3-31(タツヤ).
ちょっと短いです。
「次はどうしますか?」
俺とメイヴィスはイデラ大樹海の浅層で野営しながら今後のことを話している。
俺たちはイデラ大樹海近辺の人族の国へ火龍を使って嫌がらせをしたりしながら旅をしているのだが、未だにイデラ大樹海に留まっている。
その火龍には今は勝手に餌を取りに行かせている。
「そうね。あと一国嫌がらせをしときたい国があるのよね。ちょっと因縁がある国でもあるし。それが済んだら北へ、シデイア大陸の方へ向かいましょう。そろそろ私たちがいないのを、あの小娘も怪しんでいるかもね」
「因縁?」
「まあ、ずいぶん昔のだけど」
昔か・・・。
はっきりとは分からないが、メイヴィスはものすごく長い間生きているらしいから、そのメイヴィスが昔と言えば相当な昔の話なんだろう。メイヴィスはそういったことはあまり話したがらない。
俺は話題を変えることにした。
「そういえば、メイヴィス、イデラ大樹海で討伐した伝説級の魔物をなぜ眷属にしなかったのですか? 火龍ほどではなくても伝説級でも相当なもんでしょう?」
俺はこれまで、俺以外の眷属のことについてはあまりメイヴィスに聞かなかったが、今日は思い切って聞いてみた。
「そうね、そうしても良かったんだけど。ちょっと枠を空けときたい理由もあるのよ。ちょっとした実験をしてるのよね」
枠? メイヴィスが蘇生して眷属にできるのは3体までなので、確かに枠は一つ空いている。今日は機嫌がいいのか、メイヴィスは今まで教えてくれなかったことを喋ってくれた。
「ここまで来るのに使った転移魔法陣を覚えている」
「ええ」
あの魔法陣はメイヴィスの屋敷の地下にあった。というかメイヴィスの屋敷はなんと超古代文明の遺跡の上に立っている。
「あの魔法陣が何か?」
「あの魔法陣自体は関係ないんだけど。あれってね、もとからあそこに在ったものなんだけど、見つけたときにはちょっとだけ壊れてたの。それを修復したのよ。要はね、私はいろいろと研究しているの。魔法陣とか魔法とかね」
そういえば、メイヴィスの屋敷の地下には超古代文明の遺物である魔法陣以外にも研究室のようなものもあった。
「メイヴィス自身が研究しているのか?」
「することもあるわ?」
「こともある?」
「ええ、魔族とか、ときには人族の優秀な研究者を雇うこともある」
雇うか・・・まあ、攫ってきたりもするんだろう。
「まあ、とにかくそういうことよ」
どういうことは全く分からなかった・・・。ただメイヴィスが魔法陣や魔法をいろいろ研究していて、それが何か眷属の枠を空けておくことに関係があるらしい。
「もしかして、キングオーガとかサイクロプスの死体をアイテムボックスに保存しているのも何か実験と関係が・・・」
イデラ大樹海深層で俺の修行のため魔物討伐した。討伐した魔物の死体のいくつかをメイヴィスは保存している。なぜ眷属にせずあんなことをするのかと疑問には思っていた。火龍ほどじゃないにしても伝説級の魔物ならとりあえず眷属しておく価値がるような気がしたからだ。なんかの素材にでもするのかと思っていたが、どうやら、メイヴィスの研究と関係があるようだ。
「タツヤ案外鋭いわね。まあ、眷属の件はそれほど拘わっているわけじゃないわ。その時に空いていればいいだけだから」
その時に空いていればいい・・・。その時とは?
「まあ、少なくとも今はその時ではないから、また火龍みたいな死体を見つけるとか、必要があるときには使うわ」
「必要なとき?」
「ええ、人族への復讐に役立つ眷属が手に入りそうなときとかね」
なるほど・・・。必要なときには使う。今はそこまで拘っているわけじゃないってことか・・・。
「これまでも3人眷属がいたことはあった。でも、みんな私より寿命が短いからね。まあ、そういうことよ。タツヤはせいぜい長生きしてね」
俺は少なくとも人族への復讐を果たすまでは死なない。
「メイヴィスに寂しい思いはさせませんよ」
「タツヤ・・・。うれしこと言ってくれるわね。でも、1000年くらいは早いんじゃない」
そう言いながらメイヴィスは笑っている。
「そうだ。さっき言ったちょっと因縁のある国だけど、偶には火龍で直接街でも襲わせてみようかしら」
「その国が壊滅してしまうのでは?」
これまでメイヴィスは火龍で直接人を襲わせることはしてなかった。
「残念ながら、それはないわ。人族でも火龍を討伐することはできる。人族にもね、結構強い奴はいるのよ。確か人族がSS級冒険者とか剣神とか呼んでいる強者の中には火龍のようなドラゴンを討伐した者もいるはずよ。もちろん、そういった強者でも一人で討伐したわけじゃないでしょうけどね。そうでなくても1000人とかでかかってきたりね。人族って数が多いでしょう」
確かにそうだ。さすがの火龍も1000人の騎士団に囲まれたら無事ではすまないかもしれない。それにメイヴィスの言う通りで、魔力のあるこの世界では人族にだって強者はいる。魔王様が討伐したんだから火龍といえども討伐することはできる。
「だから、ちょっとした嫌がらせよ。それでも火龍なら街に相当な被害を与えられるでしょう。まあ、火龍と一緒に私たちも暴れた上で適当なところで引き上げればいいわ」
気の毒に、それでも襲われた街には、相当な被害が出るだろう。国はともかく街は壊滅してしまうかもしれない。
「そうだ、さっきも言ったように人族にもそれなりの強者もいるから、そういう奴が出てきたらタツヤの訓練にもなるかもね」
「ええ、是非そんな奴が出てきたら俺に任せて下さい」
実際、魔物ではない強者とも是非戦って見たい気持ちがある。
「分かったわ。期待してるわね」
火龍も含めて俺たちが暴れれば、かなりの人族が死ぬだろう。そう考えても、ほとんど同情を感じない俺はもはや人ではないのだろう。




