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3-28(またしても…).

 冒険者ギルドで教えられた、ジークフリートさんの屋敷はすぐに見つかった。


 SS級冒険者はこの世界の英雄であり上級貴族や王族と同等の扱いをされる存在だ。ただ、ジークフリートさんの屋敷はかなり大きいが王宮はもちろん上級貴族の屋敷というほどの規模には見えなかった。どちらかというと裕福な平民か下級貴族の屋敷と言った感じだ。この世界の貴族の屋敷を訪問したことがあるわけではないから、あくまで感覚的なものだけど・・・。冒険者ギルドでジークフリートさんのパーティーメンバーは全員この屋敷に住んでいると聞いた。


 オスカーさんたちにユイの情報聞いてショックを受けた僕は3日ほど宿に閉じこもっていたが、その後3日かけて王都ネリア到着した。

 ネリアはさすがに王都というだけあって2重の城壁に囲まれている巨大な都市だ。それは僕にルヴェリウス王国の王都ルヴェンを思い出させた。城壁の外にも多くの町や村があり、さらにその付近にはよく手入れされた畑が広がっていて、城壁の外まで騎士らしき人たちが見回っている。この世界にはいたるところに魔物たちの住む森などがあるため王都近辺といえどもこうして警戒しているのだ。ただ王都ネリア周辺は、南のイデラ大樹海からも東の中央山脈とその裾野に広がる大森林からも離れており、それほど魔物が多く現れる場所ではない。そのせいか城壁の外に広がる街はルヴェンより広い気がした。


 テルツからネリアまでは、のんびり旅をすれば1週間くらいかかるところを、僕とクレアはテルツで宿に籠っていた3日間の遅れを取り戻すように急いで移動した。また、プニプニに無理をさせてしまった。


 そしてプニプニを預けた僕とクレアは、王都の喧騒を楽しむ暇も惜しんで、今ジークフリートさんの屋敷の前にいる。


 ジークフリート・ヴォルフスブルク、SS級の冒険者にして王族と同等の扱いを受ける英雄だ。ただし、実際には貴族ではないし領地を持っているわけでもない。名誉貴族みたいなものだ。SS級の冒険者や剣神など英雄と呼ばれている人の中には名誉だけではなく本当に貴族になっている人も多い。国としても強力な戦力をその国に囲い込めるのは都合がいい。

 しかし、ジークフリートさんは、束縛を嫌って、どこの国の爵位も受けていない。もちろん正式に貴族になっていなくとも、何処の国にいっても上級貴族と同等の扱いを受ける権利がある。パーティーなどに呼ばれた場合の序列も王族と同等であり王様以外に頭を下げる必要もない。それがこの世界のルールだ。


 道中で聞いたジークフリートさんの評判は気さくな自由人と言うものが多い。みんなから好かれていて人気のある英雄という印象だ。屋敷もそういったジークフリートさんの性格を反映した佇まいに見える。とにかく悪い評判は聞かない人だ。

 くやしいけど、ユイが選ぶのにふさわしい男のようだ・・・。それはユイにとって良いことなのだろうが、僕は暗い気持ちになるのを抑えることはできなかった。ジークフリートさんが英雄と言われるほど強く、その上人柄もいいのなら・・・僕の出る幕はないだろう。


 だめだ! また僕の悪い癖が顔を出している。ちゃんと事実を確かめよう。そのためにここまで来た。どんな結果が待っていようとも、僕も少しは成長したとこを見せてユイを安心させよう。それにクレアのほうがもっと気まずいはずだ。


「ハル様」

「うん。行こう!」


 僕とクレアは、門のところで警備をしていた人に名前とユイの知り合いだと告げた。そしてユイとジークフリートさんに会いたいと伝えた。

 その人が確認に行っている間、ユイのことを考えると平静を保つのに苦労した。クレアも緊張しているようだ。無理もない。ユイはクレアのことを自分を殺そうとした人としか認識していないだろう。

