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ありふれたクラス転移  作者: たまふひ
第1章(クラス転移)
8/254

1-8.

 僕たちがこの世界に召喚されてから2ヵ月が経過した。


 僕たち9人が突然消えて、日本では大事件になっているのだろうか? 

 家族も心配しているだろう。

 そういえば30年くらい前だったか、20人以上の修学旅行中の高校生が忽然といなくなった事件があった。僕が生まれる前に事件だけど当時は大騒ぎになったそうだ。今でもオカルト界隈でよく話題になる。僕たちは9人だけど、そのときと同じように大騒ぎになっているのだろうか。


 僕たちは、なんだかんだで結局ルヴェリウス王国に言われるまま訓練を続けている。僕は魔王とやらを討伐に行くと決めたわけではないけど、この見知らぬ世界で力はあった方がいいと考えている。それに何かをしていないと不安でしょうがない。他のみんなも多かれ少なかれそんな感じだろうと思う。


 それで日々訓練の毎日なんだけど、訓練しているうちに身体能力強化がみんなより弱いことが思った以上にハンデになっていると感じている。近接同士の模擬戦では、勇者であるコウキはもちろんヤスヒコやアカネちゃんなどほかの剣士にもまったく歯が立たない。剣などの武器を持って戦う場合、身体能力強化の程度は思った以上に影響がある。正直かなり落ち込んだ。やっぱり遠距離タイプにした方がよかったのかもしれない。

 僕は文芸部の幽霊部員をしていたが、実は運動は結構好きだ。それなりに一人で体を鍛えたりしていた。ちょっとは強くなってユイちゃん守ろうとか、ユイちゃんにいいとこ見せようとか、まあ、なんか真面目なような不純なような動機でだ。そんなこともあって、身体能力強化が少し弱めでも近接で何とかなると思っていたとこがあった。でも・・・甘かった。

 それじゃあと、火属性魔法を強化しようと頑張ってみたが、ここでも僕の能力は中途半端だ。僕は火属性の魔法のうち初級と中級しか覚えられなかった。適正のある属性であっても覚えられる魔法は人によって違う。「これ以上訓練しても残念ながら上級以上の魔法を覚える可能性は低いでしょう」とセイシェルさんにも言われている。一般的はこれでも十分優秀なのだが魔王討伐を託される異世界人としては今一だ。

 こうなれば剣と魔法を組み合わせた戦い方でなんとか弱点をカバーしたい。ラノベの主人公にもそんなタイプが多かった。だが、それはそんなに簡単なことではなかった。 


 今日はアカネちゃんに手伝ってもらって訓練をしている。近接である剣士を相手にしての練習がしたかったからだ。これまでもときどきやっていることだ。ヤスヒコに頼もうかとも思ったがヤスヒコはとにかく敏捷性が高くて逃げる間もなく近寄られてやられてしまうので、まずアカネちゃんに頼んでみた。


「僕が炎の盾を作るのから攻撃してみて」

「了解」


 僕は身体能力強化が近接職としてはやや弱いので、唯一使える火属性の魔法を攻撃ではなく防御面で活かせないかと考えている。この魔法は本来、後衛職が身を守るのに使うか後衛職が前衛職のために発動することが多い魔法で近接戦闘しながら使うものではない。


炎盾フレイムシールド!」


 僕の前に炎の盾が現れる。盾と言うより炎の壁の様だ。


「じゃあ、いくよー!」


 アカネちゃんは、炎盾フレイムシールドに対して大剣で斬りかかってきた。

 アカネちゃんはすばやさはヤスヒコに劣るがパワーは上だ、炎盾フレイムシールドはその一撃をはじく、だが炎盾フレイムシールドもダメージは受けている。


 ちなみに炎に物理的な防御力があるのは、おかしいような気もするけど、魔法とはそういうものらしい。この世界は一見すると元の世界と同じ物理法則で成り立っているように見える。しかし魔法に関してはそうではない。魔法とは魔力が莫大なエネルギーのような何か(魔法エネルギー?)に変換され引き起こされる現象のことで通常の物理法則は当てはまらない。


「まだまだー」


 続けてアカネちゃんが攻撃してくる。


「うわっ」


 炎盾フレイムシールドが引き裂かれそうになった瞬間、僕はすばやく後退する。


炎盾フレイムシールド!」


 また炎盾フレイムシールドを作る。

 魔法を使うには、その魔法を発動するための魔力を溜める時間が必要だ。炎盾フレイムシールドがアカネちゃんの攻撃で壊される間に次の炎盾フレイムシールドを発動するための時間を稼がなくてはならない。

