつくづく思う。
2年生になった私たちは部室がもらえた。そこまで広くはないが好きなものをおけるスペースに使えそう。畳換算で言うと8枚くらいらしい。2年生は3年生と戦うので休むためにも必要だと言うこと。確かにロボを置くためには十分に使える。
智哉と湊晴は少し出掛けていてこの部室には、それ以外のメンバーしかいない。蜜柑は定期的に自撮りをするので画角に写らないに逃げるのは大変。たまに近づいてきて一緒に撮ろうとしてくるがやんわりと断っている。永良と神凱は2人で人生ゲームをしている。神凱は運が悪いといえばいいのだろうか。すぐに所持金がマイナスになって負けている。逆に永良は運が良すぎてすぐにゴールまで辿り着く。まるで正反対の人間だ。
私は智哉に言われた乗り込めるロボットを作るために少しづつ材料を買いながら組み立てている。このペースだと後半年はかかりそうだ。けど期待されているんだ。智哉は一応この組織のメンバーの全員と喋るようになった打ち解けたのもあるが実力を認めたことが大きいと思う。
そう思いながら部室でパーツを探していると突然扉が大きな音を立てて開く。そこには湊晴と智哉が誰を担いで立っていた。担がれていた人の名前は蒙古大胆と言って2人が強さを見込んで仲間に誘ったらしい。
「まさか……他校の人たちに無理矢理、転校させられるとは思っていなかった。……やるしかないんだろう?」
第一印象は真面目な人だ。このメンバーでまともなのは私と強いて言うなら湊晴くらいだからそれが増えるのは助かる。
「いくら人殴ってもいいんだよね!ねぇ、料理みたいにコネ回してもいいんだよね!ぐちゃぐちゃになるまでさぁっ!あはっ、あははははははっ!!」
前言撤回、こいつが一番やばかった。俗に言うサイコパスというやつなのかな?でも自己紹介の時と比べて言動に違いがありすぎる。もしかして二重人格の可能性があるから関わり方は気をつけなきゃ。
校長から配布された3年生の組織に目を通す。組織は2つあるらしい。組織ごと一対一で戦うシステムで私たち2年生が負けた時点で終わる。チャンスは一度きりということ。そして、3年生の組織の戦う順番は強い順だから一番最初に戦うのは、2つの中でも弱いってことらしい。
次に戦う組織のプロフィールは、もらえるらしいのでそれを参照する。次の組織は、”朽ノ華”でリーダーは朽木黒江という暗めな女の子。組織の人数は70人と3年生の組織の中で一番大きいと思う。
組織の幹部級と呼ばれるのは、5人ほどいる。逆廻結衣、継無新、ノワール・白金、酒呑宵宵、
直進鉄雄だ。この中でも気になるのはノワール・白金。他の人たちは出産病院が明確に書かれているのに彼女だけは”ミカゲ研究所”という謎の施設だ。もしかして改造人間?やばすぎ。
基本、智哉がいればどんな敵でも勝つことはできるけど変わり種は聞いてない。
……改造人間……気になる。ど、どんな構造……?どこまで人間……?や、やってみたい……。この手で……私の手で……倒してみたい……っ!
胸を抑えて興奮を落ち着けようとした。しかし、どんどん興奮は抑えられなくなり、荒い息が漏れる。湊晴や蜜柑は白い目で私をみている。その目線に気づいた私は急いで部室の角に隠れて膝を抱えて小さくなる。
「こ、これはちがうんです……!えっと、その……ちょっとだけ、ちょっとだけ調子に乗っちゃいました……ご、ごめんなさい……っ!」
顔を真っ赤にしながら目線を泳がせて必死に弁解した。湊晴は、いきなり肩を震わせて、大笑いし始めた。
「まさかアンジュがそんな顔するなんて思わなくて、つい笑っちゃったよ。……ごめんごめん、でもちょっと可愛かったなぁ」
私はさらに顔を赤くして顔を隠した。この後、私はノワール・白金と戦いとみんなに伝えた。大胆は不満そうだが他のみんなはOKしてくれたので大胆もしょうがなく許可してくれた。今回は智哉の無双を防ぐために智哉以外の6人で幹部とボスを倒す。智哉にはそれ以外の雑魚を処理してもらうことになった。
◇2030年7月19日 風花中学校校庭◇
アストレイドは久しぶりに校庭に集まる。実に1年ぶりにだ。2学期と3学期には戦いがなかったので当たり前なのだが本当に戦ってないのが信じられない。けれども戦いがない期間にもしっかりと修行はつんだ。一年生の頃よりは絶対に強いし、絶対に負けない。
朽ノ華は何故か特殊な衣装を纏っている。学校生活とこの戦いでは基本、本学校の制服を着用しなければならない。私たちもしっかりと着ている。けれども制服を着用しないことに関しては罰則はなく、改造する人も多い。私は可愛いからこの制服を着ている。
2回目の校長が出てきていつも通り開戦宣言をすると思っていたが何故か変なことを言い始めた。
「私はね、君たちの代に多少なりとも期待していたんですよ。だがね、今年の一年生は期待以上の成果を見せてくれそうな気配がある。だからもう、君たちには何も期待しないことにしましたよ。せいぜい邪魔をしないようにしてくれたまえ」
それを言い終えた瞬間、ホイッスルを鳴らして朝礼台を降りてどこかに去っていった。
……私たちが期待はずれ?そんなはずない……そんなこと、あるわけない……っ!