 しばらく待ったが、僕たちは意外なほどあっさりと中へ通された。ジークフリートさんがいくら気さくな人柄とはいえ上級貴族それも王族と同等の扱いと聞いたので、直ぐには会ってもらえないことも覚悟していたが、ここまでは想像以上にスムーズにことが進んでいる。

 

 通された部屋は、さほど華美ではないが品のいい落ち着いた感じの部屋だった。


 僕たちが部屋に入ってすぐにジークフリートさんらしい人が一人の女性を伴って現われた。一瞬ユイかと思ったが女性はユイではない。そして今、二人はテーブルを挟んで僕の前に座っている。


 SS級の冒険者で、この世界で最強と言われている一人だが、一見すると穏やかそうな、この世界では一番ありふれた茶色の髪をした飄々とした感じの風貌だ。年は30台の半ばくらい。40にはなっていないだろう。


 だが、見かけにだまされてはいけない。僕は気を引き締める。 


 ジークフリートさんの右隣に座っているのは、ジークフリートさんと同じくらいの年齢にみえる金髪の美しい女性だ。品のある落ち着いた感じの大人の女性という感じだ。ジークフリートさんはユイもいれて4人の奥さんがいるいう噂だったので奥さんの一人だろうか? ここ王都の冒険者ギルドでは一番新しい奥さんであるユイの噂も聞いた。とても若くて美しい凄腕の黒髪の魔術師。攻撃魔法だけでなく聖属性魔法も得意で若いが英雄の妻にふさわしい。そんな噂だ。


 だが、ユイはこの部屋にいない。

 ユイの知り合いだと伝えたはずだけど・・・。


「はじめまして、ジークフリートさん、いえジークフリート様。僕は、ハルという名で冒険者をしています。そしてこっちがクレアです。僕のパーティーの仲間です」


 僕たちは立ち上がって自己紹介をするとお辞儀をした。


「ハル座ってくれ。俺は堅苦しいのは嫌いだ。様はやめてくれ。ジークフリートでいい」

「私は、ジークフリートの妻でエレノアと申します」


 やっぱり、隣の女性はジークフリートさんの奥さんみたいだ。


「俺は回りくどいのも嫌いだ。ざっくばらんに聞こう。ハル、お前がユイが探している男だな? ユイが言っていた通りの容貌だしな」


 ジークフリートさんは、いきなりそう聞いてきた。やっぱりユイは僕のことを探してくれていたんだ。ジークフリートさんもそれを知ってるみたいだ。


「はい。わけあって、1年以上前に離れ離れになってしまってずっと探していました」

「それもユイの言っていた通りだ」

「それで、ユイは元気なんでしょうか? 今この屋敷にいるのなら会って話がしたいのです」

「お前ユイには、会っていないのか?」


 ん? どういう意味なんだろうか? 僕は今日初めてここに来たんだけど。


「僕は、今日王都ネリアに着いたばかりで、冒険者ギルドに寄ったあと直ぐにここに来ました。当然ユイにはまだ会っていません。というかユイに会いにここに来たんです」

「そうか・・・」


 ジークフリートさんは、僕の目を覗き込むように見た。僕はジークフリートさんの強い視線に負けないように見つめ返した。ジークフリートさんは何かを考えている様子だ。


「ハル、お前が本当ににユイが探していたハルかどうか証明することはできるか?」

「なぜそんなことが必要なのですか?」

「俺が必要だと判断したからだ。お前がユイの言ってたハルなのは間違いなさそうに思える。思えるのだが、確信が欲しい。ユイはあちこちでお前のことを尋ねていたから、ユイが同年代の黒髪、黒目のハルという名前の男を探していることを知っている者は少なからずいるはずだ。なりすますことだってできるだろう」

「それならユイ様をここに連れてきて下さればいいだけではないのですか?」とクレアが質問する。


 クレアの言う通りだ。僕が本当にユイの探しているハルだと証明したいならユイを連れてくればいいだけだ。でもそれができないってことは・・・ユイに何かあったとしか考えられない・・・のか?


