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ハンターを追う女ハンターは、気分上々で早くも濡れる

興梠麻里絵(こおろぎまりえ)は一人、シャワーを浴びていた。

自宅マンションの、バスルームである。

つい先ほどまで、若い男二人を相手取り、情事に(ふけ)っていたところだった。

二人とも、別に恋人なわけでもなければ友人でもない。知り合いですら、ない。

馴染みのホストクラブから、電話で呼び寄せた出張ホストだ。女性客の求めに応じて、時には性的なサービスも施す。

そして、それが全てだった。

そのホストクラブは、出張専門であり、男にとってのデリバリー・ヘルスと対義と云える。

麻里絵がひとしきり満足したところで、ようやく開放されたホスト二人は、重い身体を引きづるようにして帰っていった。ほとんど這々の(てい)だった。

麻里絵のセックスの相手をする羽目になった男は、コトが終わった後は大概がこうなる。

全ては彼女の、人並み外れた性欲の故だった。

(全く、最近の若い子は、だらしないわね)

正直まだ、少しばかり物足りなかった。

(でも、アタシを満足させようと思ったら、最低でも特殊部隊の隊員かプロの格闘家なみの体力がいるし、それを一般人に求めるのも酷だわね)

自嘲とも諦めともつかない笑みを浮かべながら、麻里絵は己が形の良い豊かな乳房を両手で一撫でした。ついさっきまで、男たちが二人がかりで武者ぶりついていた部分だ。我ながら、今までに何人の男をこの身で、肉体で狂わせて来ただろうと思う。

それでも何とか、身体の芯からの疼きは治まった。情事の後に特有の火照りはあったが。

殺しの依頼を受ける度に、いつもこうなる。

我ながら悪い癖だ。つくづく、そう思う。

だが、やむを得ない。

麻里絵は自分の性癖を、よく知っていた。

それは何か?

それは、抹殺対象、つまり標的(ターゲット)が手応えのありそうな男であるほど、激しい欲情を覚えることだった。

その男を仕留める瞬間をイメージするだけで、疼きが止まらなくなるのである。

標的の眉間を、心臓を、撃ち抜く。鮮血が(ほとばし)り、恐怖と絶望が入り混じったような驚愕の表情を浮かべて絶命する、標的のその時の顔を思い浮かべる。

ほとんど恍惚となるほどの、ゾクゾクするような高揚感を感じる瞬間だった。

そうなった時の麻里絵は、例外なく下腹部の奥がジンジンとし始め、男の体が欲しくて堪らなくなる。

だから依頼を受けた後は、男を抱くのがいつものことだった。

抱かれる、のではない。抱くのだ。

彼女が男に抱かれるのではなく、彼女が男を抱くのである。

基本的に受け身な、男任せのセックスは麻里絵の性に合うものではない。

(それにしても)

麻里絵は思い出している。

昼間、久々に入った殺しの依頼。その今回の標的の顔写真を目にした瞬間のことだ。

ほとんど感動したと言っていい、それほどの興奮を覚えた。こんなことは、久しくなかったからである。

(本当に久しぶりの、超大物だわね。それも、超の字が一つどころか、二つも三つもつきそうなほどの)

思わず舌なめずりしながら、バスタオルを巻きつけつつバスルームを出る。

頭にもタオルを巻いたまま、寝室に向かった。

使用済みのコンドームやら、丸まったティッシュやらが散らかったままのベッド回りを踏み越えるように、化粧用の鏡台の前に歩み寄る。

鏡の前のデスク部分に、置かれた顔写真が二枚。

麻里絵が二枚とも手に取り、凄艶な笑みを浮かべた。やはり情事の余韻が残っている。ゾクリとするほどの、不思議な色気があった。

「楽しみだわ」

我知らず、呟いていた。

「こんな超大物、相手に出来るなんて、殺し屋冥利に尽きるわね。しかも、二人だなんて」

麻里絵の笑みに、怖い目つきが加わった。

なまじっかの男なら、その目で見られただけで逃げ出すだろう。

「さて、どちらから仕留めようかしら、迷うわ〜、ホント」

二枚とも、デスク上に投げるように置く。

顔写真の顔が、照明に照らされて鮮明になった。

他でもない、前野高陽と村井健介、それぞれの顔だった。

「前野高陽に、村井健介ね。どちらも裏社会でも有名人、愉しませてくれそうね」


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