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3-17(ユイ).

 討伐隊は、イデラ大樹海浅層を鉱山に向かうために作られた街道に沿って徒歩で移動している。街道は大樹海の中とは思えない立派なもので、私たちは街道を中心に左右に広がって魔物を倒しながら鉱山へ向かっている。

 討伐隊は100人近くもいるので、あらかじめ担当の場所を決めた上で隊形を維持しなが前進している。『聖なる血の絆』が担当しているのは全体の東端に近く危険な場所なので『聖なる血の絆』に対する信頼を感じる。


 イデラ大樹海に入って最初に感じたのは魔物の多さだ。確かにこれは異常発生といえる。


「エミリー、ユイ、できるだけ広範囲に魔法でダメージを与えてくれ。とにかく数を減らそう」

「了解」

「はい」

 

 私たちは、ホーンウルフの群れと対峙している。ホーンウルフは額に一本の角を生やした狼のような魔物で下級だが上位だ。単体なら問題ないが、目の前にいる群れはとにかく数が多い。それにしても狼系の魔物の中ではホーンウルフは本来あまり群れないはずなのだが。


 オスカーさんの指示で、最初に私とエミリーさんが、魔法で攻撃する。


炎柱フレイムタワー!」


 私は上級火属性魔法の炎柱フレイムタワーで攻撃する。


「おいおい。森を燃やすなよ」


 確かにこんな場所では火属性魔法は慎重に使う必要がある。それに上級魔法はホーンウルフには威力が高すぎる。クレアさんなら冷静に「今のは威力過多です」と指摘しただろう。だけど、私はハルとの訓練でその辺は心得ている。今もホーンウルフだけを狙ってコントロールしている。もちろん、それだけでなく、その後のことも考えている。 


「よし! わたしも、炎爆発フレイムバースト!」


 エミリーさんも炎爆発フレイムバーストで攻撃する。ハルがよく使ってい炎属性の中級魔法だ。


氷矢雨アイスアローレイン!」


 私とエミリーさんが炎属性魔法で10匹以上のホーンウルフを倒した後、私はすぐに水属性の上級魔法である氷矢雨アイスアローレインを、今度は範囲を広めに放つ。広範囲に氷矢雨アイスアローレインを放ったのは森を鎮火すると同時に、生き残ったホーンウルフに止めを刺すためだ。私とエミリーさんは事前に打ち合わをしていたのだ。


 二人の魔法から生き残ったホーンウルフを、オスカーさんとデリクさんが剣で止めを刺していく。とにかく数が多い。オスカーさんとデリクさんは細かい傷を負っている。


「ふー」

 

 オスカーさんが汗を拭う。


「ごめんなさい。バラバラに飛ばしちゃって」


 炎爆発フレイムバーストは中級魔法の中では比較的威力が高いが、その名の通り爆発する魔法なので対象を吹き飛ばす効果がある。


「いや、この数だ仕方ない」


 基本的に火属性の魔法は威力が高いし獣系の魔物との相性もいい。ただ森の中では火事が心配なのが欠点だ。でも私は水属性魔法も使えるのでこんなこともできる。それに水属性魔法がなくともキチンとコントロールすれば滅多に火災になることはない。


回復ヒール!」


 ステラさんがオスカーさんとデリクさんの怪我を治す。


 かなりのペースで魔物を討伐しているが、思った以上に魔物の数が多い。

 私たちの周りでも他の冒険者や騎士たちが魔物を倒しているはずなのにこれだ。そのため私たちの進行は非常にゆっくりしたものになっている。

 魔物のランクも浅層にしては下級でも上位のものや中級が多い。それにとにかく数が多い。加えて同じ魔物でも個体として強いというか大きめのものが多い気がする。さっきのホーンウルフも、普段なら私とエミリーさんの魔法で殲滅できていてもおかしくないのに、結構な数が生き残っていた。


「気を抜くな、次が来るぞ!」


 ブラッディベアとその後ろにはカラミティフォックスが数体見える。森だけあって獣系の魔物が多い。


「キャー!」


 後ろから悲鳴がしたので、振り向くと、植物系の魔物の触手が回復役のステラさんを捉えようとしていた。


風刃ウィンドカッター!」


 私は触手を切り落とす。


 それでもたくさんの触手が次々とステラさんに襲い掛かるので、デリクさんが後ろに下がって剣で応対する。


「ユイさん、デリク、助かりましたわ」


 前を見ると、通常のよりかなり大きなブラッディベアを相手にしているオスカーさんが、なかなか仕留めきれずに手こずっている。エミリーさんも疲れているのか、魔力を溜めるのに時間がかかっている。その間にカラミティフォックスの群れも近づいてきている。