私はそう思いながらノワールの元へ走る。みんなも各々、幹部がいるところまで向かって行った。
「も、もしかしてあなた……改造人間っ!?……すごい……っ、すごいよ……!ねぇ、見せて……その強さ……その、才能……っ!」
私はいつものようにコミュ力が終わっていなかった。何故かノワールを目にして興奮が止まらない。
これが……ロボット工学の極地なんだ……!うわ、やば……触りたい、感じたい……この手で、確かめたい……っ!
「そうよ、私はお前らみたいな下等生物とは違う、最強の存在なの。それに、あんたみたいな弱っちい女が私に勝てるなんて、舐めすぎてるね」
「あー、本当に改造人間なんだ……やばすぎ…!」
私はすぐ右腕に”パンチ力上昇グローブ”をはめて迎え討とうとした。しかし、ノワールは早い。私が殴られると感じて腹にエレクトロを掲げた瞬間、遠くまで飛ばされた。
私は生まれて初めて吐血した。初めて感じる血の味。普通なら不快に思うが今の私はネジが外れているんだ……興奮が止まらない。
「アンジュって言うんでしょ?今ここで負けを認めるなら、特別に私の、永遠の奴隷にしてあげるわ。フッ、震えてるの?当然ね。私に逆らうなんて、一生涯ないのよ!」
「……武者震いですよ。あなたを倒して……どういじくり回すか、楽しみで……♡」
……あっ、こいつ……関わっちゃいけないタイプだったわね。キモすぎ
ノワールはアンジュを倒して次の敵へ行こうとした。そのために立ち上がったアンジュにもう一度、パンチを喰らわす必要がある。そのために近づいた。しかし、それが間違いだった。
アンジュのお腹に当たりそうな瞬間、アンジュが右手につけている何かでノワールを殴る。その衝撃は一発しか殴られてないのに2発分きた。ノワールは自身を耐久力のおばけだと錯覚していた。殴られた後、徐々に痛みが襲う。改造人間であるため、普通の人間とは何かが違うようだ。ノワールは黄色の血を口から吐いた。
「改造人間の血って、黄色いんですね♡壊れないように……注意しながら、実験したいなぁ♡」
ノワールの背筋が凍った。本来、改造人間は危機管理能力が著しく低下している。何故なら、最強だからだ。しかし、ノワールは生物的本能でこの女はやばいことに気づいて竦んだ足を必死に動かそうとする。恐怖なのか全く動かない。
動けないノワールを尻目にアンジュが手錠のような物を持ってジリジリと近づいてくる。
「……もしかして、逃げようとしてるんですか?だめですよ。あなたは……後で、私の家に行くことになるんですから」
「ご、ごめんなさいっ!馬鹿にしたこと、謝るから……!お願い……許して……!やだ、やだぁ……近づいてこないでぇ……誰か助けてぇ……っ!」
今までの強気な態度から一変してプライドも何もかも捨てて、泣きながら後ずさる。アンジュは後ろからノワールの背中に馬乗りして後ろから手錠をかける。その時、誰かがアンジュを蹴り飛ばした。アンジュはその衝撃で意識はあるが一時的に動けなくなってしまった。
蹴り飛ばしたのは、蜜柑と戦闘中だった逆廻結衣だ。彼女はこの組織の中でも一番の仲間思いと言える。
「……よくも、うちのノワールを泣かしてくれたな!!絶対に……殺してやる!!」
結衣は拳を震わせながら倒れているアンジュの元へ向かう。蜜柑は急いで追いかけて結衣を止めようとする。
「ごめんね、アンジュちゃん。そっちに敵をやっちゃっだけど、絶対に倒すから、待っててね!」
そう言いながら蜜柑は結衣に飛び蹴りをかます。結衣は壁に激突して意識を失う。蜜柑が飛び蹴りしているのを見た私は正気に戻った。
蜜柑ちゃん……デカすぎる……。飛ぶたびに、すっごい揺れてるし……。い、いいなぁ……う、羨ましいなぁ……
私が正気に戻れたのは絶対に蜜柑の胸だ。つまり、胸は世界を救ってくれると考えておこう。
「私が……不甲斐ないから、蜜柑ちゃんに余計な手間をかけさしちゃったね……」
私はそう言いながら謝る。蜜柑は寛容なので許して智哉と一緒に雑魚敵を倒そうと向かったがすでに終わっているっぽい。私は後ろで手を拘束されているノワールの腕を引っ張ってスタート地点に戻る。
同時刻、神凱は直進鉄雄に苦戦していた。鉄雄は曲がったものが嫌いらしい。だからタックルしか脳がない。神凱の自慢の耐久力は全体に満遍なくであり、一箇所に集中されれば相当きつい。
「おいッ!どうしたんだァ!?自慢のタフネスはどこにいったんだよぉ!!」
