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3-22(ユイ~SS級冒険者の誘い).

 次話からは、ハル視点となります。

 

 その後も数日間、鉱山を拠点に辺りを捜索したが、結局サイクロプス以上の魔物は現れなかった。


 魔物の数は目に見えて減少し魔物の異常発生は収束しつつある。

 

 結局、魔物の異常発生はあの2体のサイクロプスが原因だと結論付けられ、私たち合同討伐隊はベツレムの街に帰還することになった。


「ご苦労様、特にユイは大変だったな」


 オスカーさんがパーティーメンバーを労う。


「ほんとに大変だったね。ユイはさすがだよ。大活躍だったって聞いたよ」

「オスカー様、今でもあのときのことを思い出すと生きた心地がしませんね」


 みんなが、大変だったと次々に口にする中、ステラさんはしばらく黙っていた。そして私の方を向くと「ユイさん、私のために回復魔法を使えること秘密にしていたのね?」と言った。

「いえ、そんなことは・・・」

「ううん、怒っているんじゃないの。ありがとうね」

「そんな」


 ずーっと一緒に冒険者をやっていれば、いつかは分かることだった。やっぱり最初から伝えるべきだったのだ。私の考えは短絡的だった。


「ハルを見つけたい一心で、あと他に生活の手段もなかったし、それで『聖なる血の絆』に入れてもらって、結局私って、自分のことしか考えてなかったかもしれないです。ステラさんごめんなさい」

「ユイさん・・・」


 場がちょっとしんみりしてしまった。


「まあ、なんだ。今回はマジで死んだかと思った。だが、みんな生き残った。それでいいじゃないか」

「オスカー様の言う通りですね」

「オスカーも偶にはいいこと言うね」

「エミリー、偶にはって・・・」


 みんなのやり取りに私もステラさんも微笑む。


 オスカーさんの言う通りだ。みんな生き残った。今はそれで良しとしよう。


 ベツレムの街に帰還後、広場ような場所で合同討伐隊は解散となった。


「皆、ご苦労だった。冒険者たちはギルドから報酬が支払われる。特別な功績があった者は報酬が上乗せされる。ただ、なんせ魔物が多かったので正確に査定できない部分もあるかもしれない。不服があるものはギルドに申し出てくれ。できるだけ善処はする手はずになっている。しかしそれでも希望に添えないケースもあることは理解しといてくれ。それじゃあ、解散だ」


 合同討伐隊のリーダーであるジークフリートさんが、解散を宣言した。それにしても、今回は本当に死にかけた。ここまで死に近づいたのは,あのとき以来だ。


 ハル・・・。


 ジークフリートさんとヒューゴさんが握手を交わした後、騎士団がヒューゴ大隊長を先頭に隊列を保って宿舎に帰還する。

 冒険者パーティーはすぐに冒険者ギルドに向かうパーティー、その場で解散するパーティーとバラバラだ。


 そのとき、ジークフリートさんのパーティーが『聖なる血の絆』に近づいてきた。


「ジークフリートさん、皆さん、お疲れ様です」


 オスカーさんが代表して挨拶する。


「ああ、お疲れ」


 私はジークフリートさんの表情がずいぶん真剣なものだと気がついた。 


「ユイ、それに『聖なる血の絆』の皆も聞いてくれ」


 ジークフリートさんの真面目な口調に、私たちはジークフリートさんの次の言葉を待つ。


「俺はユイを俺のパーティーに誘いたいと思う」

「ジークフリートさん、それって」

「『聖なる血の絆』にとってもユイが大切な仲間であることは分かっている。でもそれでも誘いたい。そして、正直に言えば俺たちの方がユイの能力を生かせると思っている」

「それはそうかもしれませんが・・・」


 オスカーさんも私が最上級聖属性魔法を使ったことやサイクロプス討伐で活躍したことは聞いている。


 そういえば、誰もそれで私が異世界人で賢者だとは気付いてないみたいだ。やっぱりこの辺りとルヴェリウス王国では異世界人や勇者、賢者などに対する知識の深さが違う。まあ、賢者の定義など知らなくてもおかしくない。前に勇者が召喚されたのは200年以上前だ。

 それに、ここはヨルグルンド大陸の南端だ。ルヴェリウス王国は異世界人を召喚している国でゴアギールと接しているのだから、それと比べられないのは当たり前かもしれない。


 それよりジークフリートさんの誘いのことだ。


 私は、まだC級の冒険者なので英雄のパーティーに誘われるのは異例なことだ。冒険者にとって英雄のパーティーに誘われることはとても名誉なことだろう。私にとってはそれ以上に、ジークフリートさんのパーティーに入ればより有名になりハルに見つけてもらえる可能性が高まるというメリットがある。

 ジークフリートさんのパーティーは4人だが前衛3人に後衛はエレノアさん一人だから、もう一人後衛がいても良さそうではある。ただ、エレノアさんは、攻撃魔法も回復魔法も使えるS級の冒険者だ。私が必要なのだろうか? 確かに回復魔法は私のほうが上みたいだけど、攻撃面ではエレノアさんは最上級魔法の炎超爆発エクスプロージョンだって使える。それに、炎弾フレイムバレットを一度に複数放つという技も使っていた。

 

「私に気を使わなくていいのよ、ユイさん。今まで魔術師は私だけだったし、ユイさんに加わってもらえれば心強いわ。あ、もしかして、私に虐められるかもって思ってるの?」


 エレノアさんは、いたずらっぽく微笑んだ。


「い、いえ、エレノアさん誤解です。虐められるなんて、そんなこと思ってません」

「エレノアが虐めたら、私が守ってあげるわ。ジークはエレノアには頭が上がらないからね。それにしてもジークったら私と結婚したときにもう最後だって言ってたのに・・・4人目か・・・」


 え! 4人目って、ライラさん何いってるの?

