3-24(ギネリア王国へ).
投稿時間を間違えて一時間遅くなりました。
「ハル様、すぐにギネリア王国に行くのですか?」
「うん。今日はまだ朝早いし、今日中に出発したいんだけど、どうかな?」
「問題ありません。ハル様お急ぎなら騎獣を購入されたらどうでしょうか?」
騎獣かー。たしかに騎獣を買うのも悪くないな。お金だって十分に持ってる。ヨルムンガルドなどイデラ大樹海で得た素材を売ったお金と、ここで稼いだお金を合わせると金貨で500枚以上ある。騎獣がどのくらいするのかは知らないけどたぶん買えるだろう。
「クレアの言う通りしよう」
そうと決まれば、僕たちはさっそく西門の方へ向かった。その辺りには馬や馬車それに騎獣を預かってくれる場所があるのだが、そのほかにそれらを売っている場所がある。騎獣市場・・・と言っていいんだろうか。行ってみると、そこでは思った以上に多くの種類の騎獣が売られていた。
「クレア、騎獣ってすごくいろんな種類がいるんだねー」
「はい。中にはお屋敷を買うより高価なものもいます。それでも騎獣にできる魔物はある程度決まっています。やっぱり、すごく性格の荒い魔物を調教するのは無理なようです」
「なるほど。それでも下級上位くらいの魔物もいるように見えるね」
「そうですね。でもとても高価です」
「調教って、使役魔法を使うのとは違うんだよね」
「はい。使役魔法のようになんでも命令できるってわけではありません。あくまで騎獣として使うために飼いならされているだけです。でも逆に言えば、使役魔法も使わず魔物を飼いならすのはとても大変です。なかには小さい頃から育ててやっと調教できるような魔物もいると聞いたことがあります。時間も手間もかかりますので、そういった騎獣はとても高価です」
魔族が得意にしている使役魔法とは違うようだ。人族にも少ないが使役魔法を使える者はいるが、大抵の場合、国や大きな組織が抱えているらしい。使役された鳥型魔物が情報伝達に使われていると、以前クレアから聞いたことがある。だが、ここにいる魔物たちはそれとは違ってあくまで騎獣として飼いならされているだけみたいだ。
「アイテムボックスもあるし二人で移動するだけだからそんなに高価な騎獣でなくてもいいよね」
「そうですね。でも、力の強い騎獣がいれば、例えば魔物の死体をまるごと運べたりもできるかもしれません」
「なるほど」
確かにこれまでは素材の一部しか持ち運べなかった。でも、僕たちはまだまだ高価な素材を持っているし、そこまでは必要ないだろう。
「それでハル様、どの騎獣にしますか?」
「うーん、よく分からないなー。騎獣なんか買ったことないし」
「一番、無難なのはスレイプニルですね」
「あー、あのとき僕たちの乗った馬車を引いていたやつだよね」
「はい。スレイプニルはおとなしくて力もあって扱いやすいです。速さだけならもっと速いのはいますけど」
改めて市場を眺めると、一般的なスレイプニルのような馬タイプだけでなく犬や狼みたいなタイプもいる。普通の馬もいる。普通の馬だって魔力のおかげで元の世界の馬より体力がある。
「あれは?」
僕は狼か犬のようにみえる魔物を指差す。ちょっと因縁のブラックハウンドに似ているが、白に近い灰色をしている。
「グレートカガスドッグですね」
「グレート・・・」
「カガスドッグです。カガスは大陸中央にある大森林の名前です。もともとその辺りに生息していた下級では上位の魔物です。今では人が繁殖させていて狼や犬系の魔物の中では比較的多く騎獣として見かけます」
「なるほど。魔物のブリーダーもいるってことか」
「ブラックハウンドやこないだ襲ってきたジャイアントウルフなんかも調教すれば騎獣になるのかな?」
「ジャイアントウルフを騎獣にしている人は偶に見かけます。あ、一度だけ使役している冒険者も見たことがあります。でも、ここにはいないようですね。ブラックハウンドは調教も使役も魔族はともかく人族にはできるとは思えません」
ブラックハウンドの話になるとクレアの表情が厳しい。
