4-1(プロローグ).
プロローグは短めです。
第4章は題名の通り、ロシアの文豪の知らぬ者のない名作のオマージュになっています。
また、この物語の山場の一つとなる予定です。
ついに?主人公の大活躍が見られるのか?
その部屋には3人の男がいた。
「ふーん、これが隷属の首輪か」
3人の中で一番若く暗い目をした男がテーブルの上に置かれた首輪型の魔道具を手に取る。暗い目をした男の口調には年長者に対する敬意は感じられない。
「紛れもない失われた文明の遺物だ。紛い物である奴隷の首輪とはわけが違う」
答えたのは一番年長で豪華なローブを着た禿頭の男だ。
隷属の首輪は教会が持つ秘物の一つで、禿頭の男が言った通り失われた文明の遺物だ。これを使えば知性のある者であっても文字通り隷属させることができる。
「それで、間違いないんだろうな?」
「シルヴィア自身が最上級の回復魔法で命を救われたと直々に報告してきた。最上級の聖属性魔法でなければとても助からない怪我だったと。しかも戦闘で基本四属性すべての攻撃魔法を使っていたとか」
「シルヴィアがそう言うのなら、そうなのでしょう。彼女は嘘を言うような性格ではありません。真面目すぎる性格です。まあ、そこが案外扱いやすいのですがね」
そう言ったのは、やはり豪華なローブを羽織った、顎の尖った神経質な顔立ちをしている男だ。一番年長の禿頭の男とさほど年は変わらない。
「なるほど、シルヴィアが最上級の回復魔法で命を救われ、他にも複数の属性の魔法を使える・・・。確かに使えそうだ」
暗い目の男の態度は相変わらずふてぶてしく年長者を前にしたものとは思えない。しかも目の前の二人は年長なだけでなく、この国での地位も高い。
「ああ、シルヴィアは、確かにそう報告してきた」
禿頭の男が答える。
「しかも黒髪でシズカイ様に似た容姿・・・ハハ、本当に聖女かもしれない。それなら普通に頼んで聖女として迎え入れてもいいかもしれないな」
「馬鹿な。聖女などいるわけがない」
「聖女の顕現と救済を信じてないのか? 民衆には聞かせられないな」
暗い目をした男の言う通り、この場でもっとも聖女の顕現を信じていないのはこの禿頭の男だ。本人が自覚しているかどうかは不明だ。禿頭の男からの返事はない。
「まあ、いい。計画通り無理やり聖女になってもらうとするか。それじゃあ、これは預かっておく」
暗い目をした男はひょいと隷属の首輪を取り上げると、そのまま鼠色のローブの内側にしまった。自然な動きで失われた文明の遺物を前にした緊張などどこにもなかった。
「どうしても自分でやるのか?」
禿頭の男が確認する。
「それが一番秘密を守れる。聖女の顕現、教会にとっては願ってもない奇跡だろう。特に今は」
暗い目の男は年長者二人に皮肉な笑みを浮かべてみせた。
「それと・・・」
「分かっています。馬車や魔道具の手配はこちらで行います」
神経質な顔の男が言った。
神経質な顔の男が言った魔道具とは、魔法の使用を妨げる結界を張る魔道具のことだ。結界は大掛かりな魔法で通常は巨大な魔法陣を設置するなどして使う。だが、隷属の首輪と並ぶ教会の秘物であるその魔道具は狭い空間に短時間だけ結界を張るというものだ。今回の目的にはそれで十分だ。
「ああ、頼む。聖属性魔法を除いても相当な腕の魔術師らしい。首輪を使う前に暴れられたら面倒だ」
暗い目の男はそう言うと、話はこれで終わりだとばかりに二人に再び視線を向けることなく部屋を後にした。
「あいつに好き勝手させていいのですか?」
暗い目の男が部屋を出ていったのを確認すると神経質な顔の男が口を開いた。
「お前の気持ちは分かるが、こっちが手を汚さないでいいなら、それはそれでありがたいというものだ。それにいざというとき、切り捨てられるのも都合がいい」
実は、禿頭の男には自らが美しい少女を隷属させたいという加虐的な気持ちがあった。だが、危険を犯す必要はない。少々、いや、かなり残念ではあるが・・・。
「それよりシルヴィアをこの件に関わらせないようにな」
「心得ています。なんせ融通の利かない性格ですから」
禿頭の男は変態であると同時に臆病でもあった。まあ、今回は、教会の権力が強まり王家が困ればよしとしよう。禿頭の男は自分で自分を納得させた。
「ドミトリウス、小賢しい男だ」
「ですが、これで一矢報えますな」
「そうだな。それにしても、奴といいドミトリウスといい、やはりカラゾフィスの血は碌でもないな」
「それでジークフリートは大丈夫なのですか。なんせ英雄と呼ばれる男です。しかもその魔術師は妻だという噂も」
「もちろん、すぐにバレるだろうな」
禿頭の男も、ジークフリートに永久に秘密にすることはできないだろうと思う。永久どころか秘密にできるのは案外短い期間だろう。妻を攫えばさすがにバレる。だが、それは奴だって分かっているはずだ。それでもやるというのだ。奴もカラゾフィスの血のせいで狂っているのかもしれない。こっちとしては利用させてもらうだけだ。
「それなら、なぜ?」
「さっきも言った通り、用が済んだら切り捨てればいい。なんなら奴ともどもな」
「殺すのですか?」
禿頭の男は、質問には答えず「一定の間、教会の役に立ってもらえばいい。ジークフリートだって居ないものをそれ以上追求できまい。英雄とて国を相手にはできないだろう。ましてや証拠もなく」と言った。
禿頭の男は聖女など信じていない。禿頭の男の考えでは、民衆は神や聖女などではなく、教会を信じていればいい。それが一番幸せなのだ。それが、どうだ、今は聖女どころか、あの忌々しいドミトリウスなどに拍手喝采している始末だ。やはりカラゾフィスは碌でもない。
「民を正しい道に導く。それが教会の役目ではないか? それは決して聖女の役目でも、ましてや王家の役目でもない。そうだろう?」
「仰る通りですな」
神経質な顔の男は、この国で最も神を冒涜している禿頭の男へ頭の中で罵詈雑言を浴びせながら、にこやかに微笑んだ。
さて、作者が過度に宣伝していた第4章は本当に面白いのか? それとも騙された!と手に持ったスマホを思わず床に叩きつけてしまうのか? こうご期待です。
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