「それができるんならそうしている」


 やっぱり、ユイに何かあったのか。とても不安だ。でも、ユイに何があったのかを聞き出すためには、僕がハルであることを証明しなければならない。


 どうすれば・・・。


 ユイの身体的特徴でも覚えている限り説明したらいいんだろうか? いやでもそれじゃあ、相手が知っているとも限らないし、あ、ジークフリートさんが夫なら知っているのか・・・。なんか落ち込んできた。これはやめだ。

 

 子供の頃の話?

 ユイと僕だけが知っている思い出?

 いや、僕とユイしか知らないんじゃあ話にならない。


 それじゃあ、ユイの好きなモノ?


「ユイは、ユイは月が・・・月の光がとっても好きでした。神秘的だって言って、それにまつわる音楽とかが特に好きで・・・」


 ジークフリートさんは、ハッとしたような顔した。


「なるほど。お前はユイの言っていたハルで間違いないようだな」と言って大きく頷いた。


 やはりジークフリートさんもユイが月や月の光が好きだって知っていた。ユイがそんなことまでジークフリートさんに話していると知って、また落ち込んでしまった。


「それで、ユイは、ユイは今どこにいるんですか?」

「それが俺にも分からない」

「それって一体どういう・・・?」

「エレノア」

「はい」


 ジークフリートさんが指示するとエレノアさんが、なにか紙のようなもの僕の方に差し出した。


 それを受け取ってよく見ると、それはユイが書いたらしい手紙だった。この世界の言葉で書かれているが、筆跡はユイのモノに間違いないように見えた。ジークフリートさん宛てだ。僕たちはこの世界に来たときから、なぜか言葉が喋れるだけでなく読み書きも普通にできる。


「読んでも?」

「もちろんだ」


 その手紙の内容は、パーティーを抜けること、突然パーティーを抜けることへのお詫びとこれまでお世話になったお礼、たったそれだけが書かれていた。明らかにおかしいが何度見てもユイの筆跡にしか見えない。


「3週間ほど前だ。その手紙だけを残してユイが消えた。さっきはすまなかった。関係ないとは思ったが、こんなことがあった以上、お前が本当のハルかどうかも確認したほうがいいと思ったんだ」

「こんな手紙だけ残して急にいなくなるなんてユイさんらしくありません。何か良くないことに巻き込まれたんじゃないかと心配しているんです」


 エレノアさんの言う通りだ。お世話になっている人のもとからこんな手紙だけで去るなんて、僕の知っているユイならそんなことは絶対にしない。だいたいジークフリートさんは夫じゃなかったのか?


「えっと、ジークフリートさんはユイの・・・」

「ハル、あの噂は半分嘘だ」

「半分嘘?」

「ハルがユイの婚約者なら、お前の訊きたいことは分かる。ユイは俺の妻ではない。だが俺はそうなってほしいと思ってユイにプロポーズしていた。そしてそれはもう少しで成功しそうだと・・・少なくとも俺はそう思っていた。だから噂は半分は本当で半分は嘘だ」


 そうだったのか。あれはただの噂か。体中から安堵の思いが沸き上がってきた。


 そうか、そうか、僕は間に合ったのか!


「なんだ、そのうれしそうな顔は」

「半分は本当だと言ったろう」

「いえ、ユイがOKしていなければ完全な嘘です。やっぱり噂は嘘だったんですね。よかった」

「よかったですね。ハル様」


 クレアもほっとしたような顔をしている。


「お前らなー」


 そうと分かれば、次はユイがジークフリートさんのところから、なぜ急にいなくなったかだ。


「失礼ですが、ユイがジークフリートさんのパーティーに居ずらくなったとかはないのですよね。ジークフリートさんがユイにプロポーズしたことも含めて」

「それはないと思う。俺が言っても説得力はないかもしれないが、少なくとも俺がユイに嫌われていたとは思えない」

「ハルさん、それは女の私が保証するわ。ユイさんは私たちのパーティーもジークのことも決して嫌ってはいなかった。いえ、ハルさんには申し訳ないけどジークのことだってむしろ好きだったと思うわ。それがハルさんへの思いと比べてどうとかは言えないけど。それにハルさんがユイさんの婚約者なら分かるでしょう。ユイさんは半年以上も一緒だったパーティーの仲間にこんな手紙一つ残しただけでいなくなったりするような人ではないわ」

