表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

過激な通行人と酒の入ったハンターたちの邂逅

高陽と健介が居酒屋を出たのは、夜9時をだいぶ廻ってからだった。

幸三とは店を出てすぐ、別れている。幸三は一人、市内の親戚の家に泊まるという話しだった。

二人が泊まっているビジネスホテルとは、別方向である。

「たまには孫やひ孫の顔も見たいでの」

そう笑う幸三に、健介が一応、

「今からじゃ遅くなりすぎませんか?何でしたらボクらのホテルに今晩だけ泊まって、出向くのは明日にしたらどうですか?ホテルには何とか、話しをしてみますから」

と提案したのだが、

「問題ない。少し遅くなるとは、連絡してあるよ」

と、後ろ手を振りながら帰っていったものである。

長年愛用しているライフルが入ったライフルケースを担いだ、年を感じさせない壮健な背中を見送ってから、二人は(きびす)を返した。

「さてと、オレらもホテルに戻るか」

「そうですね、ボクは寝る前にワジマ式の手入れをしないといけないし」

「おいおい、それだけ酒が入った状態で銃の手入れなんか、危ないだろ」

「そういう前野さんだって、これから狩猟太刀の手入れでしょ。酒だって、しこたま呑んでたのに、それこそ危ないですよ」

「それが出来る程度に抑えてはいたさ」

「ボクもです」

基本的に熊狩士にしろ熊撃士にしろ、正体を失うほど呑むのは如何(いか)なる時も厳禁である。

何しろうっかり呑みすぎて手元が狂うようでは獲物を仕留められない。のみならず、万が一突然街中で熊に出くわしたりした場合、必要以上に酒が入っていたのでは危険でもあった。一瞬の判断を誤る可能性があり、時には生死を分けることさえ、充分にあるからである。

これらの理由によるかどうか、熊狩士と熊撃士の資格取得時にライセンスと共に交付される「業務マニュアル」にも、

「職務に当たる際は、アルコール類や薬品類の影響を充分に考慮し、直前の摂取は厳に控える事」

という条項の一文があった。

もっとも今夜の高陽は愛刀の「雷神」を担いではいないし、健介も愛用のワジマ式は持ってきていない。呑みに出る前にホテルにチェックインした際に、部屋に置いてきてあった。

だが実は二人とも、まるっきりの丸腰ではない。

まず健介は、左脇の下に大型自動拳銃をホルスターで吊っている。「ワルサーP99」だ。 狩猟に出る際にも、ワジマ式が弾切れを起こしたような、予備弾倉を装填する間がない時の補助的火器(バックアップガン)として携帯している。

銃火器の輸入や所持の規制が緩和された「銃刀法新法」が施行されて以来、クマなどの野生動物から身を護るためではない、犯罪目的で購入、所持する犯罪者がやはり、一定数増加した。警察官などの官職以外で、大型自動拳銃の所持・使用が唯一認められた職業は、熊撃士だけである。

そして熊撃士だけでなく熊狩士もそうなのだが、彼らはこういった犯罪者らによる銃火器の不法使用を取り締まれる「特権」も与えられており、見かけた場合は厳正に対処する「義務」もその職務に含まれていた。

もしも銃火器を用いた犯罪者を検挙した場合、国家から「報奨金」という名目で賞金が支払われることもあり、賞金稼ぎよろしく、休猟期にはこれで稼いでいる熊狩士や熊撃士も結構な数でいる。

実は高陽と健介も、これが副業であった。

そして高陽だが、懐中はやはり、亡き裕子の形見のホルスターでグロック27を吊っているが、右の後ろ腰にもう一丁、携帯していた。

リボルバーだ。それも、引金(トリガー)を引けば連発できる「ダブル・アクション」ではない。一発撃つごとに撃鉄(ハンマー)を起こす必要がある「シングル・アクション」のリボルバーだ。

コルト社製「シングル・アクション・アーミー(S・A・A)」、通称「ピースメイカー」として知られる、西部劇ではおなじみの、アメリカ西部開拓時代から続く名銃であった。

