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3-19(ユイ).

 少し短いです。

 ベツレム鉱山一帯は魔物からの防衛のため城壁のような壁で囲まれているので、ちょっとした街か大規模な砦のように見える。イデラ大樹海の中にあるのだから、このくらいの用心は当然だ。


 城門のような大きな門をくぐると鉱夫の宿舎や休憩所が立ち並んでいる。護衛の冒険者のための施設もあるみたいだ。

 右奥には採掘された岩石が幾つもの巨大な円錐形の山のような形に積み上げられている広場がある。その向こうにはいくつの坑道が洞窟のように口を開けている。坑道を進むと今度はいくつかの縦穴がありその底に実際に魔鉱石を採掘してる場所があるって聞いた。 


 途中で数多くの魔物に襲われた合同討伐隊だけど、多数の怪我人を出したものの奇跡的に死人は出ていない。ジークフリートさんたちが次々に援護に回ったからだ。さすがにSS級冒険者だ。

 私たちも助けられた。命の恩人だ。私たちが最後に援護されたパーティーだったみたいで、死人を出さずに、ここベツレム鉱山に到着した。


 今、私は負傷者に回復魔法をかけて回っている。もう聖属性魔法を使えることを隠しても仕方がない。

 

 合同討伐隊の副リーダーの・・・確かギネリア王国騎士団のヒューゴさんだ・・・が、今後の方針をみんなに説明している。ヒューゴさんの隣にはジークフリートさんの顔も見える。


「今日襲ってきた魔物たちは、皆も気がついている通り、数が多いだけでなく通常より体も大きく強力な個体ばかりだった。それに、この辺りではあまり見かけない中級もいた。本来なら大樹海のもっと奥に生息している魔物たちだと思う」


 私も同じように考えた。でも、どうして・・・。


「では、なぜそんな魔物たちがこんな浅層にまで、しかもあんなに多くが現れたのかだが、経験豊富なジークフリートさんとも意見交換した結果」


 ヒューゴさんは、隣のジークフリートさんをチラッっと見ると、「おそらく、そんな魔物たちでも恐れるような魔物、そうだな、例えば普段はイデラ大樹海の最深部にでもいるような強力な魔物から逃げてきたんじゃないかと予想している」と続けた。


 もっと強力な魔物・・・。


「俺は、以前にも似たような経験をしたことがある。例えば伝説級の魔物が1匹でも迷い込んで暴れれば、この辺の魔物なら皆逃げる。今回のはそれじゃないかと思うんだ」


 ジークフリートさんがヒューゴさんの説明を補足する。


「そこでだ、明日、魔物たちが逃げてきたと思われる大樹海の奥に俺のパーティーを含む数人が向かい。原因となっている魔物を探し可能であれば倒す。残りの者にはヒューゴ大隊長の指示のもと引き続きこの辺りの魔物を討伐してもらいたい」


 そうだ、ヒューゴ副リーダーはギネリア王国騎士団大隊長だった。


 ジークフリートさんたちの想像通りなら、その原因となっている魔物を倒さないと今回の魔物の異常発生は終わらない。イデラ大樹海はとてつもなく広いけど、全体を把握しているジークフリートさんたちは、その強力な魔物がいる方向をある程度予想してるんだろうか。

 でも、これだけの魔物大量発生を惹起しているんだから、その原因が魔物だとすればすごく強い魔物なのは間違いない。ハルと一緒にルヴェリウス王国で読んだ本の中に出てくるような魔物なのかもしれない。

 

「そこで、原因となっている魔物を探索する者だが、俺のパーティーの4人と神殿騎士団のシルヴィア副団長とガリウス隊長、それに・・・」


 さっきジークフリートさんと一緒に私たちを助けてくれたシルヴィアさんは、神殿騎士団の副団長だったんだ。強いはずだ。


 ジークフリートさんは私の方を見ると「できれば、ユイ、きみにも参加してほしい」と言葉を続けた。


「え!」


 突然ジークフリートさんにそう言われて、すぐに返事ができなかった。ヒューゴさんは何も言わない。あらかじめ私を誘うことで話ができていたのだろう。


「今、俺が上げたメンバーでは、魔術師がエレノアしかいない。原因となった魔物を探すと言っても、探索の間もさっきのように数多くの魔物の相手をしなければならないと考えると、魔術師がもう一人は欲しい。それに、ユイはエレノアと同じで攻撃魔法と回復魔法両方使える上に回復魔法に関しては、エレノアより上のようだしな」


 ジークフリートさんは、私がオスカーさんやデリクさんに回復魔法をかけているのを観察していたみたいで、私が回復魔法を得意にしているのを見抜いていた。

 周りの冒険者たちは、初めて聞くだろう私の名前を聞いてざわついている。ジークフリートさんの視線を追って私を品定めするように眺めている者もいる。


 でも、これはチャンスだ。

 

「私でよければ参加します」


 気がついたら、私はそう返事をしていた。

 

 英雄であるジークフリートさんと一緒にすごく強い魔物を倒せば有名になれる。

 有名になれば、ハルが・・・きっと私を見つけてくれる。

 ハルが私を迎えに来てくれる。


 でも、それだけじゃない。数多くの魔物を一度に討伐するには、剣よりも魔法の方が有効だ。ジークフリートさんの言う通りでパーティーのバランス的にも魔術師が二人いたほうがいい。私が役に立てるのなら、協力したい。


 だってジークフリートさんは命の恩人なのだ。 


「ユイ、危険だ。俺は賛成できない」

「オスカー様の言う通りです。ユイさん」

「ユイ、オスカーの言う通りだよ。危ないよ」

「私も反対ですわ」


『聖なる血の絆』のメンバーが次々と私を心配して反対する。


「オスカーさん、みんな、心配してくれてありがとう。でも私は行きます」


 命の恩人が私の魔法を必要としてくれているのなら役に立ちたい。

 それが、ハルに私を見つけてもらい易くなることにも繋がるのなら、なおさらだ。


 私に迷いは無い。


 その後も、みんなに説得されたが、無理はしないことを約束して、納得してもらった。みんなも私の事情を・・・私がハルに見つけてもらうために有名になりたがっていることを知っている。


 みんな心配してくれてありがとう。


「とりあえず作戦は決まった。今日は俺が指示する順番で交代で見張りをしてくれ。それ以外の時はゆっくり休んで明日に備えるように。各パーティーのリーダーは、この後、俺のところに集まってくれ。見張りの順番と明日の持ち場の打ち合わせをする」


 こうして私たち魔物討伐隊は一日目を生き残った。

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