「そうだよね」
下級でも上位だというグレートカガスドッグは特に檻に入れられるでもなく、元の世界の飼い犬のようにロープのようなもので首輪と繋がれていた。
「グレートカガスドッグは移動速度が速いです。ただ一人乗りですね。2匹買って頂ければ荷台を引かせることもきますよ」
話しかけてきたのは、騎獣商らしきおじさんといっていい年齢の男だ。こういう商売人って勝手なイメージで小太りの人とかを想像していたけど、割とスマートな紳士だった。なんか怪しいマジシャンのような雰囲気の人だ。
「お二人は冒険者ですか?」
「はい。二人でこれからギネリア王国まで行くので騎獣を探しているんです。冒険者なので魔物の素材とかも運ぶこともあるかもしれません。騎獣を買ったことがなくて迷ってました」
「なるほど。お若いのに、もう騎獣が買えるくらい稼がれたとすれば優秀なんですな。申し遅れましたが私は騎獣商のダラントと申します。この市場には5人の騎獣商がいますのでその一人です。うちのグレートカガスドッグを見ていらっしゃたので声を掛けさせて頂きました。グレートカガスドック専門のよい調教師と伝手がありましてね。とてもお勧めですよ」
提携しているブリーダーがいるってことか。
「このグレートカガスドックっていくらなんですか?」
「これは、金貨62枚ですが、お二人ですと2頭購入する必要がありますね。速いですが魔物の素材をたくさん運ぶのなら荷台も買う必要がありますね。あとはエサ代も肉食なので結構大変かもしれません。冒険者の方なら倒した魔物の肉を与えておけば大丈夫ですけどね」
うーん、速いのは魅力的だし、グレートカガスドッグに乗って走る姿を想像すると、ちょっとカッコいい。でも、もっと実用的なほうが良さそうだ。
結局、迷ったけど、一般的なスレイプニルを一頭購入した。値段は金貨43枚と大銀貨6枚だ。僕の勝手換算基準で436万円だ。一頭あたりではグレートカガスドッグよりたくさんものを運べる。それにグレートカガスドッグより安い。それでも元の世界の車のようなものだとすると結構高級車って気がするけど妥当な値段なのだろうか。庶民には高いが、ベテランの冒険者なら持っていてもおかしくない位の値段だ。魔物の素材を運ぶために騎獣や荷馬車を使っている冒険者はよく見かける。
こうして僕は初めて騎獣を購入した。いつかアニメの世界のようにドラゴンを騎獣にして空を飛んでみたいものだ。そうみんなで・・・ユイやヤスヒコやアカネちゃん、それにクレア。みんなでドラゴンに乗って空を飛べればどんなに楽しいだろう。
「ハル様?」
「ああ、クレアなんでもないよ。よく見るとスレイプニルも可愛いよね」
僕とクレア近づいてもスレイプニルはとてもおとなしい。スレイプニルは8本足の馬型の魔物で馬よりはかなり大きくて力もある。僕とクレアの二人が乗って、さらにある程度の荷物を運ぶこともできる。
「街にいる間はちゃんとしたとこに預けてくださいね。騎獣泥棒もいます」
「分かりました」
やっぱり盗まれたりするのか。安いものじゃないし注意しないといけないな。
「そういえば、クレアって馬に乗れるの?」
馬じゃなくてスレイプニルだけど、僕は心配になって、さっそく鞍や荷物を運ぶための金具のようなものを取り付けているクレアに聞いてみた。
「はい。お任せください」
自信満々の答えが返って来た。よく考えたら僕は馬になんか乗ったことが無いし、クレアの後ろにしがみついている感じになるんだろうか? ちょっとカッコ悪い。まあ、身体能力強化もあるこの世界だ。なんとかなるのだろう。
クレアはスレイプニルを撫でたりして、なんかうれしそうだ。動物が好きなのかな。
「クレア、スレイプニルに名前を付けてあげてよ」
「いいんですか?」
「うん」
「じゃあ、スレイプニルですからプニプニはどうでしょうか?」といいながクレアはうれしそうにスレイプニルを撫でている。
クレア、そのセンスはどこで・・・。
「いいね、とっても可愛い名前だよね」