「……お前のテンション、正直ついていけないからさ。そろそろ……本気、出すわ」
神凱は元々暗い人間なので鉄雄のようなテンションマックスのような人間は嫌い。ポケットに手を突っ込んだ神凱は何かを出すふりをした。鉄雄はそれに気づかず、警戒して後ずさる。それが神凱の作戦だ。
顔が後ろに下がった鉄雄に目掛けて神凱はラリアットをかます。体格がデカい神凱の威力は測定できないほど大きいはずだ。鉄雄は顔面の衝撃と床に倒れて頭を打った衝撃で気絶した。
少し前、永良は継無新を一瞬で倒して上にのりながらお茶をしている。それを見ながら大胆はこの組織、大丈夫かなぁとため息をつく。突然、大胆の視点が暗転する。酒呑宵宵が油断している大胆を殴ったのだ。
「……ふふっ、敵の前で油断するなんて、哀れですねぇ?それってつまり、わたしたちのこと――なめてたってことですかぁ?うふ、許しませんよ?」
宵宵は不思議系の女の子で何を考えているのかはわからないが自分たちを誇りに思っていることはわかる。宵宵の一番のミスは、大胆に喧嘩を売ってしまったこと。
「いきなりかぁ……まぁ、どのみち幹部級と戦う必要があったし、これはこれで便利だな」
「油断していられるのも今のうちですよ〜?だって、あなたはわたしにボコボコにされるんですからね♡」
宵宵はアンジュよりは大きいけど小さい体を使って大胆に何発も喰らわす。宵宵の手は明らかに小さいが威力は本物だ。まるで、内臓を直接握られて潰されるような感覚だと言うこと。しかし、それは大胆を暴走させるには十分な刺激だった。
「実はねぇ、僕って殴られても効かないんだよ?……あはは、逆に殴った方がダメージを受けるってワケ。ねぇ、不思議でしょ?」
どう考えても嘘だ。そんなことが現実に起きていいはずがない。宵宵もそれが嘘だと言うことはわかっているはずなのにピンピンしている大胆を見て本当だと錯覚してしまいそうだ。大胆も宵宵にナイフを持って近づく。
「ふふ……私がナイフなんかに臆するとでも?誇り高い私はあなたになんて負けません!」
「ふふっ……そんなもの、こうすれば―― 」
宵宵はすぐにナイフに近づいて軽く蹴り飛ばす。しかし、刃がかすめ、太ももに血が滲む。
「……あら、ちょっとだけ切れちゃいました。失敗失敗」
足から血が漏れている宵宵を見て大胆は笑いを堪えている。
「わあ、やっちゃったね宵宵ちゃん……そのナイフ、毒が塗ってあるんだよぉ」
「今頃、少しずつ血の巡りが鈍くなって、体が重くなっているかもねぇ。そして……死んじゃうかもぉ」
宵宵はその言葉に一瞬動揺したがすぐに強気な態度に戻して煽ろうとする。けれども確実に毒は宵宵の体を蝕んでいた。
「ふふっ……大した毒でもありませんね。ちょっと……視界が……揺らいで見えるだけで……」
「解毒剤欲しいよねぇ?助かりたいよねぇ?だったら今すぐに負けを、認めなよ」
落ちたナイフを拾い上げてうっとりした目で宵宵に言い放つ。宵宵はまだ動けるうちにと近づいて何発も殴る。全て当たるが宵宵もナイフで幾らか切り傷ができてしまった。
「うっ……く……ごぼっ……!」
膝から崩れ落ち、視界が歪む中吐血する。白い頬にべったりと赤い血が伝い、手のひらも赤く染まる。
「……まだ……負けて……ない……のに……っ!」
喋るのが困難になった宵宵はそのまま体が動かなくり、地面に倒れた。大胆はここからの大逆転を期待していたがもう動かなくなった宵宵を見て落胆した。
「……はぁ。結局こんなもんか。つまんないなぁ……」
宵宵の顔をある程度見つめた後、ポケットから小瓶を取り出し、キャップを雑に引きちぎる。宵宵の顎を掴んで無理やり口を開かせ、解毒剤を流し込む。
目を覚ましたのを確認して大胆は、離れようとしたが足を掴まれる。
「……足を掴むな。もうお前の負けだ。戦う理由はない」
「待ってください……私、おかしいですよね……さっきまで死にかけていたのに……でも、心臓がドクドクいってる……すっごい気持ちいい……♡」
「ありがとう、蒙古くん……私、死にかけてわかったんです……あの瞬間のスリルが……癖になりそうです……」
大胆は頭を抱えて取り返しのつかないことをしてしまったと理解する。責任をとって切れたところに包帯を巻いて離れようとしたその時――。
「私を……妻にしてください……♡モノのように……扱ってください……」
