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3-12(クレアお嬢様になる).

 いよいよ盗賊退治の当日となり、貴族のお嬢様に扮したクレアとその従者である僕、それにクレアの両親である貴族に扮した冒険者が馬車に乗っている。


 クレアは王都にある貴族の子女が入る学校に入学するために旅立つお嬢様という設定だ。今年王都の学校へ入学する予定の貴族のお嬢様はトドスに実在する。トドス近辺を治める領主に仕える下級貴族の娘で美人で有名だそうだ。僕たちが盗賊団を討伐した後、本当のお嬢様が旅立つ予定だ。実在するお嬢様の話だから盗賊団も騙されるだろうというわけだ。すでに、お嬢さまが王都の学校に入学するため両親と一緒に旅立つとの噂を流してある。

 『リトルグレイセルズ』のメンバーは貴族の護衛という役どころだ。『リトルグレイセルズ』以外にもこの作戦には僕たちを含めて複数の冒険者パーティーと領主の騎士団から30名が参加している。 


「クレア、よく似合ってるよ。本物のお嬢様にしか見えないよ」


 いつも黒っぽいシンプルな服を好んでいるクレアだが、白を基調とした清楚な服がよく似合っている。クレアは、自分がお嬢様役と聞いて嫌がったが、どうやらグラッドさんは、最初にクレアを見たときから、この作戦にクレアがぴったりだと思っていたようだ。

 お嬢様役ができる実力のある若い女性冒険者などそうはいない。危険な役だから実力が必要である。加えて、美人で有名なお嬢様に見える容姿も必要ということになれば、僕から見てもクレアは適任だ。

 本物のお嬢様が王都に行く日も近づいているし、適任者がいなければ別の作戦を考えようと思っていたところへ、ヨルムンガルドを二人で討伐したという僕とクレアが現れたわけである。

 

「本物のお嬢様は私より4つも若いみたいだし、恥ずかしいです」


 ちょっと目を伏せて恥ずかしがるクレアは、ますますお嬢様みたいだ。本物のお嬢様は14才らしいけど、服装のせいかいつもより幼く見えるクレアに違和感はない。違和感がないっていうか、むしろすごく可愛い。


「いや、とっても可愛いよ。いつものクレアも美人だけどね」


 僕が思ったことをそのまま口に出すと、クレアはますます赤くなった。


 そんな僕たちを見ていたお嬢様のお父さん役のアグロイドさんが、「ハハハ、まったくだ。俺もギルドマスターからの推薦でなければ、とても二人がBの冒険者とは信じられん。それに二人とも仲が良さそうでうらやましいぜ。俺も、もう少し若ければハルには負けないんだが」と言って笑った。


「あら、あなたには私がいるでしょうに。私では不満なのですか?」


 お母さん役のマーブルさん、役になりきってる。アグロイドさんも、これには苦笑いである。二人ともいい人そうだ。この二人は『リトルグレイセルズ』のメンバーではなく、僕たちと同じでこの作戦のため集められた冒険者だ。

 この二人に比べて、『リトルグレイセルズ』のメンバーたちは、最初の顔合わせのときから僕たちの実力を疑っているような感じだった。ギルドマスターの推薦だから渋々従ったのだろう。リーダのボロワットさんは、僕たちを見て「俺たちの足を引っ張るなよ」とかなんとか言っていたし、他のメンバーも明らかに、大丈夫なのか、とでも言いたそうな顔をして僕たちを見ていた。でも、そんな彼らも、お嬢様の格好をしたクレアに見とれていたのを、僕は知っている。


 お嬢様の格好では剣は持てないので、僕が代わりにクレアの大剣、赤龍剣を持っている。腰には黒龍剣を指しているので動きづらい。赤龍剣は大剣にしては細身だが、やっぱり大剣でありとても重い。これを楽々振り回しているクレアの身体能力強化はすごい。

 そういえば、クラスメイトではアカネちゃんが大剣を使っていた。みんな元気だろうか? ヤスヒコもアカネちゃんも僕たちがいなくなって心配しているだろうなー。僕は最近まで自分のこととユイを探すことに精一杯であまり他のクラスメイトたちのことを考える余裕がなかったが、今ではサカグチさんからの情報もあってクラスメイトたちのことがとても心配だ。


 僕たちの乗った馬車を囲むように、騎乗した『リトルグレイセルズ』のメンバー4人が守りを固めている。5人目のメンバーは御者をしている。盗賊団が頻繁に出没している状況で下級とはいえ貴族が旅立つのに護衛は少な目かもしれないが、その分B級のパーティーが護衛していると考えればそれほど不自然ではない。