僕は、空気を読む日本人だ。
こうして僕たちのキュロス王国のトドスからユイらしい黒髪の少女がいるというギネリア王国のテルツへと向かう旅は始まった。
★★★
私が、ジークフリートさんのパーティーに入ってもう3ヶ月が経過した。
ジークフリートさんは王族と同等の扱いを受けるSS級の冒険者であり英雄と呼ばれる存在だ。その屋敷もかなり大きい。ジークフリートさんのパーティーメンバーは奥さんであるエレノアさんやエミリーさんだけでなく、エルガイアさんも家族と一緒に同じ屋敷に住んでいる。ジークフリートさんの屋敷はパーティーの拠点でもあるのだ。そのため私もジークフリートさんの屋敷に一室を与えられている。
パーティーのみんなともずいぶんと打ち解けた。
エレノアさんはしっかり者のお姉さんって感じだ。ライラさんは明るくて元気な先輩って感じかな。エルガイヤさんはいつも無口だけど冷静で本当に頼りになる。戦闘でみんなを守る盾役にピッタリな性格だ。
ジークフリートさんは英雄と呼ばれる存在なのにもかかわらず偉ぶらないし気さくな人だ。伝説級の魔物であるサイクロプスとの戦いぶりを見てもその実力に疑う余地はない。どことなくハルに似た雰囲気を持っていると感じた最初の印象は、外見に全く似たとこがないにもかかわらず、薄れることはない。
でもちょっと困ったことがある。パーティーに入ったときから、正直にハルという名前の婚約者を探しているとみんなには伝えているにもかかわらず、周りが私がジークフリートさんの4番目の奥さん候補だと思っている節があるのだ。エレノアさんやライラさん、それに冒険者ではない2番目の奥さんであるトモカさんでさえそう思っている節だある。そうそうトモカさんの名前が日本人風なのでちょっと遠回しに訊いてみたが、曾お祖母さんの名前と同じだってことくらいしか分からなかった。
「ユイどうしたんだ」
「あ、ジークフリートさん。月を見ていたんです」
いつの間にかジークフリートさんも屋敷のベランダに出てきていた。
「月を?」
「はい」
初めてハルとキスした夜と同じで、夜空に浮かんでいるのは大の月一つだ。あのときと違うのはほぼ満月ってことだけだ。
「私、月が好きなんです。雰囲気っていうか」
「そうか」
「私、恵まれています」
「ん?」
「オスカーさんのパーティーでもジークフリートさんのパーティーでもいい人ばかりで」
「そう言ってくれると俺もうれしいが」
「でも。それでも見つかりません。見つけてもくれません」
「・・・」
「ジークフリートさんのパーティーはとても有名です。英雄のパーティーなんだからあたりまえです。新しく私が加入したことが話題になっているのも知っています。それでもハルは・・・」
「・・・ユイ」
「ハルは死んでしまったのでしょうか?」
あのときのことが脳裏をよぎる。クレアさんは強い。クレアさんが本気になればハルは・・・。それとも転移した場所で・・・魔物に。私が転移したのはイデラ大樹海の中だったが比較的浅い場所ですぐに草原のような場所に出た。でもハルとクレアさんがもっと大樹海の奥に転移したとすれば。オスカーさんたちの協力で何度かあの辺りにも行ってみたがなんの手がかりもなかった。
あれ以上、ヨルグルンド大陸の4分の一以上を占めるイデラ大樹海を、どうやって探せばよかったというのか・・・。
「ごめんなさい。こんなことジークフリートさんに聞いてもどうしようもないのに・・・」
「ユイ、中央山脈への遠征から帰ったばかりだ。今日は早く休んだほうがいい」
ジークフリートさんは、ハルのことになると多くは語らず。優しく見守ってくれる。戦闘のときは私の危機にいつでも駆けつけてくれる。でも、そのことが返ってハルを思い出させる。
ハルどこにいるの?
本当に死んでしまったの?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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