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3-10(ギルドマスターからの依頼).

 その後、グラッドさんから聞いたのは、盗賊の討伐に協力してもらいたいという話だった。


「東隣の街ケルニッツは、王都キャプロットに次ぐキュロス王国2番目の都市なんです。トドスと同じく南はイデラ大樹海で冒険者も多い。その上ケルニッツの近郊には魔鉱石の鉱山もある。ギネリア王国のベツレムほど大きな鉱山ではないんですが、採れる魔鉱石の質には定評があります。それにね、ケルニッツは大陸北東の国々との交易の起点でもある。ドロテア共和国を始め大陸の北東諸国は海を隔ててバイラス大陸とも交易している国があって経済的に繁栄している国が多いんですよ。ケルニッツはそうした国との交易の中心地なんです。それやこれやでケルニッツはギネリア王国2番目の都市です。そしてここトドスも王国の中では大きな街の一つです。でね盗賊が出るんです」

「盗賊が?」


 確かに商人の護衛も冒険者の仕事である。だけど、この世界はそもそも日本ほど安全ではない。たまに盗賊が出るくらいは許容範囲内のはずだ。


 僕はこのあたりの地図を思い浮かべる。


 ヨルグルンド大陸は巨大な中央山脈により大陸で東西を分断されている。往来できるのは中央山脈が途切れる北と南だけだ。その南がギネリア王国でケルニッツが交易の中心となっているんだろう。加えてイデラ大樹海と近く、グラッドさんの話では鉱山もある。ここトドスもイデラ大樹海に近い。なるほど、この辺りと王都を結ぶ街道が賑わうのは分かる。盗賊だって出るだろう。


「そう、盗賊なんて珍しくない。でもね、彼らは目立ちすぎているんですよ。トドスと王都を結ぶ街道とケルニッツと王都を結ぶ街道が交わる辺りを中心に盗賊が頻繁に出没してましてね。ちょっと通常の経済活動に支障きたすほどになってきています。実はこの盗賊団、以前は別の場所で活動してまして、そのときも少々目立ちすぎて王国が騎士団を派遣したんですが逃げられたんですよ。それで最近はこの辺りで活動してるってわけです。そろそろ王国が騎士団を派遣するんじゃないかっていうくらいの状況です」

「そうですか。でも、それなら王国に任せるのはダメなのですか?」

「いや、別にダメではありません。ただ、ここの領主は国が動く前に自分たちで解決したいと思っています。そして冒険者ギルドは領主に恩を売りたい気持ちがあります。言っときますけど、どうして領主がそう思っているのかは知りませんよ。王国内の人間関係に興味はありませんからね」


 僕はグラッドさんの目を見る。おそらくグラッドさんは、その王国内の人間関係とやらにも詳しい。冒険者ギルドは国をも跨ぐ独立した組織だが、現地の領主や国と仲良くしておくのに越したことがないのは、なんとなく想像できる。そう、あくまでなんとなくだ。この世界の冒険者ギルドの立ち位置にはよく分からないところも多い。


「それで、冒険者ギルドで盗賊を退治したいと?」

「ええ、ただ領主様からは、騎士団も協力するとの言質を得ています」

「領主様の騎士団だけでは不足なんですか?」

「この国は結構国の力が強いんですよ。地方領主はそれほど多くの騎士を抱えることは認められていないのです。対外的なことは基本国の騎士団が対応します。隣のギネリア王国との国境にも国の騎士団が常駐しています」

「なるほど、領主様としてはできれば国に頼らず盗賊を退治したいが、動かせる騎士はそれほど多くない。冒険者ギルドとしてはここは領主様に恩を売っておきたい」

「概ねその通りです」

「で、盗賊団ってどのくらいの規模なんですか?」

「50人・・・くらいと見てます」


 盗賊団として多いのか少ないのか僕には判断できない。ただ、少ないとはいっても領主の騎士団でなんとかなりそうな数にも感じる。


「まあ、領主様の騎士団はここトドスやケルニッツの治安維持など、ほかにもいろいろやることがありますからね」

「そうですか。でもここは冒険者の街ですよね。得体のしれない僕たちに頼まなくても適任者はたくさんいるのでは?」

「この盗賊団は人数もさることながら、王国騎士団からも逃げ切ったようにかなりの手練れが在籍しています。できれば高位の冒険者に依頼したいとこです」

「高位の冒険者?」

「ええ、A級には参加してもらいたい思っています」


 A級といえば貴族待遇となるS級一歩手前の冒険者だ。この盗賊団は相当に警戒されているようだ。でも、ここはイデラ大樹海に近い冒険者の街だ。


「トドスにはいないんですか?」

「いや、いますよ。A級どころかS級だっています」

「それじゃあ」

「彼らには断られました」

「断られた?」

「ええ、A級以上の冒険者はね。個性的な人たちが多くてね。仕事を選びます」


 グラッドさんの表情からは何も読み取れない。


「それで僕たちに」

「ええ、伝説級の魔物を倒せるのなら、なんの問題もないでしょう」

「いや、相手は50人でしょう」

「B級冒険者のパーティーが一つとC級の冒険者パティーが3つ参加します。領主様からの応援も入れれば数的には互角ですね」

「互角・・・ですか」

「B級の冒険者は強いです。でも相手にも手練がいるようなので、A級を二三人、もしくはS級一人に参加してほしかったのですが、断られました。それでどうしようかと思っていたんですが」