 私、パーティーに誘われてるんだよね?


「え、えっと、とっても光栄なお話なのですが、パーティーのみんなにも相談しないと決められません。とてもお世話になっているので」


 私は『聖なる血の絆』のみんなを見る。


 ハルに見つけてもらうことが最優先の私にとっては願ってもない話であり、ジークフリートさんの誘いを受けたい気持ちはある。 でも、せっかくオスカーさんのパーティーのみんなとも仲良くなってきたところだ。みんなに相談しないと決められない。それにオスカーさんは、一人でさまよっていた私を助けてくれパーティーに誘ってくれた恩人だ。


「ユイはね。わたしたちの大切な仲間だよ」


 エミリーさんがジークフリートさんを睨みつける。


「そうですよ」とステラさん。

「ユイさん、エミリーさんやステラさんの言う通りですよ」


 オスカーさんは腕を組んで何か考えている。そして『聖なる血の絆』のみんなを見回した後、私の方を向いて言った。


「いや、ユイはジークフリートさんのパーティーに行くべきだ。俺たちに遠慮しなくていい。英雄のパーティーに誘われて断る冒険者はいない」

「オスカーさん・・・」

「それに、ユイの目的のためにもそのほうがいいはずだ」


 みんなオスカーさんの言葉に考え込んでいる。


「オスカー・・・。そうですね」


 しばらくして、ステラさんが何かを納得したように頷いた。


「ユイさん、オスカーの言う通りです。私に気を使って回復魔法を使わなかったように、また気を使う必要はないわ。ユイさんのしたいようにするべきよ」

「ステラさん・・・」 

「でもステラ・・・」


 エミリーさんは戸惑っている。


 私はどうしたいのだろう・・・。


 自分自身に問いかける。答えは最初から決まっていた。私は何よりもハルに会いたい。そしてそのためにもっともいい選択をしたいのだ。


「私、ジークフリートさんのところに行こうと思います」

「ユイ、それでいいんだ。冒険者なら当たり前だ。ましてユイには婚約者を探すためっていう理由もあるんだろう」

「オスカーさん。ありがとうございます。あのときオスカーさんが私を拾ってくれなければここまでこれませんでした」


 涙が出てくるのを止められない。


「いや、俺たちもユイのおかげで成長できた。感謝している」

「ユイさん、ジークフリートさんのパーティーが合わなかったら、いつでも戻っきていいんですよ」

「デリクさん、ありがとうございます」

「ユイさん、いろいろと気を使わせちゃったわね」

「ステラさん、それはもう・・・。それに、私はこのパーティーで楽しいことのほうが多かったです」

「そうですね。私も楽しかったわ」

「ユイ、ハルだっけ婚約者が見つかるといいね」


 エミリーさんが片目を瞑る。


「分かっただろうユイ。俺たち『聖なる血の絆』は英雄のパーティーに誘われた仲間を快く送り出せないほど狭量なパーティーじゃないぞ。ジークフリートさん、ユイを頼みます。ユイは大切な仲間なんです」


 オスカーさんの言葉にジークフリートさんは力強く頷いた。


「『聖なる血の絆』の気持ちは受け取った。ユイのことは任せてくれ」


 ジークフリートさんの言葉に全員が頷く。


 『聖なる血の絆』メンバーの顔がぼやけて見える。みんな私の背中を押してくれてありがとう。みんなのためにも絶対にハルと再会したい。


「みんな・・・短い間でしたけどありがとうございました」


 あのとき、オスカーさんに拾われたから、今の私がある。感謝しても感謝しきれない。


「今生の別れってわけじゃない。お互い冒険者を続けていればまた会うこともあるだろう」

「ユイ、彼氏が見つかったら私にも紹介してね。ユイの彼氏なんだからどれだけいい男なのか見てみたいの。それにしてもさっきのオスカーってさ、ちょっとカッコつけすぎじゃない」


 エミリーさんの言葉にみんな笑顔になる。


「皆さん、ありがとうございます。とっても良くしてもらったのに、わがまま言って・・・」


 なんか、込み上げてくるものがあって言葉が続かなくなってしまった。


「俺、まだ結婚もしてないのに、娘を送り出す父親みたいな気分だよー」

「オスカー、何を言ってるの。あなたは最初は父親じゃなくて、夫になろうとしていたんでしょう」

「え、いやー、それを言われると」

「オスカーにはさ、私たちがいるんだから元気だしなさい!」


 エミリーさんが、バンバンとオスカーさんの背中を叩いている。


「デ、デリク、お前なんかフォローしろよ」

「・・・。まあ、とりあえずユイさんの準備もあるでしょうし、それからユイさんを送り出す宴の用意はお任せ下さい。盛大にいきましょう」


 オスカーさん、デリクさん、ステラさん、エミリーさん、ありがとう。

 最初にオスカーさんが、私を拾ってくれてパーティーに入れてくれた。たった一人だった私がここまで生き延びてきたのもそのおかげだ。


 ハルを見つけたら・・・その後は、みんなにも報告してお礼を言いたい。


 こうして私は、英雄と呼ばれるSS級冒険者であるジークフリートさんのパーティーの一員となった。

 次話からはハル視点に戻ります。

 

 今日、『心優しき令嬢の復讐』シリーズの最新作「転生悪役令嬢の憂鬱と人生やり直し侍女の献身(『心優しき令嬢の復讐』シリーズ3」を投稿しましたので、読んでみて下さいね。

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