さっきまでの強気な態度はどこにいったかと思うほど宵宵は豹変していた。確実に理性を失っている。大胆は自分が一方的にできるのが好きなのであって迫られるのは嫌いだ。智哉に急いで連絡して智哉に腰を掴んでもらいながら遠くに逃げた。
「待ってください……旦那さまぁ……♡」
去っていく背中を尻目に宵宵はポツリとつぶやいた。もう2度と普通の日常生活には戻れないだろう。
アンジュがノワールを倒したくらいに湊晴は朽木黒江の前に立っていた。黒江は自分で用意をした玉座に座って偉そうにしている。もう残っているのは、後で倒される新と宵宵しかいないのに。
「朽木黒江だったかな……?君が朽ノ華のリーダー……。そんな椅子に座ってないで正々堂々戦ったらどうだい?」
「そうよ。でも、私は正々堂々って言葉が一番嫌いなの。だって、それって弱者の言い訳でしょ?勝つためなら手段を選ばない……それが、私のやり方よ」
玉座を降りた黒江は、煙玉を湊晴に向かって投げた。湊晴に向かって投げられた玉は一眼では煙玉とは判断できないので殴り飛ばそうと玉に近づいて殴った。その瞬間、煙玉が発動して湊晴を中心にして半径5m白い煙が広がった。
湊晴は困惑したがすぐに判断して煙から出ようとした。しかし、外には黒江が待ち構えていて出ようとすると殴られて煙に戻される。それが何度も続いた。
「どうしたの?こんな単純な煙ごときでうろたえるの?ねぇ……君も、卑怯な手を使ったらどうだい?」
黒江は気高く笑いながら湊晴を煽る。湊晴は煙の中で止まる。黒江は急に出てこなくなった湊晴に疑問を持つが姿さでてきてもいいように構える。
突然、黒江の背中に激痛が走る。ゆっくりと後ろを振り返ると湊晴が立っていた。そう、黒江は煙の周りしか警戒しておらず、上の方を全く見ていなかった。だから、上から湊晴が脱出していたのにも関わらず、ずっと湊晴を待ち続けていたのだ。
「……できれば、不意打ちはしたくなかったなぁ」
そう言いながら湊晴は黒江との距離を空けて堂々とかかってこいみたいな素振りをする。黒江も背中の痛みを忘れるように立ち上がる。
「そうでこなくっちゃ。私と君、勝った方がこの試合の勝者ってことで、いいわね?」
「当たり前だ。僕は絶対に負けないよ!」
湊晴は右手で黒江の顔に向かってパンチをかます。それを黒江は止めて左手でカウンターを放つが湊晴はもう片方の腕で止める。実力はやや湊晴が上くらいだが、黒江も負けていない。
「ふふ、見せてあげる。朽木家奥義――こちょこちょ!」
意味がわからないことを言った黒江に湊晴は頭にハテナが浮かぶ。油断しないようにすぐに離れる。しかし、なぜか黒江は湊晴の後ろにいて奥義をかましてきた。湊晴は腰を掴まれて今までないような痛みを味わう。名前は可愛く見えるがこちょこちょする手をして体を潰している。少し手が緩まった瞬間、すぐに離れた。
これは……まずい!早期決着をつけなければ、絶対に負ける……
湊晴は思い悩む。
あっ、近づいたらまずいなら……遠くにすればいいんだ
近づいてくる黒江に湊晴も近づく。黒江はもう負けを認めるのかと油断したが湊晴は横蹴りをかます。黒江は飛んでいったがすぐに体勢を立て直す。しかし、立て直すたびに蹴られて徐々に玉座があった所から遠ざかっていく。
黒江の体力がなくなってきたところに本気のパンチをかます。黒江は口から血を流して倒れたがまだ立ち上がるようだ。
「まだ終われない……まだ、終われないんだから……!」
「どうして、そんなに立ち上がれるんだ?」
「この腐った制度を壊すために……私たちは頑張ってきた。ここで負けるわけにはいかない……!」
口と手から血を流しながら強い決意を滲ませながら答えた。その言葉に湊晴は動揺する。笑みを浮かべながら……。
「だったら――僕たちがそれを受け継ぐ!君が壊そうとしたこの制度、僕が終わらしてやる。だから……大人しく負けてくれ!」
なぜか黒江は立ち上がり、大の字に両手両足を広げた。もう、負ける覚悟ができているようだ。湊晴もそれに応えるように強いがあまり痛くないパンチを喰らわす。血が口から溢れるように流れ、倒れた黒江。
同じくらいに大胆も宵宵を倒したので朽ノ華とアストレイドの戦いは無事、私たちが勝つことができた。気絶していた黒江を湊晴は目が覚めるまで待っていた。
黒江は目を覚ます。目が覚めた黒江の手を握り、湊晴は真剣な眼差しで言い放った。