「僕たちが現れた」


 グラッドさんはそうだと言うように微笑んだ。


「自分で言うのもなんですけど、僕たちが伝説級の魔物を討伐したって信じるのですか?」

「ええ、これでも人を見る目はあります。正直に言うとハルくんの強さは今一測りかねています。でもクレアさんは、こうしている間にもハルくんに指一本触れさせないようしてますね。隙がありません。ただ者でないのは見れば分かります」


 やはり見る人が見ればクレアの強さは分かるのか。まあ、クレアが僕を守るためにあえて殺気を隠していないせいもあるだろう。


 それにしても盗賊といっても相手は人間だ。できればやりたくない。だがユイの情報を得るためにはやむを得ない・・・か。それにこの世界で生きていくためにはいつか経験しなくてはいけない気もする。魔族と人族を和解に導くにも、ルヴェリウス王国の真意を探りクラスメイトの安全を確保するにも、きれいごとだけで済むとは思えない。だけど、そう考えること自体、この世界に来ていろいろと経験したことが僕の性格に何か影響を及ぼしているのかもしれない。


「なるほど。分かりました。引き受けます」

「クレアもそれでいいかな?」

「もちろんです。ハル様」

「クレア、ありがとう」


 僕の最優先の目的は、なんといってもユイを見つけることである。そのために役立つことならなんでもする。ユイが冒険者になっているのは間違いないと思っている。ギルドマスターからの情報収集以上に有効なものはないだろう。 


「いやー、助かります。実は、お二人にピッタリな役割がありましてね」


 グラッドさんは、満面の笑みを浮かべている。僕たちにピッタリの役割?

 

「ええ、あとは責任者をお願いしているB級の冒険者パーティー『リトルグレイセルズ』のボロワットさんから聞いてください。ボロワットさんには、私から伝えておきますので泊まっている宿を教えてください」

「責任者は騎士ではなく冒険者なんですか?」

「ええ、作戦の主導権はこちらにあります。それを条件に引き受ける予定です。『リトルグレイセルズ』は信頼できるパーティーですよ。まあ、討伐した後は領主様の手柄になるでしょうけどね」

「なるほど」

「あ、それからお二人の冒険者ランクは、B級に上げときますね」

「え? B級からは試験があるのでは?」

「ギルドマスターの特権ですよ。もっともギルドマスターの特権もB級までなんですけどね。ちなみにB級の目安はパーティーで中級上位の魔物を問題なく倒せることです。A級はパーティーで上級魔物を倒せる、もしくは中級を単独で倒せること。S級は単独で上級魔物を倒せることです」


 例えばバジリスクやキングオーガは上級魔物だから、それを単独で倒せばS級ってことか。クレアなら一体だけ相手にするのならできそうだ。


「ちなみにSS級は?」

「SS級は、伝説級魔物を倒したなどの、それこそ卓越した実績を上げた冒険者だけに送られる資格です。SS級冒険者は英雄と呼ばれることすらある存在ですから、ここまでくるとはっきりした基準はありません。ただ相手が伝説級ならパーティーか単独かは問われないでしょうね。まあ、いくらなんでも伝説級を単独で倒せる人がいるとは思えませんけど。そもそも伝説級の魔物に会うこと自体普通はないでしょう。というわけで、お二人が伝説級魔物を討伐したのなら本当はSS級相当ってことになります。ただ、伝説級魔物の目撃情報や討伐隊が組織された事実もありません。それにC級からいきなりって例もありません。そこでギルドマスター特権を使ってB級で我慢してもらおうってわけです」

「我慢だなんて、B級で十分です」

「そう言ってもらえると、助かります。それに『リトルグレイセルズ』と一緒に仕事をするのにもB級にはなっていたほうが都合が良いでしょう」


 グラッドさんは最後についでのようにそう付け加えると、肩をすくめて両手を広げた。どうやら話はこれで終わりのようだ。





★★★





「マスターB級なんて、良かったのですか? あんなに若いB級なんて見たことないですけど。それにでヨルムンガルドの件も一部の素材だけで、いろいろと分からないことが多すぎます」

「問題ない。ハルくんはなんかよく分からないけど、クレアさん、あれは化け物だよ。僕より強い。伝説級の素材を持っていたのもそんなにおかしな話じゃないのかもしれない。彼女がいれば盗賊退治もなんの心配もいらないよ」

「まさか」


 グラッドはギルドマスターになる前はS級の冒険者だった。もちろんナンネルもそれを知っている。


「いや、僕どころか前に一回だけ会ったジークフリートさんと同じくらいのオーラを感じたよ」

「いくらなんでもそれは」

「確かにそこまでだとは断言できないけど・・・。僕より上っていうのは間違いない。ハルくんも含めてB級なら全然問題ないよ。それにしても助かったよ。領主の手前、しょうがないから僕が自分で参加しようかとも思ってたんだ。最近中級魔物の目撃例が増えて上位冒険者は出払っているからね。まあ、人探しにも協力することにしよう」


 それに二人の冒険者証が発行されたのは・・・。


 これはギルドマスターにしか分からない情報だ。グラッドとしても職員に伝えるわけにはいかない。


「いいんですか」

「別に問題ないだろう。人探しくらい。彼らに秘密があるのは間違いない。でもそれには関わらないほうがいい気がする。僕は単に人探しに協力する。そして彼らは冒険者ギルドの依頼を受けて盗賊退治に参加する。それだけさ」

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 もし、ブックマークがまだでしたらブックマークをしていただいた上、作者としても自信のある第4章(第4章の開始は3月、第4章の完結は4月中頃を予定。長い!)までは物語を追ってみてもらえるとうれしいです。あと、ここがよくないなどの忌憚のない感想、ご意見をお待ちしています。今後の投稿に生かしたいと思います。

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