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3-6(キュロス王国トドス).

イデラ大樹海を脱出して人族の街にたどり着いた主人公たち。いよいよ、ユイを探す旅の始まりです。

 トドスの街へ入ることには、なんの問題もなかった。


 冒険者証に魔力を通すと名前と冒険者ランクが浮かび上がる。冒険者証は他人が魔力を通しても使用することができない魔道具だ。

 冒険者証を見たトドスの南門を警備する騎士は、僕とクレアに「ほう、若いのにC級とはたいしたもんだな」と感心したように声をかけてきた。イデラ大樹海に近い冒険者の街らしく、冒険者に好意的な雰囲気を感じる。

 冒険者ギルドが国を跨いだ組織であり、冒険者証がどこの国でも身分証明として有効であることを身を持って体験した瞬間だ。ここはルヴェリウス王国から遠く離れたヨルグルンド大陸で最も南にある人族国家の一つキュロス王国の街トドスだ。 

 

 イデラ大樹海での1年にも亘る経験の中で僕はかなり強くなったと思う。だからといって自分の強さを過信してはいけない。今考えても本当に運が良かった。何よりクレアがいた。そして転移した初日から魔物が近寄って来ない場所を見つけたのが大きかった。


 まあ、ヒュドラのせいで魔物が寄って来なかっただけだったんだけど・・・。


 それに、魔法の限界突破や二重発動の会得、エリルとの出会いと魔王の加護と剣、最後はサカグチさんとタイラ村の人たちとの出会いだ。振り返ってみると本当に奇跡的な運の良さでここまで来れた。


 街に入ると冒険者らしき人たちがたくさん歩いている。

 ああー、ほんとに久しぶりの人族の街だ。

 タイラ村と違い平地にあり太陽の光が眩しい。建物の濃い影がその明るさを際立たせている。その明るさが僕の今の気分を表しているようだ。クレアも普段より穏やかな表情で辺りを見回しながら歩いている。


 ああー、本当にここまでたどり着いた。

 あとはユイを見つけることだ。 

  

 僕とクレアはまずは冒険者ギルドを目指した。


 大通りをまっすぐ行き、門を警備していた騎士に教えられた通りに左へ入ると、露天が多く並んでいる場所に出た。人通りも多くとても活気がある。ますます冒険者らしき人たちが増えてきた。

 気候が違うせいか服装もルヴェリウス王国の人たちと比べて薄着だし街並みも違う。日差しもルヴェリウス王国よりも強い。


 クレアと一緒に装飾品や服を売っている店を覗きながら歩く。商店の人からかけられる声を聞くのもなんか新鮮だ。


「後でクレアの服を買おうよ」


 魔物の素材を換金したら、クレアの戦闘用でない普通の服とかを買いたい。

 僕たちは何か月もかけて人の住む街に戻ってきた。その割には、エリルから貰った耐久性の高い服や装備、それに生活魔法のおかげでそれほど見苦しい恰好はしていないと思う。途中タイラ村にも寄った。でも、もう少し服とかがあってもいいだろう。


「ありがとうございます。でもまずハル様のを買わないと」


 そう言いながらクレアはうれしそうだ。やっぱりクレアも女の子なんだから服とかにも興味があるんだろうか?

 

 ここからずーっと西に行った西門に近いところには、馬車や馬それに騎獣を預かってくれる場所があるらしい。すぐにユイが見つかればいいけど、あちこちの街とかを探し回るようだと、馬か騎獣がほしいところだ。騎獣とは人間を乗せるように調教した魔物で、使役されているわけではなく調教されているだけだ。

 北側には領主館があり高級住宅地って感じらしい。ここトドスを中心とした地域を治める辺境伯はキュロス王国の有力貴族でありその居城である領主館は歴史ある建物で観光名所にもなっていると聞いた。時間があれば見てみたい。 

 僕たちは、そのまま真っ直ぐ行って騎獣の預り所のある西門と反対の方に曲がる。すると、食堂らしき店、武器や防具を売っている店、宿屋などが並んでいる場所になり、そして人が最も多く集まっている辺りに冒険者ギルドがあった。