「絶対に政府を倒して――総理になってやるから。だからその時は……君に僕の嫁になってほしい。一緒に、支え合って暮らしてこの国を変えていきたいんだ」
黒江は倒れている体を必死に起こして、湊晴の瞳を見つめ返した。頬を伝う涙は止まらない。それでも、彼女の唇には微かな微笑みが浮かんでいた。
「約束ですからね。」
心から答えだった。黒江は湊晴の頬にキスをしてまた横になった。そして、湊晴は私たちの元へ戻ってきて「帰るか……」と呟いた。アストレイドと囚われのノワールは、朽ノ華を校庭に残して部室に戻った。
◇2031年2月28日 風花中学校 部室◇
朽ノ華を倒した私たちは適度に訓練をかまして2年生最後の相手に備えることにした。私もついに乗り込めるロボットを完成した。試運転はしたけどお披露目は、試合で見せることにしている。
最後の相手は”ゼロポイント”らしい。渚翠雨がリーダーであり、20名程度の少数精鋭ら――しい。部下の中でも幹部級と呼ばれるのは、長谷部柚、東雲玲央、山南耀司の3人だ。
「渚翠雨は……俺の知り合いだ。強いぞ。――俺も、一度だけ……戦ったことがある。その時は……負けた。俺と湊晴が共闘して勝てるか……わからないやつだ」
智哉がポツリと呟く。智哉が負けたことあるってだけでやばいやつなのに湊晴と共闘!?私が一生、その領域に振り込むことは絶対にない。
「あ、あの…ノワールちゃん、えっと…あなたも渚と同じ三年生だよね?その、もしよかったら…渚のこと、教えてくれたら嬉しいな、なんて」
私は、部屋の隅で拘束されているノワールに話しかける。ノワールはチャンスだと思い、大きく口を開けて交換条件を求める。
「教えてやってもいいけど、その代わりに私の拘束を外して自由にしてちょうだい」
「そ、そう…なら、教えなくて大丈夫です……」
私は食い気味に断る。ノワールはしょんぼり顔をして下を向く。それよりも神凱はある人物が気になるようだ。
「俺はゼロポイントの奴らより、”春先シオン”って一年生の方が気になる。あいつ、あの”櫻田圭吾”をワンパンで倒したって話だ」
「え〜〜っ、あの圭吾くんを〜!?過去にヤクザ事務所を壊滅させたことがあるあの子がやられたの〜!?マジでヤバくない!?」
「今は……一年生に構っている場合じゃない。目の前の敵に集中すべきだ。だから俺の作戦はこ」
その瞬間、大胆のポケットからスマホが鳴り響く。大胆は気まずそうな顔をして部室の角で電話に出る。
ねぇ〜、早く帰ってきてよぉ……寂しい寂しい……♡ねぇ、早く私を好きにして〜……♡
電話の主は宵宵からだった。大胆はスピーカーをオンにしたままだったので宵宵の甘えた声が部室中に広がる。急いで電話を切ったが周りの空気は最悪だった。
「……彼女さんが寂しがってるじゃないか、大胆くん。帰ってやれよ。今すぐにさ。」
永良は白い目を向けながら飽きて言い放つ。しかし、大胆からすれば白い目を向けられるよりもやばい状況らしい。
「こいつは僕の彼女じゃない!!酒呑宵宵が僕をストーカーして!勝手に合鍵を作って!勝手に僕の家に!住み着いているんだ!!」
私たちは口を開けてポカンとした。でも、よくよく考えればそうさせたのは大胆であって被害者はおかしくされた宵宵だとわかる。それに気づいていないのは、大胆と宵宵の当事者2人だけだ。大胆は続けて被害者面しながら叫ぶ。
「しかも僕が家から追い出そうとすると’ここから……飛び降りて気持ちよくなるね♡’って言って!僕が住んでいる10階建てのマンションの屋上に行ったんだよ!やめろと言ったら荷物を持ってきて空き部屋に置いて、奥さん面しながら手料理を食卓に出してくるし……」
「あ〜、もうわかったから……大胆は帰っていいよ。君も宵宵に死なれたら困るだろう。心配させてやるなよ」
そう言って湊晴は大胆の背中を押して部室から追い出した。湊晴が後ろを振り向くと残ったアストレイドのメンバーは親指を立てて称賛します。みんな思うことはそれぞれあるだろうけど結論は一緒だ。
――『大胆が悪い』
◇2031年3月28日 風花中学校 校庭◇
ゼロポイントのメンバーは洗練されている。全てのメンバーが渚翠雨の命令をしっかりと聞いて、誰がどの配置につくかを自分たちで理解して被ることなく、動いていた。
私は、組み立て型のロボットを用意した。凡人なら1時間かかる組み立て作業を私なら1分未満でこなすことができる。しかし、1分というのは非常に長い。だから今回は私が組み立てている間は蜜柑に守ってもらうことにする。