 炎盾フレイムシールドが壊されては、後退して時間を稼ぐという同じ様なことを繰り返していたが、もう魔力がなくなりそうだ。魔力は、時間が経てば回復するけど、こんなに続けて魔法を使えば回復が間に合わず、魔法が使えなくなってしまう。


 まずいな。

 次は反撃するしかない。


 炎盾フレイムシールドが引き裂かれると同時に、僕も剣でアカネちゃんに反撃・・・。

 ガンという音がしたと思ったら目の前が真っ暗になった。


「う・・・」


 気がついたら、何か柔らかいものに頭を載せられて横たわっていた。

 なんかいい匂いがする・・・。

 目をあけるとユイちゃんの顔らしきものが見える。大きな何かに遮られて、顔の一部しか見えない。 手を僕の頭に翳して回復魔法をかけてくれてたみたいだ。これが、膝枕と言うやつなのか。ユイちゃんの太ももの感触は、すごく柔らかくてそれでいて弾力もあるっていうか・・・

 あぁ~ また頭がくらくらしてきた。

 ユイちゃんの膝枕の攻撃力が高過ぎる。


「ハル、大丈夫?」


 ユイちゃんが心配そうに僕の顔を覗き込む。


「ユイちゃん。大丈夫だけど。・・・顔がっていうか、胸がかなり近いです」


 ユイちゃんは、かなり胸が大きい。


「もう何言ってるの。ほんとに心配したのに」

「ふふ、私の一撃で気絶したおかげなんだから、感謝してよね」

「もう、アカネちゃんも何言ってるの。ハルは近接タイプとしては身体能力強化が弱めなんだから、本気で攻撃しちゃだめでしょ!」

「ごめん、ごめん、今日は、いつもより粘るから、ちょっといらとしっちゃてさ。近くにユイがいて良かったよ」 


 もうぜんぜんどこも痛くない。回復魔法ってすごい。

 アカネちゃんの攻撃には多少耐えたけど、何度も炎盾フレイムシールドを発生させるといつか魔力も時間も足りなくなる。それで、反撃するしかないって、剣で攻撃しようと思ったけどアカネちゃんのパワーの方が上だった。僕の剣は弾き飛ばされ僕はダメージを負った。


 身体能力強化の程度が僕の方が弱いからパワー系のアカネちゃんに打ち負けたのは当然だ。相手がスピード系のヤスヒコなら打ち合う間もなく負けただろう。

 炎盾フレイムシールドで防御面をカバーしながら先に攻撃を当てるにはどうしたらいいのだろうか? 


 うーん、それにしても同じ姿勢も疲れる。ちょっと頭の位置を修正する。

 あれ、ユイちゃん顔がちょっと赤い。


「二人とも、いつまでそうしてるの? ユイの回復魔法って優秀だし、もう完全に直ってるんじゃないの?」

「う、うん。そろそろ起きるね。ユイちゃんありがとう」


 僕は起き上がって頭をちょっと振る。

 もう大丈夫みたいだ。


「剣で戦うのは無理なんじゃないのか?」


 コウキいつの間に・・・。

 気配も消せるのか?

  

「今日は、前よりは粘れたし、もう少し頑張ってみるよ」

「ふん、どうせ魔法ではユイにはかなわないし前衛でユイを守ろうとか、くだらない見得で剣にこだわってるんじゃないのか?」


 相変わらず嫌味なやつだな。

 それに、ユイちゃんを呼び捨てにされるのは、やっぱり嫌だ!

  

「コウキくん、そんなこと無いよ! ハル、だんだん強くなってるよ!」

「ちょっとコウキ、そんな言い方ないでしょう!」

「まあ、まあ、ユイちゃんもアカネちゃんも落ち着いて」

「ハルがそう言うならいいけど。でも、コウキ・・前はもっと優しくて・・・」


 アカネちゃんが小声で何かつぶやいている。アカネちゃんは、幼馴染のコウキのことが、なんだかんだで気になっているのだろう。ユイちゃんは、まだコウキを睨んでる。まあ、ここは大人の態度で乗り切ろう。


「いや、そういうわけじゃないけど、魔法主体に変えるにしても、僕って炎属性しか使えないしね。僕なりにもう少し剣でやってみるよ。忠告には感謝するよ」


 僕がそう言うと、コウキもそれ以上は何も言わずに自分の訓練に戻って行った。

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