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3-18(ユイ).

「これは、まずいわね」

「もう魔力が・・・」

 

 前衛のオスカーさんとデリクさんは私たちを守るように、先頭で戦っているが、明らかに疲労しており動きが鈍い。攻撃魔法を次々放っているエミリーさんは魔法を使う間隔がだんだん長くなっている。誰かが怪我をする度にすぐに回復魔法を使っていたステラさんも限界が近い。周りの騎士や冒険者が誰も助けに来ないってことは他も似たような状態なのだろう。


「オスカー様、私が囮になりますので、皆さんは、一旦、大樹海の外に退却してください」

「デリク、それはダメだ。この状態でお前一人置いて逃げるわけにはいかない!」

「いくらなんでも、魔物が多すぎるよ。何なのよ!」


 エミリーさんの言う通りだ。

 個々の強さはそこまでではないが、とにかく数が多すぎて・・・。

 他のパーティーはどうなったのだろうか?

 いつの間にか周りに他のパーティーが見えなくなった。


「オスカー、退却も無理みたいですわ」


 ステラさんの視線を追うと、私たちの後ろにまたオークの集団が見えた。前方には相変わらず、狼やキツネ、熊などの獣系の魔物が次々現れている。

 前衛のオスカーさんとデリクさんは、再び魔物と交戦するが、すでに限界が近い。


岩盾ロックシールド!」


 私も防御魔法で、オスカーさんとデリクさんを援護するが、魔物が多すぎて全部はカバーできない。せめてハルくらい速く魔力を溜められるといいんだけど。


「くそ!」

「オスカー様!」


ホーンウルフの角でオスカーさんが腕をやられた。オスカーさんを庇ってデリクさんが前にでるがそのデリクさんも満身創痍だ。


「ああ、もう」


 ステラさんが、回復魔法で治療しようとするが、ステラさんもさっきから回復魔法を使い過ぎで、すぐには魔法が発動しないみたいだ。


範囲回復エリアヒール!」


 私はパーティー全体に回復魔法をかける。上級の聖属性魔法だ。


「え? 範囲回復エリアヒール・・・。ユイ、それって」


 私がなんとかするしかない。

 

「オスカーさん、デリクさん、下がってください。ちょっと大き目の攻撃魔法を使います」


 この状態なら、クレアさんに威力過多ですと指摘されることもないだろう・・・。 


「わ、分かった」


 もうやるしかない。

 私はこれまでで、最大の集中力で魔力を溜める。


炎竜巻フレイムトルネード


 炎竜巻フレイムトルネードは上級火属性魔法の炎柱フレイムタワーと上級風属性魔法の竜巻トルネードの合成魔法だ。上級魔法の中では比較的威力の高い炎柱フレイムタワーとそれよりやや威力が低いが効果範囲の広い竜巻トルネードを合成することにより双方の良さを引き出す魔法で最上級魔法に近い威力がある。

 私はなぜか魔法の合成がすぐにできるようになった。イメージとしては右手と左手で違うメロディーを弾くみたいな感じだ。私はピアノが好きでバッハのようなポリフォニー主体の曲も得意だった。日本での経験が役に立つってことがあるのだろうか?


 さすがに炎竜巻フレイムトルネードの威力はすさまじく次々と魔物を吸い上げて息の根を止めていく。


「す、すごい・・・」

「これは、最初に見た・・・でもあのときより・・・」


 最大限の魔力を溜めた合成魔法を見て、みんなが感嘆の声を上げる。

 

氷竜巻アイストルネード!」


 魔力が溜まったので、今度は水属性と風属性の合成魔法で攻撃する。これも上級同士の合成だ。


 そして、すぐにまた魔力を溜め始める。


 急いで、急いで・・・。


炎竜巻フレイムトルネード!」


 私は合成魔法を魔法を打ちまくる。でも最上級に近い威力の合成魔法を放つにはそれなりに時間が必要だ。トルネード系の魔法は発動したあと移動しながら一定の時間消えずに攻撃し続けるので。その間に次の魔法のため魔力を溜める。でも、その間隔はだんだん長くなっている。


 限界が近い。


 オークの集団が、炎竜巻フレイムトルネードに巻き込まれて空中に浮いて火に包まれる。


 ゴォォォーーー!!