 冒険者ギルドは、その辺の建物の中では一番大きくて、やっぱりトドスは冒険者の街なんだと感じさせた。魔物の多い場所に近い街は危険だが、それゆえ冒険者が多く集まり賑わう。


 冒険者といえばユウトがいないかとつい探してしまうが、こんなところにユウトがいるはずもない。いや、ユウトには悪いけど、まずユイを探さないと・・・。


 冒険者ギルドに入ると、すぐに受付カウンターが目に入ってきた。5人くらいの女の人が、忙しそうに冒険者の対応をしている。


 やっぱり受付の人って女性なんだなー。


 冒険者ギルドには、食堂と言うか、酒場みたいのもあって、まさにファンタジーの世界でイメージする通りだ。ルヴェンの冒険者ギルドもそうだった。この世界がラノベやアニメの世界によく似ていることは、以前から僕が不思議に思っていることの一つだ。

 僕たちも列に並ぶ。しばらくすると僕たちの番になったので魔物の素材の買取を依頼した。するとここではなくて、通路で繋がっている隣接する建物に買取所があると説明された。

 教えられた通りに行ってみると、すぐに買取窓口は見つかった。そこはとても広い場所で、窓口だけでなく魔物を解体したりする場所もある。確かに魔物には大きなものも多いしこのくらい広い場所でなければ取引も難しいだろう。


 買取窓口の女の人・・・20代前半の巨乳美人・・・にブッラクハウンドの牙20本の買取を頼む。とりあえずの生活費を確保しないと宿にも泊まれない。


「ブッラクハウンドの群れを討伐したんですか?」と巨乳美人さんは、驚いたように聞いてきた。

「はい」

「毛皮とかはないのですか?」

「ありません。牙だけです」


 魔物との戦いに明け暮れた1年だったので、アイテムボックスの中にはたくさんの魔物の素材が入っている。容量の関係で死体まるごとではなく厳選した素材だけだ。


「それにしても、ブッラクハウンドを10匹とは大変でしたね。若いのに優秀なんですね」

「いえ、たまたまです」


 巨乳美人さんを前になんとなく格好をつけて謙遜する。


「ちょっと鑑定させてもらいますね」


 巨乳美人さんはブラックハウンドの牙をじっと見ている。鑑定魔法を使っているのだろう。さすがイデラ大樹海に近い冒険者の街だ。買取窓口の女性は魔物素材を鑑定する魔法を使えるようだ。鑑定魔法が使えない場合には魔道具が利用されることもあると聞いた。


 巨乳美人さんは、何度も確かめるように見ていたが、顔をあげると「この他のより大きい2本は上級相当のブラックハウンドのものですね。特殊個体を討伐したんですか」と確かめるように尋ねてきた。


 サカグチさんが渡してくれたブラックハウンドの牙の中にあの特殊個体のものが混じっていたようだ。サカグチさんが気を使ってくれたのだろう。それにしても鑑定魔法ってそんなことも分かるんだ。やっぱり魔法ってすごい。


「近くに上級相当の魔物が出たのなら普通は討伐隊を出さないといけないのですが・・・倒したんですね」

「ええ、その大きなブラックハウンドが率いていた群れは全部倒しました」

「特殊個体が率いていたブラックハウンドの群れだとすると10匹は少ない気もしますけど。ブラックハウンドはもともと群れで行動することが多い魔物です」

「いえ、群れはもっと数が多かったんです。そう20匹くらいはいました。他の冒険者と協力して討伐したんです」

「そうでしたか。確かに最近大樹海の浅層で中級魔物が目撃されることが増えていて、ギルドでも注意喚起をしたところです。その中にブラックハウンドも含まれていましたが、特殊個体が20匹もの群れを率いていたとかの報告はなかったような・・・。その協力してくれた冒険者は?」


 最近、浅層で中級魔物が目撃されている? 