「くそー、なんだよ。次々と」

「オスカー様!」


 前衛に戻ったデリクさんが、オスカーさんを援護する。


岩盾ロックシールド!」


 私は、カラミティフォックスの前に大きめの岩盾ロックシールドを作って、オスカーさんとデリクさんに近づけないようにする。


「助かった。デリクいくぞ!」


 オスカーさんとデリクさんがブラッディベアに集中して攻撃する。


「オスカー、デリクどいて! 炎爆発フレイムバースト!」


 魔力を溜め終わったエミリーさんが魔法でブラッディベアに止めを刺した。

 でも、何匹かのカラミティフォックスがすでに岩盾ロックシールドを乗り越えてきている。


 まずい。もう一回・・・。


 そのとき、後ろから何かが私の首に触れた。

 植物系魔物の触手だ。

 まだいたんだ!


「うぅーー」


 く、苦しい・・・。

 意識が・・・。


「ユイさん!」


 デリクさんが触手を剣で切り落としてくれた。


回復ヒール!」


 ステラさんが私に回復魔法をかけてくれた。


 呼吸が楽になった。

 た、助かった。


「あ、ありがとう」


 こ、怖かった・・・。

 冒険者になってから、ここまで命の危険を感じたことはなかった。


 とにかく魔物の数が多い。


 前からは10匹以上のカラミティフォックスが迫る。後ろには植物系魔物が・・・。


「ユイは、後ろの触手の化物を、エミリーはカラミティフォックスだ!」


 オスカーさんの指示を聞くと同時に、私とエミリーさんは魔法の準備に入った。魔法には魔力を溜める時間が必要だ。


 デリクさんが盾で触手攻撃から私たちを守る。

 オスカーさんは前のカラミティフォックス担当だ。


氷矢雨アイスアローレイン!」


 魔力が溜まったので、植物の魔物を魔法で攻撃する。私が魔法を放つと同時に、植物の化物の一際大きな触手の先にある袋のようなものが破裂しても胞子のようなものをまき散らした。


炎爆発フレイムバースト!」


 エミリーさんが魔法でカラミティフォックスを吹き飛ばす。

 その間に、デリクさんが私の魔法で次々に凍りついていく触手の化物に剣を叩きつける。凍った触手の化物はガラス細工のように崩れ去る。


岩石弾ロックバレット!」


 エミリーさんの魔法で吹き飛ばされたカラミティフォックスに私は岩石弾ロックバレットで次々と止めを刺す。岩石弾ロックバレットは初級魔法なのでそれほど時間を掛けずに使える。 


 とりあえず、片付いたのか。


 あれ?


 なんかオスカーさんの顔が二重に見える・・・。


「ユイ!」

「ユイさん?」

 

 何か気が遠くなってきた。


「・・・」


 私が気がつくと、最初に見えたのはステラさんの顔だった。私は、あの胞子みたいなやつで、毒を受けたみたいで、ステラさんが回復魔法をかけてくれたみたいだ。


「ユイさん。大丈夫?」

「はい。ステラさん。ありがとうございます」

 

 起き上がって周りを見ると、エミリーさんとオスカーさんが倒れている。ステラさんに聞くと、ステラさんも含めてパーティー全体があの胞子にやられたらしい。


「どうやら私が一番毒を吸った量が少なかったみたい」


 ステラさんは聖属性魔法しか使えないため戦闘中は一番安全な場所で待機していた。


「でもオスカー様とエミリーが目を覚ましません」


 ステラさんの後ろにいたデリクさんが眉間にシワをせよせて言う。

 どうやらステラさんの回復魔法でもオスカーさんとエミリーさんが目を覚まさないらしい。私は起き上がると、オスカーさんとエミリーさんのそばに行き二人に手を触れる。


大回復メガヒール!」

「ユイさん! 回復魔法も使えたの?」

「えっと、ステラさんがいるし、特に使う必要がなかったので・・・」


 私は回復魔法が使えることを秘密にしてた。ステラさんに気を使っていたのもあるが、これまでその必要がなかったのもほんとだ。でも今回は仕方がない。今はそれどころではないので、ステラさんもそれ以上突っ込んではこなかった。


「うーん」

「う、うー」


 オスカーさんとエミリーさんも気がついたみたいだ。

 うーん、私もまだちょっとフラフラする。

 オスカーさんも起き上がって、頭を振っている。


「オスカー様、申し訳ありませんが、ゆっくり休んでいる暇はなさそうです」

「ジャイアントウルフに・・・あれはオークか」

「しかもかなりの数のようです」


 オスカーさんとデリクさんの声に疲労の色が隠せない。

 私たちの周りには、また魔物たちが迫ってきている。これは、いくらなんでも数が多すぎる。キリがない。


 その後も、私たちは、次々と現れる魔物と戦い続けた。


 限界が近い・・・。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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