3-11(悪い冒険者).
ちょっとハルとクレアのトドスでの一日を短編風に書いてみたのですが、出来はどうでしょうか?
今朝の冒険者ギルドでもユイに関する情報は得られなかった。
「あとは、いつものように魔物討伐に行って訓練をしようか」
「そうですね」
とりあえず、『リトルグレイセルズ』のボロワットさんとやらからの連絡を待つ間、引き続きトドスで情報収集兼冒険者活動をするしかない。
僕とクレアは顔なじみになった門衛に挨拶し南門から街を出る。門の外にも建物はあり街は広がっているが、南はイデラ大樹海方面なので規模は小さい。さらに南に進むと人の生活圏から離れ草原のような場所に出る。さらに南に進めばイデラ大樹海だ。イデラ大樹海の浅層は冒険者の活動の場だ。
「お前らぐずぐずしないでさっさと歩け!」
僕たちの先を進む冒険者パーティーらしき一団が見える。
「あれは?」
「荷物運びを雇っているようですね。騎獣もいないようです」
「なるほど」
どうやら横柄な態度の冒険者が荷物運びたちにもっと早く歩けとせかしている様子だ。荷物運びは男二人と女一人の3人だ。僕が言うのもなんだけど、まだ少年少女といった感じだ。3人は荷車のようなものを引っ張っている。あれに討伐した魔物などを載せて運ぶのだろう。
「なかなか大変そうだね」
「はい。荷物運びはE級などの戦闘力の低い冒険者が多いです」
「荷物運びも冒険者なの?」
「はい。冒険者の資格は必要です。ですが戦闘力が低いとか、まだ経験が少ないとかで荷物運びをしているのです」
普通はA級以上の数少ない上位の冒険者しかアイテムボックスは持っていない。持っていたとしても魔物の死体をまるごと入れられるようなものは少ない。なので荷物運びは必要な職業だ。冒険者パーティーが馬や騎獣を所有していれば荷物を運ぶのも多少楽になるのだろうがそれも所有していないようだ。
「お前らさっさと歩けっていってるだろ!」
また荷物運びたちへの罵声が聞こえる。感じが悪い奴らだ。
僕とクレアは、その冒険者パーティーを追い越して進む。
偏見かもしれないが細面で残忍そうな顔した冒険者の男がチラとクレアの顔を見た。クレアは美人だからしかたがないが、やはり感じが悪い。冒険者は4人パーティーで全員男だった。
僕とクレアはいつものようにイデラ大樹海の浅層で魔物討伐を行った。僕とクレアにとってイデラ大樹海はある意味トラウマであり、あまり深くまで進むつもりはない。それもあって討伐は順調だ。成果はすべてアイテムボックスの中に入っている。
魔物の討伐を適当なとこで切り上げ、ちょっと開けた場所を探して剣と魔法の訓練を行う。いつもと同じだ。
そしてこれもいつもと同じで、早めに街に帰ることにする。夕方の冒険者が多い時間帯にユイに関する情報を収集するためだ。
「今日も剣では全然クレアの相手にならなかったなー」
「ハル様、そんなに簡単に追いつかれては私の立場がありません。ハル様は確実に上達されていますよ」
「そっか。クレアいつもありがとうね」
「・・・」
クレアがそっぽ向いている。照れてるのだろうか。
僕たちはイデラ大樹海の浅層から草原のような場所に出て街を目指す。
「おい、お前ら、そっちの奥でジャイアントウルフを二体仕留めたから死体を取ってこい」
「はい」
声をした方を見る。
今朝追い抜いた冒険者パーティーだ。
荷物運びの3人は、荷車をその場に置いて、冒険者の男が示した方向に駆け出し大樹海の中に入った。そして間もなく姿が見えなくなった。どうやら仕留めた獲物を取りに行かされた様子だ。
「クレア、どうしたの?」
「いえ、荷物運びは、経験を積むためにE級冒険者などがなることが多いです」
「うん。朝も聞いた」
荷物運びも冒険者だ。そうでなくては魔物討伐に付いていってはならないことになっている。そんな話だった。
「当然、実際に依頼を受けた冒険者より戦闘力は低いです」
「そうだろうね」
だからこそ、自分で依頼を受けずに荷物運びをやっているのだ。
「魔物を相手にする冒険者自身がすべての荷物を運んでいては魔物の襲撃などに対処できません。だから荷物運びを雇います。逆に魔物などから荷物運びを守るのは冒険者の役目です。なのに・・・」
そうか、あの横柄な態度の冒険者たちは、ジャイアントウルフの死体を取ってこいと言って荷物運びたちだけを浅層とはいえイデラ大樹海の中に行かせた。
「態度が示す通りの性格ってことか」
「ハル様、あっち側を通ってもう一度森に入りませんか?」
クレアが示す方向は、さっき荷物運びたちが向かった方向に近い。ひそかに見守ってやろうってことだろう。クレアはやさしい。
「うん。そうしよう」
僕とクレアがしばらく大樹海の中を進むと、「おい、あったぞ」という声が聞こえた。どうやら無事にジャイアントウルフの死体を確保したらしい。