アストレイドのメンバーは全員集まっているけど、何故か違う人がいる。酒呑宵宵だ。宵宵は大胆を後ろからがっちり抱きついていて大胆は動けないようだ。つまり、今回は大胆は使えない。幹部以上は4人しかいないとはいえ、湊晴と智哉は翠雨の相手をしなければならない。つまり、誰かが1人で20人の相手をしなければならないということ。それができるのは本来なら智哉だ。
詳しいことは置いといてあのゴミ校長が現れてまた無駄な一年生がどうのこうのと話し始めたので無視をしてホイッスルが鳴るまで待った。ホイッスルが鳴ると私の元に東雲玲央が突っ込んできた。なんとか蜜柑が防いでくれたがかなり痛そうに見える。
「お前……弱そう……だから……一番……倒す」
玲央はあまり会話せず、会話する時も文節や単語でしか話さない。いちいち喋るのが遅くて鬱陶しい。
「あ、あの……急いでロボット作るから……その、蜜柑ちゃん……お願い」
……私も喋るの遅いから蜜柑ちゃんに鬱陶しいって思われてないかなぁ……。まずは陰キャを治さなきゃ……
私は思いながら急いでロボットを組み立てる。ノワールが作られたミカゲ研究所の技術はすごい、物を圧迫して持ち運べるというチートみたいなことができる。私もノワールを研究しているときに偶然、この機能を発見した。普段は10㎠くらいしかない金属の塊だがボタンを一押しすることで素材が飛び出す。それを用いて急いで組み立てる。
「アンジュちゃん、一切傷つけさせないからね!私がちゃんと守るから、安心して!」
蜜柑は足が震えている。今まで面として敵と戦ったことがなかったからだ。玲央と蜜柑の実力差はかなり大きいが蜜柑は精神力で勝っている。
「うっ…マジで痛いってば…!でも、時間を稼がなきゃ…!」
蜜柑は得意の飛び蹴りで少しでも玲央を遠くにして時間を稼ごうとする。玲央からすればそんなバレバレのことをさせるわけがない。
「お前……邪魔……死ぬ?」
「仲間が助けを求めているのに、助けられないなんて、人としてマジで終わってるよ!アタシは!」
蜜柑はアンジュを守るように近くで壁役になる。どう考えたって痛いはずなのに泣くこともせず、全ての攻撃を受け止める。体はところどころ血を流してボロボロなのに仲間のためなら一切体を引かない。
私がロボットを作り始めてから約40秒後にやっと完成した。その名も優雅な翼だ。全長は4mくらいでコックピットは子供くらいしか入れない。身長が140cm以下しか乗れない……つまり、私は子供……?
ロボットの性能は確かだ。絶対的な耐久力。鉄が原料だからぶつかれば大きなダメージを与えられる。そして武器として天使の槍を持つ。
「絶対に、守る。私の力で……!」
グレイスウィングに乗った私は玲央に向かってタックルをかます。玲央は左側に避けようとしたが左にラフェルスピアを構えて逃げられないようにする。そのまま玲央はぶつかり、近くにあった障壁にぶつかった。そして、頭から血を流して動かなくなった。
その瞬間、グレイスウィングの装甲越しに何かがぶつかる感触。
「アンジュちゃ〜んっ!!よかった……ほんっとによかったぁっ!!」
さっきまで涙の影も見せなかった蜜柑は泣きながら、巨大ロボットの胸元にぎゅっとしがみつく。
……私、役に立てたんだ……。蜜柑ちゃんが、こんなふうに……
私はそのままグレイスウィングの上に蜜柑を乗せてゼロポイントの部下を一掃した。
◆◇◆◇◆
「お兄さんが僕の相手をしてくれるの?ふーん、なんか弱そうだね」
「ん?僕が弱いって?確かにそうかもしれないけど、それでも君よりは強いよ〜」
小さい男の子のような見た目の山南耀司に煽られるが永良は、煽り返します。朽ノ華もゼロポイントも一個上の先輩のはずなのにどうしてこんなに癖が強いのだろうか。
耀司は小柄な体型を活かして永良の真下に潜り込む。そして、自分の頭を使って永良を飛ばす。この間1秒未満。何が起きたのか分からなかった永良、知的センスがあることは認めるようだ。
「えーっと、やっぱりその程度なのかな?……うーん、つまんない。すぐに終わるなら、僕の貴重な時間を、返してほしいなぁ」
「だったら面白いのを見せてやるよ。”クナイ型の爆弾”――」
永良の手にはクナイが握られている。流石にやばいと思った耀司は敵に背中を向けてしまった。クナイは飛んでこず、耀司の隣までやってきた永良に顔を殴られる。