「ギヤァァァァーー!」

「グォー!」


 風の音と魔物の悲鳴で何も聞こえない。


 バリバリバリー!!!


 前から来る獣系の魔物たちは、氷竜巻アイストルネード触れると凍りつく。そこをオスカーさんやデリクさんが剣で粉々にしていく。


 それでもまだ魔物が残っている。そして次々に新手も現れる。 


 ああー、もう魔力が限界に近い。魔力の回復が間に合わない! もう大きな魔法を無理だ。


風刃エアカッター!」


 魔物を倒す。


岩石弾ロックバレット!」


 倒す。


「・・・炎弾フレイムバレット!」


 ・・・倒す。

  

「・・・岩石弾ロックバレット!」


 ・・・倒す。

 

 まだ多くの魔物がいる。いったいなんなのよー。これまでなの?


 ハル、会いたいよー。

 私・・・死ぬの?


 ハル・・・助けて・・・。

  

 そのとき、黒い影が私を庇うように前に飛び出してきた。


「大した魔法だ。よく頑張ったな。あとは任せて下がっていろ」


 そう言うと同時に、その男は魔物の群れに飛び込み、次々と魔物を斬り倒して行った。


 速い!


 その剣捌きは、まさしく目にも留まらないといっても大げさではないレベルだ。 この世界に来てギルバートさんより速い剣士を初めて見た。ギルバートさんは剣聖の称号を贈られているルヴェリウス王国最高の剣士の一人だ。私の目の前には、そのギルバートさんよりはるかに鋭い剣捌きで次々に魔物を倒していく男の人がいる。

 

 私は、その動きを見て助かったんだと実感した。

 安堵で力が抜けて、私はその場にへたり込んでしまった。


 私たちの危機に颯爽と現れたのは残念ながらハルではなく、この世界の英雄ジークフリートさんだった。


「この場所で最後かな?」と言いながら、ジークフリートさんに次いで、白い鎧を着た女性の騎士が現れた。片手に剣、反対側の手に盾を持っている。


 確か、神聖ジズカイ教国の神殿騎士団の人だ。剣聖の称号を持っていると紹介されていた。

 剣聖の称号は国が与えるものだ。やはり国が大国であればあるほど価値が高いと聞いたことがある。神聖シズカイ教国は他国とあまり付き合いのない国で、おそらくルヴェリウス王国ほどの大国でないはずだ。その国の剣聖の称号がどのくらい価値があるのかは分からない。それでもかなりの強者であることは確かだろう。

 女性騎士の後ろには金髪の魔術師の人もいる。ジークフリートさんの奥さんの一人エレノアさんだ。


 その後、私はSS級冒険者がなぜ英雄と呼ばれるのかを嫌というほど思い知らされることになった。


 ジークフリートさんは、次々と魔物を倒していきながら巧に全体を誘導して、たくさんの魔物を一箇所に集めるように動いている。ジークフリートさんの意図を察した神殿騎士団の女性騎士もそれをフォローする。やっぱりこの人も相当強い。剣聖の称号は伊達ではないようだ。


炎超爆発エクスプロージョン!」


 ジークフリートさんと女性騎士の二人が巧に魔物たちを誘導し魔物が集まったところを、エレノアさんが魔法で一気に焼き払った。


 なんと、最上級魔法の炎超爆発エクスプロージョンだ!


 最上級魔法にしては効果範囲が狭かったから調整して発動したのだろう。ハルも魔法のコントールが上手かった。それにしても、カナさん以外に最上級の攻撃魔法を使う人を初めて見た。ルヴェリウス王国では最上級魔法を使える人はこの世界にほとんどいないと説明された。


氷矢雨アイスアローレイン!」


 私も見ていて攻撃パターンは理解できたので魔法で援護した。魔力もだいぶ回復してきたし魔力を溜める時間もある。エレノアさんが火属性魔法を使ったので延焼を防ぐ意味でも水属性魔法にした。


 エレノアさんがチラッとこっち見た。エレノアさんはジークフリートさんの最初の奥さんで、最も長くジークフリートさんと一緒に冒険者をしている、確かS級の冒険者のはずだ。

 SS級のジークフリートさんやS級冒険者のエレノアさん、それに剣聖だという女性の神殿騎士、みんな強い。これなら異世界人なしでも魔王を倒せるんじゃないだろうか?