このコルトSAA、何度かその長い歴史の中で改良を加えられているが、一つだけ変わっていないことがある。 それは、「構造が極めてシンプルなため故障が少なく、作動不良を起こす心配は皆無」という一点に尽きた。

故に、多弾数の大型自動拳銃が全盛の現代においても尚、その信頼性の高さからこれを補助的火器として携帯する人間は今も多い。 しかも、それはこの日本の熊撃士・熊狩士だけではなく、世界中の軍や警察関係者にもだった。

高陽がこのコルトSAAを使っている理由はただ一つ。護身用、そのひとことに尽きた。 熊狩士は狩猟太刀を携行していても、銃刀法には一切抵触しない権限が与えられている。だが、その代わりに熊撃士のような強力な銃火器の携帯・使用は許されていない。

なぜか?

それは、狩猟太刀が並の刀剣と比べると遥かに、頑丈でかつ、重い上に、切れ味も半端ではないからである。

その刀身の大きさや重さゆえに、使い手には一流の剣技のみならず、軍や警察の特殊部隊の隊員に匹敵する体力と、力士やプロレスラーに及ばずとも近い筋力が要求される。剣道の全日本選手権者といえど、真剣を振ったこともない人間にはとてものこと、使いこなせないだろう。

熊狩士の国家試験が厳正と過酷を極めるのは、当然のことと云えるのもこの為である。

何しろ、試験は筆記もあるが、これはさほど難しくはない。

問題は実技試験の方で、この長大な重い狩猟太刀を先ず、百回素振りすることから始まるのだが、ここで回数をクリア出来ず不合格になるものが大半。ついで狩猟太刀を背負ったまま20kmのウォーキングとなるのだが、これが山あり谷ありの、普通に歩くのも困難な難所に次ぐ難所コースとなっており、素振りをクリアした者もここで大半が脱落することになる。

さらにトドメとばかりに、仮想した敵を相手に戦いを表現する「型」を演武し、最後に巻き(わら)を試し斬りして終わるのだが、ここを乗り切った者は、未だかつて全国に十人ほどしかおらず、そのうちの一人が高陽だった。

それだけに彼ら熊狩士にとっては、何より以上にその身分を証明するだろう、狩猟太刀こそが唯一にして最大の武器であり、これさえあれば、大概の戦いは切り抜けられると見做(みな)されていたからに他ならない。

まさに最終兵器だったからであり、 故に世間では、熊狩士を別名「銃不要(じゅういらず)」と呼んで、(おそ)(うやま)う ハンターも多かった。

その高陽が狩猟の時はもちろん、平常出歩く時も護身用として、このピースメイカーを選んだのは、先ずシングル・アクションゆえの反動の少なさから来る命中精度の高さ。加えて強力な45口径弾を使用できるからだった。むろん、高陽自身は射撃の腕には剣技ほどの自信はないというのもある。

さらにいうなら、ピースメイカーのようなシングル・アクションのリボルバーならば、護身用として持ち歩いている人間が、一般市民にも結構いた。銃刀法新法では、これは違法ではないからである。

高陽と健介が歩いていく先に、電柱が道にはみ出す形で立っていた。こちらから隠れるような格好で、スーツ姿の二人の男が何やら立ち話をしているようだった。

この二人に気づいたからかどうか、何とはなしに、高陽と健介の会話がいつの間にか、なくなっていた。

高陽は、まっすぐ前を向いたまま、無表情。 健介は、どこか遠くで何か音を聞いたような顔である。

高陽と健介は肩を並べて歩きながら、男たちの脇を通り過ぎた。 一歩、二歩、三歩と過ぎ、十歩めを踏み出そうとした時だったろうか。

後ろから声がかかった。

「はーい、二人とも止まって、こっち向いて動かないでっ、くっださーい」

驚く様子もなく振り向いた高陽と健介は、電柱の陰にいた男たちがいつの間にか、自分たちの背後に立っているのを見た。右手には拳銃らしきものを、二人とも構えている。 名称は不明だが、中型の自動拳銃のようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