「ん?」
「ハル様」
距離はあるけど魔物の気配を感じる。
僕とクレアは若い荷物運びたちからやや距離をとりつつ大樹海を移動する。
魔物の気配が近づいている。ジャイアントウルフの血の匂いが魔物を呼び寄せているのかもしれない。
荷物運びたちはやっとイデラ大樹海を出た。僕とクレアはイデラ大樹海の最端に留まり様子を伺っている。
「お前ら遅いぞ! さっさと獲物を載せろ! もう少し討伐を続けるぞ」
荷物運びたちは引きずっているジャイアントウルフ2体の死体を荷車に乗せる。と、突然冒険者の一人が荷物運びの少女の背中を蹴った。
「キャー!」
ジャイアンとウルフを抱えていた少女は前のめりに倒れその場に蹲った。
「てめえ、毛皮を傷つけるなって言っただろ。その分は報酬から引かせてもらうからな」
他の3人の冒険者も、倒れた少女を見て笑っている。クズの仲間はクズらしい。
「そ、そんな。森から3人で2体のジャイアントウルフの死体を運んだんだ。引きずるしかないだろう。サラ大丈夫か?」
荷物運びの少年が少女を助け起こしながら抗議する。
そんな荷物運びたちを4人の冒険者はニヤニヤしなが見ている。
「クレア、あいつら」
「はい。思った以上のクズだったようです。それとハル様、どうやらブッラクハウンドです」
僕たちにとっては因縁の魔物だ。イデラ大樹海をかなり奥まで行かないと見かけない魔物だが、最近、浅層で中級魔物が目撃されることが増えていると冒険者ギルドで注意喚起されたばかりだ。しかもブラックハウンドは僕たちが経験した通りで群れる魔物だ。今感じている気配も8つだ。あのときよりは少ないが、それでも中級8匹は強敵だ。
「おい!」
冒険者の一人が、やっとブラックハウンドに気がついたようだ。
イデラ大樹海から草原地帯へ出てきたブラックハウンド8匹はあっという間に冒険者4人と荷物運び3人に近づいてくる。
「お、おい、あれはジャイアントウルフじゃない。ブラックハウンドだぞ。どうすんだよ。相手は中級だ。しかも、か、数が・・・」
「そ、そうだ。お前ら囮になれ!」
「そうか、そうだな。お前らジャイアントウルフの死体から離れるなよ」
「なにが囮だ! 荷物運びも含めて守るのがお前らの役目だろう。サラ、エド逃げるぞ」
抗議した少年が少女の手を引いて逃げようとする。
「うわぁー!」
「囮になれって言ってんだろ!」
少年が冒険者の男に殴られ、手を引いていた少女ともども地面に転がった。
「大丈夫か?」
飛び出した僕とクレアは倒れている少年と少女に駆け寄る。
「回復!」
クレアが素早く回復魔法をかける。
「ありがとうございます」
「えっと」
「俺はグレン、あと」
「エディスです」
「サラといいます」
「ハルとクレアだ。でも自己紹介はこのくらいにしよう」
もうブラックハウンドは目の前だ。
「ハルとクレア・・・。あ、あんたたち、確か上級の素材を買い取ってもらってた・・・そうだ、確かブラックハウンドの群れだって。なあ、俺たちを助けてくれ。あんたらならブラックハウンドなんて目じゃないんだろう。俺はこのパーティーのリーダーでシモンズってんだ」
どうやらこのクズパーティーのリーダーはシモンズという名前のようだ。少女の背中を蹴った目つきの悪い細面の男だ。見るとブラックハウンドのうち2頭がシモンズたちの行手にすでに回り込んでいる。ブラックハウンドは4つ足の獣型魔物の常として素速い。
ふん、サラを蹴ったりグレンを殴ったりしているから逃げ遅れるんだよ。僕は心の中で悪態をつく。
「クレア」
「はい」
僕はシモンズには返事をせず。剣を抜いて戦闘態勢に入る。すでに8匹すべてのブッラクハウンドに囲まれている。
「グレン、エディス、サラこっちに」
僕とクレアは3人を守るようにブッラクハウンドと対峙する。
「おい、荷物運びなんかじゃなくて俺たちを守ってくれ」
「なんで?」
「なんでって・・・」
「なんで、命の価値に違いがあると思っているの? 違いなんかないんだよ。誰を助けるかは自分で決める!」
こいつなんで自分の命のほうがグレンたちのそれより価値が高いと思ってたんだろう? きっとバカなんだろうな。
それより8匹のブラックハウンドだ。あのときよりは数が少ないし特殊個体もいない。でも、中級魔物は決して侮っていい相手ではない。8匹のうち5匹がこっちに向かってきた。残りはシモンズたちの方へ行った。
「がぁー」
クレアが気合を入れて5匹のブラックハウンドの真ん中に突っ込んだ。さすがのクレアも5匹全部の攻撃を完全には躱せない。とにかくブラックハウンドは素早いのだ。
「黒炎盾!」
僕はクレアを黒炎盾で守る。
「ギャウー!」
黒炎盾に弾かれた数体のブラックハウンドを横目に正面のブラックハウンドをクレアが斬った。
