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3-21(ユイ).

「ユイ、落ち着け! シルヴィアに回復魔法を試してみてくれ」


 足がすくんで震えている私にジークフリートさんが声を掛ける。同時に反対側からサイクロプスに攻撃して注意を引きつける。ジークフリートさんは、回復魔法に関しては私の方がエレノアさんより上だって言っていた。


 早く、早くシルヴィアさんのとこに行かないと・・・。


 前の目の前でジークフリートさんが一人でサイクロプスを相手にしている。もう一匹の方はデルガイヤさんが盾でその攻撃を受け流しながら牽制している。そこに回復したライラさんも加わる。カリウス隊長は戦いを離脱してエレノアさんと一緒にシルヴィアさんのそばに駆け寄っている。


 ジークフリートさんは、一体のサイクロプスを一人で相手にしながら「ユイ、大丈夫だ」と言って、私を安心させるように頷いた。


 ・・・あのときの、あのときのハルと同じだ。


 気がつくと足が動いた。


「エレノアさん、私がやってみます」

「ユイさん、お願い」


 シルヴィアさんの盾は大きく拉げており、頭から血を流している。大木に激突したせいか腕や足があらぬ方に曲がっており、内臓にもダメージがあるのか血を吐いている。控えめに言っても、今まさに死の淵にいる。即死でもおかしくなかった。


 そう思うと恐怖が込み上げてくる。


 命の恩人を助けないと。ハル、力を、私に力を貸して。

 私はシルヴィアさんのお腹の辺りに両手を当て、ありったけの魔力を溜めて回復魔法を使う。


超回復エクストラヒール!」


 シルヴィアさんの体を清浄な白い光が包む。最上級回復魔法だ。


「こ、これは・・・」

「まさか・・・」


 シルヴィアさんの様子を見ていたガリウス隊長とエレノアさんが、驚きの声を上げる。

 シルヴィアさんの顔に徐々に生気が戻る。

 集中している私の中に、シルヴィアさんの内臓の損傷が修復されていくイメージが流れ込んでくる。


 私はしばらくそのままで超回復エクストラヒールを使い続けた。


 暫らくすると出血が止まった。ダメージは大きかったし、かなり血を吐いているので完全な回復には時間が必要だ。だけど、もう命に別状はないと思う。


 私はそのまま超回復エクストラヒールを使い続ける。


 今度はシルヴィアさんの腕や足がゆっくりと元通りになっていく。ダメージを受けてすぐにその場で回復魔法を使えたのも良かった。手足の欠損など大怪我の場合、最上級の回復魔法でも時間が経つと効果が薄れるとルヴェリウス王国で習った。


 エレノアさんとガリウス隊長がシルヴィアさんの手足が元の状態に戻っていくのを唖然として見ている。


 良かった! もう大丈夫だ!


 シルヴィアさんがすぐに戦闘に復帰するのは無理だけど、あとは時間が解決してくれるだろう。


「こ、これほどの回復魔法は、初めて見た。ユイ、副団長を助けてくれて感謝する」

「いえ、私もシルヴィアさんに、シルヴィア副団長に命を助けられました」


 ガリウス隊長からお礼を言われて、やっと私も役に立てたみたいでうれしかった。


「ユイさん、すごいわ! ユイさんがいて良かった。ジークの判断は正しかったわね」

「いえー。私でも役に立てたなら良かったです。でも回復魔法ではここまでです」

「そうね。あとは私がデルとライラを援護するから、ユイはジークの方を、ガリウスさんはシルヴィアさんを見ていてください」

「はい」

「了解した」


 見るとジークフリートさんは、サイクロプスがこっちに来ないように動き回りながら注意を引き付けてくれていたみたいだ。


 私は急いでジークフリートさんが相手にしている方のサイクロプスに近づく。


「ユイ、こいつの足を狙って魔法を使ってくれ」

「はい」


 ジークフリートさんの指示に返事をすると、私はすぐに魔力を溜め始めた。サイクロプスの攻撃はその巨体にもかかわらず速いが、ジークフリートさんには当たらない。ジークフリートさんは、巧みにサイクロプスを誘導して、シルヴィアさんたちがいる場所から引き離している。

 一方でサイクロプスも、これまで私たちがつけたはずの傷がもう消えている。再生しているのだ。高位の魔物ほど再生力も高いと聞いたことがある。


氷槍アイスジャベリン!」


 サイクロプスの足を狙って巨大な氷の槍を放ったけど、かすっただけで避けられてしまった。


 む、難しい・・・。


 思った以上にサイクロプスが素早い上に、ジークフリートさんも動きながら攻撃しているので、狙いが定まらない。


 それなら・・・。

 

