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3-8(これって伝説級の魔物の素材ですよね?).

 トドスへ到着して1週間が経過した。


 僕とクレアは適当に依頼をこなしながらトドスで情報収集を続けている。情報収集のほうがメインのため依頼は適当にしか受けていない。未だにユイの居場所についての手がかりは無い。


 今日はゴブリンやオーク、ワームなど下級の魔物討伐するDランクの依頼・・・これは、ほぼ常時ある依頼だ・・・と中級のブラッディベアの毛皮を採取するCランクの依頼を受けている。

 ちなみにラノベなどの設定でよくあるような冒険者ランクによって受けられる依頼のランクが決まっているとかはない。依頼のランクはあくまで目安だ。冒険者は自由かつ基本自己責任でやる職業だ。ただ、あまり実力に見合っていない依頼を受けようとすると冒険者ギルドで注意喚起されることはある。逆に言えばその程度である。

  

 中級のブラッディベアは普通の冒険者にとってはなかなか手ごわい相手だ。しかし僕やクレアにとっては問題はない。すでにブラッディベア3匹と10匹以上のゴブリン、ワーム、蜘蛛型の魔物などを討伐した。オークは見つからなかった。

 ブラッディーベア以外は素材としては大したことはないが、ブラッディベアだけは食用になる。ただ依頼の目的は肉ではなくブラッディベアの毛皮だ。そのため毛皮をなるべく痛めないように黒炎属性魔法使わず剣で仕留めた。

 魔物の死体を丸ごと持って帰った方が金にはなるが、僕たちは必要な素材だけを持ち帰っている。荷物持ちを雇っているパーティーも多いが、僕たちは二人だけで行動している。


「クレア、今日はこの辺にしとこうか」

「はい。ハル様」


 すでに一日の成果としては十分だ。毛皮も手に入れた。倒すより解体して毛皮を剥ぐほうが時間がかかる。もともとクレアは冒険者として活動していたし僕もイデラ大樹海での経験から魔物の素材採取もある程度慣れているが、なかなか大変な作業だ。残った魔物の死体は焼却する。


 お金には困っていないので、ずっと情報収集していたいとこだけど、一日中冒険者ギルドにいても朝方と夕方以外は人も少なく情報収集には向かない。冒険者ギルド以外にも商店などで情報収集したが、目ぼしい場所は終わってしまった。


 依然としてユイに関する手がかりは掴めない。


 もう少し情報収集してダメなら、トドスを出てギネリア王国へ行く予定だ。エリルはギネリア王国とキュロスを王国の中間辺りにユイらしき気配が向かったと教えてくれた。


 僕たちは形ばかりの依頼をこなしているのだが、依頼をさっさとすました後は、街の外で剣術や魔法の訓練を行っている。


 この世界で力は大きな武器だ。


 ユイを探すのにも、エリルに協力するのにも、力はあったほうがいい。いくら大樹海から生還できたといっても、それはかなり運が良かったからであり自分の力を過信してはいけない。


「今日もよろしくね」

「はい」


 剣術のほうは、クレアが僕の先生だ。ルヴェリウス王国でもそうだった。街で買った刃を潰した訓練用の剣を使う。そうでないとクレアに殺されてしまう。

  そうそう、僕がエリルからもらった剣に黒龍剣、クレアの剣に赤龍剣と名をつけた。クレアの反応は「ハル様がそれでいいのなら」という微妙なものだった。


 僕とクレアは、ルヴェリウス王国の訓練場でそうしていたように、カーン、カーンと何度か打ち合う。

 打ち合ってはクレアに一本取られる。

 ときには両手をついて跪まずく。


「ハー、ハー」

「ハル様、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫。でも、ぜんぜんクレアの相手にならないね」


 クレアはその抜群の身体能力強化を生かして大剣を使っている。本来、スピードが命の対人戦では大剣は不利だ。でもクレアは強い。クレアの剣はガルディア帝国で英才教育されたもので飛心流だそうだ。

 飛心流は、この世界にある三つの大きな流派の中では比較的攻撃的な剣術だ。クレアを見ていれば納得である。クレアは飛心流を基礎から学んでいるので、僕の先生として申し分ない。ちなみにルヴェリウス王国で最も普及しているのは攻守のバランスが取れたクガネ流でギルバートさんもクガネ流だった。クガネとは人の名前だ。


