3-32(ユウト).
ユウト編です。
「あと半日くらいかな。エーデルシュタッドまで」
僕は地図を見ながらルルに話しかける。
僕たちが目指しているエーデルシュタッドは、ガルディア帝国の東側の街で中央山脈にも近いことから比較的冒険者が多い街だ。確か帝国でも3番目くらいに大きな街だったはずだ。エーデルシュタッドから南西へ行けば帝都ガディスだ。
僕はエニマ王国のエラス大迷宮で冒険者を始めた。そこでルルとも出会った。そのあと、ちょうど2階層に辿り着いたところで、僕とルルはエニマ王国を出ることにした。ルルとの迷宮探索は楽しかったが、コウキのアドヴァイスを思い出した僕は、あまり一所に留まっているのは危険だと判断した。それに迷宮の中はあまり逃げ場所もない。
僕は基本的に憶病なのだ。
そして次に行く国として僕が選んだのがガルディア帝国だ。この世界でルヴェリウス王国、ドロテア共和国と並ぶ大国だ。中でも帝国は現在最も勢いがある。僕とルルはエニマ王国の国境に近い街を始めとしていくつかの街を経由して帝国3番目の規模を持つエーデルシュタッドを目指しているところだ。
僕は隣を歩くルルを観察する。ルルは周囲に注意を払いながら僕を守るように歩いている。その真剣な姿はなんとなく可愛らしい。僕も魔力探知に集中する。僕とルルは、こうしてときどき街道を外れ魔物を狩りながら旅をしている。
「ん!」
魔力探知で魔物の気配を捉えた。
「ユウ様、ホーンウルフです。たぶん」
ルルは魔力探知は使えないが目がとても良い。
ホーンウルフ、初めて聞く魔物だ。狼型の魔物としては下級上位のジャイアントウルフが最も一般的で名前の通り大きな狼だ。群れで出現することも多く、そうなるとなかなかの強敵だ。だが目の前にいる狼型の魔物はジャイアントウルフではない。
「ジャイアントウルフよりジャイアントだね」
「ちょっと、ホーンウルフにしては大きいですね。もしかした特殊個体なのかもです」
特殊個体! なんとなく心惹かれる言葉だ。
目の前の魔物はジャイアントウルフよりさらに大型で名前の由来であろう一本の角が額から伸びている。
「強いの?」
「ホーンウルフはジャイアントウルフと同じで下級の中では上位ですけど・・・。狼型では珍しくあまり群れることのない魔物です。でもこのホーンウルフは・・・」
狼型や犬型で一般的に最も危険なのはブラックハウンドだ。ブラックハウンドは群れで人里を襲うことがある中級の魔物で危険なので討伐依頼も多い。それに対してルルによるとホーンウルフは下級の上位くらいだ。同じくらいの強さのジャイアントウルフと違ってあまり群れることがない魔物で、目の前のホーンウルフも一頭だけだ。
「特殊個体だとして、どのくらい強いのかな?」
「分かりません。でもずいぶん大きいですし・・・中級上位くらいはありそうですね」
もしルルの言う通り中級上位なら上級に近いってことだ。これはちょっとまずいかもしれない。上級の魔物を狩れる冒険者なんて一握りだ。
一度だけ上級の魔物であるワイバーンが飛んでいるのをエニマ王国で見た。エラス山には結構いる。武力を誇るガルディア帝国の旗にもワイバーンが描かれている。空の王者といった風格がある。まあ、ワイバーンは上級でも上位の魔物だ。目の前のホーンウルフの特殊個体がそこまでとは思えないが、それでも・・・。
「逃げる?」
「狼型は基本素早いです」
「だろうね」
僕はルルに返事をしながら剣を抜いた。ルルもすでに小ぶりの剣を両手に構えている。
ガキッ!
考える間もなくホーンウルフが飛び掛かってきた。僕を庇うように前に出たルルがホーンウルフの角を2本の剣で受け鈍い音を立てる。
速い!