岩石錐ロックニードル!」


 私は、サイクロプスの足元に岩石の針というか巨大なドリルを出現させた。これは土属性の中級魔法だ。土属性の上級魔法は水属性と同じで範囲攻撃なので中級を使った。それに、さすがに最上級の回復魔法を使った後なので魔力をセーブする必要がある。

 ジークフリートさんを踏みつぶそうと大きく足を上げていたサイクロプスは、その岩石のドリルに足を取られて後ろ向きにどうっと転倒した。


「ユイよくやった!」


 ジークフリートさんは、すごい速さで転倒したサイクロプスの胴体の上を走って行って、胸元でジャンプするとそのまま大上段に振りかぶってサイクロプスの角を斬りつけた。ジークフリートさんの剣は、サイクロプスの角にかなりの傷をつけた。もう少しで折れそうだ。


「ギャウゥゥーーー!!」


 サイクロプスは苦しそうな声を上げ、手でジークフリートさんを掴もうとしながら、そのまま立ち上がった。ジークフリートさんは、サイクロプスの頭を蹴って、1回転して地面に着地し再びサイクロプスと対峙した。

 サイクロプスは腕を振り回して、ジークフリートさんを攻撃するが、もちろんジークフリートさんには当たらない。


 私も魔法で攻撃する。


氷槍アイスジャベリン!」


 氷の槍がサイクロプスの右の腿を貫いた。サイクロプスの動きがさっきより鈍いので今度は当てることができた。氷の槍を受けたサイクロプスが今度は私を狙って、大きく両手を地面に振り下ろした。私はすでに後ろに下がっており余裕を持って回避した。私だって学習している。


 私の方を向いて両手を地面に叩きつけて屈んだようになっていたサイクロプスの背中に後ろから駆け上がったジークフリートさんは再びサイクロプスの角を斬りつけた。


 ジークフリートさんの剣は、さっきと同じ場所を正確にとらえて、今度は角を切り落とした。


「グギャーオォォオーーー!!」


 この世のものとは思えない叫び声をあげたサイクロプスは、苦しんで暴れているが、その動きは明らかに鈍い。


 今だ!


炎竜巻フレイムトルネード!」


 ちょうど魔力も回復してきたとこだったので、私が使える最強の攻撃魔法、火属性と風属性の上級同士の合成魔法を使った。


 私の魔法でサイクロプスは炎に包まれる。


 サイクロプスが膝をついたところをジークフリートさんの剣が喉を貫く。サイクロプスは苦しんで暴れているだけで、もうジークフリートさんや私の攻撃を避けることはできない。その後しばらくして、私たちの猛攻を受けたサイクロプスはついに動かなくなった。


 あと一匹だ。


 ジークフリートさんと私はすぐにもう一匹のサイクロプスの方に向かう。もう一匹はデルガイヤさん、エレノアさん、ライラさんで相手をしている。2匹をできるだけ引き離すように誘導してくれていたみたいだ。


「ジーク遅いぞ」

「ライラ、そう言うな。一応伝説級だぞ。デル大丈夫か?」

「ああー、問題ない」


 デルガイヤさんは一番長い間、こっちのサイクロプスを相手してくれている。デルガイヤさんでもまともにサイクロプスの攻撃を受けたら危ないので、盾で巧みに受け流している。その技術は私から見てもすごい。さすがに英雄パーティーの盾役である。


「エレノア、ユイ、魔法で足を狙え。ライラと俺はサイクロプスの角だ!」


 私たちはジークフリートさんの指示を受けすぐに行動する。


岩石錐ロックニードル!」

炎弾フレイムバレット!」


 私とエレノアさんがジークフリートさんの指示通りに魔法でサイクロプスの足を狙う。エレノアさんは一度に3つの炎を弾を打ち出している。炎弾フレイムバレットはハルやエミリーさんもよく使っていた火属性の初級魔法だ。でも一度に一発しか放つことができないものと思っていた。もしかすると私の混合魔法と同じでエレノアさん固有の技かもしれない。

 しばらく魔法で攻撃しているとサイクロプスが膝をついた。だがさっきと同じでフェイクの可能性があるのでデルガイヤさんが盾を構えて慎重に攻撃に備える。私とエレノアさんはその後ろだ。ジークフリートさんとライラさんはすでにサイクロプスの後方に回り込んでおり、膝をついたサイクロプスの角に斬りかかる。