「…って思った?残念、ただの拳でしたぁ。頭がいいのは認めるけど、現実を考えようかぁ……。クナイ型の爆弾なんてあるわけないでしょ––」
体勢が崩された耀司はそのまま永良に殴り続けられて負ける。あんまり強くなかった。
◇◆◇◆◇
永良が勝利した後に上から長谷部柚が空を舞いながら飛躍してくる。永良はめんどくさいと思いながら相手をしようとしたがいつのまにか血を吐いて倒れていた。永良に何が起こったか分からないまま近くにいた神凱が柚の相手をする。
「うちの耀司を倒したからって、いい気にならないでよね!あいつは元々そんなに強くないんだから!」
「……お前が永良を倒したのか……?……マジかよ、それ、かなりやばいんじゃねぇの……?」
「この永良ってやつ、どんだけ強いのか知らないけどさ〜、うちからしたら……雑魚いねっ!」
アストレイドの中でも智哉と湊晴に次ぐほどの実力者である永良がいとも簡単にやらている。トリッキーな戦いをしない真面目な神凱は他と比べて劣ってしまう。それなのにゼロポイントの実力者と相対してしまった。
永良は……実力者だぞ?俺が正面から戦ったら……うん、絶対に負ける。……そうだ!騙し討ちだ!
「……あっ、後ろに天音ひまりちゃんだ!」
「えっ!?ひまりちゃん♡どこどこ!?」
柚は全力で振り返って探す。背中がガラ空きになった。今しかチャンスがないと踏んだ神凱は後ろに近づく。しかし、正面を向き直す。
「いないじゃん!嘘ついたでしょーー」
言い切る前に、神凱の拳が勢いよく柚の顔に振り下ろされる。
ドゴッ!!
という音が響くが柚は片手で神凱の拳をピタリと受け止める。
「騙されるのはドジだけど!やられるほどバカじゃないから!」
神凱の策はもう尽きた。初めから勝てる勝負ではなかったのだ。そう思い、やられる覚悟を決める。しかし、まだ助かる方法を思いついた。
神凱はスマホから違法ダウンロードした天音ひまり特別ライブ限定のオリ曲を流す。
「ひまりちゃん!?この曲、知らないけど……けど最高!!」
どこから取り出したのか不明な水色のペンライトを持ち、柚はヲタ芸を始めた。そのまま数分を音楽を流し続けると柚は肌がツヤツヤしながら倒れて一切の曇りになく笑顔で微笑んでいた。もう、戦闘する気はないらしい。神凱はアイドルって怖いと思い始める。
渚翠雨以外のゼロポイントのメンバーが倒れた時、まだ翠雨と智哉、湊晴の戦いは続いていた。湊晴の体は既にボロボロであり、智哉も珍しく息をあげている。対照的に翠雨はピンピンしている。
「もう、ボロボロじゃないか。風も、雨も、君たちの味方じゃない。……降参するなら、やめてあげるよ。」
翠雨は定期的にポエムを口ずさむ変な女子だ。強さは本物であり、生まれてから一度も負けたことがないらしい。
「湊晴……まだ動けるか?情けない姿は似合わないぞ」
「当たり前だよ!僕の辞書に”負け”の文字なんて、初めから載ってないからね!」
「風に抗うその姿、嫌いじゃない。けど、嵐には勝てないって……知ってる?」
そう言いながら翠雨は逆立ち回し蹴りをする。2人とも当たるが湊晴は吐血するくらいの大ダメージを喰らう。智哉はかろうじて怪我をしていない。
「おい湊晴、合体技だ……もう知らない。黙ってたら死ぬ」
智哉は翠雨の正面にいたと思っていたら左に移る。同時に湊晴も右に移る。そして、翠雨を足で挟むように腹に向かって蹴った。翠雨は避けようとしたが地面がぬかるんでいてそのまま喰らい、初めて血を流す。
血を流しただけであって全然、勝ちには近付いていない。
「やっと詩に、句読点が打たれたみたい。でもねーー詩は痛みにも、美しさを見出すものなんだよ」
湊晴は確実に心がおられた。かなりの一撃を入れたと思ったからだ。智哉も流石にやばいと感じた。そして服の中に手を入れる智哉。取り出したのはよく分からない青色の液体が入った小瓶。それを智哉は飲み干した。
「……ふぅ、久しぶりだな、こんな感覚。湊晴、俺たちがこんなに長く静かにしてたのは、奴らが強すぎたからだ。だがもう終わりだ。俺たちが本気を出せば、誰にも止められない。」
普段は無口だった智哉がこんなにも喋るようになってしまった。あの薬は興奮剤で性格が変わるだけのよく分からない薬。しかし、それを飲んだ智哉は強い。翠雨と互角に戦えている。
「一撃、一撃が身に染みる……。技も、読みも、間合いの管理も全部が一級ってところかな。……お前みたいなやつと戦えてよかった。ありがとう……そしてさようなら」