「ハル様は確実に上達しています。私も良い訓練になっています」

「だといいんだけど」

「それにハル様には黒炎属性魔法もあります。私もハル様をお守りするには、もっと強くならないとダメだと感じています」

「まあ、お互いにもっと強くなれるように努力しよう」

「はい」

「それにしても、僕としてはクレアが回復魔法を使えて良かったよ」


 僕の言葉にクレアは微笑むと、訓練で痛めた箇所に回復魔法を使ってくれた。 


 魔法の訓練のほうは、僕の最大の武器である限界突破と魔法の二重発動に関する訓練を行っている。残念ながら、今のところは三段階目の限界突破はできないし魔法の三重発動にも成功しない。

 だけど、確実に限界突破するまでのスピードは速くなっているし、魔法の二重発動にも慣れてきている・・・と思う。まあ、三段階目の限界突破は仮に成功したとしても魔力を溜めるのに時間が掛かりすぎて実践向きではない可能が高い。


 とにかく剣術と魔法の訓練は今後もコツコツ続けていくつもりだ。努力あるのみだ。


 異世界人は能力的に恵まれている。エリルから授かった加護もある。でも、この世界にもクレアやギルバートさんのような強者やそれ以上の英雄と呼ばれる人もいる。ユイを見つけるためにも、この世界で生きていくためにも、もっともっと強くなりたい。

 ちなみに、クレアには魔法の限界突破のことや二重発動のことは説明した。クレアは「絶対に無理です」と言って自分で試してみる気はなさそうだ。


 僕とクレアは討伐依頼に加えて剣術や魔法の訓練も行った上、トドスの街に戻ってきた。冒険者ギルドに行き、討伐完了の報告と報酬を受け取る。


 ブラッディベアの毛皮はナンネルさんに鑑定してもらう。


 「毛皮は大銀貨5枚と銀貨5枚ですね」


 今回は依頼受けて採取してきた毛皮なので、基本的な買取価格は決まっているが、それでも毛皮の質や大きさによって買取価格に差が出るので鑑定は必要だ。さっき魔物討伐の報酬として大銀貨2枚と銀貨8枚もらったので合わせると8万3千相当だ。二人で適当に依頼をこなしての一日分ならこんなもんだろう、っていうか十分だ。


「ナンネルさん、ちょっとお願いがあるんですけど」

「はい?」

「ちょっと前に倒した上級魔物の素材を買い取ってもらいたいのですが」

「・・・また上級ですか」


 ネンネルさんの表情は驚いていると言うより、ちょっと怪しいものを見るそれだ。 


 これはクレアにも相談して決めたことで、ユイを見つけるためにちょっと目立って見ようという作戦だ。ルヴェリウス王国にいるクラスメイトのこともあるので判断が難しいが、このままトドスに留まってもユイが見つかる気がしない。

 とりあえず、僕たちのことがギルドのお偉いさんの耳に入って伝手ができればいい。それでお偉いさんから情報収集して、それでだめならギネリア王国へ向かう。これが僕たちの考えた作戦だ。


 最初、僕はハクタクなどの伝説級の魔物素材を使おうと思っていたのだが、伝説級の魔物は文字通り伝説の魔物なので詳しい説明を求められても困るのではと考え直した。

 すでに上級相当の特殊個体のブッラクハウンドの牙を買い取って貰っているので、同じ上級ではインパクトがないのではとも思ったが、クレアによると、そもそも僕たちの冒険者ランクと年齢で上級魔物を討伐することが自体が異例なことであり、短期間に上級2体目ともなれば注目を集めるのは間違いないという。そこで上級魔物であるバジリスクの素材を使うことにした。


 まあ、これでダメなら次は伝説級の素材を見せればいい。


「それじゃあ、ちょっと別の部屋で見せてもらいましょう」


 ナンネルさんは他の職員を呼んで窓口業務を代わってもらうと奥の個室に案内してくれた。


 僕はナンネルさんに案内された個室でバジリスクの牙を2本、鱗を5枚、そして魔石を取り出した。バジリスクから採取したのはこれで全部だ。


 ナンネルさんは、しばらく黙っていた。


「お二人はこれをどこで?」

「ちょっと大樹海で迷ってしまって、かなり奥まで入り込んでしまったみたいなんです。で、バジリスクと遭遇したのですが、なんとか討伐して生還することができました」

「・・・そうバジリスクを。でも牙も鱗もずいぶん大きいですね」


 ナンネルさんは、黙って素材を見る。鑑定魔法を使っているみたいだ。しばらくして顔を上げて僕たちを見ると、また素材を見る。ナンネルさんは何回かそれを繰り返した後に、いやいやするように頭を振って、やっと口を開いた。