「氷弾!」
僕は魔法を放つが当然のように当たらない。比較的出の速い氷弾でこれじゃあ、中級の氷槍はとてもじゃないけど当たりそうにない。
僕も剣で戦おうと斬り掛かるが、ホーンウルフは素早く僕の剣は空を切るばかりだ。
「うわぁー」
僕の顔のすぐそばを鋭い牙を覗かせたホーンウルフの口が横切った。
あ、危なかった・・・。
「ユウ様下がって!」
僕は小柄なルルの背に守られるような位置に下がった。
はっきり言って情けない。
ルルはホーンウルフの素早い動きについていけてる。でも、圧倒的にパワーが足りていない。
「氷弾!」
やっぱり当たらない。
それでもルルが素早く動きホーンウルフを相手にして、僕がときどき氷弾を放つことを繰り返す。これ以外にいい方法を思いつかない。
徐々にルルの服には切り裂きが増え、顔にも血が付いている。
くそー。俺のルルの顔に傷をつけやがって。許さないぞ! 僕は心の中だけで強気になる。
「氷弾!」
「ぎゃう!」
あ、当たった。
すかさずルルが斬りかかる。ホーンウルフは頭を振ってその大きな角でルルの剣を振り払う。
「ルルーーー!!」
ゴロゴロとルルが地面を転がる。僕はすかさず駆け寄ってルルとホーンウルフの間に立つ。
「回復!」
ルルは自らに回復魔法を使う。
「ユウ様、大丈夫です。下がってください」
「え、でも」
「私は大丈夫ですから」
僕はルルの言う通り。またルルの後ろに下がる。
くそー、情けない・・・。
でもホーンウルフの素早い動きについていってるのはルルだけで僕には無理だ。
どうすれば・・・。
氷弾がやっと一発当たったけど致命傷にはならなかった。トリスタンさんの指輪で強化されているといっても初級の氷弾では、よほど急所に当たらない限りダメだ。例えば目を潰すとかだ。だけど素早いホーンウルフに、とてもそんなことはできそうにない。
やっぱり中級の氷槍を当てたい。中級のオーガにだって当たった。でも素早さが段違いだ。それに僕の勘がこのホーンウルフの特殊個体は、あのときのオーガより強いと告げている。
まあ、これまで僕の勘が当たったことはほとんどないんだけど・・・。
でも他に方法がない。いや、本当にないのか? 魔法と剣を組み合わせて戦っていたハルを思い出す。ハルはどうやってた?
僕のできることは・・・。
ルルは避けることに徹しながらホーンウルフと戦っているが、明らかに押されている。パワーではホーンウルフのほうが上だし僕を庇いながらというのがルルの足かせになっている。
「あ!」ルルが小さく声を上げた。押されていたルルの足が少しもつれたのだ。
危ない!
「氷盾!」
ガギッ!
「ギャウウーーー!!!」
ルルに突っ込んできたホーンウルフが僕の作り出した氷の盾に激突した。ハルのおかげで中級魔法には防御魔法もあることを思い出した。
「ルル! 今だぁぁぁぁーーー!!!」
ルルは思いっきりジャンプをしてその小柄な体を目いっぱい使ってホーンウルフに2本の剣を突き刺した。
「グオオォォォ!!!」
ホーンウルフが体を捻ってルルの剣を避けようとするが、ルルの剣のほうが速い。ホーンウルフの肩から血飛沫が舞い上がった。ルルはすぐにホーンウルフから離れると僕を守る位置に戻った。
ホーンウルフは血を流しながら僕たちを睨んでいる。しかしルルの2本の剣で大きな傷を負い、そのせいか傷ついた右側にやや傾いでいる。
それでもまだホーンウルフの目は死んでいない。
傷つきながらも両足を踏ん張って僕たちを見つめる目は鋭い。ルルの一撃は確実にホーンウルフにダメージを与えたが命を奪うには至らなかった。でも、肩から右前足にかけて大きな傷を負ったホーンウルフは、もうさっきまでのように素早くは動けないだろう。
「ユウ様、中級の防御魔法を使えたのですね」
「うん。今の今まで忘れてた。なんでだろう?」
3種類しか使えない魔法を忘れているなんて我ながらおかしい。いや忘れてはいなかったが、使うイメージを持っていなかった。すごい魔法で魔物を倒す冒険者になることばかりを想像してたからだろうか。まあいい、それこそ次は氷槍を当てる。それで終わるはずだ。今のホーンウルフになら当てられる。
「ルル、氷槍を使う。少し時間を稼いで」
「分かりました」
ルルはホーンウルフの周りを素早く動き牽制する。さっきまでとは逆でホーンウルフのほうが防戦一方だ。だが油断は禁物だ。調子に乗り易いのが僕の悪い癖だということは、これまでの経験でいやというほど分かっている。
僕はホーンウルフから目を離さず、頭の中にある氷槍の魔法陣に魔力を流し込む。氷槍さえ当てれば、相手が特殊個体だろうと勝てる。
僕はホーンウルフを睨みつけた。ルルを相手にしているホーンウルフのほうも、なぜか僕を見ているような気がした。
もう少しだ。もう少しで魔力が溜まる。
ホーンウルフはルルの二本の剣での攻撃をなんとか躱す。時間を稼ぐのが目的だから、ルルも深追いはしない。
・・・ホーンウルフは・・・やっぱり僕を見ているような気がする・・・。
よし!
魔力が溜まった!
これで・・・後は氷槍を当てれば・・・。
ん?
「がうっ」
ホーンウルフが小さく吠えると、僕の頭の中にあるイメージが浮かんだ。
言葉にするのは難しいのだが、ぶっちゃければ「ホーンウルフは仲間になりたがっている。どうしますか?」って感じだ。
もちろん僕は『YES』を選択した。
「ルル、攻撃を止めて」
「え、でも」
「もう大丈夫そうだ」
ルルがホーンウルフを見る。ホーンウルフの目にはもう敵意がない。
こうして僕はルルの次の仲間を得た。
ユウトというキャラクターを気に入っているせいか、少し長くなったので2話に分けました。その後、いよいよ第4章に入ります。