 しばらくは似たような攻防が続く。


 やがて、ジークフリートさんとライラさん攻撃で、ついにサイクロプスの角が斬り落とされた。さっきと同じで角を斬り落とされたサイクロプスは明らかに動きが鈍くなる。


炎超爆発エクスプロージョン!」


 エレノアさんの最上級火属性魔法だ。こうして、ついに二匹目のサイクロプスも倒した。


 炎属性の最上級魔法ってやっぱりすごい。クラスメイトの中でもカナさんしか使えなかった。この世界ではほとんど使える人はいないと聞いていた。やはり英雄のパーティーメンバーだけある。範囲を狭めに発動はしていたようだが、山火事にならないか心配になったので、私がすぐに水魔法で鎮火した。


 私は急いでシルヴィアさんとガリウス隊長のところへ戻った。シルヴィアさんはまだ苦しそうではあるが、私を見ると、「ユイ、ガリウスから聞いた。ありがとう。ユイのおかげで命拾いしたみたいだ」と言って微笑んでくれた。 


「い、いえ、シルヴィアさんが無事で良かったです」


 シルヴィアさんの顔を見たら涙が出てきた。


 ジークフリートさんと一緒に私やオスカーさんたちを助けてくれたシルヴィアさんが無事で本当に良かった。


「ここまでの回復魔法は初めて見た。普通なら副団長は助からなかった。俺からも礼を言う。ありがとうユイ」


 私よりずっと年上のガリウス隊長も私に頭を下げる。


 こんなに感謝されると、ちょっと照れくさい。でも私の魔法が役に立って、なんかうれしいし誇らしい。


「あの炎の竜巻のような魔法。あれも強力だった。俺にはエレノアの最上級魔法と遜色ないように見えた」


 やっとエルガイアさんの声をまともに聞いた。意外と声は若い。

 

「ジークがユイを連れてきたのは正解だった。正直に白状すると、何でこんな小娘をと思ってんだ。すまない」

「私なんて、ユイが可愛いから声をかけたのかと思ってたよー」

「ラ、ライラ、お前なんてことをー」


 ジークフリートさんが慌てている。

 英雄も奥さんには弱いみたい。なんかいいなー。

 ジークフリートさんとライラさんを見ていたら、ハルのことを思い出してしまった。


 今頃ハルは何してるんだろう?

 やっぱり冒険者だよね?

 うん、この世界で私たちができることってそれしかないような気がする。

 私が冒険者をしてれば、ハルに必ず会えるっていう考えは間違ってないと思う。


 ハル、早く私を見つけてよ! 


「ジーク、何か気になることでもあるの?」


 私がハルのことを考えて、感傷に浸っているとエレノアさんの声が聞こえた。見ると、ライラさんの言葉に照れていたジークフリートさんだったが、今度は、サイクロプスの死体を見て、ちょっと考え込んでいる。


「いや、確かに偶に伝説級の魔物が紛れ込んでくることはある。でもサイクロプス2匹とは・・・サイクロプスは群れるような魔物ではないし」

「そう言われると・・・偶然かしら」


 エレノアさんが可愛らしく首を傾げる。


「それにサイクロプスは確かに強力な魔物だが、それでもサイクロプス2匹にしては逃げてきた魔物の数がちょっと多すぎる気もしてな」

「ジーク、伝説級の魔物がまだいるってことなの?」


 ライラさんが訊く。 


「よく考えてみると、あの数の魔物が逃げてくるってことは、もっと強力な魔物がいてもおかしくない気がしてきたんだ」

「ジークフリートさん、もっと強力なって、ドラゴンでもいるって言うのか?」

「シルヴィア、俺もまさかとは思うんだが。まあ考えすぎかもしれないが」

「ドラゴンって本当にいるんですか?」

「ユイ、俺は以前中央山脈の地龍討伐に参加したことがある。そのときジークフリートさんとエレノアさんに会った。地龍討伐は成功してジークフリートさんはSS級冒険者になったんだ。俺が神殿騎士団に入る前の話だ。俺は冒険者出身なんだ」


 私の質問に答えてくれたのはガリウスさんだ。ガリウスさんはもともとジークフリートさんとエレノアさんとは顔見知りだったらしい。ガリウスさんは閉鎖的な神聖シズカイ教国の神殿騎士団隊長だが、どういう経緯で冒険者から神殿騎士になったのだろう。


「そうなんですか。本当にいるんですね。ドラゴン」


 もしかして、この先サイクロプスより強い魔物と戦うことがあるのだろうか? 正直怖い。

  

「でも、ジーク、シルヴィアさんも、まだ完全に回復したわけではないし。それにもう遅いわ。今日のところは引き揚げましょう」

「ああ、そうだな」


 気がつくと辺りは薄暗というよりもう暗い。私たちはベツレム鉱山に引き上げることにした。

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