「黒炎弾!」
そこへすかさず僕が黒炎弾で止めを刺す。魔法の二重発動だ。
残りは4匹だ。
クレアはすでに残りの4匹と対峙している。
隣の戦場からはブラックハウンドの咆哮と冒険者たちの悲鳴が聞こえてくるが、気にしている余裕はない。
3人を守りながら中級魔物を相手するのはそんなに楽なことではない。
2匹のブラックハウンドがグレンたちの方へ回り込もうとするが、僕とクレアを位置を変えてそれを許さない。ブラックハウンドたちはさっき一体がやられたことで慎重になっている。
「黒炎盾!」
僕は黒炎盾を大きく壁のように発動させて全体を守る。だがその分強度は低い。それでもブラックハウンドたちはさっきの経験から黒炎盾を警戒している。
クレアが大きくジャンプして黒炎盾を飛び越えると一体のブラックハウンドにに斬り掛かった。風属性魔法を補助に使うクレア得意の攻撃だ。
ブラックハウンドは空中のクレアを見て躱そうとするが4匹いるので返って動きづらそうだ。落下してきたクレアはそんなブッラクハウンドの一匹を頭から斬った。
「ギャァァー!」
一刀両断とはこのことだ。
「す、すごい・・・」
背後からクレアに対する賞賛の声とため息が聞こえる。僕も誇らしい。
あと3匹だ。
3匹まで数を減らしたら戦いはかなり楽になった。
一匹をクレアが剣で、一匹を僕が黒炎弾で頭を撃ち抜いて倒すと、残った一匹は踵を返して大樹海の方に逃げ去った。
僕とクレアも守るべき3人がいる状態で後を追うようなことはしなかった。
少し離れて戦っている4人の冒険者の方を見ると、4人とも生きているのが不思議なくらいボロボロだ。気が乗らないが、僕とクレアは4人を助けに向かった。
僕とクレアが参加して一匹のブッラクハウンドが倒されると、残りの2匹はさっきと同じで逃げてしまった。彼らの前で魔法は使わなかった。念のためだ。すでに見られていたかもしれないが、おそらくそんな余裕はなかったと思う。
4人の冒険者はボロボロの状態だ。シモンズは右手がない。一人は左足のふくらはぎの辺りが大きく抉られている。残り二人も目のあたりをやられていたりで、おそらくもう冒険者はできないだろう。たぶんD級くらいの冒険者であろう彼らがB級魔物3体を相手にすればこうなるのは当然だ。おそらく上級回復薬なんかも持っていないだろう。回復薬はすぐに使わないとだんだん効果が薄れる。実際、彼らは慌てて手持ちの回復薬を使っているがたぶん下級だ。
こんなところに中級魔物が現れたのは運が悪かった。しかも群れやすいブラックハウンドだ。でも、これも日頃の行いのせいだと思ったのは僕だけではないだろう。
「街に戻って救助を呼んでやる。それまで我慢するんだな」
回復薬のおかげで命はとりとめそうだ。自分たちで止血処理をしようとしている。冒険者としての心得が少しはあるようだ。まあ、精神的な心得はなかったみたいだけど。
「逃げたブッラクハウンドが戻ってきたらどうするんだ。一人残ってくれ」
「それはできない。僕たちも彼らを安全に送っていかないといけないからね」
僕はグレンたちを見る。
「な、何を・・。そんな奴らより俺たちの安全が大事だろう」
まだ、そんなことを言っているのか。
「そうだ、前言を撤回するよ。やっぱり命の価値には違いがある。お前らの命の方が価値が低いよ」
「なっ・・・」
「クレアごめんね。ちょっと熱くなりすぎちゃったよ」
「いえ」
僕は、日本にいたときから、お金に困って盗みをしたりする人より理由もなく立場の弱い人をいじめたりする人のほうが嫌いだった。法律で決まっている罪の重さとは違うんだろうけど、理由もなく、しいてい言えば自分の楽しみのために、人を虐げるような人のほうが、僕は嫌いだ。
シモンズたちに、ああは言ったけど、本当は命の重さに違いなんかないんだろうから、これは好き嫌いの問題だ。
「それじゃあ、急いで救助を呼んでくるよ」
まだ僕を睨んでいる冒険者たちを後にして、僕たちはトドスの街に向かった。
ブラックハウンドの素材はグレンたちにプレゼントした。これはグレンたちのためではなく僕の自己満足のためだ。僕はグレンたちのことをよく知っているわけではない。
冒険者たちの命も助かった。ただ、彼らが今後冒険者として活動するのはやっぱり難しいようだ。特に右手を失ったシモンズは無理だろう。それを聞いて少しすっきりした僕はきっと性格が悪いのだろう。
少しでも本作が面白い続きが気になると思って頂けたら本作にもブックマークや評価をお願いします。作者としてもちょっと自信のある第4章(第4章の開始は3月、第4章の完結は4月中頃を予定。長い!)までは物語を追ってみてもらえるとうれしいです。あと、ここがよくないなどの忌憚のない感想、ご意見をお待ちしています。今後の投稿に活かしたいと思います。




