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aiとshou

作者: しろかえで

今朝、なろうのお友達の素敵な作品を拝読して、思いつきました(#^.^#)




 その指輪はアンティークショップのショーケースの…………秒針を刻まない金の懐中時計の傍らにひっそりと置かれていた。


 指輪など縁もゆかりもない僕の目になぜそれが留まったかと言うと……

 僕がアンティークショップへ立ち寄ったからだ。

 僕がなぜアンティークショップへ立ち寄ったかと言うと……

 アンティークの家具をこの目に焼き付けたかったからだ。

 なぜアンティーク家具をこの目に焼き付けたかったかと言うと……

 僕がマンガを描くからだ。

 なぜ僕が賞などかすりもせず、持ち込みしても捨て置かれるマンガを描くかと言うと……

 それは、今はすっかり疲れてしまって

 分からない……


 諦めきれない夢?

 惰性?

 意地?

 自己顕示?

 自己肯定?

 承認欲求?


 どれも当てはまる気もするし

 そうでない気もする。

 いずれにしても

 僕はつましいパンの為に働く身の上だから

 アンティークショップなど

 “冷やかし”で入るしかない。


 ショーケースはクラシカルなデザインのサイドボードの上に置かれていて、よく磨かれた懐中時計と指輪はお互いがお互いの色を映していた。


「気になりますか?」


「素敵なデザインですね」


「こちらは1876年の英国製の物です」


「いえ、その、指輪が……」


 僕は……自分が明らかに女性用と思われる指輪に惹かれてしまったのが恥ずかしく少し言い淀んだ。


「気になる様でしたら……お手に取ってご覧になられますか?」


「いえ、僕には不要な物ですから……」


 そう言い残して逃げる様に店を出たのに……


 気が付いたら毎日わざわざ遠回りして店の前を通る様になった。


 いつの間にか

 指輪を絵に描いてしまっていた。

 そうしたらどうしてもディテールが気になって


 僕は意を決してお店へ入った。


 そっとショーケースの前に立ち、

 中の指輪を一心に見つめ

 そのデザインを少しでも詳細に記憶に留め

 アパートへ帰ってから絵に描き足す。


 こんな事を繰り返したものだから

 ある日、また声を掛けられた。


「お手に取ってご覧になられますか?」


 この言葉に今度は抗えず、僕は頷いた。


 手袋の指先に摘ままれた指輪が僕の手のひらに載せられた時、予想以上の重みと何とも言えない……あるはずの無い温もりを感じ、唐突に涙腺が緩みそうになって……

 僕は慌てて「もう結構です!ありがとうございました!」と指輪をお返しした。



 --------------------------------------------------------------------


 日夜働き詰めに働いて……どうにか写真学校は出たものの就職は厳しかった。


 何とか潜り込んだ雑誌社だったけれど、ここのフォトグラファーが助手に手を付けまくる名うてのセクハラ野郎で……次の犠牲者が現れるまでは我慢ができず、止む無く退職した。

 そして半年“浪人”した後、小さな写真制作プロダクションに“下働き”として就職した。

 けれどカメラどころかレフ板さえ触る事ができず、専ら“物集め”の追い回しをさせられていた。


 そんなある日、オーダーされたイメージに合う絵皿を探して入ったアンティークショップで私はその金時計に出会い、一目惚れした。


「お嬢さん!お手に取ってご覧になられますか?」


 そう言われて私は「これも後学の為!」と自分に言い聞かせ、自前の白手袋を取り出した。


 けれども店主は頭を振った。


「私は手袋をしておりますが、どうかお嬢さんはそのままで時計に触れてあげて下さい」


 手のひらに載せられた金時計はずっしりとした重さがあるのに冷たさを感じなかった。


「不思議ですね」


 思わず声に出していた。


「この時計の最後の持ち主は、とあるお屋敷の下女だったそうです。そのお屋敷の嫡男は戦争で亡くなりましたが、その()()()()を育てる為に、彼女は泣く泣くこの時計を売りに出したとか」

 問わず語りの店主の話に何故か引き込まれてしまい、私はそっと時計のベゼルを撫でてみた。

「今でも針は動くのですか?」


「それはあなた次第ですね」

 そう言われて私は驚いて顔を上げた。



 --------------------------------------------------------------------


「お代などお受けできるものではございません。」


 僕達が月々店に納めて来た手付金のすべてを佐藤さんは返して下さったばかりか、僕達の仲人まで引き受けて下さった。


「いつかは訪れると信じてはいましたが……私どもが生きている間にお二人にお会いできるなんて!」と奥様は美しい刺しゅうが入ったレースのハンカチで目頭を押さえる。


 僕達には前世の記憶が無いのだけれど……僕達が各々愛して止まない指輪と懐中時計には予め相手の名前が刻まれていた。


 佐藤さんと奥様は形見として懐中時計と指輪を受け継ぎ、その縁で結婚なされた。


 だから僕達4人はきっと不思議な縁で繋がった家族なのだろう。


 それは親を亡くした僕と愛にとって……とても幸せな事で……

 僕はこの幸せをいつまでも守って行こうと心に決めた。





 ※ この4人に幸多からんことを ※




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四宮楓先生へ。 最近、もの凄い勢いで、作風が、変わっているように感じます。 一行、一行に、心がこもっているような。 最後の挑戦に出られたように感じます。 頑張って、下さいね。 このジジイも、…
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