「そうですね。僕もそう思います。これはユイらしくない。失礼な質問をして申し訳ありませんでした」

「それはいい。俺たちもお前のことをユイがいなくなったことと何か関係があるのではと疑っていたしな。それよりもこれからどうするかだ。ハル、お前やユイには何か事情があるのは察している。ユイがいなくなった理由に心当たりはないのか?」


 うーん。僕たちがルヴェリウス王国によって異世界から召喚されたことと、ジークフリートさんのもとからユイがいなくなったことに関係があるだろうか? ここはルヴェリウス王国からはすごく離れている。あまり関係がありそうには思えないけど・・・。


 でも、だとすると何でユイは・・・。

 分からない。


 ジークフリートさんのパーティーは有名だから僕と会うためにもジークフリートさんのパーティーにいたほうがいい。


「分かりません」

「そうか・・・。俺は、ユイがいなくなってから、俺の伝手を使って情報収集はしている。とりあえずギネリア王国内での情報収集を優先しているが今のところ有力な情報はない。誘拐などに関わりそうな奴らはたいてい調べたんだが。そろそろ国外にも広げようと思っている。それで、お前はどうするんだ」


 ジークフリートさんは、この世界で英雄と呼ばれるSS級冒険者だ。上級貴族と同じ扱いを受ける特別な人だ。おそらくその情報収集能力も高いだろう。それに対して僕はどうしたらいいのだろう。

 ユイがジークフリートさんの妻になっていなかったことの安堵と喜び、それにいなくなったユイを心配する気持ちがごちゃ混ぜになって考えがまとまらない。


「僕にジークフリートさん以上にできることがあるとは思えませんけど。それでもユイを探します。これまでそうしてきたように。ジークフリートさんがギネリア王国を主体に探して手がかりがないとのことなので、まず近隣の国に行ってみようかと思います。ギネリア王国で僕たちがジークフリートさん以上のことができるとは思えませんし」

「そうか。まあ、何かあったら連絡をくれ。こっちからお前に連絡する方法はあるか?」

「いえ、僕たちは拠点のようなものも、この国に伝手もありませんので」

「わかった。じゃあ、そっちのほうから連絡してくれ。そうだ、どうしてもってときは冒険者ギルドに連絡を依頼するかもしれない。冒険者ギルドには顔が利くからな。なので冒険者ギルドにはこまめに顔を出しといてくれ」


 なるほど、お互い冒険者なのだからギルドを利用するのはいい方法だ。ましてやジークフリートさんはSS級の冒険者なのだから。


「分かりました」


 こうしてジークフリートさんとの面談は終了した。


 ユイがジークフリートさんの妻になっていないことを確認できたのに、またユイの行方が分からなくなってしまった。

 ユイはジークフリートの妻にはなっていませんでした。良かった! これからの展開に期待してくださいね。

 もし少しでも面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。とても励みになります。  

 また、『心優しき令嬢の復讐』シリーズの短編(ジャンルは異世界恋愛ものにちょっぴりミステリーテイストを加えたもの)を三つ投稿してますので、そちらもよろしくお願いします。どれもちょっとした落ちのある作品で、最後に、あっと言いたい方には、特にお勧めです。

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― 新着の感想 ―
更にもどかしいですね。ハル目線のもどかしさ。話せない秘密を抱えると動きが制限されるというか……でも読者目線だと楽しめる…召喚の話とか話せばいいわけ…ないか…クラスメイトも気になるし、今一番読んでいて楽…
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