「これはバジリスクではなく、ヨルムンガルドですね」

「ヨルムンガルド?」

「ええ、バジリスクの上位種で伝説級の魔物ですね。特徴はほぼ同じですけど、はるかに大きく強大な魔物です。私もヨルムンガルドの素材を見たのは初めてです。そもそも伝説級の魔物の素材自体初めて見ました」

「伝説級・・・間違いないのですか?」

「鑑定魔法を使いましたので間違いありません」


 ナンネルさんは伝説級魔物の素材を鑑定できる鑑定魔法持ちのようだ。思った以上に優秀な人だった。

 これらは、イデラ大樹海に転移して間もない頃に倒したバジリスクから採取した素材だ。そういえば、クレアもバジリスクにしてはやけに大きいと言っていた。


 そうか、あれはバジリスクではなかったのか・・・。


「ハル様、私もバジリスクにしては、大きすぎるとは思ってましたが、その上位の魔物がいることは知りませんでした。申し訳ありません」


 クレアが小声で謝ってきた。


「いや、クレアが謝るようなことじゃないよ。それに特徴は同じってことでクレアの知識で討伐できたんだから」


 確かに今思い出してもあれは大きかった。


 尻尾だけでも大木のようだったから伝説級と言われても納得だ。あの段階でよく二人で倒せたものだ。伝説級と知っていれば、もっと全力で逃げるんだったか。いや、あのときは逃げる間もなく、バジリスクではなくヨルムンガルドの目を見た僕が硬直してしまったんだった。


「ヨルムンガルドのような伝説級の魔物がもしこの辺に現れたら、S級以上のパーティーに討伐を依頼することになるでしょう。それも複数の。いえ、できればSS級冒険者にも依頼したいところです。とにかくC級2人で相手にするような魔物ではありませんし、そもそも倒せるはずがありません」

「SS級冒険者と一緒だったとかはありませんよね」

「二人で倒しました」

「そうですか。まあ、SS級やS級の冒険者の動向は私たちも把握してますしね」


 これで、ヒュドラや特殊個体のフェンリルの素材とかを見せたらどうなるのだろうか? 


「特殊個体を含むブラックハウンドの群れを討伐したという話にも驚きましたけど・・・さすがにこれを見せられると。どうやらお二人はただのC級の冒険者ではないみたいですね?」


 異世界人と帝国のスパイにして天才と呼ばれていた剣士の組み合わせだから普通の冒険者じゃないのかもしれなない。


「ハルさんたちが行方を探しているという噂の黒髪の女魔術師とも何か関係があるのですか? ハルさんも珍しい黒髪ですし。あ、すみません。冒険者に個人的なことを聞いてはいけませんね。あんまり驚いたものですから」


 僕たちがユイを探していることは、ナンネルさんの耳に入るくらいくらい噂になっているみたいだ。まあ、トドスに来てから、あちこち聞き回っているから当然だ。ある程度、噂になったほうがユイを見つけ易いんだから、それはそれでしかたがない。


「とにかく、これは珍しすぎて、上に相談しないと査定できないので預かってもいいですか?」

「ええ、かまいません。そういえばナンネルさんは伝説級の魔物の素材は初めて見たんですよね?」

「私に限らず伝説の魔物を見たことがある人なんかほとんどいないと思いますよ」


 イデラ大樹海に近いこの街でさえ、そうなのだ。伝説級の魔物とはそれほどの存在だ。


「鑑定魔法って見たこともない魔物の素材も鑑定できるのですね」

「鑑定魔法は鑑定したものがイメージとして浮かび上がってくるので過去の経験とかは関係ありません」

「そうですか」


 やっぱり魔法とは不思議なものだ。


「伝説級の魔物の素材の買取りがあったとなるとギルドマスターからも何か聞かれると思います」

「それは、しかたありませんね」


 これはむしろありがたい。もともとギルドのお偉いさんの伝手を得るのが目的だ。


 その後、冒険者ギルドで夕食を取って、いつものように情報収集したが、やはりユイのことは何も分からなかった。

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