そう言って智哉は最高の一撃を入れる。翠雨は血を吐いて倒れた。同時に智哉も喋りすぎて血を吐いて倒れる。アストレイドの勝ちに思えた。
翠雨はスーと起き上がり、まだ立っていた湊晴に目掛けてパンチをかます。
「さあ、次は君だね。期待しているよ、辞書に負けがない少年?」
「ここで……負けるわけにはいかないんだよ。最大出力だ!!」
翠雨の体を肩に担ぎ上げ、高速回転ーーそのまま地面に叩きつける。轟音と共に、地面が歪み、砂埃が舞う。湊晴はあの翠雨にまさかのプロレス技”デスバレーボム”をかましたのだ。
「……こんなの……美しく……ない……」
その言葉を最後に翠雨は気絶した。もう残っているゼロポイントはいない。アストレイドが勝ったんだ。
これで3年に進める。政府への道が作られる。みんなはそう思っていた。
◇2031年3月29日 焼肉屋◇
湊晴の奢りで焼肉を食べれることになった。私は行く前からずっとよだれを垂らしている。みんなから変な目で見られているけど気にしていない。
お店に着くといつもの食べ放題ではなく、単品だと説明された。私は湊晴のお財布の中身が心配になる。しかし、湊晴はニカッと笑って答えた。
「大丈夫大丈夫。なんせ、今日は無礼講だからね。みんなに高級な肉を食べて欲しいんだ」
湊晴の優しさに大胆は見習って欲しいと思う。なぜならあのイかれている女もついてきているからだ。私が蜜柑に頼んでどうしてついてきているのかを尋ねると宵宵はにこっとしながら答えた。
「だってぇ、旦那さまぁにご飯食べさせるためには、私が”あ〜ん♡”しないといけないんじゃないですか〜♡」
「ねぇ、旦那さまぁぁ♡」
大胆の腕をがっちり掴んで離さない。大胆は他人のふりをしているがどう考えたってバレバレだ。本当は追い出したいものの特別な日だから仕方なく許した。仕方なく……。
「じゃあ、みんな。今日までほんっとうにありがとう。三年生に向けて頑張ろう!……これからもよろしくね!」
みんなはそれぞれ注文したドリンクを掲げて湊晴の合図で乾杯をした。私はちょっとずつ高いお肉を頼み続けてとても満足した。永良と神凱はどちらが野菜を早く食べれるかな競争をしている。一言も喋らずに肉を焼き続ける智哉。暴れ出した宵宵を止める大胆と蜜柑。それを眺めて笑っている湊晴。
湊晴は私の隣に座ってきて話しかけてきた。
「……僕はさ、アンジュを誘ってよかったと思ってる」
「……君が来てくれたから、アストレイドという組織を作る理由ができたしーー何より、仲間を作ることができたんだ」
「……そ、そんな……褒められると……ちょっと照れる、から」
私は頬が赤くなった気がした。こんな時間が永久に続いて欲しいと願った。
◇2031年4月10日 風花中学校 体育館◇
焼肉後、湊晴は新一年生への演説があると言って帰っていた。今までにはなかった取り組みで2年生で勝ち残った組織のリーダーが3年生になった時に一年生に演説することでより強い人を育てようという狙いらしい。
一番最初で歴史を作れると思った湊晴は張り切って、原稿用紙を数百枚無駄にしたらしい。声が枯れるほど発声練習も。
私も見に行きたかったがたまたまノワールが体調を壊してしまって直すのに手間取ってしまい、いけなかった。
翌日、スピーチはどうだったのかと湊晴を探したけど姿が見えない。私はアストレイドのメンバーに聞いたが誰も口を割って話してくれなかった。
神凱の姿も見えなかったので永良に聞くと重い口を開いて「あいつは捕まった……殺人でな……」そう言い残してどこかに行ってしまった。私がいなかった一日に何があったの?どうしてこんなことに……。
数日後、校長がアストレイドのメンバーを集めた。神凱はよく分からない権限を使って戻ってきたが湊晴はずっといない。
「君たちには”アストレイド”を解散してもらう。理由は簡単だ。個人のカリスマ性や実力を魅せてもらいたいからだ。だから君たちには新しい組織を作ってもらう。最低、3個できればまた仲間でもいいよ」
そう言い残して校長は笑いながら去っていった。私は反対しようとしたがみんなはそれに納得しているらしい。この前のみんななら絶対に反対していたはずなのに……。
ーーそして私たちは戦う。2年生を倒して政府になるために……
ーーー完ーーー
正直、これが0話でも良かった気がします。