 4人の『リトルグレイセルズ』のメンバーたちが騎乗しているのは普通の馬だが、馬車を引いている2頭の馬は普通の馬ではなくスレイプニルという8本足の魔物である。普通の馬よりはるかに力が強く騎獣としてもよく見る魔物だ。このスレイプニルのように調教された魔物が人々の生活に役立っているが、調教というのは使役魔法で魔物を使役するのとはまた別で、あくまで飼いならすという感じのもので、調教師という職業もある。

 ちなみに、この世界ではすべての生き物が魔力を持っているので、普通の馬でも元の世界の馬に比べるとかなり体力がある。 


 『リトルグレイセルズ』は、リーダーで剣士のボロワットさん、魔術師のヘイズドングさん、同じく魔術師のアガーテさん、剣士のロレンスさん、剣士のザイモンさんの5人で構成されている。御者をしているのはロレンスさんだ。

 ボロワットさんとヘイズドングさんが40才くらいで、ボロワットさんはすでに髪がかなり薄い。この二人はB級の冒険者で、ボロワットさんがリーダー、ヘイズドングさんがサブリーダーだ。20代後半くらいの女魔術師のアガーテさんが一番若く、ロレンスさんとザイモンさんは30代といったとこで、3人ともC級の冒険者である。ザイモンさんは剣士といっても盾役らしい。雫を反対にしたような形の盾を左腕に装備して器用に騎乗している。


 冒険者ギルドが掴んでいる情報では、この盗賊団は大規模であり50人以上と目されている。この程度の人数の護衛であれば襲ってくる可能性が高いとの読みだ。実は、馬車が通る街道から外れて他にも2パーティー10人の冒険者と領主の騎士30人が徒歩で追走している。これで数の上ではほぼ互角のはずだ。

 グラットさんは僕とクレアが参加すれば余裕で勝てると言っていた。グラッドさんの評価がやけに高い。元S級冒険者らしいギルドマスターのグラットさんは、クレアの佇まいに何か感じるものがあったようだ。

 一方、ボロワットさんは不安があるようで、状況によっては逃げると作戦会議のときに念を押していた。このボロワットさんの態度に僕はむしろ感心した。さすがにB級パーティーのリーダーだ。実力を過信せず。状況によっては逃げることを選択する。正しい態度だと思う。僕もこれまでの経験の中で、逃げるのが最良の選択という場面に何度も遭遇した。