 まさか僕たちが最深部から帰還したせいじゃないよね。


「さあ、それについては僕には分かりません。たまたま会った冒険者だったので名前も聞いていませんし」

「名前も聞かずに? そうですか」


 僕たちの会話を聞きつけた冒険者たちがざわついている。


「特殊個体だって!」、「あいつらが倒したのか?」、「見慣れない顔だが、ずいぶん若いな」などの声が飛び交っている。

 そもそも、僕たちが入ってきたときから、クレアが美人だからなのか、それとも僕たちが若いせいなのか注目を集めているのは感じていた。


 これはもしかして・・・。


「失礼ですけどお二人の冒険者ランクは?」


 僕たちは冒険者カードを見せる。


「C級ですか。若いのに2人ともすごいですね」

「いや、待てよ、その若さでC級なら確かに大したもんだが、C級二人で上級相当の特殊個体を討伐したってのはいくらなんでも無理だろう。しかもせっかくの素材を全部取ってないってのもおかしい。ブラックハウンドの特殊個体が出たって話も聞かねえし、ズルしてランクを上げようとかしてんじゃないのか?」


 気がついたら、いかにもガラの悪そうな冒険者のおっさんに絡まれた。予想通り、美人を連れた若い冒険者が絡まれるテンプレが発動したようだ。


「ハル様に対する無礼は許しません!」


 クレアがもの凄い殺気を放つ。

 クレア怖い。


 一瞬、おっさんは怯んだものの、クレアを若い女の子だと思って甘く見たのか、「ねえちゃん、やるの・・・」と凄もうとしたが、全部セリフを言う前にクレアの剣がおっさんの喉元に突きつけられていた。

 いつの間に剣を抜いたのか。しかも比較的細身とはいえクレアの剣は大剣だ。それをクレアは片手で抜いていた。周りの冒険者たちも少なくともクレアが普通でないのは分かったみたいだ。


 その後は、「ほ、ほんとにC級なのか?」、「いや、冗談だよ」とか何とか言いながら、おっさんはすごすごと引きがっていった。こうしてテンプレのイベントはあっさり終わった。喧嘩にならなくて良かった。

 それにサカグチさんのアドヴァイス通り伝説級の素材とかを出さなくて正解だったようだ。いや、ユイに出会うためには目立ったほうがいいのだろうか?


 結局、買い取り価格は金貨20枚と大銀貨8枚になった。僕の簡易換算で208万円相当だ。やはり上級相当のブラックハウンドの牙が2本で金貨16枚と断然高い。ブラックハウンドの死体すべてを丸ごと持ってくれば1千万円相当になったかもとのことだ。僕たちの場合、牙だけだからこの値段らしい。それでも当面の生活費には十分だ。金貨は使いにくいので大銀貨や銀貨を多めにしてもらった。





★★★





 若い男女の冒険者によってブラックハウンドの特殊個体の素材が持ち込まれたことはギルドマスターに報告された。


 報告を受けたギルドマスターは「ふーん、それも牙だけねー」と言って首を傾げた。


 イデラ大樹海に近いトドス周辺には偶に上級魔物が現れることがある。そのこと自体はめずらしいがありえないことではない。そういった場合、すぐに討伐隊が派遣される。しかし、ブラックハウンドの特殊個体を目撃したとの報告は受けていない。

 最近目撃された上級は別の魔物だ。あれから見つかっていない。やはりオークかなにかとの見間違いだったのだろう。いずれにしても、あれはブラックハウンドとは全然違うタイプの魔物だ。


 ブラックハウンドの特殊個体を討伐したのは見慣れない若い男女の冒険者らしいが・・・。


 まあ、ちょっと調べておくか・・・。 

 短編「乙女ゲームの断罪の場に転生した俺は悪役令嬢に一目ぼれしたので、シナリオをぶち壊してみました!」 を投稿しました。

 これはちょっとした実験で書いてみました。「ありふれたクラス転移」が作者の過度な? 期待ほど読まれていない現状で、例えば今、なろうで流行っているジャンルで、よくある長めの題名をつけて投稿してみたらどうなるのか? さすがに「ありふれたクラス転移」と並行して長編は無理なので短編です。

 やっぱりあまり読まれないのか? それとも「ありふれたクラス転移」よりは読まれるのか? そんな感じです。

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