 やがてキリがないほど沸いてくると思われた魔物の数も減ってきた。

 そして、ついに周りに魔物の姿は無くなった。


「だいたい片付いたみたいだな」

「ジークフリートさん。ありがとうございます。俺はこのパーティーのリーダーをしているオスカーと言います」


 ステラさんに回復魔法をかけてもらいながら、オスカーさんがパーティーを代表してお礼を言う。


「いや、援護が遅くなってすまん。ここが一番東端だったので最後になった。よく持ち堪えたな」

「それにしても、思ったより魔物が多かったな。それにどの個体も通常のものより強力な気がした」


 そう言ったのは神殿騎士団の女性騎士の人だ。女性騎士の人と目が合ってしまった私は、慌てて目を逸らすと、デリクさんの腕に触れて回復魔法をかける。オスカーさんとデリクさんはかなり重症に見えたので私も回復魔法かけた。


 もう回復魔法が使えることはバレちゃったしね。


「あなた名前は?」


 女性騎士は私に名前を尋ねると自分も名乗っていないのに気付いたのか、慌てて「あ、私は、神聖シズカイ教国神殿騎士団のシルヴィアだ」と言った。


「私は、オスカーさんのパーティーのユイです」

「そう、ユイというのか」


 シルヴィアさんはそう言うと、なぜかそのまま私の顔をじっと見ていた。

 誰かに似ているのだろうか?


 そんな私たちを見て、今度はジークフリートさんが「そういえば、ユイは基本四属性すべての攻撃魔法を使っていたように見えたが?」と確認して来た。


「はい」


 私は正直に答える。別に秘密ではないし英雄で私の命の恩人だ。それに悪い人には見えない。それを聞いたシルヴィアさんは改めて私の顔を見る。


「それに・・・今、回復魔法も使っていたな」と言うと、何か考えるように視線を下に向けた。


 基本四属性魔法を全部に使えてさらに聖属性の回復魔法を使える私やマツリさんのような人のことをこの世界では賢者と呼ぶ。そして賢者は異世界人にしか現れない勇者とセットのような存在だ。


 私が賢者と知って驚いたのかな?

 でも、ゴアギールから遠く離れたこの辺りの人が異世界人や賢者のことにそれほど詳しいだろうか?


 ジークフリートさんは、そんなシルヴィアさんと私をちょっと見ていたが何も言わなかった。


 そのとき、下草を踏み分ける音がして現れたのは、ジークフリートさんのもう一人の奥さんである剣士のライラさんと盾役のデルガイヤさんだ。

 

「デル、そっちも終わったのか?」

「ああ、全員無事だ。怪我をしているのは結構いるがな」

「思ったより魔物が多くて大変だったよー」

「ライラの言う通り思ったより多いな。こっちも今片付いたところだ。ユイの魔法がなかなかのものでな、なんとか間に合ったよ」

「ユイ?」

「あー、そこのお嬢さんだ。大したもんだぞ」

「へー、ジークったらまさか・・・」


 二人は他のパーティーを援護していたらしい。


 その後、私たちは、今は閉鎖されているベツレム鉱山まで移動した。移動の間も魔物は出たが、さっきの一連の戦いでこの辺りの魔物はかなり減少したのか、特に問題はなかった。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 ブックマークがまだでしたらお願いします。

 また、少しでも本作が面白いと思って頂けたら、下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。評価はあとからでも変えられるので、つまらないと思えば消したり☆を減らしてもらい、良くなったと思っていただければ増やしていただくなど正直な評価をしていただけると幸いです。

 読者の反応が一番励みになります。

 また今後の投稿に生かしていきたいので忌憚のないご意見などもお待ちしています。

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