 徒歩で追跡している冒険者や騎士たちがいるため馬車は比較的ゆっくり走っている。


「クレア、盗賊に襲われたら普通はどうなるの?」

「盗賊の人数が多くて明らかに勝てない場合は取引するのが普通ですね」

「盗賊と取引するの?」

「はい。お互いに無駄に死人を出すのは避けます。ある程度の金品を渡してその場を収めます」

「勝てそうなら討伐するの?」

「そうですね。でも盗賊も馬鹿ではありませんから、明らかに不利そうなら、そもそも襲ってこないか逃げるかでしょう」

「なるほど」


 まるで盗賊も一つの職業のようだ。この世界には危険な魔物が多く生息している。貧富の差もあり様々な理由で盗賊になる者がいる。


「ハルさんは貴族なのですか?」とお嬢様の母親役のマーブルさんが訊いてきた。

「え、違いますけど」

「そうですか。クレアさんが様をつけて呼んでいますし、市井のことをクレアさんに聞いているようでしたので」

「ああ、僕はちょっと遠くの国の生まれでこの辺りことに詳しくないのです」

「そうなんですか。もしかしてバイラル大陸の。いえ、立ち入ったことを聞いてすみません」

「いえ、マーブルさんが疑問に思うのは当然です。でも、できれば出身地のことは秘密にしておきたいです」

「分かりました」

「まあ、誰にでも秘密はありますからね」


 アクロイドさんがその場を収めるように発言した。


「そういえば、伝説級の魔物の素材が持ち込まれた話を知ってますか」

「いえ」


 僕とクレアは興味のなさそうな振りをしてやり過ごす。


「伝説級、本当なんですか?」マーブルさんは興味を持ったようだ。

「分かりません。買い取りのほうで騒いでいたのを耳にしただけなんですが」

「そう。でもいくらなんでも伝説級はないわよねー。ルビーちゃんは今ケルニッツの方でしょう?」

「あの、ルビーちゃんっていうのは?」

「ああ、ハルさんはこの辺りに来て間がないのね。ルビーちゃんは、この辺りでは一番の冒険者なの。若いのにS級なのよ」

「ルビーでも伝説級は無理だろう。ルビー本人は魔術師だし」


 確かに魔術師は、優秀な前衛がいてこそ輝く。


「そうね。ルビーちゃんに見合う剣士がいればいいのだけど。なかなかねー」

「それじゃあ、今はどうしてるんですか?」

「A級やB級の人たちとパーティーを組んでいるの。もちろん彼らも優秀なんだけど、ルビーちゃんならS級の剣士と組みたいとこよね」

「そのルビーさんって何才くらいの人なんですか?」

「あら、ハルさん興味があるの。でも若いっていってもハルさんよりはだいぶ上よ。それとも年上が好みかしら」

「いえ、そういうわけでは」

「ハル様はどのくらい年上が好みなのですか?」


 いや、そもそも年上が好みだとは言ってないし。


「クレア」小声でクレアに呼び掛ける。

「はい」

「もしかしてユイかもと思って訊いただけだよ」

「知ってます」

「!?」


 今のはクレアの冗談だったのか? 分かりにくい・・・。


「そろそろ危険地帯だ」


 馬車に馬を寄せたボロワットさんが注意を促す。


「アグロイドさん本当に襲ってくるでしょうか? 商隊とかに扮したほうが良かったのでは?」

「確かに、貴族の乗った馬車を襲うのは、盗賊としてもリスクが高い。だが、お嬢様がこれから王都に住むのであれば、普段以上に金目の物を持ってると考えるんじゃないか。それに見た目の護衛は5人だから盗賊団の規模からすれば襲ってきてもおかしくない。取引で簡単に小遣い稼ぎができると思うかもしれない」


 なるほど。


「それに私が扮しているお嬢様は下級貴族の三女と聞いています」

「なるほど、そこまでのリスクじゃないって判断されるかもしれないってことか。護衛もそこまで多くないのもおかしくないと。そうか、盗賊団の誰かがトドスの街にいるんですね」

「よく分かったね。その通りだよ。これまでの奴らの活動からしてトドスやケルニッツで情報収集しているのは間違いないだろうね」


 なら僕たちの一行、お嬢様の旅立ちのことも知っている。知っていればいいカモだと思うかもしれないと。


「そろそろ、ケルニッツからの街道が交わる地点だ」アクロイドさんが言った。


 ケルニッツからは、こちら側を通らず、最短距離で王都まで続いている道もあるが、そっちは、途中に泊まれる町や村も少なく、中央山脈とその麓の森林にも近く危険ななので、ちょっと遠回りになるが、ケルニッツから王都へ向かう場合もこの街道を使うことが多いそうだ。

 トドスとケルニッツ間の物資の輸送もこのルートを使うのが主流だ。かなり遠回りになるが、トドスとケルニッツを最短で結ぶ街道は冒険者たちの移動以外にはあまり使われない。トドス、ケルニッツの両都市の南はイデラ大樹海だ。この2都市を最短距離で結ぶ道は当然すべての区間に亘ってイデラ大樹海に近く危険だからである。

 

 ん? いくつかの魔力を感じる。

 盗賊団ではない。

 魔物だ。しかも数が多い。


「魔物がいます。30以上です」


 僕はそう言うと、クレアの剣をクレアの脇において、馬車を飛び降りた。ロレンスさんはすでに馬車を停車させている。

 やがて、前方に人型の魔物の群れが近づいてくるのが見えた。ボロワットさんをはじめとした『リトルグレイセルズ』の4人は、すでに馬を降りて魔物の群れに対応する態勢を取っている。馬車組もいつでも戦いに参加できる態勢だ。

 

「こんな街道のそばで、オークの群れとは、珍しいな。それに数も多い。みんな油断するな」


 ボロワットさんの声に全員が頷く。


 この付近で人型の魔物のといえば、ゴブリンかオークだろうが、大きさから見てゴブリンということはありえなのでオークの群れと判断したのだろう。

 やがて、魔物たちの姿がはっきりと見えてきた。『リトルグレイセルズ』のメンバーたちの顔が驚きで強張る。


「オークじゃない。オーガだ。それに、あれは・・・」


 僕たちに近づいてきたのは、オークの群れではなく、それよりはるかに強力な魔物であるオーガの群れだった。しかも、ひときわ大きな固体が一匹。イデラ大樹海でも出会ったそれはキングオーガだ。

 イデラ大樹海の深層でキングオーガに率いられたオーガの群れとは戦ったことがある。でもあのときはせいぜい10匹程度だった。今回は30匹はいる。数の多さは強力な武器だ。ブラックハウンドの群れとの戦闘で死にかけた僕はよく知っている。


 上級のキングオーガに率いられた中級のオーガ30匹。これまで出会った魔物の群れの中でも最も数が多い。これまで戦った中でも神話級や伝説級を除けばかなりの強敵だ。いや、この数なら伝説級に匹敵する危険度かもしれない。

 短編「乙女ゲームの断罪の場に転生した俺は悪役令嬢に一目ぼれしたので、シナリオをぶち壊してみました!」が思ったより好評だったので、調子に乗って続編「敵国の姫騎士と恋の駆け引きをしてたら、転生者の悪役令嬢が絡んできました!」を投稿しました。よかったら短編も読んでみて下さいね。短編を投稿した効果なのか、本作のPVも少し増えてきた気がします。ただ、それがなかなかポイントに結びつかないのが悩みです。本作もより面白くなるよう頑張ります。

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